仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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4.鉄と闇の巣穴

「ひー、やっと買えたよ」

 ため息を吐いて、ローカル飯フェス。

 謎にカタコトな店主から、トレーに載ったラーメンを受け取った。

 スープを零さないよう、慎重に仮説のテーブルに移し、八雲は自らも腰を据えた。

 よく分からない都市のB級グルメ。無駄に巨大なナルトにスープの表面が覆われた、そこ以外は至って普通の醤油ラーメンだ。これのどこに惹かれたのかは八雲には理解できないが、皆が並んでいたのでとりあえずこれに決めた。

 

「てかこれ、どっから食うのが正解なんだ……?」

 と模索していると、電話が腰元で鳴った。

 ワンコールではなく、長く続く。これは、表示されたかの人物には珍しい。おそらくは緊急を要する案件なのだろう。

 

「あぁオヤジ? どした?」

 箸を置いて電話に出ると、間髪を入れず父親は本題に入った。

〈照真がジャバウォックと決着をつけるらしい。おそらく、今対峙している頃だろう〉

「それ、ヤッベェじゃん! アイツ今どこだ!?」

〈落ち着け。ドライバーからの位置情報をお前の端末にも送る〉

「さっすがオヤジ、用意周到だな! じゃあコレ食ったらオレも加勢に行くわ!〉

 

 いや、と。

 冷たく落ち着き払った調子で、郁弥は言った。

 

〈奴らはしばらく争わせる。照真には、こちらの準備が整うまで時間稼ぎをしてもらう〉

「……は? 準備って、なんだよ……」

〈お前も話は聞いているだろう。次世代型対フェアリー武装『ベイカーシステム』。あれならば、消耗したジャバウォックを制圧できる。そこロールアップを今急がせているところだ〉

「そういうことじゃねーだろ!?」

 

 成人して、いやもしかしたら生まれて初めて、八雲は父親に反発らしい反発を見せた。

 

「ショーマのヤツ……身も心も相当追い詰められてただろ。このままじゃ死んじまうよ。つか、もし勝ったとしても、ボロボロだ」

〈だからどうした〉

 しかしそんな訴えにはまるで興味を示さないかのように、郁弥は問い返した。

〈我々と手切れを言い出したのはあいつだ。加勢など喜ぶと思っているのか? だったら、あいつを切り捨てて今後のことを考えて行動すべきだ〉

「んなこと言ったって、オヤジだって本当は……っ」

〈先走るな、余計なことを考えるな、自重しろ。お前に言いたかったのはそれだけだ〉

 

 理路整然と、明瞭に、鋭利な命令を郁弥は下す。そのまま電話を切る。反論を許されなかった八雲は、

「……マジかよ」

 と呆然とするより他なかった。

 

 どうすべきか。父の言いつけ通り、照真を見捨てるのか。それとも言いつけに背いて……

 限られた時間の中、思案に思案を、懊悩に懊悩を重ねていった結果、彼は判断を導き出した。

 

「……とりあえず、食べてから考えよ」

「食ってる場合じゃねぇだろ」

 

 現実逃避まがいの保留をしようとした八雲の隣に、激しく音を立てて掌が叩きつけられる。

 口を半開きにして見上げれば、駆けつけてきたらしいツナギの青年が、浅い呼吸の中に疲弊と焦燥を滲ませて立っている。

 

「和、和灯晶斗……」

「お前なら何か知ってるんじゃねぇかって踏んで来てみりゃ、正解だったな……今の会話からすると、月射たちの行き先に、心当たりがあるんだな?」

「え、いや、それは……」

「答えろバカ息子……あいつらは、今どこだ?」

 

 恫喝まがいの声音でそう問いかける晶斗の隣で、一旦持ち上げかけた箸の先をゆるゆるとスープに沈ませて、大ぶりのナルトをつまむ。

 

 そして次の瞬間、箸に挟み込んだそれを手裏剣がごとくに晶斗へと放った。

 それを難なく口でキャッチした晶斗の脇下を八雲はすり抜け、這って出る。

 そして躓きながら立ち上がるや、逃走を開始したのだった。

 

 ~~~

 

 ナルトを咀嚼し呑み込んだあたりで、逃走劇はいよいよ本格化し始めた。

「待てコラァッ!」

 と怒鳴り散らしながら駆ける晶斗に、息を切りながら大股で前のめりに逃げる八雲。

 そんな青年たちの姿は、事情を知らない傍目の人らから見れば、ヤクザな借金取りとそれから逃げる債務者のようでもあった。

 

 大通り沿いを追って追われてをくり広げていたが、逃走人霧街八雲が、にわかにコーナーを折れた。行先は、裏手である。

 

 少しでも視界に捉えておきたい、そういう目論見の下、晶斗は足を速めた。

 そして八雲の背が、工事現場の中へと消えたのを、なお追走する。

 

「こっちは急いでんだ! テメェと下らねぇ鬼ごっこしてる場合じゃねんだよ」

 その中に怒鳴り込めば、その空間内を彼自身の声が反響する。

 

 見渡せば、そこは組み立てかけのビル。その工事現場。

 鉄の骨組みを剥き出しにし、防音シートで保護され、区切られている場は、たとえ外が日中であってもほの暗い。

 

「――はん、なにが鬼ごっこだ、バァーカ」

 と嘯く声が、ふと頭上から聞こえた。

 

 晶斗が目線を上向きにすれば、光の糸にぶら下がって中空に浮かぶ蜘蛛男(モウラ)の姿が飛び込んでくる。

 マスク越しに、得意げな表情が透けて見えるかのようだ。

 

「こういう場所がオレのテリトリーだ……もうこないだみてーなヘマはしなーい」

 初邂逅の時は晶斗の側が有利な地形に誘い込んだが、反省したのかその意趣返しなのか、仕手側が逆になっている。

 こんな奴に出し抜かれ、バカ呼ばわりされるなど、さすがに侮り、焦り過ぎたかと反省する。

 

「こっちは状況やら事情やらがゴチャゴチャしててイラついてんだ……まずはオメーからブッ潰してスッキリしてやるッ」

 

 そう言い放つやモウラに変じた八雲は、ハードボイルドライバーを片手に用意した晶斗目がけて、身体を反転させつつ飛びかかったのだった。

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