仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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10.まるで人間

 シャルロックの手が、レンズを引き抜く。

 変身は解け、装甲は風に消え、レンズは手の内より、本来ありべき場所へと転送される。

 そしてその瞬間、支えを失ったように晶斗はその場にへたり込んだ。

 

「和灯さん!?」

 自身の身体に戻ったレフは、急いで起き上がって晶斗を助け起こした。

 彼は相棒を軽く睨み上げながら、

「たく、トバし過ぎだ」

 と苦言を呈する。

 

 思い返せば未知のシステム、レンズを運用しながら照真の憎悪と猛攻を受け続けたのだ。

 この憔悴ぶりにも、納得しかない。

 

「和灯さんもね……無茶し過ぎ」

 そう言って手を差し伸べると、晶斗は抵抗なく掴み返す。

 やや硬い、だが心地よい力強さと圧迫感だった。お前は間違いなく生きていると、伝えてくれるように。

 

「俺のことより、そっちの方を気にかけろって」

 そう言って晶斗が促した先、倒れ伏したままの月射照真がいる。

 背は上下しているから、まだ息はありそうだが、これ以上何かをするつもりもない。誤解も、今更解いても詮無いことなのだろう。

 

 決して目覚めていたら望むまいが、彼を介助すべく二人が歩み寄ったその時、スーツとロングコートをまとったその男が、横合いから彼らの進路を阻んだ。

 レフと晶斗、どちらにとっても今や因縁浅からぬ人物だった。

 

「霧街、郁弥」

 低い声で、晶斗は呼び捨てた。

 レフも含め、自然その表情は険しい。

 彼が和灯千里の仇である以上に、すでに晶斗、レフともに満身創痍。この状態で、彼の変身するモーリアに対抗出来るだろうか。いや、ベストコンディションの状態でさえも怪しい。

 

 だが何を咎める様子もなく、彼は砂にまみれた照真を、自らが汚れるのも厭わず助け起こした。

 そして、レフに一瞥を呉れて、

 

「……お前が、悪いわけではない」

 そう、思いがけず言った。

 

「全ての責任は、我々にある。身勝手な大人たちの欲望やエゴが、お前を悪魔として生まれさせた」

 だが、と砂を踏み締めて、郁弥はまっすぐにレフへと向き直った。

 

「お前は死なねばならない。決してこの世に存在してはならないんだ」

 そう、強い拒絶の言葉を投げた。

「とは言え、今回の件も含め、お前には負い目はある。それに、お前やフェアリーを根絶させられるほど、我々の体勢は未だ盤石ではない」

 喪神したままの照真を抱え上げ、物憂げに睫毛を伏せた。

 

「今日のところは見逃す。だが頼むジャバウォック……自らを処してくれ。それがお前自身や世界のためだ」

 

 そう言って深く頭を下げる郁弥に、目を据わらせて晶斗がにじり寄った。

 真正面から殴りつけるだけの権利が、彼にはあるはずだった。

 

「勝手なこと並べ立てやがって……て、んなモン百も承知ってワケか」

 頭を下げ続ける郁弥もまた、おそらくその覚悟がある。

 あるいは、殺されることさえも。

 

「……頭を、上げてください」

 レフは晶斗をそっと押しやって、郁弥に言った。

「僕に、その頼みを聞く気はないのだから」

 

「確かに、僕も初めはそのつもりでいた。罪深いこの身が消えることで、少しでも世の中が良くなるなら、って」

 ゆるゆると頭をもたげる彼に、でも、と言い添える。

 

「その考えの裏で、見ないフリして、押し殺してきたことがあった。そして和灯さんに命を拾われた以上、彼に生きていることを許されて、自分の感情に気がついた以上、もうそこから目を背けたくない」

 郁弥の表情に、落胆も失望もない。あるいは、すでに予期はしていたのかもしれなかった。

 

「霧街郁弥、貴方は、おやっさんを撃った」

「……」

「それは確かに、正しい判断だったのかもしれない。貴方の立場なら、そうするしかなかった。それでも貴方は、正しさを理由に自分の罪を顧みなかった。その真実を誰よりも知りたかったはずの人に、伝えることをしなかった。その結果、彼を苦しませた」

 

 目を伏せたままの照真に、憐れみの目線を投げかける。

 そして、郁弥と対峙し、そして正視した。

 

「僕には、それが許せない」

「……」

「だから僕は貴方と戦う。他のフェアリーも滅ぼさせはしない。いずれ、僕がその罪を、白日の下に引きずり出す」

 

 静けさを取り戻した一帯。波の音が蘇ると同時に、彼らの間に、何者にも侵しがたい冷たい隔絶を作っているかのようだった。

 そんな中で、レフは静かに郁弥への打倒を誓った。

 

「傲慢な物言いだな」

 冷ややかにそう吐き捨てると、男は踵を返した。

 

「まるで、人間のようだ」

 

 と横顔を傾け言い残し、彼は去っていく。

 遠からず、本気で争うであろう大敵の背を、二人は見えなくなるまで睨み続けるのだった。

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