刃藤法花が去った後、奇妙な沈黙が流れた。
だが、互いに今何を想い、そしてそれをどうその場に出力すべきか。暗黙のうちに模索する。
「……さっき刃姐さんが与太話つってたの、あれは」
「あぁ、多少の誇張はあるにせよ、ほぼ間違いなく事実。あのフェアリーのことだろう」
しかし一度打ち明けてしまえばあとはスムーズだった。
正直というカードを切ってきた晶斗に対しレフは、用意していた解答でもって返す。
「犯人はおそらく君のアトリエを飛び出した楓を見て、客と誤認して精霊をけしかけた。それに君がどういう反応を示すか……つまり山村楓が君を吊り出す餌として適任かどうかを試したわけだ。君には人質とすべき身よりがいないからね」
「ゲスどもが」
そう吐き捨てた晶斗は扉に向かって歩き出した。
「助けに行くつもりかな?」
レフは問う。晶斗は無言。それが何よりの回答だった。
「助けて、追加請求でもするのかい。バウンティハンターなんて今時分にあるでもなし、犯人を捕まえても賞金はもらえないと思うけど」
揶揄と挑発を半々に、レフは続いて問う。
「別に俺は、カネが欲しいワケじゃねぇよ」
受け答えをする晶斗は、激昂するでもなくことの他冷静だ。
「俺はただ、自分の行いに納得がしたいだけだ」
と彼は言う。
「一度受けた依頼は必ず守る。生半可な気持ちで仕事はやらねぇ。もしその過程で生じたしくじりは俺自身が挽回する。それが、俺を俺たらしめる信条だ。そいつを安っぽい正義感や言葉で片付けたくも揺るがしたくもない。報酬を要求するのはそのための線引きのひとつに過ぎない」
その静かな決意と共に、ドアノブに手をかけた時、
「でも素手で勝てるような相手じゃないでしょ」
とレフが背後から声を出した。
「もちろん、警察でも無理だろう。『チーム獄炎』が雑に証拠を残すのは、もはや彼らの力が公権さえ問題としないという自信の表れだ」
「じゃあ、どうしろってんだ」
「『人工精霊』のエントロピーを減少させ、エネルギーを発散させて弱体化させ、一気に制圧する。それを可能としたのが、このドイルドライバーだ」
晶斗に預けたまま、ぞんざいにカウンターに置かれていたガラクタを拾い上げ、彼の横に回り込んでくる。
「……だから、俺に直せってか」
まりでタチの悪い詐欺師のセールストークか、でなければ居直った強盗の豪弁か。
顔を顰めたまま動かない晶斗の表情を見て、レフもまた曇った表情で天井を仰いだ。
「……いや、うん。こういう言い方は卑怯だよな」
と呟くや、今までになく真剣な表情に切り替えて、晶斗の双眸と自身の視線とをかち合わせた。
「和灯晶斗、この依頼は君にしか頼めない。君にやってもらいたい」
ストレートな物言いで、だが不安からか瞳の光は風前の灯のように揺らぐ。
そしてそれは、彼が初めてこの怪しげな探偵の中に見た本音……真実味帯びた言霊だった。
「……金は払えよ」
「そこは誠意で納得してもらいたいもんだけどね」
受けてくれる。そう汲んだ安心感からか、一転して軽口を飄々と叩くレフに舌打ちしながらも晶斗は、掴んだドライバーを手放すことをしなかった。