崇永記   作:三寸法師

19 / 202
◆3

〜1〜

 

 

 昨日昼間に京を出て夜は近江国野路に宿泊したという足利軍が遂に近江八幡へとやって来る。

 帝の意向を無視して白昼堂々京を出た際には五百騎だったという軍勢は今や紛れもない大軍と化している。道中、先の同時暗殺未遂事件で危機感を抱いた帝による命令で関東から護衛のため呼び寄せられていた兵たちを吸収したのだ。

 

 

「馬淵。準備は滞りなく進んでおるな?」

 

 

「は。六角軍、今直ぐにでも動けます」

 

 

 師直の指示により大規模に兵たちを動員することになった六角軍の総帥は当主の俺が務める。

 一時は前当主にして今世の俺の父親である六角時信に委ねるという案も持ち上がったが、本人の固辞もあって消えて流れた。

 結果として決まった方針では、まず直義との合流が予測される三河までは俺が少数の兵馬と共に足利本軍の隊列に加わり、続けて馬淵や目賀田、平井といった者たちが大勢を率いて後ろに続く。

 このことは既に早馬で尊氏や師直たちにも伝達済みだ。

 

 

「伊庭。手筈通り、民たちには触れを出したか?足利軍が通過する故、家で大人しく過ごしておれと」

 

 

「昨日夕刻のうちに全て完了したと報告がありました。警備の人員の配置は済んでおりますし、今日一日の外出を禁じた以上、要らぬ揉め事は起きぬかと」

 

 

「実に結構!して、四郎は既に出発したか?」

 

 

「はい。今現在、供の者たちと共に足利軍を出迎えに参られているところです」

 

 

 足利軍の兵士が民衆に指一本でも触れることを防ぐべく戸締りを厳命した以上、弟の四郎を迎えに行かせて誠意を示す必要がある。

 懐の深い尊氏はともかく、右腕である師直は京に劣らぬほど賑わっていると評判の近江八幡の地が静まり返っていれば、妙な疑心を抱きかねないのだ。

 

 

「殿、八幡宮から使いが。出陣式の準備が整ったのこと」

 

 

「ああ。青地、そして馬淵。頼んだぞ」

 

 

「「は」」

 

 

 今回、出陣前の式典は六角軍単独ではなく足利軍との合同で行うことになっている。

 出立こそ迅速に進めた足利軍であるが、尊氏直筆の要請を受けた播磨の赤松円心が派遣する軍が我々に追い付くための時間を稼ぐ必要がある。その間に士気を高揚させておくのだ。

 

 

 朝が過ぎて日も大分高くなった頃、日野川を越えた尊氏軍が姿を現した。総大将の尊氏が先頭を行き、左右の斜め後ろを高兄弟が固めている。まさに威風堂々の進軍である。

 

 

「佐々木六角氏の当主、千寿丸。御身の前に」

 

 

「同じく佐々木六角氏。当主・千寿丸の伯父盛綱にございます」

 

 

「堅苦しい礼は不要だ。お二方」

 

 

 馬上より降りて跪く俺と盛綱の手を取って立たせた尊氏は交互に笑顔を振りまいた。

 

 

「此度はよく討伐に参加してくれた。君たちの先祖佐々木秀義公は頼朝公を援け、平氏討伐に大きな功を立てた。この尊氏、君たち六角軍の参加を心より嬉しく思う」

 

 

「滅相もございません。尊氏様、急ぎの出立で戦勝祈願がまだでしょう?是非ともこの近江でなさいませ」

 

 

「うむ。時間はたっぷりある。行こう」

 

 

 機嫌良さげな尊氏に手を繋がれて近江にある八幡宮の境内へと進む。相変わらず無表情の師直と何が面白いのかさっぱり分からないが口角を上げた師泰が後ろに続いた。

 

 

「ここであれば、皆から我らの姿がよく見えます。只今より、北条の残党どもを駆逐するにあたって欠かせぬものを尊氏様にお渡ししたいと存じます」

 

 

「ん?それは何かな?」

 

 

「馬淵!青地!持って参るのだ!」

 

 

 六角氏の重臣として知られる二人が手にしているものはそれぞれ旗と鎧である。勿論、このような場で渡すのだからただの旗と鎧でないことは明白である。

 

 

「まずはこれを。源氏総大将の軍が掲げるべき八幡大菩薩の御旗にございます。尊氏様におかれましては、この旗を本陣に掲げて戦に臨まれますよう」

 

 

 一度、青地から俺の手に渡った旗を跪いて尊氏に差し出す。泰然自若として両手で受け取った尊氏は改めて師泰に旗を持たせた。

 この様子を見た兵士たちは大いに沸いた。しかし、これだけではない。

 

「続けて、源氏将軍家重代唐紅鎧を」

 

 

「「「おおおおおおお!!」」」

 

 

 足利軍の将兵たちが先程よりずっと大きな歓声を上げた。そりゃそうだ。武家化した宇多源氏の最大勢力である六角氏の当主が尊氏を将軍になる者として認めることを公にしたのだから。

 あの師直でさえ僅かながら充足感が顔に滲み出ている。弟の師泰であれば尚更である。今回のパフォーマンスの差し金はこの二人及び道誉であると言うのに、どうしたことだろうか。

 

 

「千寿丸。その鎧は当面の間、君が預かって置いて欲しい」

 

 

「……どういうことでしょう?」

 

 

「唐紅鎧はまだ我には重過ぎる。逆賊北条を倒した後、機会があれば着ることにしたいと思う。どうかな?」

 

 

「尊氏様の仰せのままに」

 

 

 六角軍の将兵たちは尊氏のこの対応にある程度の満足感を得た様子である。いや、もっと言えば溜飲が下がったとでも言う方が正確であるように見受けられる。

 一方、足利軍の士気は挫かれたかと思いきや逆に尊氏の謙虚さに感じ入った様子である。余程主君に心酔しているらしい。

 

 

「師直殿。昼餉の時間が迫っております。外に炊事場を用意しておきました。ご自由にお使い下さい」

 

 

「小麦粉は?」

 

 

「もちろんあります」

 

 

 食い気味な師直の問いに心の内で半ば呆れながらも俺はきちんと用意していた旨を伝えた。

 執事の特性ではないだろうが、どういう訳か師直はスペシャリテであるうどん作りに凝っているのだ。

 

 

「師直。うどんに添える物はないのか?」

 

 

「どうなのだ?千寿丸」

 

 

「はい。でしたら──」

 

 

「いや、待て。そうだな……千寿丸、あの雉を弓で射てくれないか?程よく身が締まっていて実に旨そうだ」

 

 

「は。承知しました。伊庭、弓を持て」

 

 

「ここに」

 

 

 受け取った弓矢を番た俺は一心に尊氏が指差した雉に狙いを定める。角度、風向き、飛行速度その他全てを勘定に入れて矢を放つ。

 

 

「「「おおー!」」」

 

 

「お見事!」

 

 

「「「万歳!万歳!万歳!」

 

 

「うむ。江州随一の武門六角家の当主を務めるに相応しい弓の腕前よ。師直、千寿丸が射止めた雉だ。しかと調理するのだぞ」

 

 

「御意」

 

 

 流石は天下人の器量と言うべきか。

 皆の様子を見ている限り、尊氏の言葉によって足利軍と手を携えて前政権である北条軍と戦うことに多くの六角軍の将兵たちは以前よりも遥かに前向きになったように感じられる。

 しかし、今からうどんを作っていては出発は一体いつになるのやら。結局、数時間後経ってやっと出発した足利軍並びに六角軍は日暮れを迎えると共に四十九院に到着し、そこで各陣営に分かれて一夜を過ごすことと相成った。

 

 

 

 

 

〜2〜

 

 

 

 

 八月八日昼、三河国矢作宿にて尊氏率いる大軍と足利直義及び彼の麾下にあった二万の残兵が合流した。

 

 

「よくぞ生きてた直義〜!!」

 

 

「……兄上」

 

 

 それまで総大将としての威厳に満ち溢れていた筈の尊氏は座り込んでいる直義の姿を見るや否や後ろから駆け寄って抱き付いた。

 尊氏は直義の顎を掴んで離さず、逆に直義の反応はスキンシップの激しい兄を鬱陶しがっているのか疲れが溜まっているせいなのかは定かではないが、あまり芳しくはない。

 

 

 これが一体どうやって尊氏が観応の擾乱において弟の直義ではなく執事の師直の方の肩を持つことになるのか。まだかなり先の話であるとはいえ、本当に不思議で仕方がない。

 

 

「顕氏殿。あのお二人はかなり仲良くいらっしゃるのだな」

 

 

「常日頃から尊氏様は兄として弟の直義様をたいそう大切にしておられる。とりわけ今回の乱で直義様は何度も九死に一生を得たということだから、ああもなろうて」

 

 

 確かに直義が駿河から撤退する間、自ら刀を持って応戦しなければならない場面が多々あり、大変危険な状況であったという情報は入って来ている。

 何でも淵辺義博が奮戦し、桃何とかという一兵卒によって敵の刃が直義に触れずに済んだという噂である。

 

 

 ふと、人目を憚ることなく──皆慣れているのか最早誰も気にしていないが──足利兄弟が密着している近くで、既に足利軍に合流した道誉がニヤつきながら師直の鎧に触れているのが目に入った。

 それは俺の隣の細川顕氏も同じだったようで、これまた意外とでも言いたげな表情になっていた。

 

 

「六角殿。京極殿と師直殿はいつの間にあんなに親密になったのだ?以前はそうでもなかった筈だが」

 

 

「ああ……道誉殿ときたら軍に合流するなり師直殿と毎夜小規模の宴を催しているようで。今宵も山海の珍味を多数揃えたと本人が」

 

 

「……山海の珍味とはどのような?」

 

 

「さぁ?雲丹か何かじゃないですか?」

 

 

 山海の珍味ということで俺も食べたかったのだが、道誉によると子どもの舌ではあまり美味しいものではないらしく、そう言われるとどうしても食指が鈍ってしまう。

 前世で子どもの頃と成長後の味覚の違いを体感していた分、性急なのは良くないと思わざるを得ないのだ。こればかりは時期を待つしかないだろう。

 

 

「顕氏殿。私はあそこで孫二郎と会ってきます」

 

 

「確か再従兄弟同士と言っていたな」

 

 

「はい。顕氏殿も従兄弟の方々とお会いになっては?ここに到着するのにまだ時間が掛かるやもしれませんが」

 

 

「そうしよう。ではな」

 

 

「はい」

 

 

 今回の乱において鎌倉陥落の折に義詮の護衛をしていたという顕氏と別れ、一人鋭い目つきで座っている孫二郎の元に向かう。

 何か余程腹に据えかねるものがあったのだろうか。かなり機嫌を損ねている様子である。

 

 

「よっ、孫二郎」

 

 

「……千寿丸か。久しぶりだな」

 

 

 関東庇番衆寄騎の斯波孫二郎は俺の再従兄弟にあたる。どういう縁なのかと言うと、長井氏出身である我が母が孫二郎の父親の高経と従兄妹なのである。

 主に新田のせいで焼け野原になった鎌倉を京から派遣された直義が再生させたと聞いて再び訪れた際、主に話相手となっていたのがこの孫二郎である。

 

 

「ああ。久しぶり。どうだ?強かったか?諏訪の軍は?」

 

 

「慰めに来たのかと思えば、急にぶっこみやがって」

 

 

「……慰められたかったのか?」

 

 

「いや、別に」

 

 

 自力で起き上がった孫二郎は鎧の上に着ている袴に着いた土の汚れを払うと、凝った身体を解すかのように伸びをした。

 

 

「健啖家のお前のことだ。軍にも美味いものを沢山持ち込んでるんだろ?食わせろ」

 

 

「うっわ、さすがの無遠慮。まぁ良いけどさ。つっても干した肉と味噌が山程あるくらいだけど大丈夫か?」

 

 

「……肉はともかく、どうして味噌が山程?あれ禅寺くらいにしかないだろ」

 

 

「自家製造してんだよ。そのうち誰もが味噌の価値を理解する時が来る。今はまだ俺くらいかもしれないけどさ」

 

 

 暗い雰囲気にならないよう談笑しながら俺は孫二郎を伴って六角に割り当てられた場所に設営した陣地に戻った。

 起源については知らないが、陣営というのは布で仕切ることで区画を作り出す。当然、大将の居るべき場所は最深部付近にあるものと相場が決まっている。

 

 

「ああ、殿。六角軍一同、御命の通り休憩を取っております。お客人でありますか?」

 

 

「如何にも。ここに居るのは斯波孫二郎殿だ。失礼がないよう皆に周知して来い。それと、食事を二人分持ってくるように」

 

 

「承知しました」

 

 

「ああ、行って良い。ところで、孫二郎。ここまで連れて来ておいて今更言うのもアレが、高経殿とは会わなくて良いのか?」

 

 

「父であれば、私と会うよりも先に直義様に挨拶しようとするだろう。昼餉を済ませ次第、顔を見せるとするよ」

 

 

 あまり親子関係に首を突っ込んでは藪蛇になる恐れがあるので、適当に相槌を打って陣営内を歩んで行く。

 

 

「やけにキョロキョロしてるのは六角(うち)の軍略を盗もうって腹か?」

 

 

「あ、バレた?」

 

 

 悪戯っ子のように笑う孫二郎だが、無理に笑顔を作っているような感じが見受けられる。だが、その努力を無碍にするのも野暮というものなので、俺は「この野郎(こんやろ)」と言って戯けて見せた。

 

 

 大将の俺が居るべき六角軍本陣の中核部に戻ると、今回の遠征で初めて従軍する執事の姿はない。

 佐々木荘を出発する前に取り決めたルールの元、他家の人間である孫二郎が来ることを聞いて奥へと引っ込んだのだろう。

 予想通り、食事を持ってきたのは彼の者ではなく、ただの側仕えをしている少年であった。

 

 

「さぁ、食べよう。俺と同じもので良かったよな?」

 

 

「ああ、元よりそのつもりだったが……これは何だ?具入りの湯漬けのように見えるが?」

 

 

「芳飯と言うらしい。飯に具材を乗せて、そこに汁を掛ける。元より渡海して来た僧侶に勧められて以来、割と気に入ってる」

 

 

 飯は極力不味い雑穀を抜き、具材の中に獣肉を入れ、汁はキノコ辺りで出汁を取ったものに味噌を溶かしておけば、遠い未来の美食を知る俺でもまだ普通に食べられる食事になる。

 勿論、牛肉のパイ包み焼きをはじめとする西洋料理を食べたくなる時もあるが、中世の農耕で多用される牛を潰そうとすると方々から苦情が来るので妥協するしかない。

 

 

「はぁ。これを食べていると今川殿のことを思い出す」

 

 

「範満殿のことか?」

 

 

「他にどの今川殿が居る?」

 

 

「牛頭の頼国殿とか」

 

 

「……範満殿の兄上か」

 

 

 弟の範満に関しては瑪瑙とかいう愛馬が忘れられずに馬の面を被っていたという話を聞いたことがあるが、兄の方はどういう経緯で牛の面を被るようになったのか本当に謎である。

 どうやら頼国は弟の仇討ちに燃えているとの噂だが、あんな面を付けている人間の表情など分かる筈もなく、こちらについても確かめようがない。

 

 

「千寿丸の馬刺しの食べっぷりも大概だったが、今川殿のそれはお前をはるかに超えていた」

 

 

「……確かに」

 

 

 これまで連戦で故人を悼む暇さえなかったのだろう。庇番の皆のことを回想しているのであろう孫二郎は箸を持つ手を震わせた。

 

 

「千寿丸、私が今何を最も悔いているか分かるか?」

 

 

「分からん。候補があり過ぎる」

 

 

 例えば、策略家の孫二郎のことだから相手の動きを読み違えたことであろうか。実際、俺が指揮を取っていても初見では諏訪頼重の力を見切れず、敗れていた可能性は多分にある。

 他には渋川や岩松といった猛将を失ったことだろうか。特に前者は姉が直義の妻で娘が義詮の婚約者である上に、どの能力もかなり優秀であったのだから、戦死はかなりの痛手に違いない。

 

 

「数々の連敗で直義様の名前に泥を塗ってしまった。今や完全に直義様は西の足利党の者たちに侮られている」

 

 

「戦下手だって風評のことか?その噂なら前から俺も聞いてた位だし、何よりあの方の持ち味は鎌倉を立て直したような政務能力にこそあるんだから、今は言わせておけば良いさ。足利の天下になりさえすれば、誰もあの方のことを無視できなくなる」

 

 

 未来の知識がなくとも直義の切れ者具合を考えれば、政治の表舞台で活躍するであろうことに疑いの余地はない。

 最も、実際には高師直と対立して観応の擾乱が起こるまでという条件が付いてしまうのだが。

 

 

「……ならば約束してくれ。千寿丸」

 

 

「何を?出来る範囲でなら良いが、限度はあるぞ」

 

 

「分かっている。そう難しいことじゃない。高師直の派閥の者たちが何をしているか。彼らの行動から決して目を離さないでくれ」

 

 

「……それ位なら良いけどさ」

 

 

 実際、戦国時代がずっと先のことであるのに、既に忍びを使いこなしている疑いがある以上、師直の思考にはそれ相応の関心を向けて然るべきだろう。

 加えて、師直の考えが尊氏の考えというような側面があることは否定できない。武家の名門として京に住む身である以上、注意を怠ることは自殺行為に他ならない。

 

 

 とはいえ、ここまで言われれば俺にも勘付くことが出来る。敗北の味を嫌と言うほど知ってしまったせいか仲の良かった同僚たちを大勢失ったせいかは定かではないが、頭脳明晰な孫二郎にしては些か芸が足りない。

 縁戚関係にあるとはいえ、孫二郎は明らかに俺に対する警戒心を欠いているのだ。いや、あるいはただの子どもと侮っている可能性もある。

 いずれにせよ少しくらい牽制を入れておくべきだろうか。

 

 

「聞いておくが、まさか逐一お前に師直殿の情報を送れって訳じゃないだろうな?」

 

 

「それこそまさかだ。君は名門の当主で僕の親戚。この目の黒い内は諜者の真似事などさせるものか」

 

 

「良かった。流石の俺も高師直に喧嘩売るようなことはしたくないからな」

 

 

「……宇多源氏佐々木氏の惣領なのに随分弱気だな」

 

 

「平氏でさえ"驕れる者は久しからず"で滅びたんだ。強気でいれば良いってものでもないだろうさ」

 

 

 暗に高師直が驕って執事の分を弁えなくなった場合、見限ることもあり得ると仄めかしておく。明らかに直義の信奉者であろう孫二郎相手にはこの姿勢を示しておくだけで十分であるに違いない。

 

 

「さて、そろそろ高経殿も足利の本陣で直義殿に挨拶した頃合いなんじゃないか?行った方が良い」

 

 

「ああ、そうしよう」

 

 

 六角の陣の入り口まで見送ることにした俺は再び孫二郎と談笑しながら歩き始めた。先程までの暗さが消えたかのように話は弾む。

 話しながら陣営の一番外まで出ると、道誉の長男である京極秀綱が現れた。どうやら俺に大事な用でもある様子である。

 

 

「宗家。丁度良いところに。まもなく軍議が始まるので、急ぎお越し下さいと父上が」

 

 

「……俺が軍議に」

 

 

「千寿丸。仮にもお前は佐々木一族を統べる身だ。軍議に呼ばれないことが本当にあると思うのか?」

 

 

 元服前の身でありながら軍師として鎌倉将軍府の軍を支えた孫二郎が言うと説得力がある。やれやれとでも言いたげな彼の言葉に俺はコクリと頷いた。

 

 

「分かった。では秀綱殿。承知したと道誉殿にお伝えを」

 

 

「はい。それでは」

 

 

 軍議ともなれば、きっと高経をはじめとする足利の重鎮たちや道誉のような他家の武将たちが勢揃いするに違いない。どうやら考えていたよりも随分早く正念場が来たようである。

 懐に入った書状の感触を確かめ、改めて孫二郎を誘い直した俺は軍議が始まる場所へと向かい始めた。




やはり感想頂けると嬉しいものですね。この場を借りて感謝の言葉を申し上げます。今後もどうぞ気楽に送ってください。

[お知らせ※前話にも追記として掲載済み]
関連作品として『暗殺教室』とのクロス小説『[読み切り版]異本崇永記』を投稿しました。あまり推敲していない上、存分に人を選ぶような設定の短編ですが、興味あれば是非。
→(URL: https://syosetu.org/novel/330228/ )
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