吾郎センセーは転生者   作:アステカのキャスター

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 ちょっと息抜きで書きました、


☆話

 

 

 初めて転生したのは26年前の事。

 トラ転とかよくある話だわー、と現実逃避しながらも赤ん坊ライフで自尊心はクソボロボロにされてロードローラーで轢かれた頃が懐かしい。

 

 俺の名前は雨宮吾郎

 前世では医者だった。それはもうクソ辛いくらいに働いて稼いで、恋人なんてものは居なくて、それでも充実していた前世があった。

 

 今世は別の道を歩もうとか思わなかった。

 赤ん坊の頃から俺を祖父母に預けて、生活費などは振り込んでくれている親父、俺を産んで死んでしまった母、親から与えられる筈の愛は多分欠落していたと思う。

 

 それでも愛はあったと思う。それでも時々思う。

 俺はどうして生まれてきたのか。祖父母は言った。

 

 

「二人が愛し合ったからに決まってるでしょ?」

 

 

 すっげー参考にならなかった。

 愛が証明されたら俺は要らないのか。母親が死んで、親父は居なくて、育ての親は祖父母だけ。俺はどうして生まれたのか。親父は何してんのか。そんな事を考える事もあったが人生二周目だ、不自由があるわけでもなければ俺もその在り方に感化されて自由に生きた。愛の形は人それぞれと言うが、束縛されない人生、俺にとってそれが両親が残した愛だった。

 

 死ぬ前に母は言った。

 なりたいものになりなさいと言った。

 

 去る前に父は言った。

 後悔のない人生を歩みなさいと言った。

 

 俺はもう一度医学部に入った。

 あんなクソ忙しい場所に自分から行きたいなんて馬鹿げてる。マゾにでも目覚めたかと思うくらいだった。けど、俺は多分意義が欲しかったんだ。

 

 俺がこの世界にいてもいいのか。

 不自由なんてない、むしろ自由で素晴らしい世界だ。両親がいなくても俺は生きていける。

 

 でも、そんな日常を過ごせば過ごすほどに自分の在り方が分からなくなった。俺はどうして生まれてきたのか、人生二周目を手に入れてまで俺はどうしたいのか。

 

 有名になりたかったわけじゃない、歴史に名を残したかったわけでもない、

 

 きっと俺が欲しかったのは。

 

 

「ありがとう……せんせぇ、大好き……」

 

 

 俺が居てよかったって、思ってほしかったんだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 俺は産婦人科の医師となった。

 前世でも同じだった。医師は給料を稼げるから、忙しい反面それ相応の安定した収入を得られるから。俺のやる事は診察や妊婦から赤ん坊を取り上げる事、産婦人科の先生なんてそんなものだ。

 

 ただ、命が生まれる瞬間に立ち会える。

 俺は俺の為に産婦人科の医師となった。二周目だから外科医やろうかと思ったけど、赤ん坊を取り上げて、命が産まれるその時、誰かを救う事で得られる感情がきっと忘れられなかったから同じ道を選んだ。誰かの笑顔を見る事が好きだった。心の底から笑ってくれる笑顔が大好きだった。

 

 自分が通ってきた道が認められるように、勉強しては誰かに寄り添った。時には外科の入院患者達と話したりする事もあった。

 

 

「おっ、また観てる。アイのライブ映像」

「あっ、せんせ」

「長時間テレビの見過ぎはよくねぇぞ?目をぎゅっぱっとしなさい」

「はーい」

 

 

 天童寺さりな。

 この子は両親から見限られた境遇だった。治る見込みが少ないと分かったらお見舞いにすら来なくなった。都心で働いているから二人は滅多に来る事がないのは理解していた。治療費を払ってある以上、愛はあるのだろうが……それでも親としては最低だった。

 

 

「せんせは昨日の番組見た?」

「観てないな」

「えー!ちゃんと観てよ!色々語りたかったのにー」

「暇が無くてな。すまん」

 

 

 テレビに映るアイドルだけは推しだからと何度も説明されたから覚えている。アイというアイドルにハマっているらしく、俺は一度だけ彼女をライブに連れて行った事がある。

 

 本当はダメな話だ。

 両親が来なくて自由に動けないこの子がどうしても辛そうで、一度だけ保護者としてライブに連れていった。

 

 生きたい、と涙を流された。

 どうしようもできない自分の無力さを呪った。

 

 

「アイドルになりたいとか思った事あるか?」

「……あるよ、生まれ変わったら絶対アイに似た顔になりたい」

「今のままでいいだろ。可愛いんだし」

 

 

 顔立ちは悪くない。

 髪も伸びたらきっと美人になってる筈だ。それこそアイドルになれるくらい。

 

 

「君がアイドルになったら俺はファン一号になるのか。そうなったらちょっとは誇れるかもな」

「〜〜っ!もぉー!せんせ大好き!結婚しよ!」

「生憎と12歳は結婚対象外だ、社会的に抹殺されるわ」

 

 

 抱きついてくるこの子をそっとベッドに戻した。アイドルになったなら誇れるのかもしれない。こんな一番星を救った事があるって言えるかもしれない。

 

 俺は産婦人科の医者だ。外科医ではない。医者であっても彼女を救う事が出来ない歯痒さがあった。

 

 いつも思う。

 どうしていい奴が死ななきゃいけないのか。生まれ変わってもそれだけは未だに思い続ける。俺はこの世界に生きて何をしなければいけないのか。

 

 未だに分からない。

 善い人になりたいとは思った、誰かの痛みを理解出来る人になりたいと思った、愛を与えて幸せに生きてくれって、言いたかったのかもしれない。

 

 

「じゃあ16歳まで生きれたら?」

「アイドル志望が結婚前提で話進めるなよ。まあ生きる希望になるなら考えてやるさ」

「約束だよせんせ!指切り!」

「はいはい」

 

 

 残酷な約束をした。

 医者として客観的に見ればこの子は永くないのに生きる希望を持たせて、彼女は16歳になる前にこの世を去って行った。

 

 

 ★★★★★

 

 

 医者だから勉強し続けた。

 一人でも誰かを救えるようになりたかった。先輩はこぼれ落ちるものはきっとあるから気に病むなと言った。

 

 ああ、そうなのかもしれない。

 こぼれ落ちる命はきっとある。それは間違いなんかじゃない。

 

 でも、嫌だった。

 医者だから割り切れなんて言葉が嫌いだった。分かってる、こんな事をしても無駄なのは、転科してもきっと無力さに打ちのめされる時はきっとある。

 

 心が痛かった。

 きっと引き摺っている。俺が死なせた訳ではない。けど、多分さりなちゃんを家族のように見ていたから苦しいのかもしれない。何も出来ない自分に怒りさえ感じていた。

 

 

「吾郎」

「……!先、輩」

「これ、天童寺さんからの手紙だ」

 

 

 手紙を開いた。

 綴られた言葉は震えて読み難いし、インクが滲んで一部読めなくなっている。読みたくなかった。あの子の遺書なんて見たくなかった。それでも、あの子が書いた手紙なのだ。

 

 俺は読まなきゃいけなかった。震えた手で手紙を読み始めた。

 

 

『先生へ

 

 この手紙を読んでいる頃にはきっと私はこの世にいないでしょう。一度は書いてみたかった言葉だったけど、こうして書くとなんか辛くなるね。先生は私のことを最後まで見てくれた、お母さんやお父さんは仕事で忙しくて来れなかったけど、ライブに連れていってくれた時、嬉しかった。本当に最高だった。

 

 永くないのは分かってた。身体が動かなくて、苦しくなって、死んでいくってこんな気持ちだったのかって思ってた時、先生はいつも来てくれた。私に生きる希望を与えてくれた。私が居なくなったら先生はきっと自分を責めると思う。けど、自分を責めないで、先生はこれからまた多くの人の命を助けると思う。先生みたいな人はきっと必要だから。私みたいに生きるのが辛いと思う人を支えてあげて。

 

 私は先生といられて幸せでした。

 もしも、もしもね、生まれ変わったのなら先生みたいな優しい人になりたい。私の推しのアイみたいな可愛い容姿になりたい。もしも、また出会えたら先生の──

 

         天童寺さりなより』

 

 

 

 ああ、辛いな。

 辛くて目の前がボヤけてしまいそうだ。俺には自信が無かった、あの子を救う事は出来なくて、ただ悪戯に苦しめ続けているだけだと思っていた。死ぬ事が楽だと思う事もあるから。

 

 けど、ちゃんと幸せだって思ってくれていた。

 嬉しかった、それと同時に悲しかった。やっぱり医者に向いていない。割り切るなんて出来なくて、眼鏡の下で涙が溢れ続けた。

 

 

「今日終わりだし、一杯行くか」

「……はい」

 

 

 先輩は何も言わずに頭を撫でて笑いかけてくれた。

 いい日ではないけれど、自然と酒が進んだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 あれから四年が経った。

 俺もすっかりアラサーの仲間入りだ。医者として貫禄が出てきたと言ってもいい。あの日から俺の何かが変わったわけではないけど、きっとまた誰かを助けられるように勉強し続けた。

 

 転科はしなかった。

 転科出来るだけの勉強は今でもしているけど、それでも今更変えて新しい事に挑戦するのは逃げにも思えた。学ぶ事は増えたけど、医者としては充実していた。

 

 そんなある日の事だった……ある女の人の診察を受けた時、軽く目を見開いた。

 

 

「推しの推しじゃん……」

「えっ?」

「いや失礼、こっちの話で」

 

 

 星野アイ。

 アイドルになりたいと言っていたさりなちゃんの推し。それが、妊娠しているってマ?頭の中で高速回転する思考、混乱しては思考停止になりかけたが平静を装って誤魔化した。

 

 

「先生、どうなんでしょう。凄い便秘っていう可能性は……」

「だとしたら死んでますよ」

「そっちは順調!今日も問題無かったよ!」

「「…………」」

 

 

 マジか、さりなちゃんが推していたアイドルが妊娠してた。脳が破壊されそうになった。正直もう情報が受け止めきれなくて割と吐きそうになった。さりなちゃんが知ったら憤死ものだろう。

 

 

「とりあえず検査で判断します。色々と言いたいことがお有りでしょうが、結果を見てから話し合ってください」

 

 

 とりあえず検査してみる事にした。

 エコー検査が終わるとその結果を診察室で伝えた。

 

 

「検査結果。20週目の双子ですね」

「「双子……」」

 

 

 星野アイと斉藤さんの声が被る。

 双子、しかも16歳の子が二人を産むとなると母胎にかかる負荷は尋常ではない。一歩間違えば死ぬ危険性だって零ではない。

 

 

「双子……」

 

 

 お腹を撫で、その事実を噛みしめるアイに斉藤さんが頭を抱えて尋ねた。

 

 

「アイ、本気で産む気なのか?16歳で妊娠、出産なんて世に知れたらお前もウチの事務所も終わりだぞ」

 

 

 当たり前の話だ。

 アイドルは恋をすれば終わり。愛を振り撒く事が出来ないアイドルはアイドルではない。ましてや出産ともなれば相当問題だ。隠し通せる話なのかはまた別として、結果闇の深い話だ。

 

 

「先生はどう思う?」

 

 

 俺に話を振られる。

 本来なら意思を尊重するというべきなんだろうが、俺にはその言葉は言えなかった。

 

 憤りというわけではない。けど、他人に意思を委ねる星野アイが余りにも考えが甘そうに見えていたから、俺は医者としての意見ではなく、俺の心から思った言葉を口にした。

 

 

「中途半端な気持ちで産むならやめとけ」

「えっ?」

 

 

 この言葉を吐いたことをきっと後悔する。

 これは傷つけるだけの言葉にしかならない。

 

 

「親から愛情を貰って子供は育つ。俺はそう思ってる。親でなくても、誰かがきっとそれを与えなきゃいけないんだよ」

 

 

 きっとそうだ。

 愛を与えない親はきっと子供を大切にしない。幸せを願うなら、子供のことを考えるなら自分だけの為にではない。これから自分と同じくらいの命の重さを感じなきゃいけない。責任も愛も背負わなきゃいけない。

 

 

「きっと、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そうじゃなきゃ、誰が愛を与えてやれるのだろうか。俺は祖父母から愛を貰ったが、本当なら子供は親が居なけりゃ愛なんて分からない。愛の結晶が子供であるなら、産んだ人間が愛を与えなきゃいけない。

 

 それが親の果たすべき義務だと今も思っている。

 

 

「誰かを愛するってのは、寄り添って、一緒に生きていかなきゃできないものだと俺は思う。君にそれが出来るのか?」

「そ、れは…」

 

 

 活動休止という事はまだアイドルを続けたいのだろう。だがそれはきっと茨の道だ。仕事と家族をどちらも取るというのは大変で、夫が居ないのなら彼女が育てなきゃいけない。きっと大変だろう。

 

 

「俺は、自分の子が助からないと分かってから見舞いに来なくなった親を知ってる」

 

 

 それでも仕事だからと放っておくなんて許したくない。アイドルだから仕方ないなんて俺は言わない。そんな言い訳で逃げる事を俺は許さない。

 

 

「見限られて孤独の中で死ぬしかなかった子を知っている」

 

 

 あの子は辛かった筈だ。

 本当なら両親に最期を看取ってほしかった筈だ。多分重ねているから、重なってしまうから厳しい言葉を吐いた。

 

 

「だから、忠告はしておく」

 

 

 これはアイドルだから忠告するのではない、母親になろうとしている星野アイに向けた忠告だ。

 

 

 

「君が今の言葉を聞いて悩むなら、やめておけ」

 

 

 

 他人に決定を委ねようとする中途半端な意思なら俺は産んでほしくはない。産んだ子を幸せに出来るとは到底思えないから。生まれてくる子供が悲惨な目にあうくらいならと思う事だってある。宿っている命を殺そうとしたくはないが──

 

 

「その方が幸せな事もある」

 

 

 その方が最善である事もあるから。

 

 

「俺は医者だ。任されたら絶対に産ませてやるし、堕ろすと言ったとしても非難はしない」

 

 

 だから、その選択は俺が決めてはいけない。

 

 

「産まれる子の命は必ず保証する。だけど()()()()()()()()()。だからそれは君が決めろ。そこだけは他人に委ねちゃいけない」

 

 

 決めるのは星野アイ―君だ。

 不安な顔をしながらも今の言葉にどうすればいいか本気で悩みはじめた。母親とは中途半端な覚悟でなれないから。

 

 

「……先生ってちょっと酷い人だね」

「酷くて結構。アイドルだからとか色眼鏡で見ないよ。母親としての責任も、産む為の覚悟もぼかして伝えちゃいけないものだ」

「アレ、先生は私の仕事知ってるの?」

「俺の推しが君を推してたから間接的に知ってるだけだ。誰にも言わねえし、口は噤むから安心してくれ」

 

 

 斉藤さんだってそれを望んでいるのだろう。

 俺の口から人生を終わらせるような事は言わない。それは医者としての義務だし、産まれてくる子の人生を願っているから。

 

 

「私は欲張りだから、夢も子供も捨てられない」

 

 

 アイドルも子供も捨てない。

 茨の道だが、それでも彼女は真っ直ぐに見つめて懇願した。

 

 

「先生、私を助けて」

 

 

 その顔はあの子と似ていた。

 もしかしたらと思った事はある。あの子の延長で星野アイを重ねているのかもしれない。

 

 だったら、俺が断るなんて出来やしない。

 医者だからじゃない。俺が居てくれて良かったと言ってくれた子の為にも、俺が彼女の子を産ませてみせる。

 

 

「分かった……絶対に産ませてやる。だから約束だ」

 

 

 小指を出した。

 あの子との約束のように指切りをする。アイは自然と小指を出してくれた。これは絶対に忘れちゃいけない約束だった。

 

 

「どれだけ世間が認めなくても君だけは子供達の味方である事、産まれる子供達を愛してあげる事、それと──」

 

 

 子供達を大切にする事、子供達の味方である事、そして()()()()()()()()()。きっとそれが大切だから俺は約束を取り付ける。

 

 

「欲張りなら諦めるな。夢も子供も大事にしろ」

 

 

 指切りを交わした。

 斉藤さんは諦めたように俺に頭を下げた。

 

 

「先生、よろしくお願いします」

「はい」

 

 

 星野アイの覚悟、斉藤さんの覚悟、一つ間違えば人生破滅まっしぐらな中、俺も彼女達の覚悟に答えた。絶対に星野アイの子を産ませる事を。

 

 

 





 雨宮吾郎(転生者)
・前世でも産婦人科の医者だった。精神年齢はクソ高い。前世に引っ張られているせいか口がやや悪い。ロリコンではない。それでもさりながアイドルやっている延長を夢見ている。一番推しになる筈だった。推しの子の世界だが世界線を知らない。よく読んでいた漫画はアクタージュとかぐや様は告らせたいである。

 天童寺さりな
 色々あって先生がめっちゃ好き。先生がファン一号。献身的に見てくれて幸せだった。星になった後にこれから生まれるであろうヒロイン。16歳になったら先生が社会的抹殺されるのが確定している。

 星野アイ
 改めて覚悟を決めた人。アイドルとしてではなく、星野アイとして見る先生に少しだけ嬉しい人。父親が居たらこんな人がいいと思っていたり。


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