吾郎センセーは転生者   作:アステカのキャスター

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆話

 

 

 星野アイは後悔していた。

 引っ越して間も無い自分の住所が割れるわけがない。センセは例外、あの人がそんな事をする筈がないのは分かっていた。それだけ信用しているから。母親にも伝えなかった住所を教えたのは一人しかいなかった。

 

 二人の父親、彼が母親を差し向けた可能性が高い。

 どうして、という言葉は浮かばなかった。彼は命を証明したいからと、私は愛を手に入れたいからという形だけの繋がりだった。

 

 命の重みを感じて生きようとする彼。

 嘘のない愛を手に入れようとして生きる私。

 

 似通っていたから、少なくても寄り添えるんじゃないかって思っていた。形だけでも、愛がなくても、二人の父親として彼を紹介したかった。

 

 でも、その答えはこの惨状だ。

 母親は私を殺しにきて、そのせいであの人は重体になって生死を彷徨うようになり、二人には怖い思いをさせてしまった。

 

 愛がなくても、きっと寄り添って生きてそれを感じられるように学んで、笑って、そしていつか愛してるって言えるように頑張った。

 

 愛せるように努力もした。

 血の繋がりがあるから、形があるからと愛せるように。

 

 

 そうすればいつかきっと、本物の愛を手に入れられると思った。

 

 

 全てが無駄だった。

 愛なんてなかった。親の愛なんて欠片もなくて、あの母親の子供として生まれた私が嫌いになる程に辛かった。

 

 巡りに巡って回ってきたのは狂気と憎悪の視線だった。幸せになればなるほど、それを憎む人間に追われてしまう。芸能界ならそんな事は当たり前だった。けど、身内からこんな事になるなんて思わなかった。

 

 こんな私が愛してるなんて言えるのか。また、誰かを傷つけてしまうんじゃ……と。

 

 

「なに泣いてんだ、アホ」

 

 

 そんな時だった。声が聞こえたのは。

 缶コーヒーを片手に近づくセンセの姿だった。

 

 

「普通泣くでしょ……」

「泣いてる理由は大方……自分のせいで誰かを傷つけてしまうんじゃ、とか思ってるからだろ。くだらん」

 

 

 心の中を暴かれるような言葉に動揺した。

 センセはいつもそうだ。何でも見透かすような目をしては平気で心の中の言葉を言い当てる。その言葉に耳を塞ぎたかった。

 

 

「アホらしい考えだな。普段能天気なお前は何処いったんだよ」

「……うるさい」

「それとも何だ?犯罪者の子である自分はあの子達を幸せに出来ない、とかか?くだらない妄想だな」

「黙って」

「それとも愛した所で傷付くならいっそ、とか?」

「黙ってよ!!!」

 

 

 病院なのに大声を出して掴み掛かった。

 本当に狡い、どうして分かってしまうのか。その言葉は私の心を平気で踏み荒らしては揺さぶっていた。嘘なんかじゃない剝き出しの自分の感情をセンセにぶつけた。

 

 

「私のせいなんだよ…!佐藤さんが傷付いたのも!あの子達に怖い思いさせたのも!全部全部、私が……私が悪いのに……!センセは私に悪くないっていうの!?こんな事起きたの私のせいなのに……!!」

 

 

 心が痛くて痛くて、死んでしまいそうだった。

 もう何が正しいのか分からなかった。もうどうすればいいのか分からなかった。自分は何処にいて、何処に向かおうとしているのか。立っている場所すら揺らいでるようで、自分が何なのかすら曖昧になっていた。

 

 

「そうだな。()()()()()

 

 

 

 その言葉に目を見開いた。

 優しい言葉を吐いてくれなかった。どんな優しい言葉も、何の慰めにもならない。今の私に届くとは思わなかったのに、センセは責めるように、怒るように私に目を合わせている。

 

 

「慰めの言葉を吐くとでも思ったか?お前、今大事な時だから父親に連絡するなって忠告無視して連絡したろ」

 

 

 どうして、優しい言葉を吐いてくれないのだろう。そちらの方が傷付くのに、どうして今厳しい言葉を吐くのか。

 

 

「壱護さんが何で忠告したか分かるか?成功させたいからっていう理由だけじゃない。お前の為でもあったんだよ。もしかしたらこうなるかもしれないって、あの人はお前を守ろうとしてた。

 ──それをお前は無視した。あの人の言葉を軽視した。その結果がこれだ」

 

 

 センセは真っ直ぐな眼差しで私を叱るように告げた。

 

 

「だから言わせてもらうが、()()()()()()()()

 

 

 親に怒られるのが怖いと思った事はある。けど、センセの言葉は怖いより重くて、罪悪感に押し潰されそうになる。泣きそうになった。その通りで、私が悪くてこうなってしまったのだから、返す言葉もなかった。

 

 

「けどな」

 

 

 センセはため息を吐きながら言葉を続けた。

 

 

「刺した犯人がもっと悪いし、住所を流して母親を焚き付けた奴が一番悪い」

 

 

 それでも私が悪いのだ。

 教えなかったのなら、こうならなかったのだから。忠告を無視した私が悪くて、原因になってしまったのだから。

 

 だけど、センセは少し後悔したような顔で告げた。

 

 

「そして、お前が嘘吐いてると分かったから壱護さんを早めに向かわせた俺も悪いよ」

「……ぇ?」

「こうなっちまったのは俺にも責任はあるって事だ。けど壱護さんが身を挺して守ったからお前は生きてる」

 

 

 センセはあの夜、私の嘘を見抜いていた。

 どれだけ嘘をついても、この人だけは誤魔化す事が出来なかった。だから心配して早めに向かわせた。だから私は傷一つなかった。私やルビー達は生きている。

 

 胸元を掴んで軽く持ち上げられた。

 いつも冷静なセンセからは考えられない激情を感じた。

 

 

「よく聞け。この事件、誰が一番悪いかなんてどうでもいい。起きちまった事実は変えられないし、過去に戻れるわけでもない。それでも、今を歩かなきゃいけないんだよ」

 

 

 変えられない事実とその瞳が言葉を紡がせてくれなかった。その言葉は今まで聞いた何よりも重くて、目を逸らさせてもくれない。

 

 

「ドーム公演はあの人の夢だった。けど、時間が経てばお前の親の情報が割れる。もしかしたらドーム公演が中止になるかもしれない。悪い事をしたお前のせいであの人の夢を潰したいか?」

 

 

 服から手を離されると、力が抜けたように私は病院の床にぺたりと座り込んだ。このままじゃ、私を守ってくれた人の夢すら叶えてあげられなくなってしまう。きっとそうなってしまえば自分を一生許せなくなる。

 

 

「自分が悪いと思うのなら、あの人の願いを叶えてやれ。自虐しても何も起きないけど、行動する事であの人に償う事は出来る」

 

 

 許されるはずがない。

 私はアイドルで歌わなきゃいけない。ドーム公演はあの人の夢だったから。

 

 けど、立てない。立てないのだ。

 

 

「俺はアイドルじゃないし、お前の代わりなんて出来ない。このステージはお前しか立てないが、背中ぐらい押してやる。怖いなら手を握ってやる。けど、()()()()()

 

 

 センセが出来る事はそれしかないと断言した。

 けど、歌える気がしない。笑顔を作れる気がしない。嘘を演じるだけの心が追いつかない。

 

 

「全部お前次第なんだよ、アイ」

 

 

 その期待は今の私には重すぎた。

 

 

「あの人の願いを叶えられるのも、ファンを照らす笑顔を見せられるのもお前だけなんだ」

 

 

 出来ない、出来る気がしない。

 今の私には成功させられる自信がなかった。

 

 

「俺はどちらでもいい。辛い気持ちは理解してるつもりだからな。どっちに転んでも傷付くなら俺はお前の意志を尊重する。どっちを選択したって責めはしない。お前の人生はお前しか決められない」

 

 

 いっそ中止にした方がまだやれる気がした。

 逃げに走りたかった。今の私じゃ無理だって分かってるから。

 

 

 

「けど、俺が近くにいる間はお前の人生を助けてやる」

 

 

 

 なのに、その言葉に私の足は踏み止まった。

 逃げたいって思うのに、その決意を揺らがせた。その言葉は甘い毒のようだった。容易く飲み込ませてはそんな逃げたい思いを殺そうとする劇薬のようだった。

 

 

「俺が医者だからじゃねえ。()()お前の味方をしたいからだ」

 

 

 どうして、そこまでしてくれるのか。血の繋がりもない、元患者と元担当医の関係、父のようだと思っていても本人は娘のように見てるわけでもない。

 

 なのにどうして、愛があるわけでもないのに此処まで自分の味方をしてくれるのか。この人は何なのか私には分からなかった。

 

 

「どう……して」

「言ったろ。お前の味方をしてやるって、それに──」

 

 

 くしゃりと、笑って優しく撫でてくれた。

 

 

 

「頑張ってるお前の姿に俺も救われてんだ」

 

 

 

 この人の嘘偽りない本心が私に告げられた。

 本当に狡い、この人はどうして欲しい言葉をくれるのだろうか。どうして此処まで頼れる人間であってしまうのか。全部狡い、狡いのに、その言葉が私の背中を押してくれている気がした。 

 

 

「ずっと頑張ってきたのを知ってる。アイドルも母親も、どちらも頑張ってるのを俺は知ってるよ」

 

 

 毎回毎回迷惑かけてた。

 遠くても連絡したら嫌がらずに話を聞いてくれた。私が頑張ってる事を肯定してくれるのはいつも社長達やルビーとスバルだけだった。あの時の言葉があるから頑張れた。

 

 

「だから、俺は報われてほしいって思うよ」

 

 

 でも、ちゃんと離れていても見てくれていたのだ。その言葉は魔法みたいで、辛い思いを洗い流してくれるみたいだった。

 

 

「あの子達の父親やお前の母親に愛されなくても、お前がやってきた事は無駄じゃない。それは俺がよく知ってるよ。だから──」

 

 

 センセは優しく笑った。

 仕方ないなと、まるでお父さんがしてくれるような不器用な笑顔で、私の頭を撫でながら告げた。

 

 

「──あの子達を愛してるお前が幸せであってほしいって、俺は思ってるよ」

 

 

 その言葉に涙が溢れた。

 無駄なんかじゃない、その言葉がどれだけ今の自分に染み込んだのか。辛くても、愛されなくても、愛していた事は無駄なんかじゃないって、私を誰よりも知っているこの人が肯定してくれたのだ。

 

 

「…うっ……ぅぁ……うああぁ……!!」

 

 

 情けないくらいに泣いた。

 子供のように泣きじゃくった。

 しゃがんだセンセにみっともなく縋りついて泣き続けた。暫くの間、センセは私の背中を優しく撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 泣いてから少しして落ち着くと、センセは問うように口を開いた。

 

 

「アイ、お前はどうしたい?」

 

 

 今もまだ怖い。期待が重くて辛い。

 けど、逃げるって決意は消え去っていた。

 

 

「私が出れば…償えるかな……」

「それはお前の結果次第だ。それでも償えるって俺は思うよ」

「私のせいで、痛い思いしたのに……」

「そん時は謝って、ちゃんと斉藤さんって呼んでやれ」

 

  

 私は弱くて嘘吐きなアイドルだ。

 私を此処まで導いて助けてくれた人、此処までずっと守ってくれた人、そして私を見て支えてくれる人がいる。

 

 弱い所を見せて、情けない所は今だけでいい。

 

 

「センセ、お願い」

 

 

 私は手を伸ばした。

 

 

「私を連れてって」

 

 

 今の私には勇気が足りない。

 心は痛いし、まだ怖いし、嘘をつくだけの強さが足りない。成功するかなんて分からない。それでも……

 

 

「センセが居れば、頑張れる気がするから」

 

 

 この人がいれば立ち上がれるって思えたから。

 

 

「……俺も、任されちまったしな」

 

 

 その手を握って引っ張り上げてくれた。

 ああ、本当にこの人に出会えて良かったって思えるから。

 

 

「行くぞ」

「うん!」

 

 

 私はまだ諦めないでいられる。

 狡くて、酷くて、怖くて、そして優しくて誰よりも私を見てくれて、叱っては呆れては、それでもどうしようもない私の味方をしてくれるセンセ。

 

 私は──この人がきっと

 

 

 ★★★★★

 

 

 ミヤコさんが到着した連絡から俺とアイは入り口まで向かった。息切れで膝がガクガクになっているのを見て苦笑を溢すが、本人は不安そうな様子で尋ねてきた。

 

 

「先生、壱護は……!」

「現在手術中だ。応急処置はしたから失敗する可能性は低いと思う」

「良かった……って言える状況でもないですよね」

「ドーム公演の方は中止の連絡したのか?」

「まだですけど…やっぱり中止に」

 

 

 よし、まだ流れは此方にある。

 ドーム公演を中止にしなかったのは英断だろう。多分アイの意思を確認してから判断するつもりだったようだし、この人も壱護さんと同じように才能がある。

 

 

「なら良かった。アイ、ドーム公演行くってよ」

「えっ!?だ、大丈夫なんですか?」

「ぶっちゃけ賭けだ。でも事件のリークがされれば色々と不味いしな。一発で黙らすならこの公演は中止しない方がいい」

「アイさんは、辛くないの?」

「辛いよ」

 

 

 それは偽りない本音だった。

 だけど、その瞳はとても真っ直ぐな覚悟が燃えているように見えた。

 

 

「けど、()()()()の夢を叶えたいから」

 

 

 その言葉だけでミヤコさんを納得させるには充分すぎた。

 

 

「……つーわけだ。俺も同行しなきゃいけないんでミヤコさんに双子をお願いしたいです。あと出来ればドーム関係者に連絡を」

「で、ですが先生今日帰るんじゃ」

 

 

 ああそれか。忘れてた。

 ポケットに入れていたチケットを目の前でビリビリに破り裂いた。その行動に目を見開いて驚愕するミヤコさん。アイも少なからず驚いてるが、どうせ約束したから帰れないのだ。盛大に破いた。

 

 

「あー、レシートと間違えて飛行機のチケット破っちまったー、これじゃー帰れないなー(棒)」

「え、ちょっ……大丈夫なんですかそれ!?」

「お叱り覚悟だよ。……後悔はしてる」

「やけくそじゃんセンセ」

「うっせぇ。どうせ事情聴取とかあるから結局帰れねえし、もうここまで来たら最後まで付き合ってやる」

 

 

 事件があったからって事で許してくれねぇかなぁ。後で連絡するが、最悪減給で済めばいいんだけど。多分大丈夫だろ、多分!それ以上は考えないし考えたくない!!

 

 まあ、飛行機のチケット一枚と夢のどちらが重いかなんて比べるまでもない。後悔はしてるが、反省はしてない。過去に戻れたとしても同じ選択をしただろうし。

 

 

「俺もあの人に、頼むって任されちまったしな」

 

 

 勝手な約束をされたけど、俺もあの人を向かわせた責任はあるしな。

 

 

「公演までまだ時間はある。つーか、ミヤコさんここまでどうやって来ました?」

「タクシーで。壱護がアイさんを迎えに行ってたので」

「車は私の家の駐車場かも」

「仕方ねえ、会場までのタクシー代は俺が出すわ。ミヤコさんはドーム公演のスタッフに連絡を。アイは双子に行ってくるって言ってやれ」

「うん!」

 

 

 アイは二人の元へと走っていく。

 病院で走るなと言いたいが、此処からは時間とアイ自身の精神との勝負だ。俺は俺でタクシーを呼ぶためにスマホを開いた。

 

 

「いいんですか先生?」

「思う所があるなら貸しにしとくから適当な時に返してくれ。それに──」

 

 

 迷惑なんて散々かけられた。

 今更どうという事でもない。ちゃんと前に進もうとしてる奴の背中を押してやりたいと思うし。

 

 

「あの子の晴れ舞台なんだろ?その為なら安いもんさ」

 

 

 形は違えどあの子のライブを見れる訳だし。

 今やれる事は全部やって後の事は考えない。まあ、俺もあの子を推してるファンって事だ。

 

 

「本当、親子みたいですね」

「未婚者としては複雑だがな」

 

 

 大事だからなこれ、三回目だぞ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 わざわざ白衣を纏って会場の裏からアイと一緒に関係者のみ入れるドアから入った。白衣を着た方が変な勘潜りされなくて済む。壱護さんが刺された事はもう既にネットニュースに載っている。仮に見られたとしても、病院側の人間がアイを送ったって事で何とかなるだろう。

 

 急いでメイクを施され、衣装に着替えて待合室に入るアイ。

 入った瞬間、B小町のメンバーに抱きしめられて、大丈夫か、とか社長はどうなったの、とか色々と質問責めされている。そんな中で高峯さんは首を傾げながら俺に質問してきた。

 

 

「えっと、貴方は?」

「あー、俺は壱護さんの友人。今回代理のミヤコさんも壱護さんが心配だから病院にいる。まあ、あの人しぶといから絶対に死なねえと思うけど念の為な」

 

 

 ホッと肩を撫で下ろす三人。

 心配していた事の荷が少しは降りたようだ。

 

 

「俺はただの伝達者(メッセンジャー)だ。此処まで来れたのは君達の努力とあの人達の支えがあってこそだし、外部の俺がとやかく言うつもりはない」

 

 

 俺はプロデューサーでもないし、壱護さんの仕事を引き継げる訳でもない。俺が出来る事は奮い立たせる言葉を紡ぐだけ。まあそれが難しいのだが。

 

 

「ただ社長から伝言を預かってるからよく聞け」

 

 

 騒いでいた二人も静まった。

 

 

「今日、此処にいる君たちが主人公だ」

 

 

 このドーム公演の主人公は此処にいる全員だ。

 ドーム公演が出来るアイドルは一握り。社長達の頑張りとB小町のメンバーの努力で此処まで来た以上、応援なんて必要が無い。

 

 ただ一言、鼓舞の言葉を告げた。

 

 

「存分に暴れてこいってさ」

「「「はい!」」」

 

 

 その言葉に頷いて元気な返事を返された。

 それと同時に、スタッフの方が時間ですと待合室に声をかけてきた。三人はすぐに廊下へ出始めた。強い子達だ。

 

 

「センセ、今の嘘でしょ?」

「まあな」

「センセも嘘吐くんだね」

「傷付ける嘘は言わねえけど、救える嘘なら俺だって使うさ」

 

 

 前世は嘘を使いまくっていたし。

 なんなら重ねた嘘のキャリアなら時間的に考えれば俺の方が上だ。だって嘘って便利だし。

 

 

「悪い人だね」

「お互い様だ」

 

 

 お互い悪い事だらけだ。泣かせまくったし。

 けど、嘘は悪い事じゃないって俺は信じてる。そんな事を思っているとスマホが震えた。画面を見て、安堵の笑みを浮かべた。

 

 

「アイ」

 

「ん?」

 

「壱護さん、手術無事成功したって」

 

「ホント!?」

 

「ああ」

 

「よかった……本当によかった……」

 

「だからアイ、お前も楽しんでこい」

 

「えっ……?」

 

「壱護さんも楽しんでるアイを待ってる」

 

「で、でも……」

 

「下手に成功させようと意識すると失敗すんぞ」

 

「うっ……」

 

「ちゃんと見てるから、今は嫌な事忘れて楽しんでこい」

 

「楽しんで…いいの?」

 

「ああ、自分の人生で一番だってくらいの思い出を作ってこい」

 

「でも」

 

「それにスバルもルビーも遠くからお前を観てる」

 

「!」

 

「カッコいい所、カワイイ所、見せてこいよ」

 

「……センセは?」

 

「俺?」

 

「うん」

 

「期待してるよ。一番星みたいになってこい」

 

「っ…!うんっ!」

 

 

 待合室から出ていく前に振り返って──笑った。

 

 

「──見ててね、センセ!!」

 

 

 その笑顔はあの時と変わらない。

 誰もを魅了するような無敵の笑顔だった。

 

 

「ああ、見てるよ──アイ」

 

 

 きっと成功する。そんな確信を持ってアイに手を振った。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 夜空を覆う曇天は消え、月よりも太陽よりも輝く一番星がドームを照らした。

 

 その笑顔も、全てを吸い寄せるような瞳も、辛くて苦しかった思いさえも、眩く光に掻き消えるようだった。

 

 彼女に魅了されては焼き尽くされるような情熱が広がり、歌い終われば大歓声がドームに響き渡る。

 

 彼女は大歓声の中、涙を流して告げた。

 

 

 ──ありがとう、と。

 

 

 その言葉は誰に向けられた言葉なのか。

 ファン達になのか、社長達になのか、双子達になのか、それとも彼に向けられた言葉なのか。真実はアイにしか知る由もない。

 

 そんな一番星を彼は見ていた。

 笑って、その輝きを目に焼き付けていた。

 

 彼女達のドーム公演は大歓声と拍手の中、大成功という形で幕を閉じた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………っあ」

 

 

 目を覚ますと知らない天井だった。

 ピッ、ピッ、という機械音と消毒液の匂いが現状を教えてくれた。刺された後に吾郎に応急処置され、その後病院で手術したのだ。

 

 横を向くと、驚いて近寄ってくるミヤコの姿があった。

 

 

「……!気がついたのね!」

「ミヤコ……ドーム公演は?」

「自分の事を先ずは心配しなさい!よかった……!」

 

 

 ナースコールを押す。

 看護師達が来る前にミヤコも伝えられる事を伝えた。

 

 

「公演は成功よ。先生が一肌脱いでくれたおかげで」

「そうか……良かった」

「それと、コレ」

「ん?」

 

 

 手に持っているスマホの画面を向けられた。

 

 

『斉藤社長!今日のライブありがとう!!』

 

 

 そこには泣きながらも笑ってピースサインを出す四人の写真が『B小町』のツイッターに載っていた。そして、斉藤社長が無事と分かって号泣するアイの写真まであった。

 

 このツイートはトレンドとなり、事件も徐々に明るみになった今、それでも成功させたアイに称賛の声が広がりイメージダウンは起きなかった。そしてこのメッセージは何より、自分がやってきた事が報われたような気がした。

 

 

「先生が貴方に向けて用意してくれたの」

「っっ……」

「貴方も、お疲れ様」

 

 

 壱護もまた泣いた。

 夢が叶って、育てた娘達から感謝の言葉をもらって、その嬉しさに壱護も涙を溢していた。夢を叶えた彼をミヤコはそっと優しく抱きしめた。

 

 今日が終わる。

 病室の窓から照らす月灯りが彼らを祝福しているように見えた。

 

 





 感想でアイのifを見たいっていう声が多かったからこれでルートが二つ書けるぜ。やったね☆

 ……なお書くのは私なのですが(白目)
 流石に8000字は堪えるぜ。がんばったので寝ます。

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