※一度、途中段階で投稿してしまったので削除してから再投稿しました。本当にすみません。
ドーム公演から一日が経った。
事件に関わった俺は事情聴取を受けていた。宮崎の病院の方に連絡すると、そう言う事はもっと早く連絡しろと怒られたが、お咎め無しになり、特例として二日ほど猶予を貰えたのだが……
「えっ、今なんて言った……?」
「ですから、犯人である星野千佳さんは自宅で死亡していたのが発見されました。薬物の大量摂取による中毒自殺だというのが鑑識課の見解です」
「……んな馬鹿な」
アイの母親の殺人未遂事件から薬物中毒による死亡事故。事件は相当大きくなっていた。
「自殺なのか?他殺の線は」
「あり得ますが、歴とした証拠がないですね」
幾らなんでも困惑するしかなかった。
母親の自殺と聞いてアイの心中はどうなのか、外で多分あれこれ考えているのが目に見えた話だ。それに事件も色々とおかしい所だらけだ。誤って中毒死したなんてあり得ない話ではないが、引っかかる所が多過ぎた。
「その薬物は処方されたものなのか?どこで手に入れてた?」
「病院はまだ割れてませんが、精神安定剤というのは確かです」
「ということは、母親はやはり」
「鬱病、精神的な病気を抱えていた可能性が高いと思われますね」
確かに見た時は錯乱していたようにも思える。
だが、少し引っ掛かる。捨てた人間がわざわざ元の形に戻ろうとしているのは自分勝手とも思えるが、幾らなんでも包丁を持っていたのは流石に度が過ぎている。
幸せだから許せないからと殺意は芽吹く事は確かにあるが、だからって
「母親に接触してきた人物とかは居ないのか?」
「と、言うと?」
「先ず、あの子が引っ越したのは確か一週間前。知ってんのは偶然知った俺と、社長の斉藤夫妻、そしてアイ自身が告げた人間になる。あの子が母親には連絡してないって事は、流した人間は俺かその人間になるわけだ」
俺は例外として、消去法でやはりアイの連絡した男。あの双子の父親という事になる筈だ。つまり、アイの母親とその男は接触していたという事になる。もしそうなら母親の通話履歴や、接触した痕跡が残っているかもしれない。
「俺は明確なアリバイがあるわけじゃねえけど、宮崎からシンポジウムの出張で二人にばったり出会った程度だ。母親については俺も分からんし、容疑が晴れるならスマホを調べてくれても構わない」
「ああいえ、『センセは絶っっ対あり得ない』と星野さんから聞かされてますから」
ああうん、ありがたいけどアイツもうちょっと警戒しとけや。
「アイが言っていたその人物って誰なんだ?」
「お答えできかねます」
いやそれはまあ、本人に聞けばいいけど。
犯人が双子の父親、そしてその男がアイの母親を仕向けたと考えるのが妥当か。他殺ならまだしも、証拠が見つかっていない以上は精々情報を流しただけで大した罪にもなりはしない。精々プライバシーの侵害程度だろう。
「……面倒な事になったな」
この事件、思った以上に闇が深い。
アイがアイドルである以上、これから気を抜けないのかもしれない。犯人の目的は分からないが、警戒し続けなきゃいけない。
……いやそれは今も変わらないか。秘密を隠すので警戒はしてるし。
★★★★★
事情聴取が終わると自販機付近のベンチにアイは座っていた。外にはマスコミもいる為、ミヤコが迎えに来るらしく、それを待っているのだ。吾郎はアイが出た数分後に警察署を出るつもりだ。
「事情聴取、終わったんだね」
「待ったか」
「待った気がしないって不思議だね」
時間の感覚もない。
考え事をしていると時間の流れを感じない時は確かにある。アイの瞳は何処か暗くて、それでいて笑っている。感情をコントロール出来ていなさそうで、それを横目に吾郎は自販機からコーヒーを購入した。
「お母さんが死んだけど、良かったって思えるの」
漆黒の星が吾郎に向けられた。
その一言に、買った缶コーヒーのプルタブを開ける手を止めた。
「斉藤さんを傷付けたの、絶対に許したくないから」
それは本心ではあった。
けど、
「こんな時にまで嘘つくな」
「えっ?」
「どんな形でも唯一の肉親だ。お前は優しいから悟らせないように嘘ついてるけど、俺にまで隠すなよ。どうせ無駄だしな」
死んでよかったなんて、そんな事思っていない。傷付けた事は許せなくても、死んだ事を喜ぶような思いはない。仮にも肉親、愛がなくても血の繋がりは特別なものだ。愛がなくてもそばに居たから、それでもこの日までアイが生きられたのは母親が居たから。
「辛いって思う所はあるんだろ」
「……っっ!」
「その思いは異常なんかじゃねえよ。普通の感情だ」
その繋がりが断たれた苦しさは愛がなくても間違いなんかじゃない。顔が歪んで、涙が無意識のうちに頬を伝っていた。
「見てないでやるから抑えてるもん出しちまえ」
アイの顔が吾郎の胸に寄りかかるように置かれた。
徐々に身体が震えては、声にならない悲しさが涙となって溢れ返った。気持ちを溜め込み、嘘で塗り固めるやり方が慣れているからこそ弱音を吐き出さないアイに軽くため息をついて頭を撫でた。
「……っ…ぅぅ……ぁ………!」
辛いなら言えばいいのに、それが言えない不器用な生き方をしてきたアイは吾郎にだけは隠せそうにない。
肝心な時に素直になれない面倒な嘘吐きは、嘘に隠した弱さを分かってしまう吾郎に通じず、隠した思いを全て吐き出した。
「(本当、面倒な生き方してんな……この子は)」
辛さも弱さも全部吐き出して泣き続けた。
頼りにしてしまうこの弱さを嫌がる事なく吾郎は受け止めた。
★★★★★
事情聴取から一日が経った。
羽田空港前、見送りとしてアイと壱護を除いた双子とミヤコの姿があった。アイに関してはあんな大事件が起きた以上、迂闊に外を出歩くのも危険である上、男である吾郎の見送りなんて下手すればスキャンダルになるので留守番だ。
壱護に関しては当然入院中なので来れないのが当たり前だった。因みに引っ越しの手続きをしているらしく、それまで星野家は斉藤夫妻の家に転がり込んでいるらしい。
そしてアイは二ヶ月の活動休止を発表した。気持ちの整理、新居の手続き、そして何より成功させたとは言え限界を超えてのパフォーマンスだ。全力疾走した後の休息は色々と必要ではあった。
閑話休題。
吾郎は宮崎に帰る。
お咎め無しとはいえ担当してる患者は多い。産科医は金は入るが忙しさが違う。そんな中で二日も貰えたのだ。これ以上休むわけにもいかない。
「せんせ、もう行っちゃうの?」
「俺も担当してる患者を待たせてるしな」
「色々話したい事、まだあるのに」
「今度は君たちが遊びに来い。その時は歓迎するよ」
ルビーに関しては涙ぐんでいる。
膝をついて両手を伸ばすと、迷わず飛び込んできた。優しくギュッと抱きしめると幸せそうな顔をしていた。可愛い反応に思わず笑っては、涙を右手で掬うとルビーは泣き止んで小指を出してきた。
「約束だからね、せんせ!」
「ああ、約束だ」
小指を絡ませて指切りをした。
本当に、この子は似ている。笑う仕草が、せんせと呼ぶ口調が、あの子にそっくりだと思いながら吾郎は少しだけ悲しく笑った。ある筈のない事を重ねて思い出に浸ってしまうから。
「先生、今回の件や壱護の事、苺プロダクションを代表してお礼を申し上げます。私達はこの御恩を忘れません」
「畏まらないでください。まあ結果的に言えば俺もライブ観に行けたので、それでも足りないと思うなら俺が困った時にいつか助けてください」
「はい、その時はきっと」
「壱護さんにもよろしく伝えといてください」
壱護だってこれから大変なのは目に見えている。
アイに色々と話は聞いている。双子の父親、カミキヒカルという存在の警戒と苺プロダクションの経営。その二つは今まで以上に激務になる。アイはドーム公演が終わり、一躍大スターの座を手に入れた。これからまた大変になってくるだろう。
「アイは駄々捏ねてた?」
「すごく。アンタを父親みたいに見てるから、仕方ないけど」
「ははっ、そうか」
容易に想像できた。
唯一見送りに来れなかったアイは絶対に駄々捏ねていると思ったが、予想通りだった。苦笑いする吾郎にスバルはため息をついた。
「あっ、そうだ。スバル、こっちゃ来い来い」
「何だよ」
吾郎は手招きすると、スバルが少し嫌そうな顔をしながら近づく。腰を下げてスバルの耳元まで近づくと呟き始めた。
「ちゃんと、幸せを護る
「えっ?」
いきなり言われた言葉に困惑した。
そして次の瞬間、スバルの息が止まった。
「あの子を頼んだぜ────宮水涼介」
身体が動かなかった。
ぞくり、と全身の血の気が引くような感覚に襲われた。動揺を隠せずにふらふらと後退するスバル。どうして分かるのか、というか分かる事自体が異常だ。恐怖と動揺と困惑に冷や汗が流れて目の前の存在が恐ろしく見えた。
「い、つから……?」
「あっ、やっぱ当たってた?」
「カマかけかよっ!?」
「いやお前、アイ至上主義は変わらないから分かりやすかったわ」
だとしても中身が誰なのか当てられるなんて思わなかった。確かに病院では四歳児らしからぬ事を言っていたが、転生なんて摩訶不思議な事象を肯定し、その上転生前の自分の名前を言い当てるなんて普通じゃない。
自分をどうするつもりなのか、そう思った時には吾郎は頭に手を置いていた。
「俺は何も言わんよ」
その言葉に目を見開いた。
恨んでいないのか、どうして何も言わないのか、自分を責めないのか、色々な疑問に吾郎は何も答えずに笑った。
自分の人生を壊すのはこの人にとって簡単な筈なのに、何も言わないって告げられてしまった。
「話したい事があったら宮崎に遊びに来い。俺も色々とお前の話を聞きたいしな」
「でも…俺……アンタとアイに……」
「俺にやった事とあん時の約束はあの子を護るのでチャラにしてやる」
殴る約束も自分がやった咎も責めなかった。
アイの側にいる事を許されていいのか、いつか離れる事を決意したというのに護るという約束というその言葉で許されるような形で押し付けられた。
卑怯だ。狡過ぎる。
自分が決意した事を容易く揺らがせた。約束なんて言い訳を作られてしまった。そうしてしまえばその言葉を言い訳に使ってしまうと知っていながら。
「お前も頑張れよ」
頭を撫でられた。
何も言わせてくれない、安心させるようなその手つきに言葉が浮かばない。撫で終わると、吾郎は向き直ってトランクケースを握り歩き始める。
「じゃあ、俺は行くわ。三人とも達者でな」
「ま、待ってくれ……!」
離れていく吾郎にせめて一つだけ聞きたかった。
自分を責めないのか、どうして転生なんてものを知っているのか、そんな事よりも聞きたかった事をスバルは少し震えた口調で叫んだ。
「……アンタは、本当に何者なんだ?」
「スバル…?」
ミヤコは話についていけずに首を傾げた。
嘘だけじゃなく、転生まで見抜いたこの先生は何者なのか。あり得ない事を肯定して、あり得ない事態に動揺もしていない。
この人が何なのか、スバルは知りたかった。吾郎が振り返るとただ一言告げられた。
「
その言葉にスバルもルビーも目を見開いた。それが何を指すのか、それは理解できたのに驚愕を隠せなかった。転生してきた人間、だとするならどうして転生したのか知っているのか色々と聞きたい事が増えたが、吾郎は笑って告げた。
「まあ、生まれた意味なんて知らんし、俺はちょっと老獪ってだけのただの医者だけどな」
転生できる法則も事象も何も知らない。
転生してきた意味なんて吾郎にさえ分からない。ただ、様々な人生を生きてきただけのただの人間だ。
唯一分かっている事があるとするなら、生まれてきた意味はきっとあれど、それは自分で探さなきゃいけないという事だけだ。
「見つかるといいな、お前らが生まれた意味」
吾郎は手を振って歩き出した。
その言葉を残して進んでいく吾郎の背中を二人は見つめ続けていた。
吾郎センセ
もはや父親枠になりつつある男。生まれた意味は知らないけど、ちゃんと報われる人生を歩くのが生まれた意味だと思っている。あの日死んだから宮水はあり得ると思っていたが、さりなに関しては似ている子と認識しているだけでまだ気付いていない。死んでから月日が経っているから。
星野アイ
もはや吾郎を家族と思い込む子。前回に引き続きまた泣かされた。溜め込んだ本音は吾郎の前で爆発する予定。恋愛感情と家族愛がごちゃごちゃになってまだ判断が遅い。ただ変に意識してしまってはいる。
星野スバル
前世の名前当てられた男。何も言ってくれない吾郎に役割を与えられたせいで離れるに離れられない。義理という名の外堀を埋められた。離れるのが得策だと思っているのに約束を裏切れない。感情は複雑。センセはやっぱり苦手。
星野ルビー
生まれてきた意味ならもう知っている。
あと一話書いたらそれぞれのルート書くつもりです。最初はルビーの予定です。良かったら感想評価お願いします。モチベが上がります。