吾郎センセーは転生者   作:アステカのキャスター

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 就活なのでとりま遅れる。


☆☆話

 

 

 ああ、これは夢だ。

 あの子が生きていた時の夢だ。あの子が死んだ事を今でも引き摺っている。楽しいと思えてしまったあの頃の光景ばかり、もう会えないと分かっているのに見てしまうこの夢はある意味悪夢だ。

 

 

「せんせ!ライブのチケット当たったんだよ!」

「おー、凄えな」

「もうちょっと驚いてよ!一生分の運使ったかもなんだよ!?」

「一生分とか言うな。チケットっつったら確かアイドルの」

「うんっ!」

 

 

 さりなちゃんがチケットを見せびらかしている。アイのライブだったか、確かチケットは応募だとかなりの倍率だが、引き当てたらしいのだ。単純に凄えとは思った。ニュースだと即完売で長蛇の列だったらしいし。

 

 

「両親はどうなんだ?都心で仕事してんだろ」

「そりゃあ頑張って行くよ。体調も完璧にして、車椅子使って新幹線で」

「待て、一人で行く気か?」

「その日、両親は仕事なんだって」

 

 

 ああ、この子の親は自分の子供の些細な願いすら叶えてあげられないのか。

 

 

「ハァ……許可出来ねえ」

「―っ!なんでっ!?」

「一人で行かせる訳に行くか」

 

 

 流石に車椅子で一人でライブまで行くのは無謀だ。場所まで流石に遠すぎるし、一人で行ける距離ではない。幾ら何でもそれは許可出来ない。場所は広島でのライブ。ここ宮崎だぞ、新幹線乗り継ぎしても五時間は必要だろ。無理あるわ。

 

 

「ううぅ、生ライブ……」

「…………はぁ」

 

 

 めっちゃくちゃに泣いている。現実的でなくてもこの子の推しを生で見れるのはきっと最初で最後のチャンスなのだろう。しかし医者として、許可は出せない。

 

 だが、こんな状態の子に両親が向き合ってくれてない事に腹が立つのも事実。だからまあ、俺はこの子の親じゃないが思い出くらいは作ってもいいだろう。

 

 

「俺が一緒に行こうか?」

「……えっ?」

「なんかあった時のために人手が必要だろう。流石に未成年で動けない君一人で行く事は許可は出来ねえから保護者の同伴は必須だ。両親が来ないなら俺が代わりに保護者として連れてってやる」

 

 

 此処からだと車じゃ七時間、まあ問題ねえだろ。あまり使わねえから金あるし、旅行と思えばそれほどの出費にもならないだろう。

 

 

「い、いいの!?仕事は!?」

「有給があるし問題ない。本当は患者に入れ込むのは駄目だが、まあ説教で済むから問題ねぇだろ。行きたいんだろ?」

「うんっ!」

「じゃあ、それまでに体調を良くしとかないとな」

「〜〜!せんせ大好き!!」

「やめなさい世間体が死ぬから」

 

 

 抱きつかれると俺の周囲の医師たちからロリコン疑惑を疑われる。俺は、断じてロリコンじゃない。多分、入れ込んでいるのは境遇が自分と重なるからだ。昔の俺は自由だったが親の愛というものを与えられることなく育った。この子も似たようなものだが、俺にはあった自由すらない。そのせいか―せめて楽しく生きててほしいって思うのは。

 

 

「代わりにちゃんと両親の許可を取る事、いい?」

「はーい!やったぁ……!!明日私死なない!?」

「縁起でもないこと言うな。生きろ」

 

 

 本当……生きててほしかったと、今でも思う。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 

「──センセ?」

「っ……なんだ君か」

「なんだとはなんだー。不敬だぞー」

 

 

 眼鏡の下で瞼を開けば星野アイが目に映る。

 帽子を被りながら白パーカーで軽く汗を流している。星野アイの担当医となって八週目、二ヶ月が経った。お腹の双子はスクスクと育っていて、少し身重に感じ始めている頃。軽い運動程度で庭園で体を動かさせている。

 

 

「……俺寝てたのか?」

「うん、ぐっすりと。木陰の下は気持ちよかった?」

「……少しな」

 

 

 軽くダンスしている間に寝ていたらしい。 

 徹夜明けで疲れているのもあったが、木陰が思いの外気持ちよくて意識が飛んだ。

 

 

「もー、センセが外で軽く運動する方がいいって言ったのに」

「悪い悪い。どのくらい寝てた?」

「三十分くらいは」

「ならそろそろ戻るか。充分だろ」

 

 

 随分と懐かしい夢を見ていた気がする。

 夢なんて偶にしか見ない吾郎だが、どうにも似てるからか重なってしまう。本質が似ているわけではないが、雰囲気や大人に向ける視線が本当にそっくりだ。

 

 

「そういえばセンセ、寝言でさりなちゃんって言ってたけど誰なの?センセの恋人?」

「違う。俺の推し、かな。君以上の」

「ええっ!?こんな美人で可愛いアイドルより上なの!?」

「自己評価高えなオイ」

 

 

 天真爛漫、才色兼備、その二つを兼ね備えたような天性の嘘吐き。自己評価が高くなければアイドルなんてなれないのだろう。もしも、さりなが生きていたら、星野アイは強敵になっていたかもしれない。

 

 ありもしないIFの話に笑いすら込み上げてくる。

 

 

「さりなちゃん…ってどのグループのアイドル?聞いた事無いんだけど」

「アイドル超えてお星さまになった子だ。だから誰も知らねえよ」

「えっ……?」

「生きていたなら君と同い年。俺がファン一号だとよ」

 

 

 アイは顔を伏せ、小さな声で謝ってくる。

 

 

「……ごめんなさい」

「別にいい。過去の話だ」

 

 

 そう、過去の話だ。

 終わってしまった事だ。

 

 アイドルが偶像なら死んだ人間は星だ。

 手が届くか届かないか、明確な違いはあるが似ている。生者は地を踏み締め、死者は天へと昇り、星になる。そしてまた巡り、星が誰かに宿る。そんなロマンスがあったらいいなと願っている。

 

 そう思っていると、踏み込むようにアイは尋ねてくる。

 

 

「センセが私に距離を取るのはその影響?」

「んなわけあるか。仕事に私情を混ぜないよ俺は」

「じゃあどうして?」

「普通に苦手なんだよ」

「私情じゃん!?」

 

 

 吾郎は少しだけアイに距離がある。

 診察の時やら仕事のときはしっかりと接するが、喋っている時やこういった会話の裏ではほんの僅かに距離があるのだ。

 

 吾郎が苦手と感じるのはアイの本質が影響している。逃すまいと目線を逸らさずに見てくるアイにため息をついて語った。

 

 

「嘘が分かりにくい奴が苦手だからな」

「……えっ?」

 

 

 一瞬、吾郎の言葉にアイの思考が止まる。

 

 

「正確には環境に合わせた最適な嘘をつく。それも無自覚にな。環境や境遇がそうしてんだろうが、本音が分かりにくくて苦手だ」

「そ、そんなわけ」

「無いって言い切れるか?」

 

 

 動揺し、アイは言葉を詰まらせた。

 そんな中で吾郎は言葉を語り続ける。

 

 

「君は相手との最適な距離感を保ってる。傷付く可能性を封殺して取り繕うのに必死だから、顔を見てからの判断しかしねえ。その場の状況を上手く流してるから、名前を覚えるのが苦手じゃないのか?」

「……っ……違う、それは」

「……別にそれが悪いと言ってねえよ。生き方が上手いとは思うし、その能力は芸能界じゃ重宝されるだろうしな」

 

 

 踏み込み過ぎたか―動揺させてしまった。

 ただ、その在り方は少し危うい。二ヶ月もいればなんとなく心情を理解出来る。星野アイは歪だ。大人の嘘で構成された子供のようで、チグハグとまで言うわけではないが少し在り方が気になった。

 

 愛を知らない。だから愛を知りたい。

 それは間違っていないが、嘘で本音まで誤魔化しているように見える。

 

 

 

「けどまあ、()()()()()使()()()()()。じゃないと子供にかける『愛してる』って言葉も嘘になるぞ」

 

 

 

 亀裂が走るように揺さぶられる心。

 その言葉がとても重くて、顔が青くなる。嘘で取り繕えない、上手く笑えない、上手く誤魔化せる嘘が言えない。

 

 初めてだった。いや正確には二度目。

 星野アイにとって嘘とはとびきりの愛であると同時に、自分を守るものだった。今までその本質を見抜いたのは生まれる双子の父親になる男だけ。

 

 

「無理して笑うな。あと見抜かれた程度で動揺するな」

「どうして……分かったの?」

 

 

 アイの嘘を見抜ける者は、芸能界でもほとんどいない。

 しかし吾郎はそれを容易く見抜いた。探偵でもないただの医者の吾郎が。

 

 

「医者はな。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 医者に対しての気を遣わせた嘘は言わせちゃいけない。

 辛い時は辛いと言わせなければ、手遅れになる事が多々ある。

 

 

「患者が俺たちに大丈夫と嘘をついたらそれ以上は何も出来ない。苦しいって言葉を、辛いって言葉を隠されないように向き合わなきゃいけない。だから嘘に敏感になるんだよ」

 

 

 そして生きてきた年齢だけで言うなら現役の医者の誰に対しても既に年が上だ。医者としてのキャリアもそうだが、見抜く力に関しては恐らく医学界でも有数だと自負している。

 

 星野アイの嘘は分かりにくい。

 無意識でも嘘を吐くせいか苦手意識を抱いているのは確かだった。本音を話さない為、距離感をどう取ればいいか戸惑う時がある。患者との距離に吾郎はいつも気を遣っている為、線引きが難しいのだ。

 

 

「だから見抜かれたからって怯えるな。別に君にどんな本音があろうと俺は気にしねえよ」

 

 

 星野アイにも自覚はあった。

 本音を隠し通す嘘の自覚はある。嘘吐きだから嘘が分かる。

 

 

「俺は君の担当医で、君の味方だ。在り方は苦手でも嫌ったりはしねえよ」

 

 

 でも、告げられたこの言葉に嘘はなかった。

 

 

「俺の言葉が嘘に聞こえるか?」

「ううん」

 

 

 真っ直ぐ、心の底から告げた言葉に嘘なんてない。本音を話せないアイにとっては眩しさすら覚える。医者としての誠実さと慧眼にアイは少し本音を呟く。

 

 

「センセって、怖いね」

「酷いの次は怖いか、そりゃ嫌な評価だな」

「あと凄い……私をちゃんと見てるんだね」

「医者だからな。その、悪かったな距離取って」

 

 

 距離感を測りきれずに苦手意識を覚えていたのを謝罪する。するとアイは膨れたお腹を撫でながら本音を話し始める。

 

 

「怖いよ……母親になる事も」

「そうだな。誰しもが通る道だ」

「子供がバレたらどうしようって」

「大変だろうな。特に君は」

「……私は本当に愛してるって、言えるかなぁ」

 

 

 それが一番怖いらしい。

 愛を知らない己がその言葉を言える日が来るのか。自信がない。人の関わりの中で、家族の在り方が歪であったアイにとってそれは難しいものだった。

 

 

「言えるさ。きっと、愛してるって言える日は必ず来る」

 

 

 吾郎は言えると断言した。

 それは時間が解決するものだ。産まれてくる子供と生きなきゃ分からないものだ。けど、それは分かるのだ。家族の愛はとても尊いもので、愛はいつか絶対に分かる。

 

 吾郎だって愛を知らない。

 けど、愛は尊いものだと信じている。だからきっと言えると断言した。

 

 

()()()()()

「ん?」

「ありがとう。私の味方でいてくれて」

 

 

 その笑顔は偽りない星野アイの笑顔だった。

 上出来、と言わんばかりに吾郎は言葉を返した。

 

 

「君は君で、ちゃんと産まれてくる子供の味方をしろよ?」

「はーい!」

 

 

 なら大丈夫な筈だ。

 愛してるってきっと言える、確信して吾郎は微笑んだ。

 

 





 雨宮吾郎
・嘘が見抜けるすーぱーどくたー。精神年齢とキャリアは伊達ではない。Fate的に言えば妖精眼Eくらいはある。星野アイの嘘は不自然と自然が混ざり過ぎて見抜き難いから少しだけ苦手な部類だった。

 
 星野アイ
・天才アイドル。嘘を見抜かれて結構動揺した。センセの評価は酷い、怖い、優しいの三つである(褒め言葉)。信頼度は佐藤並みに高い。嘘と本音を使い分けろと言うセンセの助言に本音と嘘の使い分けが可能になり、嘘の在り方を変えられるようになる。女優力が53万になる。


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