接戦だった。選ばれたのは昴でした。
芸名でアクアと使うかもしれないけど、転生リョースケ君は昴になりました。就活がヤバいのでこの話で一度区切ります。元々短編の予定なのに気がつけばめっちゃ書いてた。日刊一位や感想ありがとうございます。
『あっ?なんでビデオ回して……はっ?何?俺と星野アイの関係?』
『いや別に大したものじゃ……え?関係者席とかに偶に居るのを見る?よく見てるなアンタ』
『まあ本当に大した関係じゃない。究極的に言えば他人だし、血の繋がりがあるわけでもない』
『じゃあ何故関係者席に呼ばれるか?まあ昔色々と世話した事があるからその恩みたいなものじゃねぇか?』
『星野アイの事をどう思うか?俺がどう思ってるかって事?あー、そうだな……』
『強いて言うなら、
『大人の世界に入る為に嘘という適応方法で馴染んでいる臆病な子供だな。生きにくい生き方をする馬鹿な子だと思う』
『えっ?随分と辛辣ではないか?いいんだよそれくらいで』
『あの子は弱さを見せない、誰にだってな。強くあり続けなきゃいけないプレッシャーを感じながら生きてる』
『普通なら耐えられない。普通なら誰かを頼って弱さを見せなきゃいけない。そうじゃなきゃ
『本当は誰かがそれを分かってなきゃいけないんだ。アイドルでも、俺らと同じ人間だしな』
『だから俺は星野アイを特別に見ないよ』
『単純に同じ人として見るなら』
『あの子は手間のかかる、我儘な女の子だよ』
★★★★★
宮水涼介の件については端的に言えば結果は事故死と判断された。
崖下には宮水涼介の物と思われるスマホが見つかり、頭から落ちた血痕や俺が破り包帯として扱っていた白衣の一部があり、警察に事情聴取はされたものの、親達が宮水涼介の異常性を警察側に報告。そういう事をしてもおかしくないという証言と、現場を見ての判断、そして俺が落ちた宮水涼介を背負って病院まで運んだ以上、俺が殺人を犯していないと判断され結果は無罪。親族からは謝罪された。
俺は葬儀場に来ていた、
と、いうのも親族の要望で宮水涼介は直葬される事になった。事件が経って随分と早い話だが、遺体保管、葬儀、お通夜などは費用がかかる上、宮水涼介はアイに対する狂気から家族に当たり散らす事もあり、最早家族として見れるほどの愛はなかったらしい。
費用が大きくなる前にせめて直葬するという話になったらしい。遺体の送迎も費用がかかるため
「(結局、報われない奴だったな……)」
怒りもなければ悲しみもない。
愛に苦しめられて、愛を大切にしなかった男の末路は本当に報われないものだった。家族の愛すら手放してしまったのだから。
「せめて、生まれ変わったらまともな人間になれよ」
ただ手を合わせてそう呟いた。
直葬を見送り、病院へと戻り始めた。
「………ん?」
松葉杖を突きながら歩いていると、フードを被った男が隣を通り過ぎた。
そして足が止まった。
感じた違和感に僅かに目を見開いた。
「(金髪の子供……?)」
ただ足が止まったのは妙な既視感を感じたからだ。フードから見えたその瞳は蒼く、黒星のような感覚的にしか分からない禍々しさを感じた。会ったことなんてないはず、俺は出会った人間の顔は全部覚えているから会っていない事は確かだ。
だが……
「(誰かに、似てるような……)」
僅かに首を傾げて振り返る。
振り返った時には煙に巻かれたかのように、その姿は見当たらなかった。それが誰に似ていたのか、俺は分からなかった。
★★★★★
星野アイが都心へと戻る。
容体も安定しているし、双子についても問題ないし、彼女はアイドル。復帰ライブも兼ねて早めに体力を戻さなければならない。双子も軽く検査したが普通に元気な赤ん坊だった。16歳から産まれた以上、不安があったが問題はなかった。
詰まる所、お別れだ。
此処は宮崎県だし、都心に住む彼女や斉藤さん達とまた会う事も早々ないだろう。荷物を乗せ、都心に帰る準備をしている斉藤夫妻と星野家族を見送るのだが。
「ふえええええぇぇ、せんせ、せんせぇ……!!」
「この子本当に0歳か?めっちゃ離してくれないんだけど」
「愛されてるねセンセ」
ルビーちゃんにしがみつかれている。
最後に一度だけ抱き抱えてあげたら今度は短い手で首に手を回して泣き続けていた。別れるのが寂しそうと感じるほどの感情を持ってるのはちょっと異常ではあったが、それはそうと離してくれない。
「ルビーは本当にセンセが好きだねー」
「医者冥利に尽きる話だが、そろそろ車乗ろうな」
「ふえええええぇぇ!!」
「ちょっと絵面がヤバい」
「文句あるか」
拉致誘拐で子供を車に押し込むような絵面にケラケラと笑う彼女に青筋が浮かぶ。この野郎、こうしなきゃ帰れないの分かってるくせに笑ってやがる。
「大きくなったらまた会えるから泣くな、な?」
「うぅぅぅぅ!」
「スバルくんとお母さんと一緒に元気に育ってくれ」
元気でな、と呟いて俺は車のドアを閉めた。
チャイルドシートで泣き続けるルビーちゃんと、泣かずにこちらを見て手だけ振っているスバルくん。もう驚かねえぞ。普通生後数ヶ月の赤ん坊は手なんて振らねえんだよ。
「お二方、これ渡しときます」
「…?これは」
「俺の電話番号です。もしも育児で分からないことがあったら連絡してください。何時でもとはいきませんが、可能な限りは答えますので」
「ありがとうございます、何から何まで本当に」
誰もが育児の素人である以上、暫くは知っている人間が必要である。ベビーシッターを雇うにしても信頼が出来ない人間をホイホイと招く事は出来ない。俺もいつでも駆けつけられるような距離ではないし、精々電話でどうすればいいかを答えられる程度だけど。
「それと壱護さん。俺の言った事は」
「分かってます。俺が絶対そんな事させませんので」
「なら安心です」
宮水涼介の事件は既に報告はしているが、この子には伝えていない。まだ16歳、メンタルや責任感で揺らぐ部分はある。自分のせいでこうなったと思い込む事は出来るだけ避けるようにした。怪我は俺が山で転んだと誤魔化したが、本当はストーカーの凶行だしな。
星野アイを狙う奴がいる。
それも悪質で狡猾、電話で宮水涼介を刺激して操った以上は警戒を今以上にする必要があるだろう。
まあなんにせよ、この子が色々と気をつけなければいけないのだが、命を狙われる危機感を持つのは今じゃなくていい。少しずつ軌道に乗ってから話せばいいと思うし、アイドル復帰のスタートダッシュを切る為の足を引っ張るのは御免だ。
「佐藤さん、五分だけ時間を貰えない?」
「俺の名前は斉藤だクソアイドル」
「いい加減覚えてやれよ…社長だぞこの人」
「お願い、最後にセンセと話したい」
取り繕わない真剣な瞳で斉藤さんに視線を向けている。いつもなら可愛げがあるようなお願いで頼むのに、珍しく真面目だった。
「……分かった。先に車乗ってるぞ」
「今までありがとうございました先生」
「本当、お世話になりました」
「お二人こそ、身体には気をつけて」
俺に頭を下げて、斉藤夫妻は先に車へと向かっていく。取り残された俺と彼女はとりあえず駐車場から少しだけ歩いた。
「で、何だ?」
「いやぁ、まあ、色々とあったから……最後に話したくて」
誰にも見られる事のない木陰の場所。
彼女は笑っているが、不器用ながら嘘を取り外そうとしているように見えた。意外と嘘で偽っていた分、本音を話そうとするのは恥ずかしそうに見える。
「先ず、ありがとう。センセのおかげで私はママになれた」
「大袈裟。君の頑張りだろ。大変なのはこれからだぞ?」
「うん。分かってる」
そう、大変なのはこれから。
母親とアイドル、これから苦難の道だろう。まあこの子は天才だし、なんやかんやで売れる人間にはなると思うが、それでも大変なのに変わりはないだろう。
「ねぇ、センセ」
彼女はポツリと呟いた。
「私ね、家族が欲しかったのって愛を知らないからって言ったよね」
「ああ」
「此処に入院して、支えられて、嘘を見抜かれて、叱ってくれて、それから……私をちゃんと見てくれて、嬉しかった」
まあ医者だから、と言う無粋な事は言えなかった。いつも嘘で自分を守っていた彼女は
「私の家族はバラバラで、ずっと家族の愛とか分からなかった。でも、此処にいて少しだけそれが分かった気がするの」
21週、それが彼女と俺の時間だ。
まあ色々と大変な事は多かったし、叱る事もあれば動揺させる事もあった。彼女との距離感がどうあるべきか、その距離感が家族っぽかったのかもしれない。
家族から愛を与えられなかった彼女にとって、この距離感はきっと彼女が知りたかった愛の一欠片なのだろう。
「センセみたいな人が、私のお父さんだったらなぁ……って、時々夢でそう思うの」
それを聞いて少しだけ驚いた。
スカートを右手で掴み、涙を溢しながら彼女は左手で俺の裾を掴んだ。
「ねぇセンセ、また会いに来てもいいかなっ……いつか子供達を連れて」
それは本心からのお願いだった。
嘘なんかで取り繕わない星野アイの本音だった。手が震えて、涙が流れて、嘘で出来た偶像ではなく、とても人間らしい想いを告げられた。
成長したと思う。愛を知らないから愛を知りたいと言っていた嘘吐き少女がとても変わったと思う。俺はため息をついた。
「……俺はこんなデカい子を産んだ覚えはないよ。俺に父の役割なんて出来ねえし、もう患者と担当医の関係ではないさ」
「っ……」
顔が歪んだ。涙が溢れそうになっていた。
そうやって依存されても困る。俺は親にはなれないし、星野アイの近くに居れる訳ではない。患者と担当医の関係はもう終わった。これから会う事だってきっと無くなる。
けど……
「でもな、俺は味方である事は変わらねえよ、辛くなったらいつでも言え。会いに来たなら茶ぐらいは出してやる」
頭に手を乗せて、ポンポンと撫でる。
俺も家族の在り方を正しく知っている訳じゃないし、この子の父親にはなれない。けど味方である事は患者じゃなくても変わらない。
不器用だと俺でも思う。
素直にいいよなんて言えない自分が不器用だと言う自覚はある。
別れの言葉なんてお礼を言われて見送る事しかしてこなかったからいい言葉なんて出ない。気の利いた言葉は思いつかないけど、俺が言える精一杯のエールを口にした。
「頑張れよ
その言葉にアイは顔を俺の胸に押し付けた。
背中に手を回し、力一杯抱き締めては、笑った。
その笑顔は嘘なんかない──彼女の心からのとびきりの
「ちょっ、おい!?」
動揺して動けない。
赤ん坊ならまだしも、女の子に抱き締められるなんて今までなかったからどうすればいいか分からない。色々と混乱している中で、考える暇も与えずに彼女は笑って告げた。
「ありがとう吾郎センセ──大好き!」
彼女は手を振って車へと向かっていく。
ポカン、とただ呆然と立ち尽くす事しか出来ない俺に手を振り続けては車に乗った。双子を連れた車が発車すると、俺は気が抜けたまま手を振った。
やがて、遠くなって見えなくなっていく車。完全に見えなくなると俺は顔に手を当てて俯いた。
「全く……君といい、さりなちゃんといい……」
ため息ついては呆れた声で笑った。
「大好きって言葉は大切にしとけよ」
多分今の俺、顔真っ赤だぞ。
流石は天才的なアイドル様、アラサーの俺でも今のはドキッとしたわ。
今後人気になるアイドルと医者。
言っちゃ悪いが距離もあり、忙しさもあり、星野家と俺の関係は薄れていき殆ど無くなると。
この時までは、そう思っていた。
第一章 〜完〜
吾郎センセ
最後の最後に不正脈になりかけた男。不覚すぎた。
星野アイ
41週の時間で吾郎を父親のように思ったアイドル。思っている感情は恋愛感情ではなく、家族愛のようなもの。ちゃんと叱り、支え、嘘は通じずにしっかりと向き合ってくれる事に父親だったらという感情が芽生えた。教えてくれた感情で、自分の本音を原作より早く自覚する事が出来た以上、彼女は無敵である。
星野
せんせと別れるのが嫌だった。アイの子供になった事は嬉しいが、残念ながら彼女に残るという選択肢などない。最後まで駄々捏ねたが、仕方なかった。その後アイとの交流もある為、また会えたら今度は自分のことを告げたいと思っている。
星野
罪悪感こそあれど、産まれた意味を探す為に赤ん坊であることを受け入れた。原作のアクアのようにはなれないけど、アイを護る為に色々と手を回すようになる予定。先生には感謝もあるし、転生した原因という意味では僅かに憎悪もあるが、それでもいい先生とは認めている。
★★★★★
いつも読んでいただきありがとうございます。
このお話は一度区切らせて頂きます。まあもうちょっと書きたいと思っていたのですが、就活という怪物に襲われている為、暫く離れる事になります。元々短編だというのに感想とかアイデアのインスピレーションが止まらなくて書いていましたが、将来のこともある為ご容赦頂きたいと思います。
日刊一位になったのもみなさまのお陰です。本当にありがとうございます。就活が終わり内定を獲得次第、私もこの話や他の小説と一緒に投稿していきたいと思います。まあ恐らく多くても十話くらいかなぁ。
早く戻れるように私も頑張りたいと思いますので皆様、応援をよろしくお願い致します。
それと良かったら感想、高評価お願いします。とても励みになります。