吾郎センセーは転生者   作:アステカのキャスター

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 エントリーシート出した後の暫くの時間って暇に感じるよね。そんなわけ無いのに。現実逃避してたら書いてた。まだ忙しいので頻繁には無理だが、熱があるうちに少しずつ暇があれば書いていくぜ。


☆☆☆☆☆☆話

 

 

 休憩中に行くお気に入りの蕎麦屋。

 ここの海老天蕎麦が美味い。六百円とは思えないその出汁の美味さにいつもお世話になっている。出てきた海老天蕎麦に手を合わせて割り箸を割ると、白衣が僅かに震えた。スマホを取り出し、急患かと警戒したが、知らない番号からの連絡だった。

 

 

「もしもし」

『突然の連絡すみません。斉藤壱護です』

「ああお久しぶりです……って言っても三週間ぶりですね」

 

 

 出てきたのは壱護さん。

 そういや電話番号渡してた。休憩中だしまあタイミングはいいのだが、聞かれたのは育児についてではなかった。

 

 

「あっ?あの子に何かしたか?」

『ああ、少し気になって。すみません唐突に』

 

 

 なんとまあ、初めてかけられた電話は育児の質問ではなく、壱護さんから星野アイに何かしたか疑惑の質問だった。何かしたか?思い返せば抱きしめられて大好きって言われ……これ他人から見たらパパ活的な!?でも俺から手を出した訳じゃないけど!?

 

 

「冤罪だ。俺は悪くない」

『何言ってんすか?』

 

 

 違った。

 週刊誌とかスキャンダルとかそんなんじゃないのかい。焦ったぜ。

 

 

『いや、最近アイの表現がベタ褒めされる事が多くてどうしたらそうなったのか色々聞かれるんすよ』

「ああ、なるほど……まー大した事はしてないですよ?」

『何か心当たりはあるんですか?変わったきっかけ』

 

 

 あると言えばあるんだけど、説明が難しいんだよなぁ。特にあの子はあまり見ないタイプの性格と在り方ではあった訳だし。基本的には嘘で偽れるから本音が分かりにくくて苦労した。

 

 

「あの子、()()()()()()()()()()()()

『はっ?』

 

 

 その言葉には心当たりはなかったようだ。アイドルであるから感情表現が得意と錯覚していたが、やはり星野アイは天才だ。嘘をつく才能だけなら他人と一線を画すと言ってもいい。まあ、()()()()()気付かなかったというのもあるのだが。

 

 

「なんつーかな、他人がそうであるからその感情が正しい、だから可愛いに対してこんな顔をしたらいい、他人の在り方を自分にトレースしてコピペを繰り返してるって感じなんですよ」

『嘘だろ?えっ、いやでも』

「まあ流石にそこまで機械的じゃないですけどね。可愛いものには可愛いって言える感性はちゃんとあるし」

 

 

 星野アイはそこまで機械的ではない。

 あの子はちゃんと女の子としての感性は持っているし、欲もあれば感情が欠けているという訳ではない。

 

 

「重要なのは()()()()()。それが欠けてるんですよあの子は」

『っ──!?』

 

 

 ただ、境遇のせいか自分が傷付かないようにやり過ごす在り方から、その感情の理解を諦めてしまっている。こんな顔になれば傷付かない、こんな嘘をつけば大丈夫。テストの時に意味は分からないけど丸暗記した答えだけを書いてるのと同じ。仮に高得点を取れても意味は理解していなければその場限りの付け焼き刃でしかない。

 

 感情の本質を理解出来なければ、星野アイは心の底から思えた感情を表現出来ない。嘘と本音を使い分けるとは、その自覚が無ければ話にならないのだ。

 

 

「愛がわからないから好きと言い切れない。他人が見て泣けると思う話を聞いてどうして泣けるのか理解できない。どうしてこんな感情になるのか、その理解度が致命的に足りてなかったんですよ」

『……そういう事ですか』

 

 

 アイドルとしては致命的だろう。

 何せ、アイドルは()()()()()()。笑顔一つでアイドルの在り方が劇的に変わる中で、本当の笑顔を見せられないアイドルは埋もれてしまう。何故なら嘘は嘘でしかない。今までその再現度が高すぎて騙されてたが、作り物の笑顔で騙せるのは限度がある。

 

 

「感情の在り方が嘘でしか表現出来なかった。何せわからないから、求められている答えを嘘でカバーしてたってだけ。騙せる奴は騙せても、限界が来る。だからそこに関しては確かに手を回しましたけど」

『何したんすか?』

「ニセ○イ全巻読ませた」

 

 

 吹き出した音が電話越しに聞こえた。

 ぶっちゃけ感情の理解度とは感性の問題だ。主人公ならどう思っているのか、ヒロインならどうして主人公に恋するのか、手頃な恋愛や青春をテーマにした漫画を読ませて感想を交流する事くらいはした。あの子は検査や運動以外は暇だったし、退屈を持て余してたので丁度良かった。

 

 こういう考え方で見れば面白いという感性の相互理解、普通じゃなかった以上、普通の関わりから学べる事は多くあった。感情の自覚さえ出来てさえいれば、星野アイの嘘は()()()()()()()()()()()()()()

 

 嘘である事には変わりないが、嘘と本音の自覚が出来た以上は本音さえも利用して自分の魅力を惹き付ける。

 

 ホント、直で見たら天才だったよあの子。

 

 

「あの子がいい表現が出来るようになったのは双子の影響と、それを改めて自覚したからでしょう。あの子は天才ですし、求められるものが分かればすぐ身に付けられる」

『………』

「あとはまあ、あの子の努力でしょ」

 

 

 蕎麦を啜る。

 あの子の異才さは近くにいた俺だから分かっていたが、自覚が芽生えれば使い方を知れる天才だ。自覚させたのは俺でも、その才能を開花させたのはあくまであの子自身だ。

 

 稀にいる天才というならあの子の事を指しても過言ではないと俺は思っている。電話越しで黙っていた壱護さんが何が考えてるようだった。

 

 

『先生、医者辞めて俺達と働きませんか?』

「断る」

 

 

 電話を切った。

 俺は生涯現役、死ぬまで医者と決めてるしな。

 

 

 ★★★★★

 

 

 深夜の事だった。

 テレビのリモコンを何回も押し、巻き戻しからの再生を繰り返す赤ん坊がそこにいた。有名なドラマのシーンの一部分だけを繰り返しては見続ける。

 

 

「(……カメラの意識もそうだけど感情表現が作品に合ってる)」

 

 

 何回も何回も繰り返した。

 何度も表現の仕方を観察しては自分に取り込んでいく。もっと深く読み込める。アイに向けていた感情の狂気を利用するように、自分がこの人ならばと粘着質とも言えるほどに理解を深めていく。

 

 

「(アイを狙う人間は先ず、芸能界に居る)」

 

 

 アイと距離が近く、妊娠していた事を知っていた人物は間違いなく芸能界に所属している。そして妊娠まで知っているならB小町のメンバーだと思っていたがそれは可能性が低かった。

 

 今のメンバーは四人、そうなった理由はアイを密かに虐めていたらしく、斉藤社長がクビにした。メンバー中の不仲はネット社会の一部では実際噂はされていたし、何より辞めた後にアイの妊娠騒ぎが起きた事。多分知るのは無理だし、何より声色は男であったから除外して構わないだろう。

 

 斉藤社長はない。アイの妊娠でも全面的なバックアップをしていた以上はあり得ない。一般人はもっとあり得ない。先ずそんな機会は少ないと思うし、アイドルである以上はデビューする為の忙しさがある。そうそうある話じゃない。

 

 結論を言えば、芸能界の人間の可能性が高い。

 そう確信した星野昴は芸能界を探る事を決意した。とはいえ赤ん坊、限界がある。少なからず芸能界を知るならそれなりの地位が無ければ無理だ。

 

 一番早く関われるとするなら子役になる事。

 アイがいる以上、芸能界に関われるキッカケは色々とある。運が良ければ早く探れる。

 

 だが、昴には演技の経験などない。

 お遊戯会の演技では話にすらならないのが子役の世界だ。

 

 だが、前世の記憶があるアドバンテージは最大限に利用出来るはず。ならそれを如何に使い熟せるか、それが鍵となってくる。

 

 

「(固くない笑顔、もっとフランクな表現……)」

 

 

 だからこうして学んでいる。

 追いかける事なんて前世でずっとしてきた事だ。陰湿に貪欲に知りたいと思う事を知るのは狂気だと今の自分は思っている。

 

 それで護れるのならそれでいい。

 罪悪感も前世の自分の在り方も全て使って犯人から護る。その為に自分がアイの前から消えても構わない。

 

 それがきっと贖罪になる筈だと、信じては疑わなかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 星野ルビーは暇であった。

 アイがいない以上は暇なのは仕方ない。疲れて愛でたら風呂に入って眠ってしまう。演技も表現も出来る事が増えた事で忙しさは増え、疲労も大きくなっている。赤ん坊である以上、出来る事なんてなく、夜中にスマホを使ってアンチスレに対してのレスバはしているけどぶっちゃけやる事はない。

 

 そんな中でそれを見る人影が一つ。

 

 

「……お前も同じかよ」

「っ!?赤ん坊が喋ってるー!キモー!?」

「お前それブーメランだからな?ぶっ飛ばすぞ」

 

 

 ため息を吐き、スバルは器用にベビーベッドから降りてソファーに座って映画を観る。まだ満足に動けない上に赤ん坊の身体ではソファーに上がるのも一苦労だ。リモコンを手に取り、音を小さめに再生する。

 

 

「あれ、スバル何してんの?」

「勉強」

「何の?」

「役者についての」

 

 

 ルビーが興味を持ったのかスバルの隣に座った。

 

 

「役者になりたいの?」

「なるのが手っ取り早く芸能界に関われるしな」

「……?やりたい訳じゃないの?」

 

 

 スバルは再生しながら隣にいるルビーに話し始めた。どうせ居なくなるなら嫌われていた方がいい。その方がきっとルビーにとって良いはずだ。情が深ければ深くなるほど、気持ちも揺らいでしまうかもしれないからと、前世について話し始めた。

 

 

「俺の前世、アイのファンだった。それはまあ崇拝してたけど、アイが妊娠してるって電話が来て俺は凶行に走りかけた」

「で、電話?誰から…!?」

「声は多分中学生くらい。それ以上は知らねえけど、俺は下手したらアイを殺してた」

 

 

 目を見開いては睨むルビーに我関せずと映画を見続けるスバル。許せないと思う中で、スバルは見向きもせずにため息をついた。ルビーが振りかぶった手で殴ろうとしたその時だった。

 

 

「それを止めたのがあの先生だけどな。あの人のおかげで俺はアイを殺さずに死ねた」

 

 

 その言葉に手が止まった。

 あの先生、雨宮吾郎は殺そうとした前世の自分であった宮水涼介を救おうとした。殴られる為に生きろと、最後まで諦めずに。

 

 今思えば、あの時が無ければ踏み止まれなかった。感情がぐちゃぐちゃになって、自暴自棄になって道連れにしようとして、それでも吾郎はアイを愛してるという気持ちを否定してくれなかった。

 

 間違った感情だったって、今ならそう思える。

 死にたいって思う事だってある。だって、こんなにアイは幸せそうだから、それを奪おうとした自分が許せなくて死にたくて、アイを見ていられなかった。

 

 それでも、生きなきゃいけない。

 死んで楽になれるなんて、それこそ間違ってるとあの先生はきっと言う。それだけは分かっている。

 

 

「多分犯人はまだアイを狙う可能性が高い。過激なファンを使って凶行に走らせる可能性だってゼロじゃねえだろ。しかも芸能界に所属してる可能性だって高い。声色から年齢を考えたら、下手したら俺達の父親って可能性もある」

「っっ」

「だから役者になって芸能界を探る。ソイツを捕まえる為に俺は勉強してんの。邪魔すんなよ」

 

 

 冷たい声で引き離すように告げた。

 いずれ離れるなら嫌われていた方が後腐れなく済むだろう。リモコンで逆再生をしては繰り返して演技を見るスバルの手をルビーは掴んだ。

 

 

「ダメだよ……」

「はっ?」

「それは、ダメ」

 

 

 再生を止められて、顔を強引に引き寄せられた。

 片目が漆黒の星のスバルに対して、片目が白星の瞳が訴えるように怒りを醸し出していた。

 

 

「役者になる事は反対ってか?」

「そうじゃない」

 

 

 冷や汗が流れた。

 嫌な緊張感にスバルは若干後ろに下がったが、ルビーはそれを逃さなかった。

 

 

「もしも全部終わったら、スバル消える気でしょ」

「!」

 

 

 僅かに動揺を隠せなかった。

 見透かされている。あの時の眼とそっくりだった。あの日、自分の感情を見透かし、見抜いていたあの先生と同じだった。

 

 

「スバルが消えたらママは幸せになれると思ってんの?」

「逆に聞くがアイを殺そうとした俺が居ていいと思ってんのか?」

 

 

 殺人未遂犯と推し。

 その関係はとても歪で、過去の記憶は罪と言わんばかりの呪いだった。いつか幸せを壊してしまう。恋焦がれてしまったから過ちを犯しかけた自分が何よりも嫌いだった。

 

 

「正直な話、俺はアイが完璧だと思ってた。だから不完全になる要素を殺したかった」

 

 

 それはスバル自身。

 アイドルだからこそ子供なんて作ってほしくないとは思っていた。自分が許せない。でも、アイの幸せを考えるなら本来産まれるはずだったスバルの人生を奪った自分がとても許せなかった。

 

 贖罪なんて出来ない。自己満足にしかならない。

 狂気を孕んだ黒星が、そしてルビーに向けられた。許せないのは自分だけじゃない。子供であるルビーも許せない。殺したいくらいには憎めてしまう。

 

 

「今でもそれは例外じゃねえぞ」

「嘘だね。それはない」

「何を根拠に」

「ならどうして私は()()()()()()()()()?」

 

 

 その眼を見る事が出来ずに逸らした。

 

 結局、自分はまだ完璧なアイを求めていた。

 でも……それはもう二度と訪れない。アイのあの笑顔を見てしまったらそれは無理だって分かっていたから。

 

 自分が苦しくても、アイは幸せだから。

 幸せの唯一無二の存在になってしまったから、死ぬことも殺すことも出来るはずがなかった。アイの幸せを護ることと自分の願いなんて、比べるものでもないくらい幸せな方が重いから。

 

 

「赤ん坊でも、私くらい簡単に殺せたくせに」

「………」

「ママが幸せになれないからって、理解してるからでしょ?だから犯人を殺すとは言わなかったし。それに」

 

 

 ルビーは軽く笑った。

 

 

「『命投げ出して得られる人生なんてくだらねぇからやめとけ』って、せんせなら絶対言うよ」

「……言いそうだなあの先生」

 

 

 本当に似ているとスバルは思った。

 優しさというより、寄り添おうとするその在り方があの先生にとても似ていた。もしかしたら、前世はあの先生の血縁なのではと思うくらいに。

 

 

「私も犯人の捜索には協力する。けど、目の前から居なくなるなんて絶対にさせない」

「ふざけんな。何を勝手に」

「だって、私は妹だもん」

 

 

 地獄に落ちるなら一人の方がいい。

 幸せが欠けたとしても、もう一つの幸せがあればまだ傷は浅くなれる。これは勝手な自分の自己満足に過ぎないし、危険な場所に踏み込ませたら帰って来れなくなるような気がして嫌だった。

 

 

「やろうとした事は許せないよ。でも嫌われようとしないでよ。私達は兄妹で、ママが産んだ二つの幸せなんだよ?」

 

 

 そんな心をお構いなしに踏み荒らしてはルビーは白星の瞳で見つめて、スバルに告げた。

 

 

「幸せになれないなんて、自分で決めつけないでよ」

 

 

 どれだけ拒絶しようとしても離れてくれない。

 本当に似ていて、拒絶する気すら失せてしまうほどに言葉には重みがあった。

 

 

「……それも、あの先生なら言いそうな言葉だな」

「言うよ、せんせだもん」

「つか、お前あの先生の親戚か?あの時オギャってたし、妹とか?」

「違うよ。せんせは私の初恋の人」

「へぇー、そうな………はっ?」

 

 

 思考が止まった。

 初恋、人に初めて恋をすること。もしかしてあの先生の妻とか恋人とか頭の中でグルグルと思考が回る。

 

 

「えっ、何?お前、あの先生の彼女?」

「ううん、せんせの患者で12歳で死んじゃった。だから今世で私16歳になったらせんせと結婚するの」

「頭大丈夫かお前」

 

 

 めっちゃ噛まれた。

 30歳差ってヤバいだろと心の中で思っては、スバルは今から十六年後の先生のご冥福を細やかに祈った。アイに対してもそうだがこの妹相当の過激派なので止められる気がしなかった。

 

 スバルとルビーの仲は、結局マイナスからの始まりとなった。

 

 




 星野スバル
 アイが完璧である事を望むが、アイの幸せを奪いたくない矛盾と、前世の記憶に苦しめられている。手っ取り早く子役になって芸能界に関わって犯人を探す為に夜中に映画を繰り返し見ては表現方法、コミュニケーション、演技力を伸ばそうとしている。全て終わったら消えると思っていたが、ルビーに見透かされた。自分が異常者だと理解しているし、やっている事は自己満足に過ぎないと分かっているが、それでも自分なりの方法でアイを護るために苦悩の人生を歩もうとしている。

 星野ルビー
 原作と少し違い、せんせを誰よりも見てきたからこそ寄り添おうとする優しさや人を見抜く力が少しプラスされている。けどその分せんせに対する愛も深い。「あっ、これあの人終わったな」とスバルは思っている。スバルが何かに苦しんでる事は知っていたが、予想以上に重くて精神的に気不味かった。けど、いつかは推しの幸せとして胸張って幸せになってほしいとは思っている。兄妹だし。


 嫉妬したルビーを書きたかったけど、チャイルドシートに乗せられて車から見えない場所に歩いた二人を見ることが出来るシチュエーションではなかった。すまん。


 ★★★★★

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