吾郎センセーは転生者   作:アステカのキャスター

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 一部、内定候補が確定。やる気が出てきた。


☆☆☆☆☆☆☆☆話

 

 

 朝から昼まで診察が全て終わった。

 医者だからこそやる事が多くて疲れるし、俺は暇があれば勉強しているが、徹夜の当直で眠気はかなり来ている。コーヒーを買っては飲んで眠気を誤魔化す。

 

 産科医は徹夜なんてしょっちゅうだ。最大三徹までならいける。だがアラサーになると体力の衰えを僅かながら感じ始める。外に出て遊んでいる少年少女に若いっていいなって思っている辺り、年寄りに近付いているのだろう。実際の年齢は前世含めれば八十年超えているしな。

 

 

「ん?」

 

 

 ツイッターの速報。 

 そういえば今日あの子ライブやるとか言ってたな。あの子がトレンド入りでも果たしたのか。書かれていた情報を見ずに画面をタッチすると……

 

 

「ぶふぉ」

 

 

 コーヒー吹き出した。

 不意打ち過ぎて笑いが止まらない映像、圧倒的なリツイートにプチトレンド。その画面に表示されていたのは……

 

 

『ばぶばぶばぶばぶばぶばぶっ!!』

 

 

 ルビーとスバルがベビーカーの上でキレのあるオタ芸を会場で披露する光景だった。

 

 

「ぐっ、ぶふっ……だ、めだ死ぬ……!!」

 

 

 こんなもん笑うだろ。笑わずにいられないだろ。

 コーヒーよりも目の覚めるようなその映像に俺は腹を抱えて笑い続けていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 三歳になった。

 赤ん坊から三歳になるまで色々とあったが、二人とも歩けるようになると不自由さは今までより消えた。言える言葉も増えて怪しまれない程度に子供のフリをする二人はアイを使ってくれる現場、五反田監督の所に来ていた。

 

 あちらは働き方改革って事で納得してくれた。ある程度ミヤコの手の届く範囲で現場を見て回るスバル。テレビの中の現場と本物の現場では全く違う。ちょっとばかりの興奮を孕み、目を輝かせていた。

 

 

「お?マネージャーのガキじゃねえか」

 

 

 振り返れば五反田監督が見えた。

 

 

「いるのは構わねぇが、泣き出して収録止めたら閉め出すからな」

「大丈夫ですよ五反田監督、俺は泣きませんし少し現場を見て興奮していただけですから」

 

 

 ふわりと笑っては大人の対応を見せた。

 親しみを込めたような嘘を演じるのは、いつも練習している事だ。アイと同じように嘘の在り方で演じる。学んでは理解して追究し続けるスバルにはそれくらいは容易く出来た。

 

 五反田監督は目を見開いては思わず固まった。

 

 

「すっげえ流暢に喋るなお前!?なんか口調も大人っぽいし!?」

「現場の子役ってこれくらいは出来るものじゃないんですか?」

「子役に何求めてんの!?全員が同じように出来るか!?」

 

 

 一応敬語で接してみたが、子役はそこまで流暢に話せない。子役は感情的な人間が多い。それは子供であるからこその感情表現とそれを理解して演じられる力があれば使いやすいからだ。

 

 一方で、スバルは大人びている。感情表現が柔らかくありながら、それでいて纏う独特の雰囲気が不気味さを感じさせている。

 

 その歪な在り方が面白いと、五反田監督は笑っては何処かで使ってみたいと思い始めた。

 

 

「五反田監督、質問いいですか?」

「なんだ?」

「アイって()()()()()使()()()()()()()?」

「!」

 

 

 訂正、不気味さより奇怪さが勝った。

 僅か二歳の子供が言い放った質問に目を見開いた。

 

 

「……どうしてその発想に至った?」

「アイの役割って今回は女子高生のエキストラの一人の役って聞いてるけど」

 

 

 準備しているアイに視線を向ける。

 そして主人公やヒロインの女の子を見れば画面内で比較してしまう。突如現れた大した意味のないエキストラがヒロインよりも可愛く映ってしまう事にスバルは目を細めた。

 

 

「主人公がアイに喰われますよ?」

「だよなぁ、俺も実際そう思うんだわ。物語のコンセプトを崩す劇薬になりかねないってのが本音だな。低予算で使える奴が優秀過ぎるとなぁ」

「アイが悪い訳じゃないって事ですか」

「ああ、アレはちょっと素材としてはジョーカー過ぎた」

 

 

 求められているのは話を壊さない程度の看板であって、アイはその役に相応しくない。言い方を変えるなら、強烈過ぎるのだ。こればかりはアイがどう雰囲気を変えようが、どう嘘を使ってもどうしても変えられない。在り方を変えて不器用さを引き出したところでそれすらも魅力に変わってしまうアイにはこの役は不向き過ぎた。恐らく殆ど使われないだろうというのがスバルと五反田監督の見解だった。

 

 

「(にしてもコイツ……)」

 

 

 奇怪で歪で不気味。

 そして三歳にして現場で使えるかと質問出来るほどに頭が回る異才の子供に五反田は軽く笑った。

 

 

「お前、子役に興味あるか?」

「ありますけど、それよりもアイを使ってほしい」

「次の作品は映画なんだけどよ。アイを使ってやってもいいぜ」

「っ!?本当!?」

「ただし」

 

 

 スバルに指を差してニヒルに笑う。

 使ってみたい、その欲求を隠さずにスバルに条件として告げた。

 

 

「お前も出る事、それが条件だ」

 

 

 スバルはその言葉にやや驚き、笑った。

 芸能界に所属する為の一歩がこんな早くから訪れるとは思っていなかったが、同時にチャンスでもあった。評価を手にすれば芸能界を調べるきっかけに近づく為、スバルは望むところだ、と瞳の星が訴えるように輝いていた。

 

 

「これなんて言うんだっけ……バーター?」

「なんで知ってんだよ、怖えよ」

「ネットで調べた」

「凄えなネット、時代だな……」

 

 

 五反田監督は遠い目をしていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ちょっと!ここはプロの現場なの!遊びに来ているなら帰りなさい!」

 

 

 バーターを条件に俺も子役として使われる事になったが、アイと撮影日が別な為、アイ抜きで俺とルビーは撮影場所にミヤコさんと一緒に来ていた。だが案の定、ルビーはアイに会えない事から泣き出してオギャっている。こいつ本当に転生者かよと疑いたくなるくらいの光景に目も当てられずに台本を読んでいると、偉そうな赤髪の子供が叫んでいた。

 

 

「……有馬かな、共演者か」

「えっと……なんだっけ?重曹を舐める天才子役?」

「十秒で泣ける天才子役!ドラマでの泣きっぷりがすごいって評判なの!未来の大女優なんだから!」

「つかルビー、仮にも俺の手伝いするつもりなら少しくらいは芸名知っとけよ」

「うぐっ」

 

 

 元々俺が芸能界を調べるのはアイを狙う奴を探し出して捕まえる事。芸能界所属である可能性が高いから俺も子役になって早めに関わるつもりだった。ルビーに関してはアイ以外の関心が薄過ぎる、仮にもあの時の手伝うとか言っていたやる気を見せてほしい所だが、俺個人の予想と興味に過ぎない。巻き込まないなら巻き込まないで全然構わないけどな。

 

 手を差し出し、俺も芸名で挨拶をする。

 

 

「星野アクア、今日はよろしく」

「よろしくするつもりなんてないわ!貴方コネの子でしょ?」

「五反田監督のバーター……まあ推薦だな」

「一緒でしょうが!本読みの段階じゃアイドルの子も貴方もいなかったもん!監督のゴリ押しだってママも言ってた!」

「ああうん、らしいな」

 

 

 あくまで使ってみたいと言った監督のゴリ押し。元々俺もアイも居なかったらしいし。今回のストーリーを考えれば俺達が居なくても成立はする。役を追加したのはあくまで監督の意向だ、俺達が口を挟める立場じゃない。

 

 

「恥ずかしくないの!?」

「監督の推薦だ。それ以上もそれ以下もないだろ」

「ふんっ、アンタもあのアイドルも、どうせろくに使われない程へったくそな演技なんでしょ!媚び売るのだけは上手みたいだけどね!」

 

 

 そういうと、有馬は出ていった。

 はっはっは、相当の自信過剰な子役だな……ああ本当にムカつく。

 

 

「お兄ちゃん」

「……妹よ、知ってるか?この世界には偉大な言葉が三つある」

 

 

 怒りを顔に滲ませるルビーに俺は顔を伏せながら言葉を続けた。

 

 

「一つ、可愛いは正義。二つ、悪人に人権はない」

 

 

 いや違う、この笑いは怒気を隠す笑いだ。

 今俺は三歳児がやってはいけない顔をしている自覚はある。だが、あれはダメだ。相当のクソガキだった。心は18でも沸点は容易く超えて地雷の上でタップダンスを踊られたような不快感を笑いで誤魔化したが、ルビーはそれを見てギョッとしていた。

 

 

「そして三つ、メスガキはわからせろ……と」

 

 

 知っているか有馬かな。

 幾ら罪悪感があれど、好きな推しを馬鹿にするような奴には殺意くらいは湧くんだぜ?

 

 まあ、とりあえずやる事は決まった。

 

 

 

「泣かす」

 

 

 

 メスガキをわからせる、異論は認めない。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 撮影が始まる。

 有馬とスバルの役は村に案内する小さな子供、見せ場はそこだけだが、そのワンシーンに込められた意図を考えながら撮影が始まる。カメラが回った瞬間、身体が僅かに硬直する。見られている以上、ここからは些細な動きすら考えなければならない。

  

 

「(これが本番の雰囲気)」

 

 

 カメラ、そして自分達を見る視線、初めてな部分もあり緊張はある。だが、コンディションは悪くなかった。

 

 女の人の前に現れる二人の子供。

 有馬かなから始まる不気味さを煽る演技。

 

 

「ようこそおきゃくさん、かんげいします…」

 

 

 四歳の子役の演技にしては満点だ。

 不気味さを煽りながら女の人をしっかりと不安がらせるような台詞の間も悪くない。

 

 スバルは考えた。真似では付け焼き刃にしかならないし、大した爪痕は残せない。監督が自分に何を求めているのかは知っている。この場で一番不気味な存在である事は理解は出来ている。それを踏まえた上で何を演じるか。

 

 

「(なら、俺は……)」

 

 

 不気味さとは何か。

 それは間接的に恐怖を与えられる気味の悪さ。そして、スバルが一番不気味だと思う在り方で台詞を告げた。

 

 

 

「──この村には民宿が一つしかありません」

『ッ───!?』

 

 

 

 空気が変わった。雰囲気が呑まれた。

 表情は敢えて柔らかく、スバルの瞳は目の前の女の人を見透かすような視線で軽く微笑んだ。スバルが最も不気味と思えた存在と、自分の在り方を理解した上で要求していた役の在り方の一つ上を解釈する。

 

 

「一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」

 

 

 スバルの不気味と思える在り方。

 それは瞳、患者の心を見透かしては本心を読み取る雨宮吾郎やルビーの目。本人達は寄り添おうとするが為に使うが、初対面の人間が見透かされたような視線をされるとどう思うか。

 

 

「ッ………」

「(こいつッ──!?)」

 

 

 大人びていて子供らしくなくて、それがとても違和感が出ては言葉が出ない。なのに警戒心を和らげるような笑みが支配するような不気味を緩和している。怪しいと思うのに、不気味だと思うのに、()()()()()()()。その在り方に五反田監督でさえ冷や汗を流した。

 

 

「(有馬かな、お前は確かに凄い。だが、悪いけど()()()()()()()()()())」

 

 

 子供が故に子供を捨てられない有馬かなと、高校生まで生きていた記憶があるスバルでは話が違う。演技の才能は有馬かなの方が上だろうが、求められた答えの解釈はスバルの方が上だ。

 

 

「(子供の無邪気さを捨てきれないお前と、実際に生きた事で子供らしさが自然と消えていった俺とじゃ、経験が違う)」

 

 

 経験の差。人生二周目のチート。

 演技が拙い自分でも理解さえ出来ていれば解釈通りの表現を出せる。アイの子であり、今回の手本は嫌という程に脳裏に焼き付いているのだから。

 

 

「(お前の不気味さの解釈より俺は不気味な存在を知っている)」

 

 

 あの見透かす目は生涯忘れられない。

 誰よりも寄り添って誰よりも医者であったあの先生の瞳に初対面から見透かされたら恐怖すら覚えていたのだ。大人であったあの人の在り方を自分なりに演じれば、子供の自分との違和感が生まれ、不気味さを作り出せる。演技力が足りなくても構わない。

 

 

「(あの先生の真似は少し癪だけどな)」

 

 

 猿真似程度で充分、そう見えればいい。

 求められている役割の解釈で先生の在り方が丁度良かったのは複雑であるが、使える在り方としてはこの上ないくらいぴったりの在り方だった。カットが終わるとその張り詰めた緊張感が一気に解かれた。

 

 

「……五反田監督、どうですか?」

「俺が求めた役としては80点」

 

 

 その感想に失敗したとスバルはため息を吐く。

 だが、五反田監督はスバルの目の前でしゃがんで頭をワシワシと撫でた。

 

 

「けど、在り方や演じ方は()()()()()()()()()。満点だ」

「なら、良かったです」

「おっ?照れてんのか?まだまだガキだな」

「……違うし」

 

 

 褒められたらこそばゆくて僅かに頬が緩んだ。

 普通に褒められると照れるのはまだ精神的に子供である事を抜け切れていない。大人であると心で思っていても身体に引っ張られるようで、素直に嬉しいと思ってしまった事にそっぽむいた。

 

 

「監督、撮り直して」

「ん?いや問題なかったから」

「問題大有りよ…!今のかな、あの子より全然ダメだった!」

 

 

 有馬が五反田監督の裾を掴み、泣いて懇願する。

 

 

「やだ、もっかい、お願いだから!」

「監督を困らせるな」  

 

 

 キッ、と睨まれた。 

 敵意剝き出しのままスバルに突っかかるように叫ぶ有馬に疲れた様子であしらうスバル。面倒臭いと思いながら、有馬の我儘を止めようとするが、彼女は止まらない。

 

 

「次はアンタより上手くやるし!」

「次なんてねえよ。監督は満足してる、いちいち茶々入れんな」

「もう一度!」

 

 

 たかが一役者の要望。

 自分が主役でなければ満足出来ない負けず嫌い。その精神は買うがやっているのはただの現場荒らしだ。ため息をついて厳しい口調でスバルは告げた。

 

 

「くだらねえ……自分が主役でもないくせに酔いしれるなよ、()()()()

「っっ!!」

 

 

 パァン、と頬が熱を持った。

 泣きながら叩いた有馬は走って何処かに行ってしまった。泣かせるにしても少しやりすぎた事に肩を落とし、監督に頭を下げた。

 

 

「……監督、すみません」

「いやいい。あれくらいがいい薬だ。腫れてねえか?」

「俺は問題ないです。まだ撮影ありますか?」

「大丈夫だ。使うにしても頬が赤いと使えねぇから。裏方に言って氷嚢でも貰ってこい」

 

 

 礼を言うとスバルの近くにミヤコが迫った。

 腫れてはいないし、子供の力だ。あまり痛みは無かったが、ミヤコは心配そうに頬を撫でていた。

 

 

「いい演技だった。お前、才能あるよ」

 

 

 五反田監督は笑ってそう言った。

 その言葉にスバルは目を見開いて、咄嗟に口を開いた。

 

 

「いつかまた使ってくれますか?」

「ああ、そん時はもっと多く使ってやるよ」

 

 

 確かな感触、新しい自分に踏み出せた。

 拳を握り、自分が至った確かな境地に笑った。アイを護る為に新しい自分を受け入れる覚悟。

 

 その第一歩は此処から始まった気がした。

 

 





 星野スバル
 芸名は星野アクア、最初から子役を目指していた分、演技力に関しては原作のアクアよりやや上。気味が悪い子供を演じる為に例の人の見透かすような瞳を参考に自分なりに演じ、見事に有馬を泣かせた大罪人。後に重曹子役に興味を持たれ、芸能界デビューが原作より早くなる。最も得意な演技は気持ち悪いと思える人間を演じる事。元ストーカーだけはある見事な気持ち悪さを持っている。

 有馬かな
 重曹メスガキ子役。人生という名の場数の違いを見せつけられた割と可哀想な子。傲慢な天狗っ子は見事にへし折られて泣かされた。叩いてしまった事に負い目があり、原作との関わりに微妙に影響が出る。スバルの相性が良すぎる役であり中身が18の相手とか、こんなんチーターやん。


 ★★★★★

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