吾郎センセーは転生者   作:アステカのキャスター

9 / 17

 良かったら感想評価お願いします。励みになります。日刊四位ありがとう。就活はまだ多くありますが、時間ある時にどんどん書いてくぜ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆話

 

 

 星野アイが双子を産んで四年が経った。

 あの子は色々と売れて、家計を支えられるだけの母親はやれているようだ。街には星野アイの看板が所々に目に映り、有名になった事に対して少しだけ感慨深さに浸りながら街をふらついている。

 

 俺は今、東京に来ている。

 有名な医者のシンポジウムで東京まで訪れ、公開討論会に参加した。産医としてはあまり役に立たない話ではあったが、論文の提出で俺も色々とあったせいか、海外含め、討論会の参加のオファーはよく来る。人生二周目で知識の深さがこんな所で活かされるとは思わなかった。

 

 シンポジウムが終わり、明日は飛行機に乗って帰るだけ。折角東京に来たのなら酒でも飲んで帰ろうかと街を散策していた。

 

 

「……先生?」

「ん?」

 

 

 声をかけられて振り返れば、二人の夫婦がいた。森伊蔵など複数の酒が入ったビニール袋持ちながら見覚えのある顔に足を止めた。

 

 

「ミヤコさんと、壱護さん?」

「やっぱり先生ですか?どうして此処に?」

「シンポジウム……まあ医学の公開討論会で」

 

 

 まさか会うとは思わなかったけどな。

 アイにも連絡してなかったし、会う事は無いと思ってたがまさか社長達の方に会うとはな。明日ドーム公演だから忙しいと思っていた。

 

 

「先生、今暇ですか?」

「飲みに行こうとしてたんで暇っちゃ暇ですけど」

「じゃあ一緒に飲みに行きませんか?」

「いいですけど……」

 

 

 大人だけで飲み会というのも悪くないだろうし。この四年間、色々と積もる話を聞きたかったのもあり、俺は二人に付いていく事にした。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「騙された」

「会いたくなかったんですか?」

「会うつもりはなかったよ」

「来てたなら言ってよセンセ!久しぶりに会った私に言うことはないの?」

「あー、はいはい。可愛い可愛い」

「雑っ!?」

 

 

 アイの家で飲むとは思わねえだろ、と心の中で叫んだ。

 わざわざアイに東京に来たって事を言ってなかった目論見は見事なまでに失敗した。何という悪運だろうか。というか普通に斉藤家で飲むのかと思っていたが、星野家に来るかフツー。

 

 

「センセが居るってことは、明日のライブ観に来るんでしょ?」

「いや俺は明日昼の飛行機で帰る」

「なんでっ!?」

 

 

 伝えなかったのはこうなると思ってたからだ。

 元々東京に来た理由がライブの為ではなく、シンポジウムの為だ。居ると分かれば引き留めようとごねる姿が浮かんでいた。

 

 

「こーいう反応されるから会いたくなかったんですよ」

「センセ観に来てよ!」

「無茶言うなっつーの。シンポジウムで出張として来てんだ。勝手な都合で延ばす訳に行くか」

 

 

 まあ例に漏れずにごねられた。

 今回だってシンポジウムだからの出張扱い。だから金は病院の手当てから出ている。延長させれば手当金は出ないし、そもそも休暇という訳でもないし。

 

 

「えー、私の晴れ舞台なのに……」

「……チケットはちゃんと応募して抽選から外れたんだ。仕方ねえだろ」

「それ先に言えばチケットくらい用意したのに」

「助けたからチケット寄越せとか医者が言えるか。それは狡いだろ」

「いや今でも助けられてますし、俺も言ってくれたら用意しましたよ?」

 

 

 首を横に振った。

 それは医者としてはダメな話だ。病院から報酬を貰うことはあっても、患者個人から報酬を貰うのはルール違反だ。仕事をしただけで特別な報酬を貰うのは気が引ける。

 

 確かに俺は星野アイを助けている自覚はあるが、だから報酬を寄越せなんて言いたくない。

 

 

「残念ながら飛行機のチケットはもうあるんで」

「センセ、冷たい」

「俺だって観に行きたかったよ。それは本音だ」

「……今度のライブはちゃんと用意するから」

「そんなに俺に来て欲しいのか?」

 

 

 元担当医と元患者。

 関係はそこで終わるし、味方をすると言っても会えない時間がその関係を薄くするというのに。電話もそうだが、ちょくちょく構ってくる。

 

 

「だってセンセ、私のお父さんみたいな人だもん」

 

 

 そっぽ向きながらポツリと呟かれた。

 そう言われるとチケットとか貰わない事が悪いみたいじゃないか。依存されても困ると言ったが、アイなりの家族の形みたいなものを求めている。それは恋人に対する愛や、友達に対する愛とは違う形。

 

 別に俺は父親じゃないけど、それに近いものをアイは感じているのは知ってる。俺は良くも悪くも特別視しないからか、その在り方が父親らしく見えてしまうのだろう。未婚者としては複雑だが。

 

 

「……次があったらちゃんと観に来るよ」

「ホント?」

「嘘は言わねえよ。約束だ」

「その時は用意するから!絶対だよ!」

「へいへい」

 

 

 報酬を貰わない主義でも与える側が貰ってくれないと困るというなら仕方ないと割り切るしかないか。まあ、忙しいから行ける日には限りがあるとは思うけど。

 

 詰め寄って言質取ったと騒ぐアイに軽く笑った。もう二十歳だというのに子供っぽい所は全く変わってないな。

 

 

「こうして見ると本当に親子みたいですね」

「そんなに見えます?」

「見える見える」

 

 

 未婚者としては複雑だがな。大事なので二回言った。ため息を吐きながら視線を子供達に向けた。赤ん坊時代に比べれば大きくなったと思う。中身は分からないけど。

 

 

「しっかし、デカくなったな。ルビーちゃんとスバルくん、俺の事覚えてる?」

「先生……老けたね」

「張り倒すぞコラ」

 

 

 生意気に育ってくれやがって転生者くんよ。

 君、アイの裸とか見れて嬉しかったムッツリの癖に。ファンが知ったら滅多刺し待った無しだぞ?それに比べてルビーちゃんは子供っぽくてよかった。オタ芸踊ってたし多分転生者だが、中身が多分若いから子供らしく育っている。

 

 所々思うのだが、ルビーちゃんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。前世は家族愛に恵まれなかったのか?それとも転生者じゃないから父親だと思われてんのか、この子はスバルくんよりよくわからない。

 

 

「ルビーちゃんは可愛く育ったなぁ。将来はアイドルか?」

「うん!ママみたいになったらせんせ、私の事ちゃんと推してよ!」

「あー、そうだな。一番とは言えないけど推しにするよ」

 

 

 頭撫でると顔を緩ませて嬉しそうな顔をしている。なんというか、雰囲気があの子に似ている。重ねちゃいけないのに、喜ぶ仕草があの子にそっくりだ。

 

 あの子はもう居ないのに。何故か重なってしまうのが妙に辛く思えた。

 

 

「一番はやっぱりママ?」

「っ、いや……一番はママじゃないよ」

「えっ……?」

 

 

 少し呆けていた。 

 反射的にそれを否定すると、思い出すようにアイが口を開いた。

 

 

「確かさりなちゃんって子だっけ?センセの推し」

「……そういやお前には話してたな。あの子がアイドルやってたら同年代のライバルだぜ?お前より推してたね」

「ぶー、やっぱり変わらないじゃん。推し変して私を一番にしない?」

「却下だアホ。出直してこい」

 

 

 約束は約束。

 最推しはさりなちゃんが不動だ。そもそも俺はアイドルに興味なんてなかった。アイドルを知ってるのはあの子との繋がりだったからに過ぎない。アイが来なければきっとアイドルに疎いまま病院に勤めていたと思うし。

 

 

「〜〜〜〜!!」

「うおっ、ど、どうした?泣いてる?」

「ううぅぅぅ!せんせのばかぁ……!」

 

 

 胸元でめっちゃ顔を押し付けられてグリグリされる。何故か泣いちゃってるし。転生者だと思うけど精神年齢はかなり低いのか?それともスバルの影響が強いだけで転生者ではない?でもあのオタ芸はちょっと…。

 

 

「一番になれなかった事が悔しいんじゃない?」

「えっと、ごめんな?ちゃんとルビーちゃんの事も応援するからさ」

「ばかぁ…あほぉ…女ったらしぃ……!」

「唐変木ー、鬼畜ー、ロリコンー」

「アイ、お前後で覚えてろよ」

 

 

 あとで絶対しばく。

 俺は断じてロリコンじゃない。子供は好きだが、子供好きがみんなロリコンだと思うなよ。産科医がみんなロリコンだったら俺はとっくに産科医辞めてるわ。

 

 胸を貸したままゆっくり頭を撫で続けるが、全然泣き止んでくれない。

 

 

「そういや今更なんですけど、引っ越したんですね」

「そりゃまあコイツも売れっ子アイドル、明日の公演で知名度爆上げ、セキュリティのいい場所にしとくべきだったしな」

「よく俺を招きましたね。めっちゃ外部の人間ですけど」

「先生は信頼出来るんで問題ないです」

「あっ、そうっすか……」

 

 

 言い切られると流石に照れる。

 つーか前日に外部の人間連れてくるなよ。引っ越しているからアイドルの家と分からないとはいえ、用心が足りてない。俺が悪人だったら即ツイートだぞ。しないけど。

 

 

「アイ、一応言っておくが父親に会おうなんて思うなよ?お前は今が一番大事な時期なんだからな」

「もちろん」

 

 

 アイが笑ってそう言った。

 子供達に視線を向ける、この子達の親である人間は一体誰なのか俺も知らない。斉藤社長達も知らない。恐らく金髪でスバルに似て瞳が青色から藍色、年齢や関係性を考えても恐らくアイと近い歳、出会った場所は芸能界、推測できるのはそのくらいだ。

 

 秘密なら秘密でいい。言いたくないならその意思を尊重する。

 

 

「……………」

 

 

 嘘で取り繕うアイ。

 その嘘を見抜いた事に気付かれないように俺は静かに酒を口に運んだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 帰り道、斉藤夫妻と吾郎は並んで歩いていた。

 全員酒を飲んでいる為、車は当然ない。タクシーを呼ぶにもホテルまで中途半端な距離だったので酔い覚まし程度に歩いていた。意外と近かった事に吾郎は驚いていた。

 

 

「いよいよ明日だな」

「夢でしたもんねドーム公演」

「ああ本当、俺がアイツに賭けた甲斐があった。だから嬉しいんだよ」

「私もですよ」

 

 

 感慨深そうに歩いている二人に比べて吾郎の顔は渋いままだ。心配させたくないが意を決して足を止めた。どうしたのかと二人は振り返ると、吾郎は二人に告げた。

 

 

「……壱護さん、明日早めにアイを迎えに行けますか?」

「えっ、なんでですか?」

「あの子、()()()()()()()

 

 

 あの子が吐いた嘘を口にした。

 

 

「父親に会わないって嘘を」

「!?」

「えっ……」

 

 

 いつまで経っても変わらない完璧な嘘の吐き方で、吾郎だけがそれを見抜いていた。

 

 

「下手したら朝早くに会うかもしれないし、出来るなら早めに行ってあの子達をドーム公演開始前まで練習させておけますか」

「嘘、って……先生の思い違いじゃ」

「あの子の嘘は俺が一番知っている」

 

 

 その言葉は壱護にとって説得力があり過ぎた。

 嘘吐きのアイドルから本音を引き出し、本質を見抜いて信頼されている吾郎の言葉がとても重く感じた。

 

 

「医者としてこんな事は言いたくないが、()()()()()()()

 

 

 本当、外れてほしい勘。

 吾郎はさりなが死ぬ前に同じ勘が働いた。だから最期を看取れた。気付かなければ手遅れになるような嫌な予感がした。医学的に考えればあり得ないのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この予感に動かなければいけない気がした。

 

 

「取り返しがつかないような嘘にならなければいいけど」

 

 

 その嘘はとても嫌な予感を感じてしまった。過保護かもしれないが、吾郎にとっても壱護達にとってもアイに危険が及ぶのは望むところではなかった。

 

 

「分かりました、信じます」

「……俺が言うのもアレですけど、信じます?」

「先生だから俺は信じてるんです」

「期待が重い」

 

 

 少なからず大人がいれば危険は避けられる。

 危険が起きるかもしれない前提で話すなんて過保護過ぎる話ではあるが、用心に越したことはない。壱護のような大人がいれば問題はないだろう。

 

 ただ、酔いはすっかり醒めていた。

 見上げた空に浮かぶ月は雲が覆い尽くし、光を閉ざしているのが不吉に思えた。

 

 




 
 吾郎センセ
 東京のシンポジウム(公開討論会)に行ったら斉藤夫妻とバッタリ、斉藤家で飲むと思ってたらまさかの星野家で飲むハメになった。アイにライブに来てたごねられてはルビーに泣かれてシャツがびちゃびちゃになった。ライブのチケットは応募したが落選、ライブ当日に帰る予定。

 星野アイ
 久しぶりにセンセに会えてご満悦。遠慮しなくていいから嘘の仮面を外して会えた事を喜んでいる。夫に会わないという嘘はセンセには通じなかった。ライブは見に来て欲しかった様子。

 星野スバル
 転生者とバレている子供。最早バレているので先生に対して隠す気はなくなった。色々と話したかったが、斉藤夫妻とアイが居る中では話せなかった。

 星野ルビー
 前世の自分を推す約束、アイより推されている事に感極まって泣いた。今だに自分の事を忘れないでくれている馬鹿なせんせを口では罵倒するが、心の声は「好き、好き、好き……!」である。愛が更に深くなった。十六歳に早くなりたいと思っている。

 斉藤夫妻
 先生の忠告に説得力があり過ぎて言葉が出なかった。壱護が朝イチで迎えに行く事になった。先生の信頼は高いし、アイに今だに育児の助言やメンタルの回復の為に愚痴を聞いて付き合ってくれているので、アイがストレスを抱え過ぎてない事に感謝している。









 ★★★★★★★★
 ★★★★★
 ★★★
 ★
 

 次の日の事だった。
 泊まっているホテルの朝食を食べ終えると、帰り支度を済ませて早めに空港まで向かう。同僚へのお土産を買っておこうと時間に猶予を残しながら、トランクケースに荷物を纏めて近くの駅まで向かう途中だった。


「ん?」


 スマホが震えた。
 表示には『星野アイ』と映し出されているのを見て、通話ボタンを押して直ぐに出た。


「もしもし」
『センセ助けてっ!!』
「えっ?」


 嘘のない必死の叫びに一瞬思考が停止した。
 電話越しに聞こえた子供達のパニックの声、混乱しているアイに落ち着けと言う前に震えた声で彼女は叫んだ。







『さと、佐藤さんが……刺されて…!!』




 その予感は最悪の方向に的中してしまった。
 運命の代償を払わせるように、それは既に起きていた。泣き叫び、動揺しながら告げる彼女の声が遠く聞こえる。気が付けばスマホを握りしめて吾郎は走り出していた。

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。