艦娘としての研修を受ける不知火に対し、特別な【何か】を見た阿武隈は、姉の長良を差し置いて彼女の教導艦を買って出るのであった
不知火と阿武隈の運命的な出逢いの、ちょっとしたお話
(2020年12月7日執筆)
それは、浜風が某鎮守府に赴任する4年前に遡る
皇紀2741年春
地下格納庫に連れられた研修生たちは、それぞれの艤装格納ブースへと連れられていき、そこで教導艦の指示の元、初の艤装展開を試みた。その中に不知火の姿もあった
艦娘として覚醒したからといって、自由に艤装展開が出来るわけではない。覚醒した艦娘の艤装は、いずれかの鎮守府(生前、何らかの縁のある鎮守府との説が有力)の霊廟に召喚され、その後当該鎮守府の提督の承認がなければ、始まりの艤装展開が出来ない
何故そうなっているのかについて、大本営からの説明はないので不明。深海棲艦の脅威が遠のいた現在、艦娘に対する一定の抑止力としてそれは機能していた
だが、例の【赤城・加賀更迭事件】以後は、それが抑止力として行使される事はほぼなくなった
これは、加賀が【始まりの艤装展開】の承認を受けられず、二年もの長きにわたって更迭され続けた事と無関係ではない
話を戻そう
絶撃の浜風 阿武隈編
01
見ぃつけた!
身体検査と面接による適性検査を合格した新任の艦娘達、いわゆる研修生たちは、地上に上がり、射撃演習場に集められていた
そして、そんな研修生たちの様子を、嬉々として眺めている者があった
第一水雷戦隊旗艦、阿武隈であった
彼女は軽巡という、決して強いとは言い難い艦種でありながら、それを補って余りある程の戦術眼と、多彩な戦闘スタイルの持ち主として知られ、あの赤城でさえ一目置く程であった
第一次深海棲艦戦争においては、連合艦隊を率いて数々の戦場を勝利に導いた。阿武隈は軍艦時代よりも、艦娘として武勲に名を馳せた希有な存在であった
同戦争終結後も、後進の育成や連合艦隊の教練を大いに期待されていた。大本営直属部隊として慰留を求められたのも、当然と言えば当然の流れであった
だが、生粋の水雷屋である彼女はそれを由とせず、第一水雷戦隊の本分である機動部隊の護衛や、地味な遠征任務を好んで行っていた
彼女の実力は、数多の鎮守府の誰もが認めるところで、欧州や米国から連合艦隊旗艦を依頼される事もしばしばあったが、肝心の阿武隈にまったくその気がなかった。これは、艦時代に艦長を務めていた《木村昌福》との記憶が、色濃く反映していたのかも知れない
どれだけ好条件で誘われても、阿武隈は決まって「だって、私は水雷屋だよ?」と言って断るのが常であった
そんな彼女が非番であるにも関わらず何故このような所にいるのかというと、それは彼女の趣味というか嗜好にあった
彼女は、駆逐艦が好きだった
研修生の中に駆逐艦がいると聞いただけで、暇があれば覗きに来たり、教導艦を買って出たりしていた。駆逐の子たちの面倒見がいい事でも知られていて、《阿武隈幼稚園》などと、揶揄する者もいる位である
そんな阿武隈であるが、一部の艦娘の間でのみ知られている事がある
それは、未成熟の艦娘の潜在能力を見抜く《異能》である
阿武隈が見初めた艦娘(大抵の場合駆逐艦)は、ほぼ例外なく《大成》するのである。そして今、彼女の目に映っていたのは・・・・
「うふふ~~~~いるいるっ! かわいいなぁみんなぁ!」
不知火だった
「・・・・うそ・・・・なにこの子・・・・すごい・・・・」
思わず歓喜の声を漏らす
「こんな子・・・初めて見た・・・・」
単なる陽炎型駆逐艦に過ぎない不知火に、阿武隈は何を見たのであろうか?
とにもかくにも、阿武隈は行動を起こす
こうなった阿武隈は、誰にも止められないのである
言うが早いか、阿武隈は不知火の担当教導艦である長良の元へ走り寄る。そして・・・
「お姉ちゃん、ちょっとちょっと!」
「ん? どうしたの? あぶぅ?」
「あのね、その娘、私がみてもいい?」
「いやいや、あなた今日は非番でしょ? 何で?」
「ごめんお姉ちゃん、あの娘見てたら、我慢できなくなっちゃって~」
「・・・あ~・・・ふ~ん、そういうこと?」
いつもの事なので、長良は合点する
《あぶぅのいつものビョーキかぁ・・・・・》
「・・・ダメ?」
「いいわよ、つまり・・・この娘がそうなのね?」
「・・・うん・・・まぁ・・・そう」
「え~と、不知火ぃ、あとはウチの愚妹があなたの指導をするから。今まで教えた事は全部忘れてくれる?」
「はぁ・・・それは、どういう事でしょうか?」
「この娘の方が、あなたに合ってると思うから。それじゃ、しっかりね」
「・・・長良さん、あれってどういう事ですか?」
今の二人のやりとりを見て、不思議に思った能代が聞いてくる
「あぁ、あなたは今回初めての教導艦だから知らなかったか・・・・あれはね・・・あぶぅはどういうわけか見込みのありそうな娘を見つけるのが上手でね・・・私にはよくわからんけど」
「へぇ? そうなんですか」
「で、あぶぅが見初めた娘は必ずと言っていいほど大成するのよね。不思議なことに」
「え、でもあの娘ただの駆逐艦ですよ?」
「・・・・だからさ、ただの駆逐艦じゃあないんでしょ・・・・多分」
「初めまして、だよね? 不知火さん。ここからは私が担当するね。私が誰だか覚えてる?」
「・・・・阿武隈・・さん、ですよね?」
「あ~、やっぱり憶えてないか~。どっちの記憶も無いんだよね?」
「・・はい・・あの、どうして途中で担当の方が変わられたのですか?・・・・私に、何か落ち度でも・・・?」
「いやいやいやいや、そうじゃないから。私があなたの事見たかったから、無理矢理代わってもらったの。うふふっ」
《なんでしょうか、このハイテンションは・・・・どうにも調子が狂いますね・・・》
困惑する不知火を余所に、勝手に進行する阿武隈であった
「それじゃあ、ぬいちゃん、おね・・・長良教導艦から教わったと思うけど、艤装の展開してみて~」
「・・・ぬい・・・ちゃん・・?」
「あ~ごめん、昔からぬいちゃんの事ぬいちゃんって呼んでたから・・・ダメ?」
《この人は、過去の不知火を知っている・・・・私の・・・向こう側の不知火を見ているのでしょうか?》
「あの、阿武隈さん・・・・今の私は、阿武隈さんの知っている不知火とは違うので・・・」
「・・・同じだよ・・・」
「え・・・でも・・・」
「例え記憶を置き忘れて来ても、ぬいちゃんはぬいちゃんだから。・・・うまく言えないけど・・・私にはわかるの」
なんとも掴み所のない、不思議な人だと、不知火は思った。一見、ワケのわからない事を言っているようで、不思議と説得力がある・・・・
「・・・いいですよ。その、ぬい・・ちゃんで呼んでいただいて構いませんよ、阿武隈さん」
「あぶねえさまっ!だよ、ぬいちゃん! いつもそう呼んでたじゃない!」
「え”っ・・・・いきなり・・・ハードル上げてきましたね・・・流石にそれは・・・」
「あぶねえさまっ! 言ってみて~!」
「いや・・ですから・・・」
「あぶねえさまっ!! ほら、早くぅ~!」
「・・・・・・」
「あぶ・・・ぐふぅっっっ!!!!」
阿武隈の脳天に長良の鉄拳が炸裂する
「記憶が無いのをいいことに何言わせてんのっ!! 不知火はそんな呼び方してなかったでしょ!! 怒るよ!!」
「い~た~い~~っ!! もう怒ってるじゃない!」
頭をかかえて涙目でうずくまる阿武隈
「・・・・ぷっ・・・・・・・・・・くくっ・・・・・・」
二人に背を向けたまま、不知火の肩が震えていた
「ちょっ・・・・今、笑ったでしょう! ぬいちゃん!」
「・・・笑ってませんよ・・・・・・・・・・・・・あぶねえ・・・・ぷぷ~~~~」
「え・・・今、あぶねえって・・・?」
「だ・・・もう・・・むり・・・・ぷーーーーーーーーーーっ!!」
「もうやめて! もう笑うのやめてよぅーーーーー!!」
ーーーー10分後ーーーーー
「もう、おねえちゃんはあっち行っててっ!!」
「あぶぅも”悪さ”するんじゃないよ!」
「しないってば、もうっ!」
「ごめんね~、不知火ぃ。もう落ち着いた?」
「ええ、大丈夫です、長良さん」
「あぶぅはこんなやつだけど、教導艦としても、艦娘としても一流だから、安心して」
「そうなんですか?」
「くやしいけど、私なんか足下にも及ばないくらい優秀だから。そこは保証する」
「えへへ~、そうかなぁ~、うふふ~」
「も~、調子にのんなっ!」
軽く阿武隈の頭を小突くと、長良は担当研修生のところへ戻っていった
「・・阿武隈さん、長良さんて、優秀な艦娘ですよね?」
《あ、やっぱり”あぶねえさま”って呼んでくれないんだ・・・・》
幾分へこみつつ、阿武隈は言う
「優秀だよ。そしてとても強い。あれで《改》なんだから、反則だよね~」
《・・・その、長良さんがあそこまで”推す”人なんだ、この人は》
「まぁ、なにはともあれ、始めよっか。艤装の展開からだけど、少しやり方を変えてみて」
「・・・どのようにでしょうか?」
「堅いなぁ、もう・・・えとね、艤装の隅々まで、稼働具合とかを感じながら、意識を集中して、ゆ~っくり、展開してみて」
「・・・艤装を感じて・・・・・ゆっくり・・・・・・・・・あ・・・!!!!!」
先程、長良との研修で展開した時とは、まったく違った感覚が、艤装から流れ込んできた。
展開中に、艤装の各部の構造や、稼働具合、僅かな不具合まで、まるで自分の体の一部のような感覚・・・・
「これは・・・・私・・・の・・・・」
「・・・やっぱり・・・わかるんだね?・・・それを最初から感じられるセンスが、ぬいちゃん、あなたにはあるの・・・」
「・・・この、感覚は・・・・」
「そう、艤装は単なる武装じゃない。あなたの・・・ぬいちゃんの体の一部なの」
「体の・・・一部・・・」
「ぬいちゃん、あなたは、艦娘としてはまだ生まれたばかりの赤ちゃんなの・・・その艤装があなたと馴染んで思うように動かせるようになるまで時間がかかる。だから、当面は無理をせず、今、感じたように、毎日少しずつ繰り返してみて」
「・・・・はい・・・」
「赤ちゃんが、”ハイハイ”するイメージだよ。うふふっ!」
《・・・・阿武隈さん・・・この人は・・・・・・》
不知火は思う。この人・・・阿武隈は他の艦娘とは根本的に何かが違うと・・・
少し抜けている所が気になるが、師事するなら、この人がいい・・・・不知火は漠然とだが、そんな事を思った
「わかりました。毎日少しずつ練習してみます・・・・・・・あぶねえさま・・・」
「えっ・・・今、あぶねえさまって・・・・」
「?・・・・言ってませんよ?」
「いや、言ったよね! 今!!」
「そんな恥ずかしい台詞、言えるわけないじゃないですか、あぶねえさま」
「ほらっ! 言ってるじゃない!」
「言ってませんて」
「も~、どうして意地悪するの~? ぬいちゃんのいけずぅ!」
「・・・い、いけずって・・・・・・ぷぷーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「ねぇ、どうして笑ってるの!? ねえってばぁ!! もぉっ!」
かくして、ここに《あぶぬい》師弟?・・・・師妹コンビが誕生した
ぬい 03 第五戦隊 に続く