絶撃の浜風   作:絶撃@

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ザラとポーラが日本に来て、既に三年の月日が流れていた

第二改装を終えたザラは恐るべき射撃精度を誇る怪物へと変貌していた

その一方でポーラは、相も変わらずぽんこつ街道まっしぐらの日々を過ごしていた

そんなある日、那智と羽黒の演習を目の当たりにし、深く落ち込んでいた足柄は

偶然にも、ポーラの射撃練習を目撃してしまう・・・








外伝(ポーラ編) Tesoro italiano ~イタリアの至宝~ 01 イタリアの至宝

 (2020年3月20日 執筆)

 

 

 

 

 

Ⅰ ザラの憂鬱

 

 

 

 

 

 

ザラ級重巡ネームシップ、ザラ

 

 

 彼女は、数いる重巡艦娘の中で、頭ひとつ抜きんでた存在である

 

 戦艦並みの分厚い装甲に、これまた戦艦並みの長射程主砲、優れた索敵能力・・・・・

 

 

 そのザラが、第二改装を受けてはや半年。その本領を存分に発揮していた。ザラ以外では制圧出来ない海域も、南西諸島海域の沖ノ島沖に一部存在する程で、今や某鎮守府重巡陣の主要な一角を占めていた

 

 

 

 

 

そして時は皇紀2741年

 

 

 

 ザラが妹のポーラと共に日本の某鎮守府に配属されてから既に三年もの歳月が流れていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてとある日の射撃演習場にて

 

 

 

 ザラから発進した38式Ro.43水上偵察機serie2が、20cm級のターゲットの、更に奥に設置されたターゲットを補足。そして程なくして水平線の遙か向こう、14inch級の的(設定距離25km)に一発の203mm砲弾が飛来し右20mに着弾、水柱を上げる

 

 

 

「だんちゃーく今! 修正、方位左0.79、射角698.11」

 

 

 

 水偵に搭乗する弾着観測妖精から送られてくる観測結果を受け、ザラは瞬時に弾道の再計算に入る

 

 

 

そして・・・・

 

 

 

「・・・・Fuoco!!」

 

 

 

「ドーーーーーーーーーーーーン!!!!」

 

 

 

 

 再び放たれたその砲弾は、高い放物線を描き・・・・・今度は14inch級のターゲットに直撃した

 

 

 

「だんちゃーく今! 命中!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、マジですか!」

 

 

 

実況モニターを見て声を上げたのは青葉だった。そして・・・

 

 

 

「さすがですね、あの的に当てられるなんて。しかも弾着観測後の一発目とか、凄すぎです」

 

 

 

 隣で射撃訓練をしていた衣笠が溜息をつきながら、ザラが打ち出す弾道を目で追っていた

 

 

 そう、ザラの本領はその長射程というよりは、類い希なる射撃の命中精度にあった。艦隊演習時における第二改修後のザラは、有効射程距離内であれば、弾着観測直後の命中率はおおよそ63%・・・・・・3射中2発の確率で命中させる事が可能という、規格外の怪物と化していた

 

 

「いや、それもそうだけど・・・ザラさんて、交互打ち方で散布界を追い込むやり方はしないんですね・・・むしろそちらの方が驚きです」

 

 

衣笠の、正直な感想だった

 

 

「ですよね! 照準射撃に絶対の自信がなければ不可能です! てゆうか、歴史上こんな打ち方が出来るのはザラさんだけですよきっと」

 

 

いささか興奮気味の青葉とは裏腹に、少し困ったようにザラは応える

 

 

 

「・・・まぁ、演習場の的は動かないから、これくらいは・・・・・ね?」

 

 

 

ザラにとっては、これは本音である。なので一応、謙遜したつもりなのだが、

 

 

 

「いやいや、無理ですって! 誰も出来ませんよこんな真似!」

 

 

興奮冷めやらぬ青葉と、傍でうんうんと頷く衣笠は、ザラ砲の感想を述べる

 

 

「ザラ砲って、射程が長いじゃないですか。私も遠距離射撃得意な方だって自負してたんで・・・・それで先日ポーラに頼み込んでザラ砲を撃たせてもらったんですよ。確かにすごく飛ぶんですけど、14inchターゲットみたいな遠距離だと、平均散布界が広すぎるってゆうか、射表と全然違うってゆうか、射心がどこなのかさっぱりわからなくて・・・・・恥ずかしながら、一発も的に当たりませんでした。超ムズいですよね~」

 

 

「散布界が?・・・・・あ・・・そういう・・・・・ええ、そうかも知れないわね・・・」

 

 

「?」

 

 

ザラの一瞬戸惑う仕草に、衣笠は《あれ?アタシ何か変な事言ったかな?》と訝しむ

 

 

 だが、ザラは涼しい顔で何事もなかったかのように振舞ったため、衣笠もそれ以上は考えるのをやめた

 

 

 

 

 

 

 

平均散布界が広いと、衣笠は言った

 

 

 

 だが、ザラ砲の持つ驚異の長射程は、並みの艦娘には未知の世界である。当然ながらその距離での砲撃はおろか、射撃照準も経験がないのが普通であった

 

 

 そのため、衣笠たちはザラ砲の神髄に気付く事が出来なかった。散布界が広いと感じたのは、決してザラ砲そのものに問題があったからではない

 

 

 

 

 

 彼女たちの未熟が、そう感じさせていただけだったのであるが、その事実に気付きながら、ザラは何も言わなかっただけの事であった

 

 

 

 

 

 

 

「私も・・・dueになるまでは、ここまでうまく当てられなかったのよ。艤装のアシストと、専用砲弾が使用出来るようになったから・・・・」

 

 

「専用砲弾? 何ですか、それ?」

 

 

「203mm/59連装砲専用に調整された砲弾なの。詳しい事は、ちょっと言えないけど」

 

 

「自動追尾とか、そういう特殊機能があるとか?」

 

 

「まさか! 艦娘の装備はそういうの実装しても、マイナス補正が強く働くでしょう?・・・・至って普通の徹甲弾だと思う・・」

 

 

「普通なのに秘密なんですか?」

 

 

「スペックとかそういうことではなくてね、ちょっと訳ありなの。この砲弾はね、本国政府の意向で・・・実戦での使用は私以外には許可が下りていないの・・・」

 

 

「ポーラも・・ポーラさんもですか?」

 

 

「ポーラでいいわよ・・・ええ・・・あの子も使わせて貰えないの・・・」

 

 

「何かしつこく聞いてごめんなさい。でも、砲弾を変えただけで命中精度が良くなるとは思えないけど・・・」

 

 

「・・・もちろん、それだけじゃないけど・・・この子はとてもいい子よ。すぐ機嫌が悪くなったりするから、ポーラと、私以外の人が使うのは難しいけど・・・・」

 

 

「何かコツとかあるんですか?」

 

 

「コツといっても、この子の気分を感じる、としか言いようがないかな」

 

 

「いやいや、感じるとか・・・天才ですか・・」

 

 

「いいえ・・・天才はあの子の方・・・・」

 

 

 

そう言うと、ザラはうつむいた

 

 

 

「・・・これは・・・本当はZara砲じゃなくて、《Pola砲》って呼ばれてたのよ・・・・・・」

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 

 

「ううん、何でもない・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件の後から、足柄はずっと考えていた

 

 

 

 自分は、どうするべきなのか・・・・

 

 

 

 

 

 

 

Ⅱ 足柄の独白、そして・・・

 

 

 

 

 

 

 妙高姉さんは、初めから態度が一貫している。あの事件の後も、相も変わらず欧州から国際電話で那智にお説教しては溜息をつくという、いつものルーティーンは変わらない・・・まったく以て、揺るぎなかった

 

 今更ながらに思う。あの人は、ずっと那智の事を心配してお小言を言っていたのだ。本当に、大した人だと思う

 

 

 どうして妙高姉さんはあんなにも強いのだろう? 同じ妙高型で、スペックは殆ど変わらないのに・・・・艦娘としての《格》がまるで違う・・・・・私は、あんな風に強くはなれない・・・・

 

 

 

でも、末っ子の羽黒は、あんなに懐いていた那智を突き放し、決別する覚悟を決めた

 

 

私は知っている

 

 

 あの、特別演習で那智を完膚なきまでに叩き潰した次の日、帰って来なかった那智の部屋で、一人声を殺して泣いていた羽黒の事を・・・・

 

 

 

私は・・・中途半端だ・・・

 

 

 

 結局の所、私は那智を突き放しきれなかった・・・・最初は、赤城さん達の言う事に賛同し、それが那智のためだと思い、距離を置いた

 

 

けれど・・・

 

 

 あんなにも、壊れてしまいそうな那智を見てしまったら、どうしても放ってはおけなかった。自分は、那智と距離が近すぎるのだ

 

 

 

 

 

 あの事件の後、霞ちゃんが二水戦と掛け持ちで礼号組を立ち上げてくれていた。行き場のなくなった私の為に用意してくれたのだ・・・今更那智の所に戻った所で、かえって拗れるだけなのはわかっているから・・・あの時は随分キツい事を言われたけど、霞ちゃんはやさしい・・・・本当に涙が出る・・・

 

 

 あの後、謝罪も兼ねて、恥を忍んで阿武隈に相談した。愛弟子に大怪我をさせられた彼女からすれば、私は随分と厚かましい女に見えただろう。それなのに彼女は、今は無理だが、折を見て(赤城さんには内緒で)六駆の子たちを那智の元へよこしてくれると言ってくれた・・・感謝しかない・・・本当に彼女には頭が上がらない・・・ 

 

 

 

 

 

 

 妙高姉さんは、多分心配ない・・・でも、妹の羽黒は、深く傷ついている・・・・・

 

 

 羽黒には、那智の事で立ち止まって欲しくない・・・あの二人には、前に進んで欲しい・・・そのためには、私は何ができるだろう・・・?

 

 

 

 

 どうすればいいのか、私にはわからない・・・・・何をしても、間違えてしまうような気がしてならなかった

 

 

 

 

今の私には、正常な判断は難しい・・・私は・・・多分・・どうかしてる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・う~~~~~~~~~~~」

 

 

 

 

小さな唸り声を発したと思うと、

 

 

 

 

「え~い、やめやめっ!!! こんなの私らしくない! もう悩むのやめたっ!!!」

 

 

 

唐突に足柄は吹っ切ろうとする

 

 

 

 元々、天真爛漫ではっちゃけた性格の足柄は、ベクトルさえ定まれば切り替えは早いはずであった。ここの所ずっと鬱屈した日々を過ごしていた彼女であるが、元来うじうじするのは向いていなかった

 

 

 

 

「こーゆー時は、バンバン撃ちまくるに限るわね! ええ、みなぎってきたわー! これよぉっ!!!」

 

 

 

 

 一見、自棄になっているようにしか見えないが、これは別に思いつきだけで言った訳では決してなかった

 

 

 

これは・・・前から考えていた事だった

 

 

 

 那智は、私とのレベル差をかなり気にしている。差が詰まると、決まって那智は問題を起こす

 

 

 ぬいちゃんに大怪我を負わせてしまったのも、丁度そんな時だった。そしてあの特別演習で、妹の羽黒にこっぴどくやられてからというもの、それは益々酷くなっていた

 

 

 本当は、那智もわかっているのだと・・・思う

 

 

 那智は・・・・姉妹の中では疑う余地もなく・・・・・・・・・最弱だ、という事を・・・・

 

 

 それに気付いてから、私はずっと考えていた

 

 

 これは私の本音だ・・・もう・・・那智が醜態を晒す姿を・・・見たくなかった

 

 

 あの、男気があって、竹を割ったようにさっぱりとした性格の那智は、私にとって、妙高姉さんとは別の意味で誇らしい姉だった

 

 

 あんな情けない姿を晒させる位なら、私はいくらでも那智の慰めになろうと・・・・恐らくはずっとそう思っていた・・・のだと思う

 

 

 那智が私を見下す事で、一時の慰めを得ているというのなら、私はいくら踏みにじられても構わない・・・・

 

 

 それで那智の気が済むのなら・・・・

 

 

 

 

 例え、それが只の幻想であったとしても・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 足柄が、突然射撃練習を思い立ったのには、理由があった。それは・・・妙高や羽黒の言っていた事が頭にあったからである

 

 

 

 艦娘は、実戦形式の演習や、実戦を経なければその経験がステータスに反映される事がないため、射撃練習でLVが向上することはない。那智に言わせれば、レベル上げが期待できない射撃演習など無意味で、やる価値はない、そうだ

 

 

 だが、妙高や羽黒は全く逆の考えだった。LVやステータスの向上は単なる結果でしかなく、地道な訓練を日々繰り返し、絶対の自信を持つまでやり抜いて、それでやっと実践で使える程度になるのだ、と。日頃の訓練への取り組み方を見る限り、その考えに確信を持っているのが覗えた

 

 

 それは皮肉にも、先日の特別演習でそれが証明されてしまっていた

 

 

 いずれにせよ、射撃訓練でLV上げが期待できないのは今の足柄にとっては好都合だった。いくら努力してもステータスに反映されないのなら、悪戯に那智を刺激せずに済むからだ

 

 

 

 

 それに・・・仮にも足柄は《飢えた狼》と言われた妙高型を標榜する重巡洋艦である

 

 

 

 

 体裁はどうあれ、やはり強くありたいと思う本能には抗えなかった

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・何だかなぁ・・・」

 

 

 

 

我ながら、支離滅裂というか・・・・歪んでいる・・・とは思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかんいかん、また落ち込んでる! しっかりしろ! 私っ!!!」

 

 

 

 

 

 

気を取り直して、足柄は射撃演習場へと足を向けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習場に着いてから、足柄は舌打ちをする

 

 

 

「いっけない、今日は演習場、整備でお休みだったっけ」

 

 

 

 せっかくのやる気を削がれた足柄は、間宮で甘味のやけ食いでもしようと踵を返そうとしたその時・・・・

 

 

 

 

 

「・・・ドーーーーン!・・・・・ドーーーーン!」

 

 

 

 

 

「あれ?・・・・・誰か・・・・撃ってる・・・!?」

 

 

 

演習場の方から、砲撃音が聞こえていた

 

 

 

「お休みのはずなのに先客?・・・・がいるわね・・・・・あれは・・・・」

 

 

 

 

 

そこにいたのは・・・・ポーラだった。傍らには夕張もいた

 

 

 

「ちょっとポーラ! 何してんのよ!今日はここ、入れないのよ!」

 

 

「お~、ぁしぃ~がら~、ボンジョルノ~」

 

 

「足柄よ!も~いい加減に覚えなさい!」

 

 

「え~、そうなんですかぁ? 違ってましたか~?・・・どこがですか~?」

 

 

「・・・もういいわよそれで(汗)・・ところで、ポーラ、休みの日に演習場に忍び込んで練習?」

 

 

「ん~、ポーラわぁ、ほら、ゅう~ばりぃ~のお手伝いですぅ~」

 

 

「お手伝い?」

 

 

「ほら~、アレですよぉ~、兵装実験・・・なんでしたっけ????・・・重巡?」

 

 

「いやいや、それは夕張の二つ名でしょ! ポーラはそれ、ないから」

 

 

「?・・・とにかくぅ、そういうやつですよ~」

 

 

 

 

そこへ夕張が呆れたように入ってきた

 

 

 

「何馬鹿な事言ってんのよポーラは。武装のテストでしょ!」

 

 

「ぇへへ~、そういえばそうでした~」

 

 

「相変わらずのぽんこつね~、ポーラは」

 

 

 

 

 先程までブルーが入っていた自分とは違って、この子は気楽でいいわね、と半ば呆れる足柄だった

 

 いつ話しかけても、ポーラとはまともにコミュニケーションがとれる気がしなかった。ワインの飲み過ぎで、本当に頭がバカになってるんじゃないかと、割と本気でそう思っていた

 

 

 

 彼女から見て、ポーラという艦娘は《ザラのおまけ》に過ぎなかった。あの優秀な姉をこの鎮守府に招聘するにあたり、ザラがポーラの同行を移籍の交換条件として認めさせたのだろう・・・と

 

 そうでなければ、ただでさえ艦娘の充実したこの鎮守府にこのぽんこつ娘を招き入れる理由がない・・・そう思っていた

 

 

  何しろ、ザラはこの妹、ポーラを《溺愛》していた。人目も憚らず、甲斐甲斐しくあれこれと世話を焼く光景は、この鎮守府における一つの風物詩となっていたからだ

 

 

 

《ま、頭の方はともかく、見た目はかわいいからね、この子は。愛嬌もあるし》

 

 

 

 

などと、かなり失礼な事を足柄は思っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この足柄の予想は事実とは異なる。むしろ全くの逆であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おまけ》は・・・・ザラの方であった

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな不遜な事を考えていた足柄であったが、少し気になる事があった

 

 

 

何故ここに夕張がいるのだろう?

 

 

 彼女は今、大本営から派遣されてきた明石と共に、深手を負った不知火の艤装の再建造で忙しい身の上のはずである。こんなところでポーラと遊んでいる暇はないはずなのだが・・・・

 

 

 

 

 

 

「夕張おつかれ~。艤装のテストって何? 何でポーラなの?」

 

 

 

 畳みかけるように質問攻めする足柄であったが、そんな気易い彼女に対し、夕張はいぶかしそうに眉を潜める。迷惑しているという気持ちをまるで隠す気がないのは、いかにも夕張らしかった

 

 

 

「その前に、足柄さん・・・・今日はここ、立ち入り禁止なんですけど?」

 

 

「でも、あなたたちはいるじゃない? 何で?」

 

 

 

まるでとりつく島もない。こういうタイプはまともに相手をするだけ無駄だと悟る

 

 

 

「・・・・まぁ、足柄さんは妙高さんの妹だし・・・・まぁいいか・・・・」

 

 

「・・・?」

 

 

「一応、他言は無用ね? 整備日だからお休みってのはウソ! この射撃テストを誰にも見せたくないから便宜上そうしてるだけ。 わかった?」

 

 

「・・・・わかんない。 ちゃんと説明してよ!」

 

 

「んもぅ、しょうがないなぁ・・・・ホントに内緒なんだからねっ?」

 

 

「言わない言わない! だから教えて!」

 

 

 

「・・・さっき、足柄さんはポーラの事をポンコツって言ってたけど・・・・・」

 

 

 

少しだけ逡巡したあと、夕張はこう言った

 

 

 

「・・・今はあんなだけど、昔は凄かったらしいよ。子供の頃は《イタリアの至宝》とか呼ばれてたんだって」

 

 

 

夕張の、予想外の言葉に少し驚く。そしてその内容にも

 

 

 

「至宝? ポーラが? なんかの間違いじゃない?」

 

 

「いやマジで。ザラもまったく叶わなかったって聞いた」

 

 

「それ、ドコ情報?」

 

 

「ザラが言ってた。ポーラは憶えてないって」

 

 

「だよね。身贔屓にも程があるわ」

 

 

「でもさ、それがもし本当だとしたら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・どうしてこうなった?」

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりぃ~、バレルはアンサルド社製に限りますぅ~! Grazie! Grazie!!ですぅ~。あなたも飲みますかぁ~?」

 

 

 

 ちょっと目を離した隙に、ポーラはもうすっかり出来上がっていた。そして203mm/59連装砲のバレルに赤ワインを流し込もうとした所を、夕張がすんでの所で止めた

 

 

 

「ちょっ、やめんか! この酔っ払いっ!! バレルが歪むでしょっ!!」

 

 

「ま~だ~一発も撃ってないから大丈夫ですybxあくs・・・あひゃひゃひゃ~」

 

 

「馬鹿言ってんじゃないのっ! 散々撃ちまくった後でしょうにっ!!」

 

 

 

《ちっ! ダメだこいつ》

 

 

 

 舌打ちする夕張を余所に、ワインの瓶を抱きしめたまま、ポーラは波止場でごろりと寝転んだ

 

 

 

「お~い、艤装のテスト、どうすんの? もうやらないなら片付けるよ! あたし忙しいんだから! いくら明石さんが来てるからって、任せっぱなしに出来ないんだからね?」

 

 

「わかってますですぅ・・・・・・も~い・・・いっぱつ・・・いっぱつだけ・・・撃ちま・・・・・うぷ・・・」

 

 

「うぁ、ちょっと、ここで吐くなっ!!!」

 

 

「えろえろえろえろえろえろ~~~~~~~~~~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後

 

 

 

 

「いたい~、いたいですぅ~ もう、飲まなきゃやってられない~」

 

 

「撃つのか飲むのかどっちかにしな! いいかげんにしないとぶつよ!」

 

 

「もうぶたれてるような気がしますぅ・・・・うーーーー、撃ちますよぅ~」

 

 

 

 

「ねぇ、夕張ぃ、こんなに泥酔しちゃって危なくない? 止めさせた方がいいんじゃ・・・」

 

 

「あ~、大丈夫大丈夫。こいつ、一発撃てばシャキッとするから」

 

 

「いや、その一発目が怖いんですけど・・・・」

 

 

 

 

「いいですかぁ~? 撃ちますよぉ~? ・・・Fuoco!!」

 

 

 

 

「ドーーーーーン!!・・・・・・・・・ドーーーーーン!!」

 

 

 

 

「あ、もう撃っちゃったの?テストなんじゃないの!?」

 

 

「あちゃ~、酔っ払ってると強気だわ。あっち狙ったかぁ・・・しかも二発撃ってるし」

 

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 

 ポーラの放った二発の砲弾は、高い放物線を描きながら水平線の向こう側へ消えてゆく。夕張が用意したモニターが、弾道をリアルタイムに追尾していた。そしてその二つの砲弾は、20cm級のターゲットの遙か奥、14インチ級の的の、その更に奥にある黒塗りのターゲットの・・・・・それを支えている支柱に直撃した

 

 

 

 

 そして・・・・

 

 

 

 

 一発目が直撃した所と寸分違わず同じポイントに二発目が直撃し、支柱がポッキリと折れてしまった

 

 

 

 そして、撃ち果たして満足したのか、ポーラはその場に座り込み、再びワインの瓶を抱きしめ横になると、そのまま寝てしまった

 

 

 

 

 

「・・・え・・え? ちょっと待って、あれって、何?」

 

 

 

「え?・・・・・・・・・・・・・的だけど?」

 

 

 

「そうじゃなくて、今、14インチターゲットの先にある黒いの・・・それの支柱にに当たったでしょ!!」

 

 

「・・・そぉねぇ・・・命中したけど?・・・・それがどうかしたの?」

 

 

「あんた、わかってて言ってるの? 14インチターゲットは長距離・・・戦艦の有効射程距離じゃないの! それより奥まで飛んでるのよ! しかも支柱に当たってるじゃない!!!」

 

 

「あははは、ごめん・・・・そっか・・・・足柄さんは知らなかったんだね。妙高型の人は、みんな知ってるかと思ってた」

 

 

「・・・妙高型って・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが・・・・ポーラの本当の実力だよ・・・」

 

 

 

そう言った夕張の瞳はどこか悲しそうで・・・いや、今にも泣き出しそうに映った

 

 

 

「あ、あんなに飛ぶなんて・・・・」

 

 

 

足柄は唖然とした。重巡が、超長距離まで砲弾をぶっ飛ばすなんて話は、聞いた事がない

 

 

 

「すごい・・・・あ、でも、当たったのは流石にまぐれよね?」

 

 

 

 

 

「まぐれか・・・・」

 

 

 

 

困ったような、何とも複雑な表情をして夕張は呟く・・・

 

 

 

「私ね、もうここ何年もポーラの射撃テストに付き合ってるんだ。それでね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ポーラが二発目を外したところ、まだ一度も見た事ないんだ・・・・」

 

 

 

 

「・・・・うそ・・・・」

 

 

 

 

 

 

二発目・・・とはつまり、弾着観測後の射撃を意味する

 

 それはすなはち、ターゲットの位置を特定した時点で、ポーラは絶対に外さないと言っているに等しかった

 

 

 

 

 

「妙高さんと、羽黒さんは知ってるわよ。一時期ポーラと一緒に射撃練習してたから」

 

 

「え、うそ、聞いてないよそんな話」

 

 

「そう? 妙高さんはザラやポーラとは古い友人でね、以前から交流あったのよ・・・特に妙高さんとは、ちょっとあるみたいだったなぁ・・・」

 

 

「・・・・姉さんが?」

 

 

「うん・・・何か思うところがあったみたいで、一時期 203mm/59連装砲を借りて撃ちまくってたわね」

 

 

 

「・・・それで?」

 

 

「《まだ・・・ダメですね・・・今の私では、荷が勝ちすぎています》って言ってた。それ以降、妙高さんがアレを使ってるのを見た事ないわね・・・」

 

 

 

《・・・あの妙高姉さんが・・・持て余すなんて・・・》

 

 

 

「因みに今日のターゲット・・・あの黒い的は、Zara砲の最大射程距離、40.208kmに設定してあるわ」

 

 

「最大射程って・・・・それ、的当て出来る距離じゃないよね?・・・40kmって・・・・・大和型の46サンチ砲の最大射程と大して変わらないじゃないっ!!あぁ、何よそれ、もう信じらんない!! バケもんじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

足柄は・・・衝撃を受けていた

 

 

 

 

 日頃から抱いていたポーラのイメージと、今、目にした光景とのギャップの折り合いが付けられず、混乱していた

 

 それも、ちょっとやそっとのレベルではない。考えるまでもない・・・・この地球上に、ポーラ程の撃ち手が他に存在するはずがない事くらい、足柄にだって理解できる

 

 

 

 理解は出来るが、規格外にも程がある・・・・違和感がありすぎて、心で受け止められずにいたのである

 

 

 

 

 

 

 

《・・・・何者なの?・・・この娘・・・》

 

 

 

 

 

 

 

ふと、我に返り・・・・・冷静に・・・足柄は考え込む

 

 

 

 《この距離は、大和さんだって夾叉させるのでさえ難しい・・・・46サンチ砲は散布界も広いしとてもじゃないけど・・・・・それに・・・35kmでさえ、当てたという話は聞いた事がない・・・というより不可能に近い・・・・・・・・》

 

 

 

 

そして足柄は気付く

 

 

 

 

《・・・そう・・・か・・・・妙高姉さんや羽黒が、あんなに凄いのにちっとも修練を妥協しないのは、これを見て知っていたからなんだ・・・・・》

 

 

 

 

 確かに、今のポーラの砲撃を見てしまったら、妙高も羽黒も並の重巡にしか見えない・・・・不遜にも、足柄はそう思ってしまった

 

 

 

「ほ~らっ、ポーラ起きろっ! も~だらしないんだから」

 

 

 こともなげにポーラを叱り飛ばす夕張。これがどれ程凄い事か知らないんじゃないかと思うくらい、呆れる程に普通だった

 

 

 

「あのさ、ポーラってこんなに凄いのに、あんまり演習に出てないよね? 何で?」

 

 

「何でって、そりゃあポンコツだからに決まってるよ。実戦じゃ、あんまり役に立たないもの、この子」

 

 

「え、何で?」

 

 

「ポーラが凄いのは二発目だけ。あとは撃てば撃つほどにどんどん外れてくのよね~ だからだ~れも組みたがらない 従って演習の機会は規定ギリギリの三回まで」

 

 

「いやいや、弾着観測するから、修正して当たるようになるでしょ普通」

 

 

「Zara砲ってさ、二発目以降は弾道が安定しないのよ。だから弾着観測も最初の一発目だけ。それ以降はやっても意味ないのよね。そうでなくてもあいつの狙う距離って半端ないし」

 

 

「だからって、二発目から当てる?普通? 照準だけじゃなくて、風や温度に湿度、バレルにだって一つ一つ癖があるし・・・地球の自転や揺られる波の動きまで、射撃指揮装置を使っても、完全な弾道予測は不可能じゃない!それ以上の力があるってのポーラは!?」

 

 

 

「・・・あるのよ・・・・・・・・・だから言ったじゃない。あの子は《イタリアの至宝》なの・・・・・《元》だけど」

 

 

 

それを聞いて、足柄はまた考え込んでしまった。そして何やら思案したかの後・・・

 

 

 

 

「ねぇ・・・それだけの力があるなら、何もZara砲に拘る必要ないんじゃない? 例えば3号砲なら、きっと活躍出来るよね? 夕張はどう思う?」

 

 

「・・・それは・・・・多分・・・そうなんだと思う・・・・」

 

 

「・・・!!・・・じゃあ!!!」

 

 

「だけどそれは無理。 あの子はZara砲以外に興味ないもの・・・・」

 

 

「何で? もったいないじゃない! あんなに凄いのに。これを見れば、誰もポーラの事を馬鹿にしたりしないでしょ?」

 

 

 

 

 そう口にした傍から、足柄は自分もポーラの事を軽んじていた一人であることに気付き、恥ずかしさで赤面する

 

 

 そんな足柄の様子に夕張は気付いていたが、敢えて見て見ぬ振りをした。そんな光景は、もう嫌という程見慣れていたからだ

 

 

 

 

「・・・正確に言うとね・・・ポーラは、Zara砲の改修以外は興味ないのよ・・・というか、そのためだけに、艦娘やってるようなものだもの・・・・・」

 

 

「それって、どういう・・・・」

 

 

 

 そこまで言いかけて、足柄は飲み込んだ。夕張が暗くうつむいている様を見て、どうやら抜き差しならぬ事情がある事を察したからであった

 

 

 

「ポーラはね、何年も前から、それはもう、毎日毎日、Zara砲で撃ち続けているの・・・・その膨大な射撃データを私が解析して、ザラの艤装のアシストシステムのバージョンアップに反映させているわけ・・・。あの子は、言ってみればザラのためだけに、艦娘やってるのよ・・・」

 

 

 

「・・・そんな・・・・何で・・・・・」

 

 

 

「・・まぁ・・・色々あるのよ・・・・・私じゃ、そこまで踏み込めないから・・・さてと」

 

 

「【アレ】のテストの結果は上々だったし、今日はまぁいいかな・・・私、このあと明石さんの手伝いしなきゃならないから、悪いけどポーラとその子の事お願い・・・・」

 

 

 

「あ・・・うん、わかった」

 

 

 

 

 

 そういうと、夕張は計測機材と弾薬箱を乗せたカーゴを押して、工房へ戻っていった。その、弾薬箱には《Fase 2》、《Fase 3》と書かれていた

 

 

 

 

《・・・何?・・・何種類かの砲弾をテストする予定だったのかしら?》

 

 

 

 

「・・・・あれ?」

 

 

 

 

今頃になって足柄は気付く

 

 

 

 先程までカーゴが止まっていた所に、トリコロールカラーのミニスカワンピの小さな艦娘が、膝を抱え、丸くなって寝息を立てていた

 

 

 

 

「・・え?・・・・この子・・・・・シロッコ?・・・何でこんな所に・・・?」

 

 

 

「・・・ふゎあ~~~ぅん・・・・?・・・あれぇ?・・・なんでぁしぃ~がらぁ~がいるの~? ゅう~ばりぃわぁ?」

 

 

「それはコッチの台詞よ! アンタこそ、こんなトコでお昼寝して! 危ないじゃない!」

 

 

「お昼寝じゃないよ~仕事だよ~。シロはポーラのバックアップだから」

 

 

「バックアップ? 仕事って? 何の?」

 

 

「それはひみつ・・・・言ったらアクィラに怒られるし、ザラのパスタが食べられなくなるの~」

 

 

「アクィラは今イタリアでしょ?」

 

 

「やぁ~っ! 遠くにいてもアクィラ怖いの~」

 

 

「わかったわかった、もういいから、私はポーラ運ぶから、シロはそこの酒瓶片付けといて」

 

 

「あい~、Ricevuto!」

 

 

「ん?・・・あぁ、そういえば・・・」

 

 

 

足柄は、ふと思い出す

 

 

 

「・・・確かさっき・・・・散々撃ったって言ってたような・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 そう・・・・夕張の言っていた事には矛盾があった

 

 

 

 三発目以降は当たらないと言っていたはずなのに、散々打った後の最後の締めに、とんでもない離れ業をやってのけたのである

 

 

 

 その時の物言いが少し気になっていた足柄であったが、先程のポーラの衝撃的な光景が、彼女の頭の中で何度も何度も思い返されている内に・・・・やがて忘れた

 

 

 

 

「・・・それにしても・・・」

 

 

 

 

 

「身近に・・・・こんな凄い子がいたなんて・・・・・」

 

 

 

 

 

足柄は、ポーラを抱き起こすと

 

 

 

「ほら、部屋まで送ってってあげるから、背中に乗って」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・うぷ・・・」

 

 

 

 

「!!!!・・・わっ、ちょ・・・・今はダメぇ~~~~~~っ!!!!!」

 

 

「おろおろおろおろおろおろおろおろーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

Pola 02 軌道上狙撃 に続く

 

 

 

 

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