圧倒的な戦闘経験がありながら、通算MVP獲得回数ゼロ、撃沈数ゼロという戦闘スタイルの海風は、未だLV.98で足踏みしていた
徹底した生への執着と戦闘への嫌悪から生まれた海風という艦娘の生き方が、ひとりのUNEI神の関心を引く。そんな海風がまだ駆け出しに過ぎないひとりの艦娘・不知火と出会う
「海風も・・・・そう、思ったから・・・艦娘になる事を受け入れたのではないのですか?」
不知火が海風に投げかけた一言に・・・共鳴するかのようにこみ上げてくる艦娘としての想いを力づくで押さえ込むのだった
(2021年4月16日 執筆 2025年2月23日加筆修正)
「・・えっ?・・・ぬいちゃんが?」
哨戒任務を終えた海風は、海水と汗とでべたべたになった髪をシャワーで洗い流していた
「うん・・・そう・・・・ゴーヤさんから、さっき言われた。海風にも言っておいてって」
早々にシャワーを浴び終えた霰は、髪を乾かす間もなく、トレードマークのバケツキャップを被る
「今日も神通さんのトコ? 相変わらず大変だね、十八駆は」
「・・・うん・・・もう・・・何て言うか・・・・死ねるかも・・・」
ポーカーフェイスで表情の読み取りにくい霰ではあるが、口が三角になっている時は、相当に参っている時なのを海風は知っている。流石にゲンナリしているようだ
海風と同室の霰が所属している第十八駆逐隊は、第二水雷戦隊所属筆頭の精鋭部隊である。故に神通からの信頼も厚く、練習量も質も他の駆逐隊より二割増しでキツかった
「神通さん、容赦ないからね。 ホント、ご愁傷様」
「・・・それはいい・・・・確かに・・・伝えたから・・・あと、よろしく」
「了解。神通さんによろしく伝えておいて」
両肩をがっくりと落とし、背中を小さく丸めながら退出する霰を見送りながら、海風は物思いに耽る。
《そういえば、神通さんとは最近いっしょに海に出てないなぁ・・・》
海風の所属する第二十四駆逐隊は、そのメンバー全員が改白露型のみで編成された純粋な姉妹艦隊であり、そして二水戦所属でもある。本来ならば、霰同様に二水戦のブリーフィングに参加しなければならない海風なのだが、彼女は現在、鎮守府近海哨戒任務において旗艦を任されており、海図データの更新作業も兼務している為、彼女に負担をかけないよう本隊任務は免除されていた。
残された二十四駆は海風に代わり、二つ下の妹の江風が旗艦を務めていた。海風以外は全員Lv.99の限界を超えており、十八駆に次ぐ精鋭部隊であった
某鎮守府では、近海の対潜哨戒任務を、まだLv.99未満の高練度の駆逐艦に任せるのが慣例となっている。現在海風のLvは98。もうしばらく務め上げれば、旗艦の任を霰に移譲する事になる。そうなれば、霰と入れ替わりに、二水戦の演習に復帰する事になるだろう
「・・・この平和な日常も、もうすぐ終わりかぁ・・・・」
また忙しくも過酷な日々が始まる事を思うと、少し懐かしい気もするし、正直、勘弁して欲しいという気持ちもなくはない
などと、ぼんやりと感慨に耽っていると・・・・
「こちらにいたのですか、海風」
と、海風に話しかけてくるものが一人
「・・・あぁ・・・ぬいちゃん。 もしかして、私を探してたの?」
「ええ、ゴーヤさんから話は伺っていますか?」
「うん、知ってる。コッチに来るんだってね」
「ええ。・・・と言っても、二週間だけなのですが。冷やかしみたいで、申し訳ありません」
「いいよ、ゴーヤさんからの頼みだし。 それはそうと、ぬいちゃん、今レベルいくつ?」
「・・・17、ですが」
「そっかぁ・・・それだと、ちょっとキツいかなぁ。私的には、もう少しレベルが上がってからの方が安全だと思うけど」
「・・・・安全、ですか・・・・・確かに、今の不知火では、海風達に、負担を強いる事になりますし、その点は申し訳なく思います。」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて、今のぬいちゃんのレベルだと先制対潜攻撃出来ないし、耐久値も低いからどうしても・・・・ね?」
「・・・そこは、あまり問題ではありません・・・・というより、練度の低い不知火が、対潜水艦戦闘に出なければならなくなる事態も、想定しなければなりません。例えレベルが低くとも、不知火は艦娘なのですから」
「・・・・え・・・?・・・あぁ、そうだよね?」
海風は、不知火が何を言っているのか、すぐには理解できなかった。練度の低い艦娘を、危険な海域に連れ出すという発想が、海風にはなかったからだ。ふと気がついて、どういう事だろうと思案しようとした矢先、
「それで、今日海風を訪ねてきたのは他でもありません。海風に教えてもらいたい事がありまして」
「・・・・え?・・・・何?」
「・・・どうかしたのですか? 海風? 疲れているのなら、日を改めますが?」
「あ、ご、ごめん、大丈夫だよ? それで、え~と、何だっけ?」
「海風達が哨戒に出る海域のスケジュールと、海図データを教えてもらいたいのです」
「え・・・?」
「鎮守府近海の海図データの管理は、海風が担当だと聞いています」
「・・・いいけど、二週間しかいないんだよね?近海の海図データ、かなりの量になるよ? まだ早いんじゃないかな? ぬいちゃんはまだ対潜能力が高くないし、戦闘に慣れる方が先なんじゃ・・・」
「・・・逆ですよ海風。 対潜能力が低いからこそ、それ以外の所で補う必要があります。不知火に出来る事は何でもやらなければなりません」
「それはそうだけど、そんなに焦らなくても、じっくり取り組めばいいんじゃない?」
「深海棲艦は、こちらの都合に合わせてはくれませんよ、海風」
《・・・何なんだろう? このやる気は・・・噂通り、ぬいちゃん半端ないなぁ・・》
改白露型のネームシップ海風と、陽炎型二番艦の不知火とでは艦歴も海風の方が上だし、Lvも80以上も差がある。にもかかわらず、不知火はまるで歴戦の武士のような風格を漂わせていて、海風は何となく気圧されているような気がしていた
「・・・うん、わかった。 30分後に私の部屋に来て。MicroSDでいいかな?」
「はい。感謝します海風」
「うん。明日から宜しくね」
不知火を見送った後、海風は部屋に戻り珈琲を淹れながら端末を起動させていた。珈琲と言っても、インスタントである。無論レギュラーの方が好みではあるが、自分で淹れる手間をかける位なら別に缶コーヒーでもかまわない質である。こういうこだわりのない、というか適当な所は、どことなく霰と気が合うらしい
カードスロットにMicroSDを入れ、昨日更新したばかりの鎮守府近海の海図データと、向こう二週間分のスケジュール表をコピーする
「・・・まさかと思うけど、これ全部憶える気なのかな・・・?」
まさかね、と思いながら、コピーの終わったMicroSDカードを封筒に入れる。珈琲を啜りながら、ふと、神通が不知火について言及していた事を思い出す
「・・・そういえば、何か言ってたっけ・・・」
神通が言うには、とにかく与えられた状況で最善を尽くすという事に関しては、不知火程徹底した艦娘はいない・・・・と。
「・・・なんか苦手だな・・・あ~ゆ~タイプ・・・・嫌いじゃないけど・・・・」
この感じは、神通の相手をしている時と、少し似ている気がしていた。正直、神通の事はうっとうしいと思っているが、だからといって別に嫌っているわけではなかった。ただ、傍で見ている分にはいいが、関わると少し面倒で嫌だというだけだった。裏表のない、真っ直ぐな神通の生き方は清々しくてむしろ好きな位である
それは、海風には《ない》ものだから・・・・
海風は、数いる某鎮守府所属駆逐艦の中でも、かなり優秀な艦娘の一人である。砲撃・雷撃・防空・対潜・艦隊指揮と、バランスのとれた技術と知識、練度の高さを持ち、何事にも動じない強いメンタルと状況判断力は、あの神通でさえ一目置いていた
ただ、高い知識と練度に裏打ちされた戦い方は、戦況を優位に運びはするものの、同じ艦隊を組む仲間達との関係は良好とは言い難く、艦娘としての在り方、考え方にかなりの温度差があった
海風は、艦娘として覚醒した時、艦としても、艦娘としても記憶はきちんとあった。だが、人として生きてきた価値観が、それらを大きく上回っていた
先代の海風は舞鶴近海哨戒任務の折、艤装を破壊され重傷のまま戦線を離脱、そのまま退役し艦娘を返上した
艦娘としての生を全うせず退役した場合に限り、その存在が消滅する事なく人としての人生を歩む事が可能であった
先代の海風が艤装再建造もされずにそのまま退役に追い込まれた事自体は、さほど珍しい事ではなかった。だが実の所、舞鶴は海風の持つ性質の故に、その実力を正当に評価していなかったという側面があった事も付け加えておく
それまで母親不在の日常を余儀なくされていた娘の美海は、艦娘に対してあまりいい印象を抱いていなかった。母は生粋の軍人気質であり、艦娘としてその生を捧げる事を当然の事と考えていた
なので美海は、母親がいつか人魚姫のように泡になって消えてしまうのだと諦めていた
それが突然母親が照れくさそうに実家へ戻ってきたのである。事情を説明し終えると、母はすっぱりと艦娘であった過去を捨て、家庭人として第二の人生を歩み始めた
娘を置き去りに艦娘なんかやっておいて何を今更・・・帰ってきた母親に対し、そう悪態をつく美海であったが、内心はとても嬉しかった
ようやく親子三人が揃って一緒に暮らせる・・・・そう思っていた矢先・・・・
まるで母親と入れ替わるかのように・・・・・美海は【海風】として覚醒した
母親からは、日頃から艦娘に関する事情は詳しく聞いている。原則として、艦娘は国から十分な保護と報酬が約束されている代わりに、艦娘である事に恭順を示さなければならない。無論拒否する事も出来なくはないが、その場合も予備役扱いとなり、有事の場合は招集に応じなければならなかった。艦娘の絶対数が不足している現状や過去のデータを見る限り、生きている間に複数回招集されるのが普通だった。しかも禄に訓練を受けていない状態で招集される方が【死】のリスクが高い。要するに、艦娘としての義務から完全に逃げ切る事はほぼ不可能であった
死のリスクその他を勘案した上で総合的に考えた結果、美海は渋々艦娘となる事を受け入れたのである
覚醒した美海・・・いや、海風の中に、かつての改白露型一番艦の・・・そして艦娘・海風の記憶が流れ込んでくる・・・・その中には、母親が艦娘として過ごした日々や様々な戦闘経験・・・艤装を破壊されて死にかけた母親の姿が・・・・その映像がフラッシュバックされていた
その圧倒的な光景に暫く放心した後、海風は何かを悟ったかのように、黙って舞鶴鎮守府に赴任した。母親にも、家族にも何も言わずに
舞鶴鎮守府へ赴いた海風は、艦娘として着任する条件として舞鶴以外の鎮守府への転属を要求した。慰留は頑として受け付けなかった。母のいた鎮守府だけは、絶対に嫌だった。ここで正気を保って艦娘として生きてゆく自信が海風にはなかったからである
海風は戦いに微塵も興味がなかった・・・というより、はっきり嫌っていた。艦娘として覚醒した時も、《私の人生、詰んだ》という思いしかなかった
美海は、本当に普通の女の子だった。海風へと覚醒した後も、その意識は艦娘としてのそれを大きく上回っていた。人間として育ち経験してきた記憶が、艦娘の意識を凌駕しているという、非常に珍しいケースが彼女だった
何の因果で殺し合いに身を投じなければならないのかと思った所で、因果関係は艦娘である自分自身が何よりよくわかっている。逃れられない運命を呪った所で、事態は何も変わらない
受け入れるしかない。でも、死ぬのだけは御免だ・・・絶対に死んでたまるか・・・・・
・・・・そう思っていた
海風は、過去の記憶を遡る過程で気付いた事があった。海風は、艦時代も優秀な艦であったが、只の一隻も敵艦を沈めた経験がなかったのである。海風は思う。昔から自分は、あまり戦いが好きではなかったのかも知れないと・・・
転属願いは了承され、海風は一日も舞鶴で働く事なく某鎮守府へと配属されるはずだった・・・・
ところが、運の悪い事にこの43年間続いていた比較的穏やかな時代が終焉を迎え、佐世保沖海戦が勃発。海風の転属願は一時棚上げされ、碌に訓練も受けないまま、赤城擁する空母機動部隊貴下の第六戦隊、それも神通の部隊に配属される羽目になったのである
第二輪形陣に配され、第一、第三、第四、第十一航空戦隊の護衛艦として初陣を経験した海風であったが、幸いな事に前線の大和らの活躍により本体への空襲は殆どなく、海風は一度も発砲する事なく終戦を迎えた
佐世保沖海戦終了後の呉事変を経て一年後、ようやく某鎮守府への転属の辞令が降り、同鎮守府へ配属された
海風が某鎮守府に転属してきた時期は、丁度赤城が提督を辞して新しい提督が赴任するという事でちょっとしたニュースになっていた。第三次深海棲艦戦争以降、提督就任に関する要項の見直しがあり、二年更新となった提督就任試験が実施されるようになっていた。その最初の提督達が各鎮守府に着任する時期と重なっていたのであるが、某鎮守府も例に漏れず新しい提督が着任する運びとなっていた
尤も、誰が提督だろうがどんな艦娘がいようが海風にとってはどうでもいい事であった。彼女の関心事はただ一つ。いかに危険を回避し生き延びるか・・・・であった
ところが、である
そんな海風が初めて某鎮守府を訪れた時・・・いや、某提督に出逢った時と言い換えるべきであろうか・・・
ごく普通の女の子であった海風は、たった一つの出逢いから、それまでの重い認識に大きな変節を迫られていた・・・
「・・・え・・・・うそ・・・・・」
某鎮守府は赤城・加賀更迭事件のあった鎮守府である。事件の被害者でもあり当事者でもある一航戦のいます場所であり、同時に呉事変の首謀者でもある赤城がいる。佐世保沖海戦の後、空位となった某鎮守府提督のポストを一時的に艦娘である赤城が務めた時代が一年程続いていたのは誰もが知る所である。このように何かと事件や問題の多い某鎮守府が、並みの提督では務まるはずがなかった
赤城の後任は相応の大物が派遣された。大本営特務課のトップであり戦術家としても名の通っていた前川一等海佐が就任したのである・・・・が、
海風は、新任の某提督の思慮深い穏やかな物腰と、端正なマスクに目を奪われていた
有り体にいうと、海風は前川に恋をしてしまったのである
これまでの経緯から傷心のはずだった海風は、瞬く間に色めき立っていた。そんな自分のいい加減さに海風自身も呆れかえっていた
なのに・・・
どうしようもなく前川が好きになってしまっていた。とにかく、彼は海風の好みのどストライクだった
あれ程戦いを嫌っていた海風であったが、某提督とお近づきになりたいが為だけに、艦娘として生きていく事を受け入れ決意した・・・・何とも乙女な理由であった
それからの海風は修練に励んだ。元々優秀な血統である海風は、その持てる経験と能力を総動員し、演習をベースに自分を鍛えに鍛えた。演習には実戦に必要な要素が多く含まれている上に、相当無茶をしても死ぬ事はないからだ。ここで目一杯修練を積んで可能な限り自分の戦闘スキルを高めておけば、少しでも死から遠ざかる事が出来る・・・そう考えていた
戦術も必死に学んだ。改白露型駆逐艦の自分に出来る事と出来ない事を、冷静に分析した。生き残るためには、あらゆる状況に対応しなければならない。そのためには戦術の引き出しを可能な限り多く有し、どの分野も満遍なくこなせるように座学の実践化に力を入れた。自身に隙があれば、そこが死線に最も近しい所になる
独りよがりの戦いも危険であると認識していた。自分一人の力だけでは、生き残る事は難しい。仲間をうまく使う事・・・生かす事が重要だ。練度の低い艦娘を入れてもカバーできるありとあらゆる陣形とアレンジ、連携を研究し、自分も含め、仲間を決して死なせない事を最優先とした
そしてこれは海風の戦い方の特徴となる概念・・・・深海棲艦を、撃沈する必要はないという考え方である。反撃する余力を奪いさえすれば・・・・無力化さえすればいい。戦闘中に、トドメに拘り時間と弾を無駄にする瞬間が、自分に隙ができる最も危険な状態であると海風は考えていた
深海棲艦を無力化し、周囲に敵がいない状況が確定した時点で自身が哨戒をしつつ、最も戦闘経験が浅い艦娘にトドメをまかせ、効率よく経験値を稼がせるというスタイルを確立していった。これが最も生存率が高いという、海風なりの結論であった
海風は、戦いに何の感傷も持っていない。艦娘としての矜恃など何もなく、戦果にも全く興味がなかった。ただ、怪我のないよう、無事に早く終わらせてシャワーを浴びたい・・・リビングでまったり過ごしたい・・・・・・そんな風に日々を送りたいだけだった
そして何より某提督と一緒にいたいが為に、海風は艦娘となる事を受け入れたのだから・・・・
母が九死に一生を得て帰還したように、自分もいつ沈むか分からない・・・・だからこそ海風は提督への気持ちを隠そうとはしなかった。自分の気持ちを押し付けるような事は決してしなかったが、任務をやり終えたらやさしく労って欲しいと要求をした
「それだけで、海風は提督のために頑張れます・・・誰一人として沈めさせたりしません・・・必ず、生きて帰ってきますから・・・」
生きて某提督の元へ帰って来て、『よくやったな』とあの優しい掌で頭を撫でられたい・・・・そんな一途で素朴な想いに、某は応えざるを得なかった
なぜなら、その為だけに、海風は必死で生き残る術を学び、自身を鍛えに鍛えたのだから・・・・
その果てに、海風が辿り着いたのが、今の戦闘スタイルであった
短くない日々を艦娘として過ごして来た間、今では仲間達に対してもかつてのような愛着を再び感じていた。自分だけでなく、仲間も誰一人として沈めさせたりしない・・・そう思い、今日まで戦ってきた
仲間が自分の事をあまりよく思っていない事は理解している。でも、例え仲間にどう思われようと、生きてさえいれば、そんな事は海風にとっては些事に過ぎなかった
海風が、随伴艦と馴れ合うのを由としないのは、このような想いからであった
そんな海風だから、戦いの中で、感情がのめり込んでゆく仲間達の気持ちが、彼女には理解出来なかった。同じくクールで通っていながら、その実、身を焦がすような熱いマインドを持つ不知火とは、対照的であった
実際問題として、海風には周りと気持ちを合わせる気がなかったと言った方が正しい。コミュニケーションは、正直取れているとは言い難い面があった。本当の意味で、彼女はクールだった。リザルトの数値、特に味方の損耗率だけが海風にとっての評価基準であり、他はどうでもよかったのである
そんなやる気のなさとは裏腹に、海風は艦隊の司令塔として非常に優秀だった。的確な指示を出し、味方が戦いやすいようにリードし、そして概ねサポート役に徹していた。そして驚くべき事に、海風は就役以来、ただの一隻も深海棲艦を沈めた経験がなかった。それは敵を中破もしくは大破に追い込んで無力化した時点でそれ以上追い込む事をしなかったからである。彼女は、一隻の深海棲艦を二度攻撃して撃沈するよりも、二隻の深海棲艦を中破もしくは大破に追い込み無力化する事を最善と考えていた
実際、この海風の戦い方は非常に理に適っている。反撃出来ない深海棲艦の数が多い程、味方の被害を減らす事が出来る。故に海風が率いる艦隊は水雷戦隊であるにも関わらず損耗率が非常に低く、他の追随を許さない程だった。しかも地味にトップ5に入る位の戦果を安定的に挙げ続けていた
ただ、このような戦い方ゆえに、彼女自身の戦績はその貢献度の大きさに反してあまり高くはなかった。トドメは随伴艦の誰かに任せるため、本来は海風が受け取るはずだったEXPは随伴艦に配当されていた。その結果、今まで随伴した仲間達の大半は海風を追い越し、Lv.99の限界を超え、《ケッコン(仮)》を果たしている者ばかりとなっていた
そしてそれこそが、海風艦隊特有の《不協和音》を生み出す最大の要因であった
海風はレベル上げに興味がない。にもかかわらず僚艦にはレベル上げのためのEXP取得を強要するという、一見矛盾した行動を取り続けていた。生き残る事に執着するのなら、もっとレベル上げに固執するべきであるのだが、海風はその必要を感じていなかった
普通は誰も気にしないリザルト、大破判定回数(続けて撃沈の場合はカウントされない)で海風は某鎮守府どころか国内の全艦娘中、他の追随を許さない圧倒的なトップの記録を現在進行形で更新中であった。最小限の攻撃で深海棲艦を無力化するという・・・・これは決して日の目を見る事のない最高の貢献であった
海風は思う。自分にレベル上げは然程必要ない。そんなものがあろうがなかろうが私は強い。それだけの修練を今まで積んできたのだ。だが僚艦たちは努力も足りないし修練も不足しているからレベルが上がったとしても弱いままだし弱いという自覚すらない
だからせめて高レベル、高ステータスを与えて簡単には死なないように育てなければならない。仲間が一人沈めば、その負担は残された艦隊にのしかかる。あの子たちを優先的に育てないと回りまわって私の命が危うくなる・・・
だから海風にはEXPはいらない。レベルは強さの証明じゃない。生き残る事が強さだ・・・・・と
正直、海風のお目こぼし(海風にはそんなつもりは全くない)で得たEXPなど、居心地が悪い事この上なかった。そんな事をされて嬉しいのは最初だけで、日を重ねる毎に、自分の力で得たわけではない見せかけのLvに不安を抱くのは、むしろ当然の事であった
誰もが一度は海風に言う
あなたも深海棲艦を沈めるべきだ。そして私たちにもあなたのサポートをさせて欲しい・・・と
だが、海風はその点に関しては頑として受け付けなかった。
この艦隊で最も強く、そして戦術的にも優れているのはこの海風です。その私が、現状最善と思われる戦術を執っているにもかかわらず、それを捨て、何故撃沈されるリスクの高まる戦術を取る必要があるのか?・・・・・と
そして海風は言う
「みんなが海風のやり方が気に入らないのはわかってる。でも、私はみんなにどう思われようと構わない。私が旗艦でいる間は、誰一人として沈めさせる気はないから・・・艦隊旗艦である私の命令には従って貰います」
と
そして海風には命令違反を許す隙さえなかった。海風のサポートに廻ろうにも、海風自身が大きなリスクを負いながら(海風自身は十分な安全マージンを保っていると思っている)深海棲艦を撃つ絶好の機会を演出してくれている以上、指示以外の行動は即海風撃沈のリスクを孕んでいたため、事実上言いなりに戦うしか選択肢がなかった
結局、今まで誰一人として海風を説得する事が出来ず、今日まで来てしまったのである
そんなこんなで海風の通算MVP獲得回数はゼロ、撃沈数もゼロ、大破判定国内ダントツトップ・・・・恐らくはこのような記録を持った艦娘は、彼女だけである
ただの一度も深海棲艦を沈める事なく、MVPゼロで今まで戦ってきた海風の実力は、Lv.98というレベルに反して相当高い水準にあり、普通に戦っていたら優にLvカンストいるであろうと噂されていた
この、あまりにも徹底した生への執着と戦闘への嫌悪から生まれた海風という艦娘の歪な生き方が、一人のUNEI神の関心を引いていた。このへそ曲がりで生きるのが下手な海風に、どうしてもGIFTを授けたくなったのである
そして
海風は、鎮守府近海哨戒任務に就いて程なくして、UNEI神からのGIFTを授かっていた
レベルの向上がゼロでもステータスの上限が解除されるという異能、【ゼロ】である
演習、実戦に限らず戦闘経験を積むとレベル毎の上限に縛られず無制限にステータスが向上するという、ある意味かなりチートな能力である
ただ、この能力には、質の高い戦闘経験である事、それに類するステータスの向上に限定される事、ステータスは週七日間これらの条件を満たしても【1】ずつしか向上しないなどの厳しい制限が課せられており、質の高い戦闘経験や訓練を一日も絶やさず継続し続ける愚直さがないと、この恩恵に肖れる事はない
仮に他の艦娘がこのGIFTを授かったとしても、大抵の艦娘は【ゼロ】が発動する前にレベルが向上してしまうため、GIFTの恩恵に肖れる機会そのものが訪れる艦娘はかなり限定されてしまう
つまり、海風のような愚直さと、レベルの向上が極めてゆっくりな艦娘でなければGIFTに気付く事はまずないであろうという、非常にコスパの悪い異能なのである
海風の持つこの特異な能力を、某鎮守府で知る者は極めて限られていた。某提督と大淀、そして夕張の三名だけがその事実を知っていたに過ぎなかった
にもかかわらず、いつしか彼女は【ゼロの海風】という、畏怖とも尊敬とも取れる、何とも有り難くない二つ名で呼ばれるようになっていた
それ程までに、彼女の生き方は異彩を放っていたのである
以前、二水戦で夜間空襲を想定した演習を行った事があった
赤城や、たまたま所用で某鎮守府に来日していたサラトガ等の協力の下行われた夜間防空訓練は苛烈を極めた。闇に乗じて襲い来る艦攻の雷撃は彼女たちの想像を超える恐ろしさで、あまりのキツさにひとり、またひとりと脱落者が相次ぐ中、神通と海風だけが、弾倉を何度も補充しながら戦い続けた。沈まずに夜明けを迎える事が出来たのは、彼女たちだけであった
海風にしてみれば、実戦で生き残るための貴重な経験の一つという認識だったため、やらない理由などなかったし、それをやり切るだけの実力が既に備わっていたという、ただそれだけの事だった
その一件もあり、神通は何かと海風に目をかけているのだが、肝心の海風の方が、前に出てくる気がまるでなかった。あれだけの力がありながら、それを充分生かせられないのは惜しいと(海風は充分働いていると思っており、神通とは見解の相違であった)、神通は海風の顔を見る度にお説教するのもあって、二水戦所属でありながら、海風はあまり詰め所に寄りつかなくなっていた
不知火を待っている間、海風は珈琲をすすりながらこの先の事を考えていた。随分と長い事水雷戦隊旗艦を務めていたような気がしていた・・・いや、事実、彼女特有のあの戦い方故、鎮守府近海哨戒任務を他の人の数倍は長く務めていた。だが、それももうすぐ終わりが近づいていた
恐らく、ここを辞した後は二水戦に戻り、神通麾下に配属されるのであろうと思っている。正直、神通のお小言を聞かされるのは鬱陶しいものの、いち随伴艦として艦隊支援に廻るのは気が楽だった。戦闘スタイル的にも、自分はそちらの方が向いていると海風は思っていたし、何より旗艦が神通なら安心して支援に立ち回れる。生存率が高まる事自体は海風にとっては歓迎すべき展開であった
程なくして、不知火がデータを受け取りに訪ねてきた
「はい、これ。ご注文のデータ」
「ありがとうございます、海風」
「ね、ぬいちゃん・・・ひょっとして、それ全部憶える気じゃないよね?」
「・・・一応はそのつもりです。量が量なので、念のため艤装のRAMにバックアップをしておくつもりです。あとはスケジュールに合わせて順に目を通そうかと。それなら哨戒任務にはギリギリ間に合うと思います」
《・・・やっぱり憶える気だったんだ・・・》
海風は呆れを通り越して感嘆していた。これだけのデータの全体像を把握するのに海風は丸一年を費やしていた。それを不知火は僅か二週間程度の足掛け任務の為だけにそれらを覚えようとしているのだ
《・・・そういえば神通さんと阿武隈さんが言ってたっけ。ぬいちゃんはものすごく頭がいいって・・・》
小学生時代の不知火は毎日が野球漬けの生活を送っていた事もあり、学業の方は地を這うような成績だったのだが、野球を辞めて学業に専念し始めて僅か一年余りで主席となっていた。
鎮守府近海の海図データを頭に入れる事に特に抵抗を感じない程の天稟を持って生まれた不知火は、人としての能力が規格外であった
正直、海風には理解できなかった。かつての自分は、生き残るために必死になって学び、訓練を積み重ねてきた。だけど実戦では決して自分の身を危うくするようなリスクは犯さないよう努めてきた
順当に経験を重ね、そのレベルに見合う戦い方を心掛け、決して分を超えた行動はしなかったのである。その振る舞いは徹底しており、その身を危険に晒すような上官の理不尽な命令には、例え相手が神通であっても頑として従わなかった
海風にとってそも艦娘自体がどうでもいい存在であり、整合性のない上官の命令など自分の命と天秤にかける価値など微塵も感じてはいなかった
その事が原因で懲罰委員会にかけられようと、決して引かなかった。結局は提督と大本営が仲裁に入り、一週間の懲罰房入りで手打ちとされた程で、海風の生への執着は筋金入りであった
今生において、自分は【海風】ではなく【美海】であり、死んでしまったら美海の人生はそこで終わってしまう。絶対に譲れるはずがない・・・・それが海風の見解であった
なのに、この不知火はそのレベル僅か17でしかない、第一改装すら受けていない身である。火力も装甲も自分の半分もなかった。にもかかわらず、自ら進んでこの危険な任務に志願し、本気で何とかしようとしている。海風からしてみれば、こんな馬鹿げた話はなかった。演習でもっとレベルを上げて改装を受けるまで・・・いや、少なくとも先制対潜が出来るようになってからなら、比較的安全に戦う事が出来るはずなのに・・・である
だが、そんな不知火を見ていると、何とも言えない気持ちが込み上がってくる
イライラする?・・・・いや、それも違う。もどかしい?・・・・・・あぶなっかしい?見ていられない?・・・・それも少し違う気がする
不知火には、変に気負った所が感じられなかった。穏やかなその目は、どこか遠くを・・・遠大な目標を見据えているようでもあった
海風は、そんな不知火に聞かずにはいられなかった
「・・・ねぇ、ぬいちゃん・・・」
「?・・・何でしょう? 海風?」
「・・・どうして・・・そんなに頑張れるの・・・かな?」
「・・・海風・・・やはり疲れているのではないですか?」
妙な質問をすると思ったのか、不知火は海風が疲れていると感じたようであるが、海風は構わず続ける。生死にかかわる問題なのだ。海風からすれば看過できない問題である
「ぬいちゃんはレベルだって低いし、まだ碌に戦えないのに、どうしてそんなに無理をするの? そんなに慌てなくたっていいじゃない?」
「?・・・・心配してくれているのですか? 不知火なら、大丈夫です。それと、先程も言いましたが、深海棲艦はこちらの都合に合わせてはくれませんよ? ならば、艦娘として最善を尽くすのは当然の事です」
「いや、だからそれは私や神通さん達でやるから、ぬいちゃんは無理しなくたっていいんだって」
「・・海風・・・あなたは尊敬すべき優秀な艦娘です・・・ですが、楽観的に過ぎます」
「・・・どういう・・・意味?」
諭そうとしたつもりの海風だったが、こんな風に言い返されたのははじめてだった
「有事の時に、あなたや神通さん・・・あぶねえさま達がそこにいるという保証はありませんよ? 佐世保沖海戦の事を・・・知らないわけではないでしょう?」
「・・・それは・・・」
「あの事件は、本当に運がよかっただけです。艦娘の殆どが出払っていて留守だったのに、たまたま赤城さんと加賀さんがここに拘束されていたという、通常ならあり得ない奇跡的な状況があったからこそ、あの有事に対応できたのです」
「・・・・それは・・・・・確かにそう・・・だけど・・・・」
「まぁ、そういう事だけでなく、不知火自身、思う所があります。そういう事態は、往々にして起こりうるという事を、肝に銘じているのですよ」
それを聞いて、海風なりに合点がいった。不知火が言っていたのは、恐らくはあの《那智》にまつわる事件の事なのだろう。確かに、一歩間違えば不知火は艦娘ではいられなくなるどころか、下手をすれば再起不能になっていたかも知れなかった。艦娘にとってはただの日常に過ぎない演習において、あのような悲劇が起ころうなどと、誰も想像などできるはずもなかった
「この不知火は、鎮守府のみんなに生かされているのです。そしてそれは今もそうです。鎮守府の活動縮小を余儀なくされてまで、不知火に手を差し伸べてくれました。本当に、感謝に耐えません。あれは、不知火の慢心と油断があのような事態を招いてしまったのだと思います」
「・・あれは、ぬいちゃんのせいじゃないでしょ。あなたが気に病む事なんか・・・」
「違いますよ、海風。誰が悪いとか、そういう事ではありません。ああいう事態が起こりうる可能性を、不知火は選択してしまったのです。結果、ねえさま方に多大な心配とご迷惑をおかけしてしまいました・・・・
「・・・・・・・・・・・」
どうにも納得できないといった風の海風の様子を見て、不知火は続けた
「私たちは、艦娘です。あの時はこうだから仕方なかった・・・では、済まされないのです。私たちは、自らが選択した結果に責任を持たなければなりません。いつ訪れるかわからない不測の事態に、穴をあけるわけにはいかないのです」
「・・・・・あ・・・」
その不知火の言葉に、海風は絶句した
不知火と海風とでは、艦娘としての覚悟が・・・見据えているものがまるで違っていたのである
「あの時の不知火は、まだ練度が低かったから仕方なかった・・・・なんて事は、ただの怠慢・・・甘えでしかありません。例え練度が低くとも、不知火に出来る事はあるはずです」
「確かに・・・不知火は駆逐艦ですし、練度も低く、海風達に比べれば、頼りない存在なのかも知れません・・・・ですが・・・」
「それでも、不知火はやはり艦娘なのです。深海棲艦は、人では到底太刀打ち出来る相手ではありません・・・・でも、不知火なら、深海棲艦と戦う事が出来る。例え倒せなくても、傷を負わせたり、追い払う事は出来るかも知れない。人が欲しても、決して手にする事が出来ない力を、不知火は持っているのです・・・・ならば、不知火は戦いたい・・・敬愛する父や、気の置けない友人達、この世界を育み噤んでくれた人々の住まうこの世界を守るために・・・・・不知火は戦うのです」
「海風も・・・・そう、思ったから・・・艦娘になる事を受け入れたのではないのですか?」
海風は・・・・言葉もなかった・・・・
《・・・・ヤバい・・・・・泣きそう・・・・・》
正直、泣きそうになっていた。不知火は、自分とはまるで違う・・・そのあまりにも純粋で真っ直ぐな気持ちが、海風には眩しすぎた・・・・眩しすぎて・・・・胸の奥が苦しくなった
「・・・・ごめん、やっぱりちょっと疲れてるみたい・・・・・少し休むね・・・」
「大丈夫ですか? 海風。 明日の事もありますし、大鯨さんに見てもらいますか?」
「少し休めば大丈夫だよ。いつもの事だしね」
「・・・そうですか・・・不知火の戯れ言に付き合わせてしまい、申し訳ありません。それでは、不知火はお暇します。明日は宜しくお願いします。お大事に」
「うん、また明日ね」
そう言って不知火は海風の元を後にした
不知火が部屋を離れていった頃合いを見計らい、海風はとうとう堪え切れなくなって感情を吐き出す・・・
「・・・ヤバい・・・ヤバいヤバいヤバいっ!!!!!」
海風の、【艦娘】としての想いが・・・・心の奥底からこみ上げてくるのを感じる・・・・
「・・ッ!!・・・鎮まれッ!!! 出て来るなッ!!!!・・・・艦娘なんて・・・私は嫌いだッ!!!!!」
両の腕を抱きしめるように・・・・自らを拘束するかのようにその身を強く締め付ける・・・・
二の腕に爪を立て、白い肌に鮮血が滲む
海風は・・・・艦娘としての感情の高まりを、力づくで押さえつけた
そしてそのまま服を脱ぎ捨て、先程シャワーを浴びたばかりの体に冷水を浴びせかける
そのまま30分程身じろぎもせず、ずっと冷水を浴び続けた
やがて冷え切った体が、ガチガチと歯音を立てて震えるようになってから、ようやく海風はシャワー室から出て来る
取り急ぎバスローブで身を包み、震える手で再びインスタントの珈琲を淹れる
カップの温かみを感じながら珈琲をすする海風は、ようやくいつもの自分を取り戻す
それでも、胸の奥に生まれた小さな違和感は・・・・消えずに残っていた・・・
「・・・・成る程ね・・・・阿武隈さんや神通さん、それにゴーヤさんまで、ぬいちゃんを気にかけている理由は、こういう所なのかも・・・・・」
海風は、本当の意味でクールな艦娘であった。今の自分の感情を正直に認める
苦手ではあるが、海風は、本質的には不知火が好きだった。正直、何とも言えない気持ちにさせられるのである
「・・・・何とかしてあげたくなるよね・・・・・・確かに・・・・」
「・・・・でも・・・・」
「私には・・・無理かな・・・・・心にもない事しても、辛いだけだし・・・・」
今の自分はただ提督の傍にいたい・・・・それだけの理由で死のリスクを回避して生きているだけの存在・・・・そんな打算的な理由で仕方なく戦っているだけの自分と不知火とではあまりにも違い過ぎる・・・・・・
なにもかもがうまくいく未来なんて、そんなものは永久に訪れはしない・・・・特に、海風の元には・・・・ならば敵う事のない願いを無意味に追わず、ただ、生きて淡い恋心を抱いて過ごすだけの・・・・生き方だってある・・・・・それは、仕方のない事だから・・・・
「・・・海風は・・・海風の海を行く・・・・それしか・・・出来ないんだから・・・・」
艦娘の血族に生まれてしまい、その輪廻に囚われてしまった自分は、次の世代になってもこの想いを抱えて生きていく事になるに違いない・・・・そう思っていた・・・
少し冷めてしまったインスタントの珈琲をすすり、海風はそっと呟く・・・
「・・・・美味しい・・・」
こんな気持ちのまま口にするインスタントの安物の珈琲が美味しく感じられてしまう・・・
さながらそれは、海風の生き方そのものであった
海風 02 最初の一歩 に続く