何の気なしにぼんやりと眺めていた再編二航戦と六水戦との演習で見かけた一人の幼い少女、浜風の中にとてつもない才能を見た赤城は、浜風を手元に置き自らの手で育てる事を目論むのであった
果たして、赤城の真意とは・・・?
(2020年2月20日執筆 同4月18日大幅加筆 2025年2月24日加筆修正)
皇紀2745年
あの、深海棲艦による大侵攻が行われた第三次深海棲艦戦争から、実に九年もの歳月が流れていた
その日も彼女は、「甘味処 間宮」でいつものように赤城専用間宮アイス(お櫃Ver.)をもしゃもしゃと食していた。そして店内に最近設置されたばかりの大型のモニターでは、現在リアルタイムで行われている演習のライブ映像が流れていた。
今日は不定期に行われる一航戦の模範演習の日である。佐世保沖海戦や赤城提督時代を経て、あまりに強くなりすぎてしまった一航戦の演習参加はパワーバランスを著しく阻害するという理由から、通常の演習参加を自粛するようになって久しい
そんな一航戦の雄姿が久しぶりに見られるとあって、艦娘以外にも多くの人が某鎮守府に訪れていた
赤城はというと、相方の加賀とロビーで待ち合わせの約束をしていたのだが、猛烈にアイスがたべたい衝動にかられ、【甘味処 間宮】で待つ事にしたのである
「どうせ加賀さんもここに来るに決まってますから問題ありませんね」
と、かなり身勝手な理由で勝手に待ち合わせ場所を変更する赤城であった
「・・・再編二航戦と第六戦隊ですか・・・」
最後の一口をぺろりと平らげ、満足げに赤城はモニターに表示された両陣営の編成の戦力分析を試みる
「これは流石に古鷹さんの分が悪いですね。まぁ、それでも戦いようはありますが。それはそうと・・・」
《アイスを食べたら、あったかいお茶が飲みたくなるのは、私だけでしょうか?》
そんな事を思っていると、コトリと目の前にどんぶり茶が置かれる
伊良湖さんだった
《エスパーですか?あなた!!》とか思いつつ、
「ありがとうございます。丁度お茶が欲しかったところでしたので」
「赤城さんとは長いお付き合いですから、それくらいわかりますよ・・・ふふっ」
そのやりとりを隣で見ていた天龍が呟く
「いや、誰でもわかるだろ、あの人の場合・・・毎日毎日この店で同じ事を繰り返してるんだから(笑)」
「それにしても、甘味を食しながら演習を観戦するというのは、存外悪くないですね」
どんぶり茶をすすりながら、赤城は続けた
「最初は、定食屋で野球見ながら一杯引っかけてるオヤジみたいでどうかと思ったんですが」
「・・・なんか例えがすごいですね(汗)」
それにしても、と赤城は思う
「・・・浜風、本当に覚醒したんですね」
「みたいですね~ それにしても・・・・」
「・・・幼い・・・ですね・・」
「まだ七歳らしいですよ~。浜風ちゃんかわいい~」
「演習参加規程年齢ぎりぎりですか・・・この規定もどうかと思いますが、提督もどういうつもりなんですかね?」
いかに艦娘だとはいえ、モニター越しに映る浜風はあまりにも幼過ぎる。艦娘としての記憶を保持しているのならともかく、今回覚醒した浜風は記憶がないと聞いている。メンタルや記憶がただの子供では、演習参加の負担はどう考えても重すぎる
「あの提督の事ですから、何かあるんじゃないでしょうかねぇ?」
赤城は、少年時代の前川一等海佐と面識がある。当時の彼は、【濱風】の提督になる事が夢だった。それもそのはず、彼は大東亜戦争終盤の最も苦しい時期に濱風の艦長としてその運命を共にした大日本帝国海軍士官、前川萬衛中佐、その末裔だった
大本営で特務や第三次深海棲艦戦争の作戦指揮などを経て立派な武官として成長した男が、今は某鎮守府の提督である。彼の事をよく知っている赤城としては、中々に感慨深いものがあった
その前川が、何の考えも無しにまだ年端も行かない浜風に演習許可を出すとは考えにくかった。当然大本営の意向が大きく働きかけているのは間違いない・・・・・
「・・・ですね。あの人は一体何を企んでいるのやら」
「あ、始まりますよ!」
開幕から、RJ率いる再編二航戦が索敵で先んじて早くも制空権を制しつつあった。そして艦戦の傘のない第六戦隊を天山艦攻隊が襲来。これに対し、古鷹率いる第六戦隊は防空体制に入る
と、その時、幼い浜風はみんなについて行けないのか、四水戦の隊列からはぐれるように離れる
「浜風ちゃん、隊列から離れてるよっ! ・・・って、聞こえてないかぁ・・」
今日で演習参加二度目の、まだほんの7歳の子供なのだ。うまくやれといっても、無理もない・・・そう古鷹は思う。絶対的に、経験が足りなすぎるのだ
《しょうがないなぁ・・・・あの子はまだ戦力としてはカウントできないわね・・・・あ・・・また・・・》
古鷹がそんな事を思っている間に、ふらふらと隊列を離れた浜風は単艦で艦攻隊に突撃、そして対空砲火を始める。浜風の先制対空砲撃は空を切り、艦攻隊の上部を掠める。艦攻隊は銃撃をかわすように高度を下げ、そのまま雷撃コースに入ろうとしていた
「ああ、いけませんね。艦攻に対しては、雷撃コースに入られないよう下からあおっていかないと」
本人は一生懸命やっているつもりなのだろうが、連携どころか、周りが全く見えていない・・・・
まだ若いな、というかまだ子供なんだから仕方ないか・・・と赤城は苦笑する。あんなに小さいのに、戦場に立っているだけでも大したものなのに。軍艦と艦娘としての記憶がないままあの年で覚醒したのなら、戦いの事などなにもわからないまま戦場に放り込まれて戦わされているようなものだ・・・
浜風が艦娘でなければ、絶対に赦されない暴挙であった
赤城の言う通り、過去に一度だけ、規定年齢ギリギリの7歳で演習に参加した艦娘の記録が報告されている。本人の名誉のために名前は伏せられているが、その時の艦娘は砲弾が飛び交う演習場のど真ん中でへたり込み、泣きながら失禁してしまったらしい
《私が初めて演習に参加したのは十四歳の時だった。その半分の年なんだもの。無理もないですね》
果敢にも、幼い浜風の対空砲火は続く。艦攻隊に向かって右から左へ舐めるように砲撃。艦攻隊は砲撃を避けるように左へ左へと機体を横滑りさせ、コースをずらす。そしてその先には第二駆逐隊の二隻が、艦攻隊の軸線上に入る
「・・・!? マズいっ!! 避けてっ!!」
そして天山隊は雷撃コースに入ると、すかさず雷撃。12本の魚雷が二駆を襲う。雷撃を受けた春雨と五月雨はたまらず大破する
「あらら、春雨ちゃんたちかわいそう~」
「今のは、浜風が誘導した形になっちゃったですね・・・」
護衛艦を二隻失った第六戦隊を、RJ二航戦の彗星隊が波状攻撃を仕掛けていた。本体とやや離れていた浜風には目もくれず、彗星隊の集中爆撃を受け、堪らず長良は大破。一部艦爆隊は加古に爆撃、中破に追い込む。ここでようやく浜風は転進し、古鷹たちとの合流を図る
「長良に狙い撃ちですか。龍驤ちゃんも手堅いというか容赦ないですね」
「でも、これで護衛艦はほぼ壊滅状態ですから、流石ですね」
「浜風は本体とはぐれていたから助かりましたけど、戦況はかなり厳しいというか・・・・」
「これでは夜戦に持ち込んだとしても、ほぼ勝ち目はなくなりましたね」
そして最後の砲雷撃戦が始まる
名取からの一斉射が加古に集中飛来。浜風は軸線上に入り、加古の盾になる
「浜風っ! 無理しなくていいっ!!」
研修艦の浜風に下がるよう指示する加古であったが、聞こえていないのか浜風はそのまま前に出て5inch砲弾をリロード
「ダメだっ! 聞いちゃいねぇ! すっかりアガってやがるっ!」
その時既に四発の20.3㎝砲弾が加古に向かって飛来していた・・・その時・・・・
浜風はほんの一瞬、古鷹を一瞥すると、5inch単装砲Mk.30改を構え、仰角を23.4度に微調整していた。その先には、20.3cm砲弾が見えていた・・・直後、
「ドーン!・・・・ドーン!」
浜風は5inch砲弾を正確に2.7秒間隔で2度斉射。
「ガシュッ!・・・・ガッ!」
・・・微かだが、鈍い金属音のような音が聞こえたような気がした・・・
直後、20.3cm砲弾が加古にクリティカルに直撃した。機関部をやられ、そのまま大破判定で戦線離脱。モニター越しに観戦していた艦娘達の溜息が上がる
加古の大破炎上に気を取られている間に、二発の砲弾が古鷹に直撃、第一、第二砲塔と、左舷スクリューを破損、右スクリューと舵だけで何とか直進するも、速力は9ノットまで落ちていた
そしてその横で、一発の砲弾が浜風の直近に着弾。びっくりした浜風はその場にへたり込む
一瞬で加古が大破し、中破状態の古鷹と、腰を抜かしてへたり込んでいる浜風だけが残っていた
ガタンッ!!
その顛末を見て、赤城は思わず席を立っていた
「・・・今の・・・マジですか!?」
「・・・赤城さん?」
赤城が何かに驚いている様子を見て、
「・・・確かに、名取ちゃんの砲撃が一度に3発も命中したのには驚いたけど・・・」
《・・・あの赤城さんが思わず席を立つほど驚くような事ではないと思うけど・・・・かつて軍神と呼ばれた赤城さんが、こんなに驚くなんて・・・・》
伊良湖は、そんな赤城の姿を見るのは初めてだった
我に返り、赤城はモニターに目を移す
護衛をなくし、半壊状態でよたよた航行する古鷹が、なすすべもなく春風と松風の雷撃を受け大破していた
そしてその横で腰を抜かしてへたり込み、固く目を瞑りながら頭を抱えている浜風を見たRJは、
「・・・あかん、こないな幼子、撃てへんわ・・・」
RJは追撃を止め、夜戦突入申告をしなかったためそこで戦闘終了
RJ組のA勝利で終わった
モニター越しに見た古鷹の様子から見て、本人は一体何が起きたのか理解していないようだった
伊良湖にも見えていないようだ
実況でも、特に変わったコメントはなかった
《・・・誰も・・・気づいていない?》
赤城の目には、見えていた・・・いや、厳密には見えていたわけではないが・・・
もし浜風があの時何もしなければ、砲弾一発は加古に命中し大破、残り二発は加古と古鷹との間に着水するだけのはずだった・・・・。それは名取が撃ち出した砲弾が奏でる音と衝撃波、そして仰角で、おおよその着弾地点と散布界は予想出来る・・・だが・・・・
だが、二発の5inch砲弾を浜風が放った直後、二発の20.3㎝砲弾は明らかに不自然な軌道を取ったように見えた・・・いや、見えたわけではないが、着弾地点が、あまりにも不自然だったのでそう見えたのだ
誰にも当たらないはずだった二発の砲弾は、何故か全て古鷹へと大きく軌道を変えて直撃。明らかに夾叉の範囲外にいたはずなのに・・・・である
「・・・・・・・・!?・・・・まさか・・・」
これらの事象から導き出される事実・・・それは・・・・
「・・・砲弾を・・・・狙って撃った!?・・・・いや、でもそれは・・・・・」
赤城が導き出した推論、それは飛来する20.3cm砲弾を5inch砲弾で砲撃し、その軌道を逸らした、というものであった・・・・・だが・・・・
「ただ、当てるだけでも至難の業・・・それを同時に2発も当てるなんて不可能・・・・・でも、浜風はそれをやってのけた・・・・・いや、問題はそこじゃありません・・・・・」
赤城は、その先にある推測を口にする事を、一瞬、躊躇った
浜風が、砲弾を放つ直前、一瞬古鷹を見ていた事を、赤城は見逃さなかった
「・・・あの子、撃つ前に古鷹さんの位置を確認していた・・・・これはとんでもない事です・・・・」
赤城は、躊躇う事を諦め、堰を切ったように推考を始める
《俄には信じがたい事ですが、浜風にとって、飛来する砲弾を狙い撃ちする事なんて、造作もないのでしょう・・・・それよりも・・・》
一瞬、息を飲む
《・・・それよりも恐るべきは、・・・・・・・砲弾の軌道を意図的に変えた事・・・・砲弾のどこにどう当てれば軌道を狙った所に反らせられるのか、この子にはわかるんだわ・・・・しかもそれを瞬時に導き出す演算能力と、実行可能な技量・・・・どちらかが欠けてもこの芸当は不可能・・・・・》
二発の・・・それも連撃された砲弾でそれが成された事からも、これが偶然である可能性は無きに等しい・・・・
ひとしきり推考したのちに、赤城はふぅとため息をつくと、その顔がみるみるうちに悪い顔になってゆく・・・・
「ふふっ・・・まったく、とんでもない子がいたものです」
改めて、浜風の装備に目をやる。5inch単装砲Mk.30改と13号対空電探改Stage-max、それに・・・・補強増設・・・・無論それが浜風の初期装備ではない事を、赤城は知っている
《・・・成る程・・・夕張さんが一枚噛んでいるというワケですか・・・・そして恐らく、提督も・・・・・》
気がつくと、伊良子の姿は赤城の傍になく、後から入ってきた北上と大井の注文を伺っていた
それはそれとして、浜風の行ったこの行為は明らかに味方に仇成す利敵行為に他ならない。演習とは言え、それは決して看過出来る問題ではない。当然の事ながら、7歳の子供が思いつく事ではない。入れ知恵した者がいるのは間違いない
「それにしても、浜風は何故あんな事を・・・・・・・う~ん・・・・・」
そう口にしながらも、理由は一つしか思い当たらない
《・・・わざと負ける為?》
いや、それだけじゃない。この編成では、そもそも古鷹率いる第六戦隊に勝ち目は薄かった。四水戦三隻が大破した時点で大勢は決していた。遅かれ早かれ、RJ組の勝利で終わっていただろう。なのにあの離れ業をわざわざ使わなければならない理由は何?
考えられるとすれば・・・・
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・!」
まさか、と思うけど・・・・
「・・・早期・・・決着・・・?・・・でも何故?」
「・・・もしもし、大淀さんですか?赤城です」
《お疲れ様です赤城さん?午後の模範演習、宜しくお願いします・・・・・・どうかされましたか?》
「一つ、お願いしたいことがありまして、浜風と少しお話したいんですが・・・・」
《・・・・え・・・浜風・・・ちゃんですか?・・・》
浜風の名を口にした途端、大淀が一瞬言いよどむのを赤城は聞き逃さなかった
《・・・・ごめんなさい、浜風ちゃんなら演習が終わってすぐに帰宅されました。あの子、ちょっとワケありで早く帰らないといけない事情がありまして・・・》
何かを言いよどんだ大淀であったが、浜風が既に帰宅の徒についている事実のみを話す。その言葉を聞き、赤城は得心する
「・・・やはり、そうでしたか・・・」
《・・・何か、気になる事でも?》
「・・・まあ、そうですね・・・それより、今いいことを思いつきました。」
《?・・・何でしょう?》
「今後、私の演習は、浜風を加えた編成でお願いしたいと、提督にお伝え願えないでしょうか?」
《・・え? 演習に復帰なされるのですか?・・・それは願ってもない事ですが・・・どうなさったんですか突然?》
「あの子を間近で見てみたくなったんです。面白い子ですねあの子は」
《・・・赤城さんがそんな事を仰るなんて、珍しいですね。何か引っかかる事でもあるのですか?》
どうやら赤城に気付かれたらしいと気付いた大淀であったが、提督に話を通すまではあくまでも平静を装うのは彼女のいつもの振る舞いである
「ふふっ、内緒です。まだ内緒」
《こんなに面白いと思ったのは、ポーラとの演習以来ですよ》
最強の一航戦と言われて久しい赤城と加賀は、好敵手と呼べる存在がいなくなって久しい。せめてFase-3解放状態のポーラとやり合えたらと、退屈な日々を送っていた
いち駆逐艦と航空母艦・・・・一見、噛み合わないように見えるこの取り合わせだが・・・・・そう遠くない未来にこの子とやり合う未来が赤城には見えていた
「・・・浜風と私は噛み合う・・・間違いなく・・・」
この幼い子どもでしかない、それでいてとてつもない才能を内に秘めたこの子を・・・・・【最強の兵】に育て上げ、自分の前に立ちはだからせる
「・・・加賀さん遅いですね・・・浜風の事を教えてあげないと」
未だかつてない程の高揚感の中で、試合開始を待ちきれないボクサーのように・・・・赤城は・・・・その野獣のような眼をギラつかせていた
分岐
加賀 02 たいやきとバケツ茶
あぶ 02 禁則事項
赤城 10 再編、第一機動部隊
に続く