絶撃の浜風   作:絶撃@

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 模範演習を披露するために某鎮守府のロビーに訪れた加賀は、そこで今にも倒れてしまいそうなくらいにやつれた小さな少女と出逢う

 僅かな状況から事情を察した加賀は、その少女浜風に食事を与え、駅に送る

 浜風の類まれなる才能を垣間見てはしゃぐ赤城とは裏腹に、浜風のもう一つの側面を垣間見た加賀は、何かを決意するのであった


加賀編 03 たいやきとバケツ茶

(2020年4月21日執筆 2021年3月11日~2025年2月24日加筆修正)

 

 

 

 

 

絶撃の浜風 加賀編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

03

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たいやきとバケツ茶

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は久しぶりの演習だった

 

 

 

 

 月に3回の任務が義務づけられている艦娘にとって、久しぶりの演習という言葉は、普通は使われる事はない・・・・ある二人を除いて・・・

 

 

 演習といっても、通常の出撃任務や演習の類いとは違い、他の艦娘へ手本を示すための《模範演習》である。不定期ではあるが、提督からの要請を受け、執り行われる事がある

 

 

今日が、その日であった

 

 

 

 午後の模範演習を控えて、彼女はロビーに訪れていた。午後から行われる演習の対戦表を確認するためであった。そして、誰かが彼女の存在に気付くと、俄に周囲が騒がしくなる

 

 

 

「あ、加賀さんだ」

 

 

「ホントだ。何で来てるの?」

 

 

「バカっ、今日はアレでしょ! 模範演習の日」

 

 

「えっ、マジ? 何時から?」

 

 

「昼いちだって。」

 

 

 

 

周囲の喧噪を余所に、加賀は呟く

 

 

 

 

「・・・随分と騒々しいですね・・・・何か・・・あったのですか?」

 

 

「あ、いえ・・これは、その・・・・・」

 

 

 

《加賀さんてば、ご自分が原因だって何故思わないのでしょう?》

 

 

 

 

それが、ここにいた艦娘達の、偽らざる本音であった

 

 

 なんとなれば、加賀は、あの赤城と並ぶ、世界最強の一航戦のひとりであり、そのあまりの強さに演習が成立しないため、参加を自粛していたからである

 

 

今日のような模範演習でもなければ、彼女たちの勇姿を目にする事はなかった

 

 

 

 

「・・・まぁ、いいわ・・・それより赤城さんはどこかしら?」

 

 

 

先に着いているはずの赤城の姿が見当たらない。もっとも、大方の見当はついている

 

 

 

「どうせ間宮でお櫃アイスでも戴いているのでしょう」

 

 

 

 

 

と、そんな事を思っていると・・・

 

 

 

 

 

「ぽすっ!」

 

 

 

 

 

と、加賀の袴に、何か小さなものがぶつかる

 

 

その、小動物のような生き物は、加賀にぶつかった拍子によろけて尻餅をついた

 

 

 

 

「あら・・・この子は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

無論、加賀はこの子の事を知っている

 

 

最近、夕張が何かと世話を焼いているという噂の子、浜風である

 

 

 

《・・・ずいぶんと、小さいのね・・・》

 

 

 

想像していたよりもずっと小柄だな、というのが、加賀の浜風に対する第一印象だった

 

 

 中々起き上がってこない浜風の様子に、「どこか痛くしたのかしら?」と思い、浜風の両手を取り引き起こそうとした時・・・・

 

 

 

《・・・この手は・・・!?》

 

 

 

 その掌も、手首も、ガリガリに痩せ細っていて、まるで骨を直に握っているような感触だった

 

 

 加賀は浜風の手を引くのをやめ、中腰で浜風の両脇に手を差し入れ抱き起こした。その時も・・・

 

 

 

《・・・肋が・・・浮いている・・・》

 

 

 

この位の年頃の子なら、もっとふくよかでもおかしくない・・・・

 

 

 

「大丈夫? 痛くしなかったかしら?」

 

 

「あ、あの、ごめんなさい・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」

 

 

「私の不注意です。あなたが謝る事はありません」

 

 

「でも・・・」

 

 

「いいのよ・・」

 

 

「はい・・・あの、急いでますので・・・」

 

 

 

 会釈した後、ロビーの出口に向かおうとした浜風の、その足元は縺れて左右にふらついていて、まともに歩けないでいた

 

 

 

《・・・具合が悪い・・・というよりも、これは・・・・》

 

 

 

この時加賀は、浜風が今置かれている状況を何となく察した。そして・・・・

 

 

 

 

 

「お待ちなさい」

 

 

 

 

 

そう言われて浜風はビクンと立ち止まる。半ば本能的に命令には逆らえなくなっていた

 

 

 

「あなた、お腹が空いているのではありませんか?」

 

 

「・・・は・・・い・・・」

 

 

「ならば、こちらへいらっしゃい。何か食べましょう」

 

 

「あ、あの・・・早く帰らないと・・・早く・・・・帰らないと・・・・」

 

 

 

 

そう言いながら泣き出す浜風を見て、これは尋常ではないと加賀は直観する

 

 

 

 

「いいから、落ち着きなさい。ここまではどうやって来てるの? 何時までに帰ればいいのかしら?」

 

 

「某鎮守府前から電車で、50分のに乗らないと間に合わないの・・・・」

 

 

「・・・今からあなたの足では、間に合いませんね。私が駅まで送ってあげますから、そこで待っていなさい」

 

 

「・・え・・?・・・・はい・・・」

 

 

 

 

そして「甘味処 間宮」に電話で何やら注文した後、某提督に連絡を入れる

 

 

 

「提督、至急エントランスまで車をまわして頂戴。・・・え・・・・執務なんて後でやりなさい。この私が来なさいと言っているんです。四の五の言ってないで早く来なさい。今、すぐ!!」

 

 

電話を切ると、加賀は不安そうにこちらを見ている浜風を一瞥すると、

 

 

 

「大丈夫です。すぐに迎えが来ます」

 

 

 

と、程なくして、伊良湖が小さな紙袋を持ってやってきた

 

 

 

「お待たせしました、加賀さん。ご注文のたいやき2つと、お茶です」

 

 

「ごめんなさいね、伊良湖さん。ちょっと今、この場を動けなかったものだから」

 

 

 

加賀は、注文の品を伊良湖から受け取ると、それを浜風に持たせた

 

 

 

「あら、この子浜風ちゃんじゃないですか。さっき演習に出てましたよね。本当にちっちゃくて可愛いですね」

 

 

「演習に?・・・それは本当ですか?」

 

 

「え、ええ、私さっきまで赤城さんとこの子の演習見てましたので」

 

 

 

 

 

 

「・・・・そう・・」

 

 

 

 

 

 

《・・・・こんな状態で、演習に出ていたというのですか・・・・》

 

 

 

 

 

 程なくエントランスに提督運転の車が到着する。加賀は浜風を抱き上げ、後部席に座らせ、自分はその隣に座る

 

 

 

「某駅までやって頂戴。揺らさないように気を付けて」

 

 

 

 そして浜風に

 

 

 

「今のうちに食べなさい。残りは電車の中で食べなさい。家の人に見られてはいけないのでしょう?」

 

 

 

 浜風はびっくりしたような目で加賀を見返していた

 

 

 

「・・・はい・・・・・・・・いただきます」

 

 

 

 そういうと浜風はたい焼きにかぶりつく。たい焼きを食べるのは、両親が健在だった時以来だ。おいしかった

 

 

 

 

 この、加賀というお姉さん、一見とても怖そうなのだが、浜風にはとてもやさしく感じた

 

 

 初めてあった人なのに、こんなにも自分の心に寄り添ってくれるなんて・・・・

 

 

 

 

 

 浜風は、今日は時間通りに帰れない事を覚悟していた

 

 

 

 そうなれば、仕事をサボったと罵られ、小突き回された上に食事にもありつけず、土蔵の中でうずくまりながら眠れぬ程の空腹に耐えなければならなかった

 

 

 

 それだけに、加賀の思いやりがひとしお身に染みて嬉しかった

 

 

 

 

 

 浜風は、本当に苦しい時に、他人にこんなにやさしくされたのは初めてだった

 

 

 

 

 

 うれしくて、思わず涙が出そうになった

 

 

 

 

 

「ちゃんといただきますが言えて、いい子ね・・・」

 

 

そう言いながら、たい焼きをほうばる浜風の頭を撫でた

 

 

「お茶も飲みなさい。このお茶はバケツ茶といって、すぐに疲労が回復します」

 

 

 加賀に促されるままに茶をすする浜風。不思議だった。さっきまで足腰が立たない位よたよたしていたのに、少しずつであるが、両足に力が戻ってくる

 

 

 

 実は、このバケツ茶は浜風のために夕張が開発中のエネルギー充填剤、その試作品であった

 

 

 

 リフィーディング症候群を抑え、可能な限り迅速にエネルギー補給が出来るよう調整されていた。テストを兼ねて、栄養ドリンクと銘打って、試験的に間宮に置かせてもらっていたのである

 

 

 

 

・・・・というか・・・

 

 

 

 

 要は、某鎮守府の艦娘をモルモット代わりに内緒の臨床試験をしていただけであったのだが、よもや当の浜風が試飲することになるとは夕張も想定していなかったであろう(汗)

 

 

 

 

 幸いな事に、リフィーディング症候群を起こす事もなく、副作用もなく浜風の重篤な栄養不良状態の回復に寄与していた

 

 

 

 

 

 

駅に着くと、

 

 

 

「提督はそこで待っていなさい。すぐに戻ります」

 

 

 

といいつけ、浜風を連れて改札へ向かった。切符を買うと、浜風は加賀にお礼を言う

 

 

 

「私は一航戦の加賀。何か困ったことがあったら、私に相談しなさい。いいですね?」

 

 

「・・・はい、ありがとうございます、加賀さん」

 

 

 

そう言って再び深々と頭を下げて礼を言うと、幼い浜風は改札を抜け、ホームへと消えていった

 

 

 

車に戻るなり、

 

 

 

「・・・提督、あの子・・・・浜風の事ですが・・・・」

 

 

「ああ、わかっているよ、加賀さん。あの子はちょっと訳アリでね・・・こちらでも今、色々動いている所だよ」

 

 

「そう・・・ですか」

 

 

「それはそうと、加賀さん、僕、一応提督なんで、パシリに使うのは・・・・」

 

 

「・・・・・・あ゛!?」

 

 

「・・・いえ、何でもありません・・・・です・・・」

 

 

「そういえば、お腹が空きました」

 

 

「・・・え゛!?」

 

 

「お寿司が食べたくなりました」

 

 

「ちょっ、まっ!!」

 

 

「・・・赤城さんも呼びましょうか?」

 

 

「あ・・・・・・いえ、お供させていただきます・・・(号泣)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の演習が始まる少し前、加賀は赤城と合流した

 

 

・・・のだが、珍しく赤城が何やら興奮した様子ではしゃいでいた

 

 

 

《何かいいことでもあったのかしら?》

 

 

 

尋ねる間もなく

 

 

「加賀さん!! 聞いてください。 今日、面白い子を見つけたんです。例の浜風って子なんですけど・・・」

 

 

 

《・・・あぁ・・そういえば伊良子さんが言っていましたね・・・一緒に見てたって・・》

 

 

 

「夕張がお気に入りの子ですよね・・・その子がどうかしたのですか?」

 

 

「すごく目がいいんですよ!・・・というより、あれは演算でしょうか? 本来なら、見えないものが、あの子には見えています。私たちの・・・誰よりも!」

 

 

 

「・・・それは、また・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 こんなに興奮した赤城さんを見るのは、随分と久しぶりな気がする・・・・・・そう、4年前・・・・ポーラと演習でやりあったあの時以来だ・・・・ただ・・・・

 

 

 

《・・・あの子・・・》

 

 

 

 赤城さんは、あの子の内に秘められた《何か》を見た・・・らしい・・・・でも、私が目にした浜風は、恐らくは身内に虐待され、ぼろぼろにされ、立って歩くのもやっとの幼子の姿だった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・赤城さん、実は・・・・」

 

 

 

「え? 何です?」

 

 

 

 

 

 

 

「実は・・・先程提督と先に昼食を戴きまして・・・・お寿司・・・美味しゅうございました」

 

 

「え!? 何それ! ずっこい!!!」

 

 

「前に赤城さんが ”出禁 ”になったあのお店ですっ!(きっぱり)」

 

 

「かっ、加賀さ~ん(涙)」

 

 

「安心して下さい。本日付で、私も ”出禁 ”になりました」

 

 

 

 

 

「・・・今生では、もう二度と行けそうにないですね、あのお店・・・(涙)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 加賀は、先程見た浜風の事を、何となくではあるが、赤城には言わなかった

 

 

 

 せっかく無邪気に喜んでいる赤城の興を削ぎたくなかったというのもあるが、あの提督が、どうやら赤城や自分には事前に事情を説明していなかった事から、この件についてはまだ一部の者の間に留めておきたいということなのだろう・・・・そう思ったからである

 

 

 

 

 ただ・・・・

 

 

 

 

 加賀は、どうやら浜風の抜き差しならぬ事情を垣間見てしまった・・・。それを知ってしまった以上、彼女は黙ってはいられない

 

 

 

 

 いずれにせよ、この事が赤城さんの耳に入るのも時間の問題であろう。当面はそれとなく、浜風の様子を見守る事にしよう・・・・そう、加賀は思っていた

 

 

 

 

 

 

「・・・そろそろ時間です。赤城さん、行きましょう」

 

 

「ふうん・・・ですね。 では、参りましょうか」

 

 

 

 

 

 

久しぶりに演習場に降り立つ ”一航戦 ”の姿が、そこにあった

 

 

 

 

 

浜風 09 失踪  に続く

 

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