少女と花嫁   作:吉月和玖

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第一章 出会い
01.出会い


『お兄ちゃん、教え方が上手だね!きっといい先生になれるよ!』

 

学生の頃に一度だけ京都で出会った女の子。

その女の子に自分の知っていることを教えてあげながら京都を案内した時に言われた言葉。

その時の女の子の目はキラキラとしていた。

なのに……

 

ピピピ…ピピピ…ピピ...

カチッ

 

「フワァ~…」

 

指定した時間に鳴り響く目覚ましを止め、起き上がりながら伸びをする。

久しぶりにあの頃の夢を見たな。僕が教師を本気で目指すきっかけになった頃の夢。せっかくきっかけをくれた女の子だったのに、その子の顔をほとんど思い出せない。

まあ、旅先で出会っただけの関係。写真も撮らないわな。

 

僕は吉浦和彦(よしうらかずひこ)。旭高校という高校で教鞭を執っている。

そんな僕は朝から困った状況に陥っている。それは......

 

「すぅー...すぅー...」

 

何故か僕の横で気持ちよさそうに眠っている女の子がいるからだ。まあ正体は分かっているので対処には困らないのだが。

 

「おい、起きな『ことり』」

 

『ことり』と呼んだその子を揺さぶりながら起こす。

 

「ん~~...お兄ちゃん...?」

「おはよ、ことり」

「えへへ、おはようお兄ちゃん」

 

吉浦(よしうら)ことり。彼女は僕の妹にして、僕が教鞭を執っている旭高校に通う高校二年生。

文武両道で、人当たりもよく密かにファンクラブまで出来ている程の人気の女子生徒なのだが、一つだけ欠点と呼ぶべきものがある。それは......

 

「まったく。毎日毎日、凝りもせず人の布団に潜り込んで寝るんじゃないよ」

「えー、だって少しでも一緒にいたかったんだもん」

 

ことりの用意してくれた朝食を食べながら意味のない注意をする。

そう唯一と言ってもいい汚点がこのブラコンぶりだ。

なにしろ、僕の近くに居たいからとわざわざ県外の高校を受験して僕の家に転がり込んでくるぐらいなのだ。

まったく...男子から告白も多いだろうに全部断っていると聞いた時は驚いたものだ。

告白してきた男子にはもれなく、『好きな人がいるのでお付き合いできません』、と断っている。

だからいつも校内での話題は、あの吉浦ことりの好きな人は誰なんだ、でひっきりなしだ。

まさか、その相手が兄である僕とは誰も思うまい。

呆れ気味でことりを見ると、ニッコリとした顔を返されるのだった。

 


 

「先日お話をしていた通り、本日転入生を迎え入れます。二学期が始まって間がなく中途半端な時期ではありますが、二年生の担任を持つ皆様はどうぞよろしくお願いします。転入生は五人。ですので、各クラス一名ずつの受け入れとなります。各クラスに配属される生徒は今お配りしたプリントに書かれておりますので、各自で確認を取っておいてください。なお、転入生は午前中は私で学内を案内しますので、午後から受け入れをお願いします」

 

出勤後の朝礼時に教頭先生から説明があった。

ちなみに僕は絶賛関係ある二年生の担任である。

はぁぁ...どんな子が転校してくるのやら。

朝礼が終わり朝のホームルームまで少し時間が空いたのでプリントで確認する。

 

「お互い大変ですね。初の担任クラスなのに転入生の受け入れなんて」

「ははは、まあ全クラスに転入してくるというイレギュラーなんで、こればっかりは仕方ないですね」

 

プリントを確認していると隣の席の立川芹菜(たちかわせりな)先生に声をかけられた。

彼女は僕と同じ年齢で同期。同じく二年生に担任クラスを持っている。つまり、彼女のクラスにも転入生が来るのだ。

席も近いことからこうやってよく話をすることが多い。他にもよく話をすることが多い理由があるが今はいいだろう。ちなみに、人当たりが良い事で校内では教員や生徒からも人気が高い。

 

「しかし、転入の時期も珍しいと言えば珍しいですが、こっちの方が余程珍しいですね」

「そうですね。五つ子ですか...」

「やっぱり顔とかそっくりなんですかね?僕には見分ける自信ないかもです...何か特徴があればいいんですが」

「ふふっ、吉浦先生ならきっと大丈夫ですよ」

「どこから来るんですか、その自信は...」

「あら、吉浦先生は生徒とのコミュニケーションが取れてて人気者じゃないですか」

「それ、立川先生が言います?」

 

そこでお互いにプッと笑ってしまったが予冷も鳴ったのでここまでだ。

 

「それじゃ、行きますか」

「そうですね。あ、転入生の名前は覚えました?私の所は、中野五月(なかのいつき)さんでしたよ」

 

並んでそれぞれの教室に向かいながらお互いの転入生の名前を確認する。

 

「立川先生の所は五女ですか。僕のクラスは中野三玖(なかのみく)でしたね。なので三女ですかね」

 

三玖ねぇ。玖の字は珍しいな。三本の矢で有名な毛利元就の正室『妙玖』と同じ字か。て、すぐ戦国史に頭が持っていかれるは悪い癖だ。

こんな感じに日本の戦国時代が好きなのだ。数学教師なのに。

まあ、社会全般が好きって訳じゃないからなぁ。

ちなみに今隣に並んでいる立川先生が社会担当の教師である。だから僕との話が通じ合うところがあるのだ。

 

「なるほど。名前の数字で長女、次女があるんですね」

「多分そうですね。他の姉妹にも名前に一と二と四がありましたから」

「ふふふ...」

「え、なんで笑うんですか?」

「やっぱり、ちゃんと見てらっしゃるんだなって」

 

これは一本取られたな。

頭を掻きながら自分の教室に向かうのだった。

 


 

昼休み。

この学校には数学準備室というものがある。まあ、体のいい物置のような教室ではあるのだが。

ただ、机とかもあるからこういう休憩時間とかには結構使えるのだ。整理をする条件に自由に使って良いと言われているのでこの場所は重宝している。

職員室でお昼はなんか緊張して休めないんだよねぇ。

 

コンコン

 

「はーい、どうぞ」

 

ガラッ

 

「失礼します」

「……何やってんの?」

「お昼、一緒にしようと思って」

 

ドアで自分の弁当を掲げながらそう言ってくるのは我が妹のことりである。

慣れた動作で僕の向かいに弁当を広げながら座る。

 

「まったく…ここで食べないで友達と食べなって言ってるだろ」

「だから毎日は来てないでしょ?」

 

頬を膨らませながら反論することり。

いや、そうなんだけど…

 

「週に2、3回来られたら言いたくなるよ」

「むー…これでも結構我慢してるのにぃ~」

 

自分で作った弁当のおかずを食べながら文句を言うことり。ちなみに僕の弁当もことりが作ってくれている。

こういうところがなければとても良い子なのになぁ。

いつもの恒例のやり取りをしながらも、何だかんだで話が弾む。

そんな時だ。ことりの携帯に友達から連絡がきたようだ。

 

「………ねえお兄ちゃん?転入生でも来てるの?」

「なんで?」

「いや、友達から学食に黒薔薇女子の制服着た生徒がいるって連絡きたからさ。しかも、一組の上杉君と口論してたっぽいよ」

「上杉と?それはまた珍しいな」

 

二年一組の上杉風太郎。学年一位の成績で全教科満点を取っている。とは言え、僕が出す小テストではたまにミスしいてる。まあ、本番にきちんと修正出来てるから問題ないんだけどね。

いつも一人で勉強しており、誰かと話しているところを見たことがない。

そんな彼が、しかも転入生と口論か…

ちなみに、目の前にいる我が妹も成績上位者である。特に数学は満点を逃さない。

『お兄ちゃんが教えてくれる科目だもん。他の科目より頑張るよ』、が本人談である。社会も日本史の部分は満点である。僕が好きなものは何でも好きになるそうだ。

お兄ちゃん、妹の未来が心配だよ。

 

「転入生については今日の午後から来るよ。二年生全クラスにね」

「え?全クラス?てことは、五人も来るの?転入生」

「そうだね」

「じゃあ、うちのクラスにも来るんだ」

「紹介する時にお願いするけど、仲良くしてやってくれ」

「うん!その辺は任せといて……と、そろそろ行くね」

「ああ」

 

自分の弁当を持って教室から出ていく。

さっきお願いした通り、僕の担任クラスにことりがいる。

普通、兄妹で同じクラスにしないだろ、と思うのだが…

さて、転入生の受け入れのためにも僕も早めに職員室に戻りますか。

 

職員室に戻ると、職員室前に五人の女子生徒が並んで待機していた。どうやら件の転入生らしい。

しかし、遠目から見てもそっくりだな。唯一助かるのは髪型と、それぞれが付けているアクセサリーなどが違うことか。

そんな風に考えながら五人に近づいた。

 

「こんにちは。本日転入してきた中野さん達でいいのかな?」

「そうですけど...あなたは?」

 

僕の質問に一番髪が短い子が答えてくれた。

 

「失礼。僕は二年四組の担任をしている吉浦です。よろしくね。えっと...中野、三玖さんはどなたかな?」

「はい...」

 

五人の中で真ん中に立っていた子がおそるおそる手を挙げる。

髪はセミロングで右目が隠れるほど前髪が長い。後は特徴的にヘッドホンを首に掛けている。

 

「さっきも自己紹介したけど、僕が君の担任の吉浦です。これからよろしくね」

 

三玖さんは僕の言葉にコクンと頷く。人とのコミュニケーションが苦手なのかな。

 

「へぇ~。三玖よかったじゃん。若い先生で話しやすそう。私もこの先生が担任ならよかったのにぃ」

「担任なんてどれも一緒でしょ」

「二乃は相変わらず辛辣だなぁ...」

「......」

 

残りの姉妹が盛り上がって話をしている。どうやら姉妹間の仲は良いようだ。

しかし、先程から気になっているというか、じっと見られているように感じるんだが。

 

「えっと...僕に何か質問かな」

 

視線の先の子に確認する。

その子は、ウェーブのかかった長い髪で前髪の一部が長く後ろに伸びている。後は、星形の髪飾りを前髪に着けており、アホ毛?が生えている。

 

「す、すみません!」

「おやおやぁ...五月ちゃんってば、もしかして先生みたいなのが好みだったりするのかなぁ?」

「そ、そういうのではありません!ただ、ちょっと昔会った人に似ていたので...あの、先生の担当科目は社会でしょうか?」

「ん?いや、数学だけど」

「え!?そうですか...やはり勘違いだったのでしょうか

 

五月と呼ばれたその子は、僕の回答に驚き何やらブツブツと言っている。

 

「んー...社会が得意そうに見えたかな?まあ、日本の戦国史は好きだから見立ては合ってると言えば合ってるかな」

「えっ!?」

 

僕の回答に今度は三玖さんが驚きの顔を向けている。何なんだろうか。

 

「数学教師なのに戦国史が好きなの?」

「に、二乃!言葉遣いっ」

「ああ、他の先生がいないところだったらわざわざ敬語で話さなくてもいいよ。みんな割とフレンドリーに接してくるしね。後、戦国史好きは本当だよ。この分野のみだったら社会の先生にも負けないって自負してるしね」

「ふ~ん。やっぱり先生って話しやすいね」

「ははは、威厳は保てるようにしてるけどね。そうだ、せっかくだから名前聞いといていいかな?数学を教えるために結局全クラス回るわけだし」

「私が長女の一花だよ。よろしくね先生!」

 

一花と名乗った子の髪はショートヘアーで五つ子の中で最も短い。姉妹の中で一番コミュニケーションがとれるのかもしれない。

 

「......二乃よ。よろしく」

 

二乃と名乗った子はロングヘアーの髪型で、五つ子の中で一番の長髪だ。後は黒い蝶の髪飾りを左右に着けたツーサイドアップが特徴的である。反発的な態度を取っているが性格から来ているのか気になるところではある。

 

「四葉です!よろしくお願いします!」

 

四葉と名乗った子はボブカットで緑のうさ耳のようなリボンを着けている。活発的で明るい性格のように感じる。ちなみに、先程から二乃さんに注意をしているのがこの子だ。

 

「五月です。よろしくお願いします」

「うん、皆よろしくね。それじゃあ三玖さん。僕たちはそろそろ行こうか」

「はい...」

 

ある程度お互いに紹介が出来たところで三玖さんを連れて自分の教室に向かうことにした。

 

「あ、あの...さっき、日本の戦国史が好きだって...」

「んー?そうだけど...何?三玖さんも戦国史に興味あるの?」

「えっ!?す、少しだけ...」

「へぇ~、そっか。じゃあ、放課後良いもの見せてあげるよ」

「いいもの?」

「ああ。もしかしたら引かれるかもしれないけどね......さて、ここが三玖さんのクラスの二年四組だ。自己紹介をすることになるだろうけど大丈夫そう?」

「......自分の名前と挨拶だけなら」

「ふっ、十分さ。他の事については僕から紹介するから気にしなくていいよ。じゃあ行こうか」

「はい...」

 

三玖さんの返事を聞いた僕は、いざ自身のクラスの教室の扉を開けるのだった。

 

 




自分にとっては二作品目の投稿です。

『五等分の奇跡』との同時投稿になりますので、投稿がスローペースかと思いますがご了承ください。
こちらの作品も完結出来るように頑張りたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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