「さて、どうしたものか…」
ドォン…ドォン…パラパラ…
他のメンバーの場所を一番把握しているであろう上杉と合流出来て喜んだがつかの間。その上杉とまたはぐれてしまったのだ。
夜空では無情にも花火が舞い上がっている。
「まったく。あの人は、こんな非常事に何を考えてるのでしょう」
そして僕の横ではご機嫌斜めの五月が上杉への愚痴を並べている。
「まあまあ、この人だかりだからそれではぐれたかもだからね。上杉ももしかしたら混乱してるかもだよ」
「……そうですね。先生とまではぐれていたらと思うとちょっと怖いですね」
少しは五月も落ち着いたようだ。
さて、これからの事を考えないとだな。
まず上杉の件についてだが、五月にはああ言ったものの人混みではぐれたにしては急すぎだと思う。今の状況を考えれば大声をあげるなりするだろう。まあ花火の音で聞こえない可能性もあるわけだが…
だけどそうなってくると自ら離れた事になるが…これだと理由が思い浮かばない。
はぁぁ、上杉の件は保留だな。ここで考えていてもきりがない。となると、ここで上杉と合流するために待機するのはあまり良くないか。
次に考えるのは三玖の事だ。上杉の話だと、三玖は足に怪我をしているらしい。それで僕と五月のところには上杉一人で来たそうだ。となると、三玖は今も一人で待っていることになる。なので早く合流してあげた方が良いだろう。
だが、その三玖がいるところが分からない。闇雲に探すのは、今のこの状況ではあまり良くないだろう。
となると、残るメンバーである四葉とらいはさんか。この二人は唯一場所が分かっている。上杉の話によれば時計台にいるとの事だ。まずはこの二人と合流をするのが良いのかもしれない。
そう考えをまとめた僕は五月に声をかけた。
「五月。これからなんだけど時計台にいる四葉とらいはさんに合流しようと思うんだけど、どうだろう?」
「そうですね。時計台という目的地があるのはよいことだと思います。しかし三玖とは合流しなくてもよいのでしょうか…」
「それも考えたんだけど、三玖がいるのは脇道という事しか聞けなかった。そっちは場所を知っている上杉に任せよう」
「ですね。わかりました、時計台に向かいましょう」
どうやら五月も理解してくれたようだ。さっそく向かおうと思ったら五月から手を差し出された。
「五月?」
「……はぐれては、大変ですので…手を繋いでください」
顔を赤くしてこちらを見ないようにしている。
そんな姿を可愛く思い、クスッと笑ってその手を取った。
「お嬢様の仰せのままに」
そして手を握ったまま二人で時計台を目指すことにするのだった。
~三玖side~
「遅い...」
三玖は現在、五月と和彦を見つけた風太郎がその二人を連れてくるのを待っていた。
一緒に行ってもよかったが、先程誰かに足を踏まれて怪我をしてしまったのだ。それを鑑みて風太郎は待ってるように伝えた。
(先生と五月を追いかけて行ったっきり、フータローどこまで行っちゃったんだろう)
近くにあったお店の窓が丁度鏡のように自身の姿を映しており、それを見ながら待っている。
『お二人はどのようなご関係でしょう?』
『ただの知り合いですよ』
ふと、先程街頭アンケートを受けた時の風太郎のやり取りを思い出していた。
(ただの知り合い...私は友人と思ってたけどフータローにとってはそうだったんだ。ふふっ、フータローだったら仕方ないか)
小学生以来、友人を持ったことがない風太郎にとっては友人の定義が分からない。教師?関係者?色々と頭を過ったが、知人という言葉がしっくりきたのだ。
そんなことを知らない三玖であったが、風太郎のことを少しは分かってきたようだ。クスッと笑みが零れる。
(......先生は、私たちの関係についてなんて答えるかな...て、教師と生徒だよね...)
そんな風に心で笑いながら思い、三玖は目の前に映っている自分の姿を見ていた。
浴衣を着ていつものヘッドフォンを首に下げ、いつもの髪型にお面を頭につけている自身の姿を。
『それにしても、髪型がいつもと雰囲気が違って良い感じだね。今日の浴衣と合っててとても似合ってるよ』
『女の子が髪型変えたらとりあえず褒めなきゃ』
そんな時、五月の髪型を褒めていた和彦と風太郎にダメ出しをしていた一花の言葉を思い出していた。
「......」
そんな三玖はお面とヘッドフォンを下に置き自身の髪を結びだした。
後ろ髪を束ねお団子のようにまとめ上げた髪型。
「......私のことも褒めてくれるかな...?」
少し変わった自分自身の姿を見ながらそんな言葉が漏れるのだった。
~風太郎side~
和彦と五月に合流した風太郎は三人で三玖の元に向かっていた。だがそんな時にそこから連れ出されたのだ。
「花火見た?凄いよね」
「おい!どこ行くんだ。五人で見るんだろ!?一花!」
そう。風太郎を連れ出したのは一花だった。どういう意図があってこのような行動を起こしたのか分からない風太郎はただただ混乱をしていた。
「はは、いーからいーから」
「......」
そんな風太郎に気にも留めず、ずんずんと先に進む一花。そしてそんな二人は脇道に出て、ビルとビルの間の細い路地までやってきた。そこで一花も足を止める。
「...それでね。さっきのことは秘密にしておいて」
「さっきのとは...」
「私が男の人と会っていたってこと」
実は風太郎は三玖に会う前に一花に会っていたのだ。その時に一花が知らない男の人と一緒にいたところを風太郎は目撃している。その事を秘密にしてほしいようだ。
ダンッ
そして壁ドンのごとく一花は片手をビルの壁に当てて風太郎を逃がさないようにしている。
「私はみんなと一緒に花火を見られない」
一花はそんな言葉を決意じみた顔をして漏らす。
「急なお仕事頼まれちゃって…だから花火は見に行けない」
そこで先程までの決意じみた顔を崩し、笑みを浮かべながら一花は話を続ける。
「ほら、同じ顔だし一人くらいいなくても気づかないよ」
「それは無理があるな」
「ごめんね、人待たせてるから」
「お、おい待てって!ちゃんと説明しろよ!」
さすがの風太郎もこのまま行かせてはいけないと思ったのか一花を呼び止める。そんな風太郎の呼び止めに対して振り返った一花は疑問を投げかけた。
「なんで?」
「!」
「なんでお節介焼いてくれるの?」
「...っ」
「私たちの家庭教師だから?」
「確かに」
一花の追及に風太郎は言葉が詰まる。
「確かに...ッ。客観的に見て、なんで余計な面倒を見てんだって感じだよな」
「うん。じゃあそういうことだから...」
風太郎の言葉に納得と寂しさが混じったような顔をした一花はその場から離れようとしている。だが...
「あ、やば」
何かを見つけた一花はまた風太郎の方に戻ってきてビルの陰から覗きこんでいる。そんな一花の後ろから風太郎も覗きこんだ。
「さっきお前といたおっさんじゃねぇか」
一花と風太郎が覗いた先では、先程まで一花と一緒にいた男の人が焦った様子で何かを探している。
「あの人仕事仲間なの」
「お前を探してるんじゃないか?」
一花のことを探しているであろうその男の人は徐々に風太郎と一花がいる場所に近づいてきていた。
「大変!こっち来た!どうしよう...仕事抜け出してきたから怒られちゃう!」
「知らねぇよ。奥から逃げれば...」
「あー!間に合わないよ!」
男の人に見つかるかもしれない事で焦っている一花と風太郎。そんな事にお構いなしに男の人は近づいてくる。そして、二人のいる細い路地を覗き込んだのだ。
しかし、その男の人は一花を見つけることはできなかった。男の人が見つけたのは、細い路地で抱き合っているカップルのみ。暗い場所でもあったので、そのカップルの一人が一花とは思わなかったようだ。
だが、その抱き合っているカップルというか二人がまさに風太郎と一花である。機転を活かして、風太郎が一花に覆いかぶさるように二人は抱き合ったのだった。
「よっこいしょ」
細い路地を覗き込んだ男の人は近くにあった空箱に腰を下ろして携帯をいじりだした。
(そこに座るんかーい)
思わず心の中で風太郎はツッコミをいれてしまった。
「おい...」
「ん?」
「いつまでこうしていればいいんだ?」
「ごめん、もう少し」
さすがに体勢がつらくなってきたのか風太郎が一花に問いだすも、まだ近くにさっきの男の人がいることでここで止めることもできず、一花からはもう少しと返事があった。
「私たち傍から見たら恋人にみえるのかな?」
「ん...まぁ...欧米じゃあるまいし、この状態は恋人に限られるだろうな」
いたずらっぽく一花が質問を投げかけるが、さすがの風太郎もこの状態では恋人に見えると言わざるを得なかった。
「ふふっ、本当は友達なのに悪いことしてるみたい」
一花はこの状態をどうやら楽しんでいるようではあるが、そんな言葉に風太郎は抱き寄せていたのを解き一花に問いただした。
「俺らって友達なのか...?」
「えっ」
風太郎の問いに一花は驚きの表情を見せている。
「えーっと...ハグだけで友達超えちゃうのは流石に早いかなー」
「そ、そうじゃなくて...!俺はただの雇われ教師だ。それさえなければお前たちと接することもなかっただろう。そんな関係を友達と言うには違和感が...」
そんな風太郎の言葉にも一花はただただキョトンとするばかりである。
「なにそれ、めんどくさっ」
「えっ」
「私は友達だと思ってたのに、やっぱりフータロー君は違ったんだ、傷つくなぁ~~」
「いや...俺は...」
一花の反応は普通の人から見たら至極当然の反応かもしれない。だが、友達の定義を図れない風太郎にとってもまた当然の反応なのである。
「もしもし」
「「!!」」
そんな時、先程の男の人の声が聞こえてきて風太郎と一花はビクッと体を強張らせた。どうやら男の人は電話に出ているようだ。
そこで、風太郎と一花は再び抱き合う形をとる事にした。
「少しトラブルがあって...撮影の際は大丈夫ですので...」
「撮影?お前の仕事って...」
聞こえてきた男の人の言葉に風太郎は質問の投げかける。
「実はあの人はカメラマンなの。私はそこで働かせてもらってる」
「!カメラアシスタント...」
「...うん」
そこで風太郎はようやく一花が何の仕事をしているのかを理解した。
「良い画が撮れるように試行錯誤する。今は、それが何より楽しいんだ」
自身の仕事の良さを伝わるように話す一花。
(カメラマンねぇ...)
だが、当の風太郎にはあまり伝わっていないようである。
「学生の大切な時期にそんなことして大丈夫かよ。お前たちは勉強に集中しなきゃ進学すら怪しいんだぞ」
学生の本分は勉強。そんな風太郎がその言葉を投げかけるのは当たり前かもしれない。
だが、そんな考えを持つ風太郎に対して一花は疑問に思ったことを投げかけた。
「フータロー君はなんのために勉強してるの?」
(なんのためーーー)
そんな一花の言葉に風太郎はある記憶が甦った。小さな女の子が笑ってこちらを見ている、そんな記憶が。
そんな時だ。
「一花ちゃん見つけた!」
「「!」」
男の人からの声が聞こえて自分達がとうとう見つかったのだと二人は判断した。
「しまっ...」
だが、男の人はこちらとは別の方向に向かっている。
「こんなところで何やってんの」
「えっ」
「言い訳は後で聞く、早く走って!」
「えっと...えっ?」
男の人はたしかに一花を見つけたと言っていたが、一花本人はまだ風太郎の腕の中。しかし、男の人は一花に話しかけるように話している。
訳も分からず風太郎と一花が大通りの方を見ていると、男の人に引っ張られる少女の姿が現れた。
その少女はたしかに一花の顔をしている。だが一花ではない。
「三玖!?」
すぐに判別ができた一花はその少女の名前を呼ぶ。
「もしかして私と間違えて...」
「とにかく追うぞ!」
風太郎の掛け声のもと、風太郎と一花は連れされられる三玖を追いかけだした。
二人が人混みの方を見てみると、少し離れたところに三玖の姿が確認できる。
「今なら追いつける!」
その風太郎の言葉と共に風太郎と一花の二人は人混みをかき分けて進みだした。
「電話は…」
「かけてる!」
「お前…なんで仕事抜け出してきたんだよ」
追いかけながら風太郎がそんな質問をする。
「……言いたくない。どうやらフータロー君とは友達じゃないらしいし」
「うっ…そうは言ったが…」
一花は自分たちとの関係性が友達ではないという風太郎の言葉を根に持っているようで、膨れっ面で風太郎の前を行く。
そんな一花の態度に対して申し訳ないような顔でいる風太郎。
(なんでそんなこと聞いたんだ俺…こいつらが何をしてようが俺には関係ない。関係ないんだ!)
心の中でそう言い聞かせる風太郎。そんな彼の頭にいくつかの言葉が過る。
『一花ちゃんとどういう関係?』
『私は友達だと思ってたのに、やっぱりフータロー君は違ったんだ、傷つくなぁ~~』
『私に聞かずとも……あなたはその答えを持ってるじゃないですか』
「俺は…」
決意を込めた顔になった風太郎。そんな風太郎と三玖との間に突如と人影が現れた。
「すみません。どういう状況かは分かりませんが、彼女嫌がってるようなので返したいただきますね」
そしてその人影は三玖の腕を取り自分の方に引き寄せたのだった。
今回は趣向を変えて風太郎sideを中心に書かせていただきました。
そして最後に風太郎の目の前に現れた人影は…
もう少しだけ花火大会を書かせていただきますのでお付き合いいただければ幸いです。
では、次回投稿も読んでいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。