これも読んでいただけている皆様のお陰だと思っております。この場をお借りして御礼申し上げます。
本当は80話くらい行ければ良いかなと思ってたんですけどね…
これからもエンディングまで書けられるように頑張っていきます!
100.新学期
「はい、あーん」
「……ったく…あむ」
「ふふふ」
僕は今、飛鳥が福岡に帰るのを見送るために飛鳥と二人で空港まで来ていた。そして、空港内にあるレストランで昼食を食べているところだ。
「じゃあ、私にも和彦のハンバーグ食べさせてくれない?」
「はいはい。ほら……」
「あーん……うーん、美味しいわね」
「ああ。ここは当たりだったのかもね」
お互いの料理を食べさせあっているにも関わらず、誰からも文句を言われていないのは、僕と飛鳥が二人でいるからだ。
本来であれば、最低限でもことりと結愛だけでも来るものではあったのだが──
──お姉ちゃんと二人で行ってきてください。きっとその方がお姉ちゃん喜ぶと思いますから。
そんな風に結愛が提案してきたからだ。
案の定、飛鳥は車の中から終始ご機嫌であった。空港に着いて、時間があったのでレストランでご飯を食べている今でも珍しくニコニコしている。
ご飯を食べ終わりレストランから出たところで腕時計を見て時間を確かめた。
「搭乗口に行くまで後一時間ってとこか」
「……そうね…」
僕の言葉にあからさまに寂しそうな声で飛鳥は返事をした。
まったく…
「ほら。まだ一時間あるんやから、空港内を一緒に見て回ろうか」
自分の手を差し出しながら提案すると、にっこりと笑顔で飛鳥は『ええ』と答えながら僕の手を握った。
最近の空港は色々なお店が入っていると思っていたのだが、思った通りだった。それらのお店を一つ一つ飛鳥と二人で見て回った。
もちろん、その間も恋人握りで手を繋いだ状態である。
「あ、見てみて。アクセサリーショップもあるみたいよ」
「へぇ~、今時の空港は凄いな」
「ふふっ…旅行の記念とかに買う人がいるのかもしれないわね」
楽しそうにどんなものがあるのか飛鳥は探している。
「そういえば。前にあげたネックレス、まだ着けてたんやね」
「これ?」
僕が聞くと、飛鳥は首から提げているネックレスを摘まんでこちらに見せてきた。
「言ったでしょ。私にとっては大切な物だって。学校にも着けて行ってるわよ。規則違反ではないしね」
そして、ウィンクしながら飛鳥はそう答えた。
「何かお探しですか?」
飛鳥と話をしながら商品を見ていると店員さんに声をかけられた。
「そうですね…今回の旅行の記念になるものがあればと思ってます」
「でしたら、こちらのペアリングなどいかがですか?彼氏さんとお揃いで良い記念になると思いますよ」
営業スマイルの店員さんは、一つのペアリングを紹介してきた。それは、銀色のリングにほんの少しだけ宝石が付いているシンプルなものだった。商品の紹介札を見てみると、どうやら琥珀が付いているようだ。
それは良いんだが、彼氏じゃないんだよなぁ。まあ、こんな風に手を繋いでたらそりゃ勘違いするか。
それにペアリングは駄目だろ。流石に。
そう思って飛鳥に声をかけようとしたのだが…
「………」
その飛鳥は目をキラキラさせて指輪を見いっている。
うーーん…
「すみません──」
アクセサリーショップを後にした僕と飛鳥は搭乗口に向かって歩いていた。
「わぁ~~♪」
隣を歩く飛鳥は先程から右手を開いて挙げては、うっとりしたような声を漏らしながら見ていた。
飛鳥が見ている指には先程の指輪がはまっているのだ。
ちなみにペアリングではない。単品でも売っているか確認をしてそれを買ったのだ。店員さんには変な目で見られたが…
「皆には内緒にするとよ?」
「わかってるわよ。ふふっ、ありがと和彦。ネックレスと同じく大切にするわ」
今日一の笑顔を向けられたかもしれないな。
と、この辺だったらいいかな。
「なあ飛鳥、ちょっといいか?」
「ん?どうしたのよ?」
声をかけながら立ち止まり、僕は飛鳥に一つの提案をした。
「その……ここで写真撮らん?」
「え…?」
「島に行ったりしたけど、二人の写真は撮ってなかったやろ?焼け石に水かもしれんけど、そういう写真があった方がいいかなって…」
頬をかきながら目線を逸らして考えを伝えた。
「……良いの?」
「ああ。空港の中っていうのもなんやけどね」
「ううん。あなたと二人の写真を撮れるならどこだって良いの。さっそく撮りましょ」
嬉しそうな飛鳥は僕と繋いでいた手を離し、今度は腕を組んできた。そして、顔を近づけてきたのだ。
「どうせなら、この指輪も撮っておきたいわね。はい、あなたが撮って」
そう言った飛鳥は自分のスマホを渡してきた。
「え?自撮りで撮るん?誰かに頼めばええやん」
「何言ってるのよ。こっちの方が良いに決まってるわ」
「んー…しゃーないなぁ……そんじゃ、いくよぉー」
パシャッ…
「うん。なかなか良い感じね。さっそく壁紙にしましょ。和彦の分も後で送っておくわね」
「ああ」
「ふふっ…和彦も壁紙に使っても良いのよ?」
流石に誰かに見られたら何されるか分からんしで無理だな。
そんな感じでずっとご機嫌のままだった飛鳥ではあったが、いよいよ出発の時が近づくと口数も少なくなっていた。
ボスッ…
搭乗口を通る時間になった時、飛鳥が僕に抱きついてきた。
「おい…!」
「良いじゃない。暫く会えなくなるんだから。次はゴールデンウィークかしら?」
飛鳥の言葉に仕方なく、飛鳥の頭と肩にそれぞれ手を置いて飛鳥のしたいようにした。
「そうやね。次の纏まった休みと言えばそうなるかな」
「じゃあ、また会いに来ても良い?」
「ん?僕たちが帰省するかもよ?」
「んーー…和彦も三年生のクラスを持つようになったのでしょ?なら、もしかしたら忙しくなりそうじゃない。だから私から行くの」
飛鳥には来年度から三年生の担任になることを伝えている。まあ、直接的に関係がある訳でもないから問題ないだろうと思ったからだ。
「それに、私から行った方が和彦と一緒に寝れるしね」
「そうかよ…わかった。ことりと結愛にもそう伝えとく」
「うん。じゃあ……ん、ちゅっ……また会えるのを楽しみにしてる」
不意打ちのキスをした飛鳥はすぐに離れると、指輪を付けている手の方を挙げて搭乗口を通って行った。
ヴーヴー…
暫くその場に留まっていたら飛鳥からメッセージが届いた。そこには、『大好き』という言葉と共に先程の写真が添付されていた。
~飛行機内~
飛鳥は左手で肘を付き頬杖を立てて景色を見ていた。と言っても一面空と雲しか見えないのだが。
そんな飛鳥は、右手の指にはめている指輪を見ては笑顔を見せていた。
(多分、一人だけ福岡に帰ることを懸念して買ってくれたのよね。まぁ、そういう優しさがたまらなく好きなんだけどね…そうだわ。帰ってからの予定を確認しておきましょう)
飛鳥はスマホのカレンダーに書かれた予定の確認を始めた。
(帰ったら予定がパンパンなのよねぇ…はぁぁ…)
そこには予定がびっしり入っていた。内容は主に生徒会関連ではあるのだが、それ以外にも『家庭教師』という文字もあった。
(明日が午前中と夕方。明後日はお昼過ぎと夕方か…)
飛鳥が和彦の元に行くと決心してから暫くして、アルバイトの家庭教師を始めたのだ。理由としては、和彦の元に行くための旅費を稼ぐこと。これは、飛行機や新幹線といった移動するためのお金だけでいいので問題ない。宿泊は和彦の家なのでお金もかからないのだ。
もう一つの理由は、飛鳥の進学先にも関係してくる。
ことりと飛鳥は卒業後、教育大学に進学を考えているのだ。それで家庭教師というわけである。
(ま、私の場合は小学生や中学生が相手なのだけれどね)
そうして、ゴールデンウィークの予定を見るために、月末から翌月にかけて予定を確認した。
(こんなこともあろうかと、ゴールデンウィークに何も予定を入れてなくて良かったわぁ…あ……)
そこで一つの日付で目が止まった。
『五月五日 中野さんたちの誕生日』
(……あの反応だと、まだ和彦は知らないかな。でも、ことりや二乃辺りから聞かされるだろうし、聞いたら残るだろうなぁ…はぁあ、私から会いに行くって言ったけど、なんか釈然としない)
そんな風に思った飛鳥は、ほおを膨らませながら窓からの風景を眺めるのだった。
新学期──
「おはようございます、吉浦先生」
「おはようございます、立川先生」
朝、職員室の自席で朝の準備をしているところに、芹菜さんが出勤してきて挨拶をしてきたので挨拶を返した。
「いよいよ今日から一学期が始まりますね」
「ですね。ちょっと変わったクラスではありますが、まぁいつも通りやっていきます」
「ふふっ。何かあればいつでも言ってくださいね。サポートしますから」
そう言った芹菜さんも準備を始めた。
その横で僕は改めてクラスの名簿を開いた。
『上杉 風太郎』
名簿の一番上に記載されている名前。まさか上杉の担任になるとはねぇ。
後、馴染みのある名前で言えば、森下、佐伯、そして前田あたりだろうか。森下と佐伯は、ことりの友達ということでちょくちょく話してるし、初詣にも一緒に行った仲でもある。
前田は、あの三玖が変装した一花にダンスを誘ったことがあったあたりから、教室なんかで話したりする。まあ、数学の補習常連者でもある訳なんだが。
それと──
『武田 祐輔』
理事長の息子。二年生最後の定期試験で上杉を押さえて学年一位になった生徒だ。それまではずっと二位だったからなぁ…
ちなみに三位がことり。まあ、ことりは順位は特に気にしてないから、現状維持が出来てるだけで満足している。
しかし、自分の息子の担任を任せるなんて、理事長には何か考えがあるのだろうか。
そんな風に考えながら名簿の一番下まで目をやると。
『吉浦 ことり』
マジで兄妹とか気にしないのだろうか…
今年は進路面談だってあるのにお構い無しだ。まあ、そのあたりは芹菜さんに相談してだろうな。副担任がよく知る仲の人で良かったよ。
そして、何よりと言っても良い生徒
それが──
『中野 一花
中野 五月
中野 二乃
中野 三玖
中野 四葉』
五つ子だぞ。はぁぁ…会議の時に意見は出したんだけど、理事長たっての願いだからとそのままごり押しされたんだよねぇ。他の先生方の中でも、中野さんの担当は吉浦先生っていうのが根付いてるし。隣に座ってた芹菜さん、心配そうな顔してたなぁ。
パタッと名簿をそこで閉じた。
ま、なるようになるか。
その後、朝の朝礼も終わり自分のクラスに向かった。教室に近づくと、少し騒がしい声が聞こえてきた。
ガラッ…
「ほら、チャイム鳴ってるよ。席ついて」
教室のドアを開けて中にいる生徒に席につくように促すと、バタバタと席につき始めた。
そんな様子を横目に、僕は教壇まで進むと教室全体を見渡すように立った。
中央の席には五つ子が縦に並んで座っていて、全員が笑顔をこちらに向けていた。
「ま、一年二年と数学を受け持ってたから紹介するのもなんだけど改めて。このクラスの担任を任されました吉浦です。さっきも伝えた通り数学も担当するからまた一年よろしく」
僕が挨拶をするとあちこちから、『やったー』などといった言葉が聞こえてくるので概ね歓迎はされているようだ。
「さて。君達も三年生ということで、進学や就職を考えていると思う。僕は三年生を持つのは初めてではあるが、これから皆のサポートが出来るように努めていきたいと思ってる。何か不安とかあったら、気にせず相談してきてくれ。ああ後、男子は喜べぇ。このクラスの副担任は立川先生だからね。僕に相談しにくいことは立川先生に相談すると良い」
僕の言葉に男子は『よっしゃー』とボルテージを上げている。
「そこまでかよ…」
「え~…じゃあ、私たちって吉浦先生と立川先生の夫婦の場にいるってことですかぁ?」
「ヒューヒュー…」
その言葉をきっかけに、あちこちから冷やかしの声があがった。
「お前らは本当に好きだねその話……前にも言ってるけど立川先生とはそんな仲じゃないから。立川先生をからかうんじゃないよ」
『はーい』という返事はあったが、こいつらは絶対にからかうな。後で芹菜さんに共有しとくか。
「じゃ、話がそれたけど、君たちも三年生。つまり最上級生だ」
ガタッ…
ガタッ?
椅子を動かす音が聞こえたのでその方向を見てみると、笑顔で手を挙げている四葉が立っていた。
あれは何をしているんだ?
とりあえず無視して話を続けることにした。
「最上級生として自覚を持ち……」
じーーー……
「後輩達に示しをつくような……学校生活を送るように心がけ……」
じーーー……
「………だぁーー!何?中野、だと五人いるから、四葉!」
あまりの視線に我慢が出来なくなった僕は結局四葉に話しかけた。すると四葉は待ってましたと言わんばかりに更に笑顔を花咲かせて発表した。
「このクラスの学級長に立候補します!」
「今言うこと!?」
あまりにも予想していなかった言葉にツッコミを入れてしまった。
「そこをなんとか!やらせてください!」
パンッと両手を合わせて頭を下げてくる四葉。
「いや、反対もしてないんだけどね。はぁぁ…他の女子で立候補いる?」
片手で頭を抱えながら、とりあえず他に学級長になりたい人がいないか確認した。が、いないようなのでそのまま四葉が女子の学級長に就任した。
学級長に就任した四葉はそのまま僕の横に並んで立っている。
「ま、後で決めることだったし先に決めちゃいますか。男子の学級長なんだけど、僕が使命していいかな?」
僕の言葉にクラス中がザワッとした。男子の中では自分が当たるのではないかと思っているからだろう。
そんな中、我関せずで自習に励む者がいたので、その者に笑顔を向けた。もちろん本当は笑っている訳ではない。
「上杉風太郎。起立」
「へ?」
急に名前を呼ばれた上杉は訳も分からずシャープペンを止めてこちらを見上げた。
「聞こえなかった?Stand Up!!……上杉」
「はい!」
僕の顔を見た上杉はただ事ではないと思ったのだろう、勢いよくその場に立ち上がった。
隣の席の一花に斜め後ろの五月。そして、上杉の後ろの席のことりが呆れたように上杉を見ていた。
「て訳で、上杉にこのクラスの学級長をしてもらう」
「ちょっ!ちょっと待ってください、先生!」
僕の学級長使命に、やはりと言うべきか上杉から待ったの声が上がった。
「拒否は認められません。後……僕のクラスになったからにはホームルーム中の自習も許されない。Know what I mean?」
「はい……」
がっくしと肩を落としながら上杉は答えた。
「よし!じゃあ学級長も二人決まったことだし、残りの委員も決めていこうか。早速だけど、上杉に四葉。よろしくね」
「はい」
「わっかりましたー!」
対照的な返事を聞いた僕は、教壇から離れ窓際に寄りかかりながら立った。すると、ことりから『どういうこと?』と言っているような顔を向けられた。
僕はそんなことりの訴えを無視するかのように、窓から空を見上げた。
今日もいい天気である。そんなところに飛行機が空を過ぎていくのだった。
今回の投稿も読んでいただけてありがとうございます。
前書きでも書かせていただきましたが、今回で100話目となりました。
今回は飛鳥が帰るのを見送る和彦と、新学期のお話を書かせていただきました。
皆さん予想はしていたと思いますが、三年一組の担任に和彦を抜擢させていただきました。
これからどんな一年が待っているんでしょうね。
さて、次回も同じ日にあった出来事を書かせていただきます。
次回の投稿は10月30日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。