~三年一組~
ホームルームも終わり、今日の授業はここまでということで、生徒達は帰り支度を始めたりその場でおしゃべりを始めたりと様々であった。
ちなみに和彦は教室を出ようとしたところで女子生徒達に捕まっていた。
「やったねことり。担任がまたお兄さんじゃん」
「うん!それに、加奈と智子が一緒なのが何より嬉しいよ」
ことりの後ろの席でもある加奈が帰り支度をしていることりに声をかけたのだが、それに対して笑顔でことりは答えた。
「ふふっ、三人一緒は一年生以来だしね」
そこに、加奈の後ろの席の智子がことりと加奈の間に立ち話に加わった。そして、ことりが両手を挙げると二人も続いて両手を挙げ、三人でハイタッチをした。
「「「イエーイ!」」」
パチン
「吉浦先生が考慮してくれたのかな?三人一緒のクラスにするの」
「どうだろう。兄さんにそこまでの発言力ないと思うけど」
「なんにせよ。この席順は絶対先生でしょうね。名前順とかもばらばらだし」
「「たしかに」」
三人が一緒のクラスになったことは和彦が関係しているのか疑問に思った加奈ではあったが、ことりがそれを否定した。確かに教員四年目の和彦にはそこまでの力はないだろう。事実、五つ子の五人をまとめて受け持つのをなんとか回避しようとしたが空振りに終わったくらいだ。
だが席順は違う。クラスの中の事なので、席順を弄ることくらいは和彦にも出来ると智子は考え、それにことりと加奈が同意した。
「お前らは相変わらず仲良いな」
そんなところに帰り支度を終えた風太郎が席を立ちながら声をかけてきた。
「あれ?風太郎君もう帰るんだ」
「当たり前だ。もう授業終わってるんだぞ」
「え~、もう少しお話していこうよぉ」
呆れながら答える風太郎に、隣の席の一花が声をかけた。
「無駄でしょ。こいつの頭の中は勉強しかないんだから。それで学級長に指名されてるんだから滑稽よね」
「ぐっ…」
一花と五月の席の周りに他の姉妹が続々と集まってきている中、二乃が小馬鹿にしたように風太郎に話しかけた。そんな二乃の言葉に風太郎は事実のため何も言い返せないでいた。
「二年生の時からそうなのですから。少しは先生の話を聞くようにしてください」
二乃の言葉に追い討ちをかけるように五月が話すものなので、もう風太郎は何も言葉が出てこなかった。
「それにしても、先生と少しでも話せると思ったのに女子に囲まれてるわね」
「むー…」
「先生って人気なんだねぇ」
二乃の言葉にそこにいるメンバーが和彦に注目した。その和彦は、二乃が言うようにいまだに女子生徒達に捕まっていた。
それを面白くない顔で見る三玖と感嘆の声をあげる四葉があった。
「去年からあんな感じなの?私のクラスではあんな光景見なかったけど」
「あぁー…人気な先生って立川先生って見られがちだけど、何気に吉浦先生も人気なんだよね。特に女子生徒から」
「まあ、若い男性の先生でもあるからね。憧れな存在なんだよ」
一花の質問に加奈と智子が答えた。
「おーい!悪いんだけど、上杉と四葉は後で職員室に来てくれ」
ようやく女子生徒達の囲みから解放された和彦が、ことり達が集まっているグループに向かって声をかけてきた。
「はい」
「はーい!」
風太郎と四葉の返事を聞いた和彦はそのまま教室を出ていった。
「早速学級長のお仕事かな?待ってようか?」
「ううん。どれくらいかかるかわかんないし、先に帰ってて良いよ」
一花が待ってようかと四葉に問いかけたが、それを四葉は笑いながら先に帰ってるように答えた。
「私も待ってようか、て言おうと思ったんだけど、これから結愛ちゃんと待ち合わせだから、今日は別々に帰ろか」
「そ…そうか」
「あー!今ホッとしたでしょ。そういうのすぐにわかるんだからね。傷つくんだからぁ…」
「ぐっ…すまん…」
ことりはこれから結愛と待ち合わせだからと、風太郎に別々に帰る事を提案したのだが、風太郎はまだことりと二人での時間に慣れていない為、ホッとした気持ちが表に出てしまった。
それをすぐに感じ取ったことりは頬を膨らませて風太郎に抗議した。
「ふふふ、二人の仲が良いみたいで安心したよ」
「どこがだよ」
加奈が笑いながら風太郎とことりの仲が良いことに安心したと話すと、風太郎がすかさず反応した。
「あら、気づかない?ことりがこんな表情出すの、男子ではあなただけよ」
「──っ!」
頬を膨らませていることりを抱きしめながら、智子はことりの見せる表情について指摘した。
指摘されたことで恥ずかしくなったのか、風太郎はことりと目が合うとすぐに顔を赤くして逸らしてしまった。
「そ、そういえば先生が呼んでたな。いくぞ四葉」
「わわっ…!待ってくださいよぉ~」
そして、その場に居たたまれなくなった風太郎は四葉を連れて教室を出ていくのだった。
「改めて、うちのクラスの学級長を務める、上杉と四葉です。立川先生にも紹介しておこうと思って二人を呼びました」
「よろしくね二人とも。まあ、二人は知った仲でもあるんだし、何かあったら私でも良いから気兼ねなく声をかけてね」
「「はい」」
にっこりと笑顔で話しかけた芹菜さんに対して、上杉と四葉も緊張した様子もなくいつも通りに返事を返した。
「で、さっきも伝えたけど。明日は本来入学式で休みなんだけど、二人には在校生として式に参加してもらうから。登校時間はいつも通りで問題なし。間違っても式当日に居眠りや単語帳を見て自習とかないように」
「「うっ…」」
僕の注意に心当たりがあるようで、上杉と四葉の二人は言葉を詰まらせた。
「ま、僕も当日は参列者として参加するから同じことが言えるんだけどね」
「あれ?先生として参加しないんですか?」
僕の言葉に疑問に思った四葉が質問してきた。
「明日は結愛の保護者代理として参加するんだよ。学校にも報告済み。だから、明日は立川先生の指示に従ってくれ」
「あ、そうですよね。結愛ちゃんの入学式でもありますもんね」
「式自体はすぐ終わるんですよね?」
僕が結愛の保護者代理として参加する事に納得した四葉の横の上杉から更に質問がきた。
「ええ。式自体は一時間もかからないと思うわ。その後は、在校生による後片付けがあって、それで終わりね。だから午前中には終わると思うわ」
上杉の質問には芹菜さんが答えてくれた。
「て訳で、明日はよろしく」
「「はい!」」
そこで伝えることは終わったので解散となり、上杉と四葉の二人は職員室から出ていった。
二人が出ていった後、昼食のために数学準備室に向かうことにした。
「あ、吉浦先生」
席を立ったところで芹菜さんから声をかけられた。
「どうされました?」
「後でそちらに向かっても良いですか?一緒にお昼したくて」
「全然構いませんよ。では、待ってますので」
「ありがとうございます」
準備をしている芹菜さんを待ち一緒に数学準備室に向かう。
「そういえば、今年の新入生代表はこの間お会いした立花さんの妹さんですよね?」
「ええ。今日もその打ち合わせで学校に来ているようですよ」
「凄いですよね。一昨年が和彦さんの妹さんのことりさんで、今年は幼馴染みの立花さん。和彦さんの周りはそういう人達が多いのでしょうか」
「たまたまですよ。お陰で平凡な自分は肩身が狭いものです」
本当に…ことりと結愛だけじゃなくて飛鳥も優秀だからなぁ…なんだろう、また落ち込んできた。まぁ良いんだけどね。
その後も明日の入学式の話をしながら芹菜さんと並んで歩いて数学準備室に着くと、入口の前に二人の生徒が立っていた。
「!遅いよぉ、おにい……兄さん」
「こんにちは、和彦さん!あ、先生の方が良いのかな?」
扉の前にいたのはことりと結愛。
ことりは僕が一人だと思っていたようで、猫を被っていない時の話し方をしようとしたが、隣の芹菜さんの姿を見て改めたようだ。
「いや、来るとか聞いてなかったし。帰ったんじゃなかったのかよ」
数学準備室の扉の鍵を開けながら確認をした。
「言ってはなかったけど、結愛ちゃんが折角だから兄さんとお昼一緒にしたいって言うから」
「ご迷惑でしたか?」
「いや、別に構わないさ。芹菜さんは大丈夫ですか?」
「ええ。知らない仲ではありませんから」
僕の質問に芹菜さんは笑顔で答えてくれた。
扉を開けた僕は机の上に置いてある鞄から弁当を取り出してソファーに座った。ソファーにはことりと結愛が並んで座っていたので、自然に芹菜さんの隣となる。ちなみに向かいは結愛だ。
「あれ?立川先生って料理できますよね?お弁当じゃないんだ」
ことりの目の前でコンビニのサラダとサンドイッチを取り出す芹菜さんを見て、ことりは疑問を投げかけた。
「ええ。お弁当を作るのは苦ではないのだけど、あいにくと朝が弱くてね。作る時間がないのよ」
「へぇ~、立川先生にそんな弱点があったなんてね」
「そう言うことりさんは、毎朝お弁当を作って偉いわよね。私も本当は和彦さんに作ってあげたいのだけれど…難しいものね」
さりげなくアピールしながら芹菜さんは答えた。笑顔だが、結愛の方見てるし結愛に牽制しているのか?
「じゃあ、その心配はないですよ。仮にことりさんが寝坊しても私がお弁当も朝食も作りますから」
そんな芹菜さんの言葉ににっこりと答える結愛。何か闘いが始まったような雰囲気である。
「ほらほら。喧嘩してないで仲良く食べよ」
その場を宥めるように手を叩きながらことりが口にした。なんかこういうところを見せるのも珍しいのかもしれないな。
「そういえば、結愛は明日の予行演習も兼ねて来てたんだよね。どうだった?」
「うーん…やっぱり緊張したかなぁ…原稿はOKもらえたんですけど、いざ講堂に立ってみるとやっぱり広くって…ここに大勢の人がいるんだと思ったら、ちょっと足がすくんじゃいました」
その時の事を思い出したのか、結愛は笑っているが手は若干震えているようだ。
「そうかぁ…ちなみに一昨年体験したことりからは何かアドバイス的な事はないの?」
「えー…そうだなぁ…私の場合は兄さんに良いところ見せようって思って立ってたから、そこまで緊張しなかったかな」
「一昨年のことりさんは立派だったわよね」
ことりが当時の事を話すと立派な挨拶だったと芹菜さんが答えた。あの挨拶があって今の人気があるのだから間違いないだろうな。
「和彦さんかぁ…明日は和彦さんは先生方と一緒に控えてるんですよね?」
「あれ?言ってなかったけ?明日は結愛の保護者代理として参加するから保護者席にいるよ。一番前取れれば良いんだけどね」
「明日は早起きしないとね」
「お前も来る気かよ」
「あら、結愛ちゃんの勇姿をバッチリ動画に収めないとね」
僕とことりのいつものやり取りを聞いていた結愛はクスクスと笑いだした。これで少しは緊張も解れると良いのだが。
その後も四人で和気あいあいとお昼の時間を過ごしたのだった。
~中野家~
「え?明日、四葉学校行くの?」
「うん。先生が学級長は入学式に参加なんだってぇ」
今日は久しぶりの五人での夕食の食卓を囲んでいる。
一花の仕事は勿論なのだが、最近では他の姉妹もバイトを始めたので五人で揃うことは少なくなったのだ。
いまだに五月のバイト先は決まっていない様子ではあるのだが…
そんな夕食時に、明日の入学式に参加することになったと四葉が報告すると、二乃が聞き返した。
「学級長……ということは、上杉君も参加されるのですね」
「うん。職員室に呼び出された時に居眠りと単語帳を使った自習はしないようにって先生に注意されちゃったよ」
四葉は職員室での和彦に言われた言葉を思い出し、笑いながら夕食を食べることを続けた。
「四葉の居眠りもそうだけど…フータローの自習もあり得そう…さすが先生だね」
ふふふ、と笑いながら先生の注意が的確だと三玖は話した。
「後、先生は保護者として明日は参加するんだって」
「保護者ねぇ…ま、さすがに結愛ちゃんの本当の親は来れないだろうしね。てことは、ことりも参加しそうね」
「かもしれませんね。子供の頃からのお友達ですし」
「うーん……それって私たちも参加できないかなぁ」
先生が保護者として参加することを四葉が伝えると、それに納得した二乃がことりも参加するんじゃないかと付け加えた。それには五月も同調した。
そんな時、ふと一花があることを提案した。
「たしか、先生はホームルームで自由参加とは言っていたと思いますよ」
「ふ~ん。じゃあ、参加してみるのも良いわね。和にぃにも会えるし」
「うん…それに、他の学校の入学式がどんなのにも興味ある」
「それじゃあ決まりだね♪私で先生に連絡しとくよ」
入学式への参加の流れになったことで一花は自分のスマホを取り出して、和彦にメッセージを送った。
そんな和彦からは問題ないと返ってきたので、姉妹達は明日の入学式の話で盛り上がるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、和彦視点以外も多めにありで日常的な部分を書かせていただきました。
しかし、あれだけのメンバーがいると騒がしくもあり楽しい日々を過ごせそうですね。
次回は結愛の入学式のお話を書かせていただきます。
次回の投稿は11月5日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。