少女と花嫁   作:吉月和玖

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102.入学式

入学式当日。

保護者席の一番前になんとか座った僕達は入学式の始まるのを待っていた。

 

「やっぱ早く来すぎたから暇ねぇ」

「別に二乃達は僕達に合わせなくても良かったのに」

 

僕の右隣に座っている二乃が暇そうにスマホをいじっている。

 

「良いじゃない。こうやって先生の隣に座れたんだし」

「むー…」

 

Vサインを見せながらにっこりとしている二乃の向こう側では残念そうな三玖がこっちを見ていた。

どうやらどっちが僕の隣に座るかをじゃんけんで決めたようだ。三玖の向こう側では一花が苦笑いしている。

ちなみに僕の左隣にはことりが座っており、その隣に五月が座っていた。

 

「それにしても、結構自由に座っているのですね。前の席はガラガラです」

「ああ。クラスごとっていうのは決まってるけど、新入生はどこに座っても良いんだよ。いわゆる早い者勝ちだね。ただ、代表挨拶しないといけない結愛は一番前に座らないとだけどね」

 

一番前になど誰も座らないのだろう。結愛は一人ちょこんと座っている。

 

「て…あれって四葉じゃない?」

「本当だ。フータローもいる…」

 

一花と三玖が言うように結愛の座っている席の付近に四葉と上杉の姿が見えた。どうやら、一人でいる結愛に二人で話しかけに行ったようである。

 

「あの子らしいわね。ああやって緊張を和らいでるのかしら。上杉は連れていかれたってところね」

 

こうなってくると、在校生代表にあの二人がなってくれたのは良かったのかもしれない。

暫くすると、式も始まるようで手を振りながら四葉が結愛から離れていった。それに上杉も続いているが、そんな二人に結愛も手を振っている。

 

「あ、そうだ。二乃?結愛が代表挨拶してるところ動画に撮ってくれない?」

「え?別に良いけど、なんで私なわけ?ことりが撮るんじゃないの?」

 

僕のお願いに当たり前のように二乃から疑問が返ってきた。

 

「もちろんことりも撮るよ。けど、より良い方が地元のおじさん達も喜ぶと思ってさ。二乃って写真とか撮るのうまいじゃない?」

「ふ…ふぅ~ん…まぁ、先生がそこまで言うならやってあげないこともないけど…」

 

写真を撮ることをうまいと褒めてあげると嬉しそうな顔で髪をいじりながら二乃は了承してくれた。

 

「ありがとね。うまく撮れたらお礼に何かしてあげるよ」

「ホント!?何でもいいの!?」

 

お礼の話を持ちかけると、物凄い反応で二乃が顔を近づけてきた。

 

「あ…ああ…ただし常識の範囲内だからね」

「ええ!まっかせて、バッチリ撮ってあげるから♪」

 

ご機嫌な二乃はスマホのセッティングしている。

そんな二乃の向こう側からジト目な三玖がこちらを見ていた。

 

「何?三玖?」

「二乃ばっかりずるい…」

 

言いたいことは分かってたので予想通りではあった。

 

「適材適所ってものがあるでしょ」

「まあ、そんなところだよ」

 

三玖の言葉に軽く返した二乃。僕はそんな二乃の言葉に合わせることにした。まあ、実際二乃の写真を撮る能力は高いから最初から頼むことは決めていたのだが。

 

「………」

 

うん、三玖の目は納得してないな。

 

「ほらほら、もう始まっちゃうよ」

 

そこで一花からの声がかかったので、全員が前を向くことになった。

入学式といっても特に特別なことをするわけではない。校長や理事長といったお偉いさんの言葉などが続く。

始まって暫くして一花は撃沈した。

何しに来たんだ?

そして、終盤に差し掛かったところで、いよいよ新入生代表挨拶が行われる。

 

「新入生代表挨拶。新入生代表、立花結愛」

「はい!」

 

結愛が呼ばれたことで席を立ち壇上に向かって歩いている。僕の両隣ではスマホを構えて動画撮影に勤しんでいる。さすがの一花もここでは三玖に起こされた。

壇上に上がった結愛は紙を広げ、まっすぐ前を笑顔で向き話し始めた。

 

「新緑が日にあざやかに映る季節となるなか、私たちは今日、この旭高校の門をくぐりました。真新しい制服を身にまとい、これからの高校生活への期待や希望に胸を膨らませております」

 

うん、堂々と話せてる。問題ないな。

僕以外の五人も微笑みながら結愛の挨拶を聞いている。

 

「これからの三年間旭高校で過ごす日々の中で勉学はもちろん、色々な活動においても積極的に取り組み、旭高校に貢献できるよう努め、新たな経験を通し多くの事を得たいと思います」

「うっ…うっ…」

 

左隣からは涙声が聞こえてきた。

やっぱりか…こうなるんじゃないかって少し思ってたりする。

 

「また、新たな経験をしていくにあたり、壁にぶつかり、前への進み方がわからず立ち止まってしまうことがあると思います。そんな時は諦めるのではなく、仲間と手を取り合い、時には先生方、先輩方、保護者の皆様の力を借りながらも、少しずつ前に進めるよう努力していきます。

私たち新入生一同は、旭高校の生徒としての自覚、誇りを持ち、家族や先生がた、そして今日まで旭高校の歴史と伝統を築き、守ってこられた先輩方に恥じることのないよう、一つ一つの行動に責任を持ち、自立した高校生活を送れるよう心がけていきたいと思います」

 

「あぁあ~…」

だ、大丈夫ですか、ことりさん…

 

あまりのことりの変貌に五月が焦りだし、ハンカチでことりの涙を拭いてあげている。

 

「う~…ごめんねぇ…」

 

ありゃあ、カメラもブレブレだろうな。二乃に頼んで良かったよ。

 

「この三年間を、私たちは今まで学んできたことを活かし、それぞれの目標や夢をつかむために、また、まだ目標が見つからない人は自分の目標を見つけるために、日々精進していきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました」

 

そこで結愛の挨拶も終わり一礼をした。

うんうん。立派な挨拶だったな。出来ればおじさんとおばさんに見せてあげたかったけど。

そこで入学式も解散となり、新入生はそれぞれの教室に向かうことになった。

 

「どう?二乃?」

「ええ、バッチリよ。後で編集もしておくわ」

「助かるよ」

「それにしても……なんで私に頼んだか察しがついたわ…」

 

右手でOKとサインして二乃の録画はバッチリだと答えてくれた。そんな二乃は僕の向こう側にいることりの姿を見て少し呆れていた。

 

「うぅ~…あの結愛ちゃんがこんなに立派になって…」

「すごい感涙してる…」

「あはは…」

 

皆が注目している中ことりはまだ泣いている。もっと言えば涙を拭うために五月が渡したハンカチももうグショグショである。

一番近くにいる五月はなんとか宥めようとしている。

更にもう一つ問題が発生していた。

今まさに四葉が芹菜さんの前で何度も頭を下げていて、その近くで上杉が頭を抱えている。

 

「まさか新入生起立で四葉が立つとはな…寝ぼけてたか?」

「素かもしれないのが恐ろしいわね」

「ありえる…」

 

そうなのだ。在校生は基本その場を立たない。にも関わらず、起立の言葉に反応した四葉がその場に立ってしまったのだ。もう周りは騒然であった。

すぐに気づいた上杉がさっさと座らせたのが幸いだったのかもしれない。

僕は寝ぼけていたのかと思ったのだが、二乃と三玖は素だったのではないかと思っているようだ。

 

「さて、僕は保護者会みたいな感じのに出席するけど皆はどうする?上杉達の手伝いでもしてくれる?」

 

他の保護者の人達がぞろぞろと動きだした中、僕は立ち上がり五人に今後の確認をした。

 

「面倒だけど、まぁ四葉の手伝いをするくらいどうってことないわ」

「ですね。私たちは片付けのお手伝いをしていきます」

「帰りは結愛ちゃんと一緒にって話してたからちょうどいいかも」

 

ようやく涙を拭き終わったことりがそう言った。

 

「先生も一緒に帰る?」

「そうだね。こっちもそこまで時間が掛からないだろうし、終わったら連絡するよ」

 

三玖の質問に笑いながら答えてその場を後にした。

 

・・・・・

 

「今日は手巻き寿司にしてみたわ。みんなたくさん食べてね」

 

結愛の入学式のお祝いも兼ねて、今日の夕食は我が家で五つ子も交えて行われた。

夕食のメニューは二乃が言った通り手巻き寿司。色々な具材をテーブルに並べて自分の思い通りに作るスタイルだ。

 

「う~ん、美味しい♪」

 

今日の主役である結愛は僕の横で自分の好みの具材で作った手巻き寿司を美味しそうに食べている。

ことりの計らいで結愛の周りには、結愛の好きなものが並んでいる。

 

「相変わらずサーモン好きだね」

「はい!今日は豪勢にたくさん巻いてます」

 

僕の言葉に嬉しそうに結愛は答えている。

さて、自分の分も作りますか。

そう思って何を巻こうか考えていると一つの手巻き寿司が差し出された。

 

「はい、和にぃ♪ことりから聞いたけどここには嫌いなものないんでしょ?どうぞ召し上がれ♪」

 

僕の斜め前に座っている二乃から差し出された手巻き寿司は、均等に綺麗に巻かれた寿司だった。

 

「ありがとう。気が利くね」

「ふふん。このくらい当然よ」

 

僕のお礼に言われた二乃は満足した顔で自分の手巻き寿司を食べている。

じゃあ早速……うん、具材もちょうど良い案配で美味しい。

 

「うん、美味しいよ二乃」

「ふふっ、なんだったらもっと作ってあげるわ」

「はい!和彦さん!私のも食べてください」

 

ご機嫌な二乃の横から結愛が一つの手巻き寿司を差し出してきた。

 

「結愛まで。ありがとね。じゃあいただこうかな」

 

結愛の作ってくれた手巻き寿司は綺麗で均等なのだが、少々小ぶりである。多分、慌ててて自分用と同じように作ってしまったのだろう。けど、味は文句無しだ。

 

「うん、結愛のも美味しいよ。ちょっとサーモン多いけどね」

「はうっ…!」

 

お茶目なところもまた結愛らしくて良いんだけどね。

やってしまったという顔の結愛の頭を撫でてあげた。

 

「せ…先生…私のも食べて欲しい…」

 

そこにリビングテーブルで食べていた三玖が、自分で作った手巻き寿司をお皿に載せて持ってきた。

その手巻き寿司は不恰好ながらもしっかりと作れている。

 

「お、ありがとね。では早速………うん、具材のバランスも良くて美味しいよ」

「本当…!?えへへ…嬉しい…」

 

僕が褒めてあげると、両手で口元を隠して本当に嬉しそうな表情を三玖は出していた。

 

「あ、あの!私も先生と結愛ちゃんに作ってみました」

 

すると今度は僕の前に座っていた五月から手巻き寿司の載せられたお皿を差し出された。

 

「お……大きい…」

「……恵方巻…?」

 

差し出されたお皿に載せてある手巻き寿司?を見た結愛は大きさに驚きの声が漏れていた。

差し出されたそれは、海苔の中にご飯や具材でいっぱいだったので、僕は恵方巻なのかとポロッと口に出てしまった。

 

「先生酷いです!手巻き寿司です!」

「いや、色々と詰めすぎでしょ。あんた基準で作ってんじゃないわよ」

 

五月作の手巻き寿司を見ながら二乃は呆れるようにツッコミを入れた。

 

「結愛、食べきれそうになかったら残して良いから。いつもみたいに僕が食べるし」

「ありがとうございます和彦さん。じゃあ……あむっ…うん、美味しいですよ五月さん」

 

確かに食べ応えはあるが中の具材のバランスはとても良い。色々な物を食べているからか、こういった組み合わせは熟知しているのかもしれない。

 

「ふぅ…」

 

美味しそうに食べていた結愛ではあったが、さすがにお腹いっぱいになったのか、食べていた五月お手製の手巻き寿司をお皿に置いた。

 

「じゃ、これは食べちゃうよ?」

「ありがとうございます」

 

結愛の許可をもらって、結愛の食べかけの寿司を口に入れた。半分近くまで食べていたので一口だ。

 

「うん、旨い……ん?何?」

 

気づいたら、目の前の二乃と五月、それにテーブル近くで立っていた三玖がこっちをじっと見ていた。

 

「いえ…」

「……」

 

五月は声がかかると自分の食事を再開したが、三玖は何か言いたそうな目をしていた。

 

「あんたたちのその自然な流れが気になるのよ。普通人の食べかけの物を躊躇なく食べたりしないでしょ」

 

そんな中、二乃がじっと見ていた理由を説明してくれた。

 

「そう?二乃達だって姉妹だったり友達同士でやってるでしょ?」

「そりゃ、姉妹や()()の友達ならするかもだけど、あんたたちはどちらも当てはまらないでしょ」

 

そういやぁそうだ。長年の癖ってなかなか抜けないもんだね。全然気にしてなかったよ。

 

「あーー…今更だけど結愛は嫌だった?」

「ううん。お互いシェアできて楽しかったですよ。お姉ちゃんもきっと気にしてないと思います」

 

ニッコリと答えられたので少しホッとした。

 

「やっぱ、飛鳥もだったのね」

「これはやっぱり強敵…」

 

そんな中、二乃と三玖はお互いに口にすると、目を合わせて頷きあうのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は結愛の入学式のお話を書かせていただきました。
入学式ですので、普通の日常を書かせていただきましたが、四葉のミスはあり得そうなので書きましたが、実際はこんなミスはさすがにないかなとは思っています。

次回からはいよいよ授業の開始です。授業の一コマでも書ければなと思っております。

次回の投稿は11月10日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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