少女と花嫁   作:吉月和玖

103 / 172
103.授業開始

カチャカチャ...

 

手巻き寿司パーティーも終え、今はキッチンで後片付けをしている。

こういった時はことりや結愛、二乃や三玖といったメンバーが手伝ってくれているのだが今は違う。

 

「ありがとね四葉。食器洗い手伝ってもらって」

「いえ。たまにはこういう事もしていかないとですし。二乃や三玖に任せっきりにはできませんよ」

 

四葉は笑顔で答えながら、僕の洗った食器を拭いていっている。

 

「それに…先生にお礼をお伝えしたくって」

「お礼?」

 

はて?何かした覚えは無いんだが…

 

「学級長です。男子で上杉さんを選んでくれたじゃないですか」

「あぁ…あれは本当に最初からそうしようと思ってたから。あいつは人の話を聞かずにずっと自習してたからね」

「あはは…まあ、そこが上杉さんらしいですけどね」

 

何も否定出来ず、乾いた笑い声を四葉は出していた。

 

「でもま、急に立ち上がって学級長になるって宣言された時はびびったけど、結果的に良かったのかもね」

「え?何がですか?」

「いや、学級長の上杉のパートナーが四葉でってこと」

 

最後のお皿を洗い終わったので、お皿を渡した後に水を止めた。だが、四葉も固まったままこちらを見ている。

 

「私…ですか?」

「ああ。きっと良いパートナーになるだろ。上杉に良い思い出を作ってやってくれ」

 

微笑みながら伝えたのだが、四葉は少し自信がなさそうに答えてきた。

 

「私なんかで大丈夫でしょうか。一花やことりさんの方が良かったかもしれません」

 

お皿を拭く手は止めずそんな言葉を口にした。

 

「う~ん…学級長としてだったら四葉が一番適任なんじゃないかな」

「え…」

「一花はコミュニケーション取れるけど仕事があるだろ。ことりはああいう性格だけど、学級長とかそういう人をまとめるのとか苦手だし。それで言えば、四葉は困ってる人をほっとけない。それがきっと学級長としての仕事に役に立つし、上杉の助けになるさ」

 

ポンポンと四葉の頭を撫でながらにっと笑って伝えた。

すると、不安そうだった四葉の顔も自然にいつもの笑顔に戻ってきたようだ。

 

「先生の言うように頑張ってみます!上杉さん……ううん、風太郎君にとって悔いの残らない学園生活にしてみせます!」

 

ぐっと拳に力を込めて四葉はそう宣言した。

うんうん。四葉はこれくらい元気でなくちゃね。

 

「それはそうと四葉」

「はい!なんでしょう?今の私ならなんだってできそうですよ!」

「そうか。なら、次回出校時職員室に来ようか。教頭先生や芹菜さんから怒られたかもだけど僕からも説教があるから」

「はい……」

 

笑顔で伝えた僕の言葉に何の事か分かったのか、リボンと頭を下げて小さく答えたのだった。

 

・・・・・

 

ある日。

 

『あんたから連絡してくるなんてね。零奈先生について何か知りたいのかい?』

 

ちょっとした用事があり、以前五月と知り合った零奈さんの教え子でもある下田さんに連絡をした。

 

「それも興味はあるんですけどね。今日は別件です」

『そうかい。まあ今は時間あるから構わないよ。どうした?』

 

快く話を聞いてくれることになったのである相談を持ちかけた。

 

「実は塾関係のバイト先を探してまして…」

『バイト?お前さんは教師って仕事をしてるだろ……て、そうか生徒のバイト先か』

「そういうことです」

 

すぐに察してくれて助かった。

 

『バイトねぇ……ちなみにどんな子だい?』

「ほら、僕と一緒に会った五月ですよ。零奈先生の娘さんの」

『あーー…あの子かい。なるほどね。教師としての道を選んだって訳かい』

 

しみじみとした雰囲気で下田さんは答えた。

 

『ちなみに成績はどんな感じだい?』

「あーーー…あまり良いとは言えないですね。まだまだ人に勉強を教えれるレベルではないかと。姉妹には教えてるみたいですが」

『そいつは難しい相談だなぁ。塾は人に教えてなんぼだしな』

「ですよね。僕も色々と探してはみたんですが、やはり生徒に勉強を教えるのが基本みたいで。それで、事務関係で何かないかと相談した次第です」

『なるほどな』

 

僕がこれまでの経緯を話すと少しは理解してくれたようだ。

 

『まぁ~、聞いてはみるがあてにするなよ?』

「はい!それだけでも助かりますので。それで、もし可能ならそのまま事務仕事をしながら塾に通わせられないかとも考えてます」

『ほぉ~。塾代はバイト代から天引きにしてってことか』

「ええ。そんな感じで」

 

僕の考えてることがお見通しのようでスムーズに話が進んで助かっている。

 

「一応彼女には家庭教師が付いていますが、それはあくまでも五つ子の家庭教師です。このままですとあの子の成績はある程度で止まってしまいます。それでは夢を追うことも出来ません」

『それで塾でも勉強させると。事務仕事をしながら教育の現場も見ることが出来る。まさに一石二鳥だな。さすが先生の考えることは違うねぇ』

「すぐに僕の意図も読むことが出来る下田先生も流石ですよ」

 

そこでお互いに笑いあった。

 

『しかし、そこまで考えてやるとはねぇ。やっぱお前さん達付き合ってたりするんじゃないのかい?』

「違います……下田さんは五つ子の本当の父親の事を知ってるんですよね?」

『んあ?どうした急に?』

「いえ。僕と五月は教師と生徒です。それではまるで零奈さんと同じではないかと…」

『あーーー…お前さんは知ってるのか、あの男の事を』

 

そこで少し下田さんの声にドスが付いたような気がした。お祖父さんと言い、本当に嫌われているようだ彼は。

 

『はぁぁ……別にあたしからしてみれば教師と生徒の関係が悪いとは一概に思っちゃいないさ。あくまでも悪いのは自分の妻と子どもを捨てていったあの男だからね。好きって気持ちは抑えようがないものだ。それで両想いになれたのなら、あたしは心から応援するね。しかし、驚いたね。あんたがあの男の事を知ってるとわねぇ』

「五つ子のお祖父さんとお話をする機会がありまして。そこで、警戒をされながらも経緯を教えてもらいました」

『なるほどな。まあ、自分の娘に起きた事を考えると、あんたを警戒するのも無理ないか』

「凄い迫力でしたけどね…でも、最後には多少は認めてくれたのかもしれません」

 

あの時の事を考えながら、少し感傷に浸りながら伝えてしまった。

 

『ふっ…なら尚更付き合っちまえば良いだろ。お互い好きなんだろ?』

「だからそういうのではありませんよ。五月から好意を伝えられてませんし。それに………僕には恋というものが分からないので…」

『そいつはまた…しかし、あの子はお前さんの事を慕ってるように見えたけどねぇ』

「それは兄としてではないでしょうか。彼女にも兄として頼ってくれて良いとは伝えてますので」

『兄、ねぇ~…』

 

何か感じるところがあるのだろうか。下田さんは面白そうに呟いた。

 

『ま、良いさね。バイトの件は任せな。悪いようにはならないさ』

「ありがとうございます。うまくいったら何か奢らせてください」

『ほぉ~、そいつは楽しみだ。じゃあな』

 

そこで電話は切れた。

僕はそのまま仰向けにベッドに寝転び天井をじっと見つめた。

 

「恋、かぁ……」

 

芹菜さんの告白から二乃に飛鳥。そして、結愛に三玖と続けて告白を受けた事できちんと考えるようにはしている。

 

「今の飛鳥との関係も疑似とは言え恋愛関係になったらする事なんだよな。けど……」

 

飛鳥がしたいこと。例えばキスも入るのだが、これはあくまでも今までに飛鳥が我慢してきた事をさせてあげようとする自己満足でしかない。別に嫌いな相手と言う訳ではないんだが。むしろ、嫌いな相手ならキスはおろか手だって握らないだろう。

 

「それでも、これが恋から来る行動なのか分からない…はぁぁ…まだまだ僕には時間がかかりそうだ」

 

そして、そのまま眠りにつくことにした。

 

・・・・・

 

週明けとなるとどの学年も本格的に授業が始まる。

僕も自分の受け持つクラスに向かっているところだ。チャイムが鳴ると同時にクラスに着いたので表札を見上げる。

 

『一年一組』

 

三年生のクラスの担任を持つ以上基本的に三年生の授業しか受け持たない。しかし、今回は異例もあり、この一年一組のクラスも受け持つことになったのだ。

それは良いんだけど、このクラスはなぁ…

 

ガラッ…

 

教室の扉を開くと初めての授業だからか、すでに全員が席に座って待っていた。うちのクラスも見習ってほしいものだ。

ふとある人物と目があったのだが、その人物は最初は驚きもしたものの、すぐに満面の笑顔を見せていた。

それに気づいていない事を通して教壇に立つ。

少しだけボソボソと話し声が聞こえてくるが、まあご愛嬌だろう。

 

「初めまして。本日からこのクラスの数学の担当をする吉浦と言います。少し異例で、このクラスだけ数学は僕が担当することになるけど、皆よろしく」

「よろしくお願いします!」

『よ…よろしくお願いします』

「ふっ…」

 

一人の女学生、結愛が挨拶したことで周りも挨拶を返してきた。そんな態度に笑みが溢れてしまった。

そう、このクラスは結愛のクラスでもあるのだ。まさか、学年が違うからないと思っていたが、結愛にまで授業をすることになるなんてね。

 

「僕は普段、三年生の担任であると共に三年生の数学を基本的に受け持っているからそんなに接点もないかもだけど、何か分からない事や相談したい事があれば気軽に声をかけてくれ。そうだなぁ……最初の授業でもあるし何か聞きたいこととかある?」

 

一応質問を振ってはみたが何もなさそうであれば、そのまま授業に入るか。そんな考えをしていると、一人の女子生徒が手を挙げた。

 

「はい、どうぞ」

「彼女や奥さんはいますか?」

 

何気にこの質問多いんだよねぇ。全然授業に関係ないじゃん。まあ良いけど。

 

「結婚もしてないし、彼女もいないよ」

 

僕の答えにキャーと女子達からの歓喜のようなものが上がった。

 

「はいはーい。年下の彼女とかどう思いますかー?」

「は?まあ、良いんじゃないかな。守ってあげたいって気持ちになるし」

 

その言葉にまたキャーという女子達からの声が響いた。

『やっぱ大人の包容力って良いよねぇ』とかそういう声も飛び交っている。

さすがどの学年になっても女子はこういう話好きだねぇ。

 

「先生っておいくつなんですかぁ?」

「僕?僕は25だよ。今年26になるから君達とはちょうど10歳差かな」

 

『10かぁ…』や『でもまだありなんじゃない?』などという声も聞こえ始めた。

そうなんだよなぁ。結愛とは10歳年が離れてるんだよなぁ。結愛はそこを気にしてないのかなぁ。

 

「ねぇねぇ結愛ちゃんは年の差とか気にする?」

 

ちょうどそこで、結愛の近くの席の子が僕も気になっていた事を結愛に聞いていた。

 

「私は気にしないよ。だって好きになった人がたまたま年上なだけであって。それに、年上の人だったら頼りになるし色々とリードしてくれそうだしね」

 

それに対して結愛はこちらにも目線を持ってきながらニッコリと答えた。

そんな結愛の言葉に数人の男子が意気込んだり、意気消沈したりと様々である。

結愛の奴、もうこんなに人気あるのか…

 

「先生って結婚してないってことは実家暮らし?」

「いや。実家は県外だからね、今はこの高校に通ってる妹とその友人を預かって三人で暮らしてるよ」

 

そこで教室がざわついた。

何だ?

そして、眼鏡をかけたある男子生徒がすうっと手を挙げた。

 

「どうした?何か質問?」

「いえ。その妹さんとはもしかして、この旭高校のアイドル的存在でもある、あの吉浦ことり先輩ですかッ!」

 

最初は落ち着いていたのだが、徐々に興奮してきた男子生徒からそんな質問が投げかけてきた。

 

「あ…ああ。アイドル的存在かどうかは知らんがことりは僕の妹だな。しかし、入学したばかりなのによくことりの事知ってるな」

「先日、ファンクラブに入らせていただきましたので」

 

男子生徒は眼鏡をくいっと上げながらドヤ顔で宣言した。

ああ、あの本人非公認のことりファンクラブね。あいつらは新入生からも勧誘してるのか…

 

「成績優秀、運動神経も良く、誰にでも笑顔で答えてくれるまさに我々男子生徒のアイドル!」

 

なんか語りだしたな…しかもえらくファンクラブの連中に洗脳されてるときたものだ。

 

「先生!………お兄さんと呼んでも?」

「阿保か。普通に先生と呼べ。じゃ、語り終わったみたいだし授業始めるぞー」

 

そんな僕の受け答えを聞いた生徒達は爆笑した。

と、そんな感じでこのクラスでの最初の授業は中々良い感じで始まるのだった。

 


 

~三年一組~

 

「吉浦先生から説明があったと思うけど、このクラスの副担任の立川です。担当は日本史ね。何かあったらいつでも相談して良いからね」

 

一方、三年一組では芹菜の授業が始まっていた。

 

「知ってまーす」

「私たちのクラスって、吉浦先生と立川先生の愛の巣なんですよねぇ♪」

「あ…愛…?」

 

和彦からある程度からかわれるだろうと言われていた芹菜は早速来たかと思っていた。

 

「もうからかわないの。吉浦先生にも失礼でしょ」

 

なので、落ち着いた態度で芹菜は生徒に接していた。

 

「もう、吉浦先生と同じこと言うんだから」

「やっぱ相性抜群だよねぇ」

 

ピクッ…

 

相性抜群。その言葉に芹菜は反応してしまった。

 

「実際なんで付き合ってないか不思議だよねぇ」

「だよなぁ。あんだけ仲が良いところ見せつけてるのにな」

「先生って吉浦先生の事タイプじゃないんですか?」

「えぇ~~っ」

 

突然の質問に芹菜は動揺を隠しきれずにいた。そんな中、五つ子とことり、風太郎以外は期待に満ちた目で芹菜に注目していた。

 

「そ…それは……男らしい一面を見せて、かと思えば優しいところもあって...頼りになる先生だと思ってるわ」

 

(ガチじゃん)(ガチだね)(ガチかよ)

 

顔を赤面にしながらも発言する芹菜の態度に、クラス一同芹菜は和彦に本気で惚れていると感じ取るのだった。

 

「先生。授業を始めましょう」

 

そんな空気の中、五月が手を挙げて芹菜にそう宣言した。

 

「そ、そうね。コホン…では、授業を始めましょう。教科書の──」

 

その五月の行動にホッとした芹菜はいつもの調子を取り戻して授業を始めた。

 

ナイスよ五月

これくらいどうってことありません

 

あまり面白くない方向に話が進んでいたので、助かった二乃は五月の背中に感謝の言葉を伝えたが、いつも通りに五月は答えた。

ただ、この時の五月は頬を膨らませ、あまり機嫌が良くなかった事を知る者はいなかった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、五月のバイト探しと日常的な授業の一コマを書かせていただきました。
原作では五月は自分で下田の塾でのバイトを見つけていましたが、あれは五月が自分で下田に電話をしたのでしょうか?
後は、ちょっと無理やり感はありますが、和彦を結愛のクラスの数学担当としました。高校時代に違う学年の先生から教えてもらった記憶があったので、実際にもあるのかも?

次回からはいよいよ全国模試が始まります。

次回の投稿は11月15日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。