少女と花嫁   作:吉月和玖

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第十章 全国模試
104.全国模試


「えー、我々も三年生になったということで」

 

現在はホームルームでの話し合い。学級長である上杉と四葉に進行を任せているのだが、今話している上杉はやたらとテンションが低い。

まあ無理やり学級長やらされてる訳だから仕方ないか。

 

「すみませーん。上杉学級長。声が小さくて何を言っているのか聞き取れません。もう少し大きくお願いします、ね?」

 

すると上杉の声が聞こえないと言ってくる者がいた。武田である。

まあ、あのテンションで喋られれば、一番後ろの席の武田まで聞こえないのも確かか。

そんな武田の言葉にムッとした上杉は先程よりハキハキと話し始めた。

 

「一学期のメインと言っていいあのイベントについて話し合いたいと思います!いよいよ始まります…全国実力模試が!」

「修学旅行ですね!」

 

上杉の全国模試の言葉に被せるように四葉が修学旅行だと補足を入れた。

教師としては嬉しい限りではあるがさすが上杉である。

一花やことりなんて笑ってるし。

 

「皆さん全力で楽しみましょー」

オーーーーー!!

「えーそっちか…」

 

皆が盛り上がっているなか上杉だけは不服そうである。

 

「詳しいことは今後も話し合っていくのでよろしくお願いします!」

 

四葉が右手を挙げて発言するとあちこちから早速修学旅行の話で盛り上がっていた。

 

パンッ!

 

そんな中僕は手を叩き注目を集めた。

 

「修学旅行も良いけど、さっき上杉学級長が言ったように今月中に全国模試があるのは本当だからね。水を差すようだけど、まずはこっちの勉強をするように。君達はなんと言っても受験生なんだから。良いね?」

「はい!」

『は~~いぃ』

 

僕の言葉に上杉は元気よく返事をしたが、ほかの生徒からはなんとも頼りない返事が返ってきた。

現に五つ子達はうんざりした顔をしている。いや、五月だけはしっかりした顔をしているな。教師になるという夢を叶えるためにここで良い点を取っておきたいだろうし。そういえば、あの話を五月にしておかないとだな。

そんな風に考えていると時間になったので今日のホームルームはお開きとなった。

そのまま帰りのホームルームが終わった頃ことりが声をかけてきた。

 

「先生。今日は数学準備室使えますか?」

 

周りには五つ子もいるので勉強会をするようだ。

 

「悪い今日は使えないわ」

「仕事忙しいの?」

 

断りを入れると三玖が心配そうに聞いてきた。

 

「いや。ただの先約だよ」

「何?女?」

 

ギロッと睨みながら二乃が聞いてきた。いや怖いって…

 

「ま、まあ女子生徒ではあるかな。実は結愛のクラスの数学も担当する事になってね。で、結愛とその友達が来るって訳。さすがにそこに三年生の先輩がいると、結愛はともかく他の子が萎縮しちゃうでしょ?」

「へぇ~、結愛ちゃんのクラスも担当するんですね?」

 

学校での話し方でことりが聞いてきた。まあ、まだ周りには他の生徒もいるからな。

 

「ああ。で、早速友達連れて行って良いか聞かれてね」

「ふ~ん、さすが飛鳥の妹ね。行動早いわね」

「むー…」

「ま、使えないんじゃ仕方ないよ。図書室でやろ」

「そうだな。俺はトイレ行ってるから先用意してろ」

 

話が纏まったようでそれぞれが荷物を持って行動を開始した。

 

「あ、悪い。五月は数学準備室に来てくれ」

「?私ですか?」

「ああ。ちょっとした進路指導かな」

「はぁ…それは構いませんが」

「じゃあ五月、先行ってるね!」

 

四葉の言葉に他の姉妹とことりが移動を開始した。それに続く形で僕と五月も数学準備室に向けて歩き始めた。

 

「それよりどう?バイトは決まりそう?」

「いえ。これというものがなく……やはり条件など考えないようにした方が良いかもしれませんね」

 

歩きながら五月のアルバイト事情を聞き出した。校内ということもあり、二人っきりではあるが五月も敬語で話している。

そんな五月も切羽詰まっている状況のようだ。

数学準備室に着いた僕は鍵を開けて五月を中に促した。

 

「一応いつ結愛達が来るか分からないから机の方で話そうか」

「うん」

 

机の上に持っていた荷物を置きながら椅子に腰かけると、隣の椅子に五月を誘導した。

数学準備室の扉もしまっており、本当に二人っきりになったからか五月の敬語もなくなった。

 

「それで、進路指導ってことだけど…やっぱり進路変えた方が良いのかなぁ」

「ん?ああ、あそこではそう言ったけど、進路に関係はあるけどそんな重い話じゃないよ」

 

心配そうな顔で聞いてきた五月を安心させるように笑って答えた。

 

「じゃあ何の話?」

「さっきも話したけど、五月はバイト決まってないだろ?このままだったら元のマンションに強制送還だ」

「うっ…」

 

実際にそうなった時の事を想像したのか表情が崩れた。

 

「あはは…よほど帰りたくないみたいだね」

「当たり前だよ。お兄ちゃんと離れるのはもちろん嫌だけど、あの広いマンションで一人なんだよ。しかも下手したらお父さんと二人での時間もある訳だし…」

 

五月の顔がだんだんと青ざめてきてるような気がした。

 

「ふぅ……そんな五月に一つの提案があるんだけど」

「提案?」

 

若干下を向いていた五月が僕の言葉にこちらに目を向けた。

 

「五月のお母さんのお墓参りの時に会った下田さんって覚えてる?」

「え?うん。お母さんのことを色々と教えていただいた方だよね?」

「そうそう。その人って塾の先生をしてるんだけど、その人に色々聞いてみたんだよ。事務の仕事でもないかって」

「それって…」

 

何かを察したのか両手でクチを隠しながら驚いている五月。

 

「ああ。言ってただろ?自分の血肉となる仕事がしたいって。それって教育関係の仕事かなって。でもさすがに今の五月には人に勉強を教えるのは無理だろうから、そういう現場を見れる仕事も良いかなって。で、下田さんにあたってみたんだよ」

「お兄ちゃん……そこまで考えてくれてたんだ!えへへ」

 

よほど嬉しかったのか、五月にしては大胆にもその場で抱きついてきた。

 

「ちょっ…さすがにここでもそれはまずいかな」

「ご、ごめん。つい私のことそこまで考えてくれてたんだって嬉しくって」

 

僕の言葉に慌てて五月は離れてくれた。

 

「それで?下田さんが言うには用意は出来そうだけど、五月は受ける?」

「うん!せっかくお兄ちゃんが探してくれたバイトだもんね。頑張るよ」

 

両手を顔の前に持ってきて握りこぶしを作りながら五月は答えた。

 

「そっか。なら、バイトをする事は五月が自分で下田さんに連絡するんだね。後、これもやってほしいんだけど」

「何?」

「その塾で事務の仕事をしながら授業にも参加すること」

「え?」

 

僕の提案に五月は驚きの顔をした。

 

「で…でも、今も上杉君やことりさんから勉強教えてもらってるし…」

「確かに二人の家庭教師で五つ子のレベルは上がってる。けど、それは卒業を見据えての学力だ」

 

僕の指摘に五月はピクッと肩を動かした。

 

「五月が目指す教師になるには教育系の大学への進学は必須。でも、はっきり言って今のままの五月だと進学は無理だ」

 

現実を伝えると五月はぎゅっとスカートを握っている。

悔しい気持ちがあるのは分かってる。けど、ちゃんと今の自分の地点を知ってもらうことも大事なことだ。

 

「…わかったよ。塾での勉強も頑張る。その……たまにはお兄ちゃんに教えてもらうのは良いかな?」

 

懇願がこもったような顔でこちらを見上げている五月。

 

「!フッ…それくらいいつでも見てあげるよ。僕は君の担任でもあるんだから」

 

安心させるように頭を撫でてあげるとニッコリと笑顔が返ってきた。

 

コンコン…

 

そこで来訪があった。多分結愛達だろう。

 

「はーい、どうぞ。じゃあ、この後の勉強会も頑張って」

「うん♪」

 

元気よく頷いて立ち上がった五月と同時に扉が開かれて結愛を先頭に数人の女子生徒が入ってきた。

 

『失礼します』

「では、ありがとうございました。また明日」

 

五月は頭を下げると結愛達とすれ違うように数学準備室から出ていった。

 

「悪い、おまたせ。ちょっとクラスの生徒から進路相談を受けてたんだよ。どうぞソファーに座って」

「ありがとうございます!」

 

一人の生徒がお礼を言ってソファーに向かうとほかの生徒もそれに続く。しかし、結愛だけが五月の行った方向をじっと見ていた。

 

「立花?」

「え?あ、すみません」

 

僕が声をかけると慌ててソファーに来るのだった。

 

・・・・・

 

「へぇ~、お兄ちゃん結愛ちゃんのクラスでは人気なんだ」

「うん!話しやすくて授業も楽しいって」

 

その日は少し仕事が長引いたので、一人の夕食となったが、お風呂上がりのことりと結愛との二人が一緒にダイニングテーブルの席に座って話している。

 

「ははは…苦手意識を持たれなくて良かったよ」

「でも、女子だけじゃなくて男子にも人気があるんだよ」

「え?男子にも?」

 

興奮するように話す結愛にことりが疑問を投げかけた。

 

「うん!ことりさんのお兄さんだからだって。ことりさんファンクラブなんてあるんだね?」

「あー…あれかぁ…私は認めてないんだけどねぇ…」

 

ファンクラブの言葉が出た瞬間、ことりは乾いた笑みを浮かべた。

 

「和彦さんをお兄さんと呼ばせてくださいって言ってた人もいたよ」

「うわぁ~…」

「さすがに速攻断ったけどね。まさか一年生のクラスにファンクラブのメンバーがいるとは思わなかったよ」

 

ため息混じりに話すと、ことりが手を合わせて『ごめん』と謝ってきた。まあ、別にことりは何も悪くないんだけもね。

そもそも、そのファンクラブもことりに何かしている訳ではない。詳しくは知らないがことりの良いところだったり、今日のことりの様子を話しているとか。よく分からない集団ではある。

 

「そういえば、今日の勉強会をしてたら武田君が来たよ」

「武田が?」

「うん。急に来たかと思えば、みんなに向かって風太郎君を解放してやってくれって」

「解放?」

「そう。私最初意味分かんなかったよ」

 

ことりの言葉に結愛が疑問を投げかけると、少し不満げに頬を膨らませながらことりが答えた。

 

「武田君が言うには、風太郎君が凡人になったのは五つ子のみんなのせいだって。だから、君たちの家庭教師を辞める事が何よりも彼のためになるって言ってきたんだよ。失礼しちゃうよ!」

「なるほど、それで解放か……」

 

そこで上杉のこの間の定期試験の結果を思い出した。

 

上杉 風太郎

国語 89点、数学 97点、社会 91点、理科 94点、英語 88点、合計 459点

 

他の人が見れば凡人のレベルの点数ではない。だが、常に満点を取っていた上杉が、高い点数とはいえ普通の点数を取ることは、武田にとっては凡人になったと言えるのかもしれない。

彼は理事長の息子だ。上杉が五つ子の家庭教師をしていることくらい知っているだろう。

その家庭教師がこの結果を招いたと彼は思ったってところか。

 

──彼もまた新たな問題が出来たのではないかね?そこをどうにかしない限り彼の家庭教師復活は白紙となるだろう。

 

中野さんと話した時に残していった言葉だ。今回の全国模試で上杉の力を見るのかもしれない。

 

「武田君って毎回総合順位が二位じゃない?今回の試験で風太郎君が満点を取らなかったことで、武田君が一位になったけど、そこが許せなかったのかなぁ…ちなみに、私は総合では武田君に勝ったことないけど、数学で毎回満点だから一目置いてるみたいだよ」

「ふ~ん…それで上杉は?なんか言ったの?」

 

僕の質問にニッと口角を上げながらことりは答えた。

 

「それが聞いてよ!その時の風太郎君とっても格好良かったんだから!」

 

めちゃくちゃ興奮してるなぁ。

 

「確かに武田君の言葉は正しいって。でも、この家庭教師をしなかったら凡人にもなれなかっただろうって。そして、みんなが望む限り自分が家庭教師を続けていくって宣言したの」

 

その時の上杉の様子を思い出しているのだろう。ことりは少しうっとりとしている。

 

「で!みんなは自分の足枷じゃない。それを今度の全国模試で証明してみせるって」

「ほぉ…どんな風に証明するんだい?」

 

僕の質問にニッコリとしたことりはこう宣言した。

 

「五つ子の成績を下げず、学校で一番の成績はもちろんだけど、全国で一桁の成績を取ってみせるって!」

「全国一桁!?」

 

ことりの宣言に結愛が驚きの声を上げた。

それはそうだろう。学校で一番の成績を取るのと全国模試で一桁の成績を取るのとでは訳が違う。

うちの学校で毎回満点を取っていたかもしれないが、他の学校と比べたらランクの低い試験かもしれない。そんな、常にランクの高い試験を受けているような学生が渦巻く中で全国一桁。無謀にも程がある。だが──

 

「なんだろうね。上杉ならやりかねないって思っちゃうよ」

「でしょっ?うーーん、私も負けてられないよ。今回は飛鳥とだって競うんだから」

「そっか。全国模試だから、当然お姉ちゃんも受けるんだもんね」

「ふふっ、今までは若干勝率は飛鳥の方が良かったけど、今回は勝たせてもらうよ」

 

闘士を燃やしながら宣言することりを横に、今回の全国模試が楽しみだと思う僕もいるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は全国模試がいよいよ始まるといった、前哨戦のようなほのぼのな日常の一コマを書かせていただきました。
そして、武田の登場です。ほんの少しですが…
風太郎と武田のやり取りも書きたいのですが、結局は和彦サイド中心になるのではないかと思ってます。

次回は、最後の方に名前だけ登場した飛鳥を出そうと考えています。地元に帰っているので、これからは出番も少なくなるかもしれませんので今のうちにという訳です。

次回の投稿は11月20日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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