少女と花嫁   作:吉月和玖

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105.姉妹で一番

『聞いたわよ。結愛のクラスの数学も受け持つそうね』

 

今日は夜も遅かったので無いかなと思っていたら、飛鳥からの連絡がいつも通りあった。しかも今回はいつもと変わり、ビデオ通話機能を使おうと言われたのだ。

なので、今目の前の画面には飛鳥が笑顔でいる。

 

「情報早いな」

『よほど嬉しかったのでしょうね。まだ学校があってる時間にメッセージが来たわ』

 

ふふふ、と笑いながら飛鳥は答えた。

 

『後、こうも書いてたわ。和彦さん女子に人気でライバル増えたらどうしよう、て』

「あの子はそんな心配もしとったのか。僕には言わんかったのに」

『それだけ焦ってるってことなのかもね。ちなみにどうなのよ?好意寄せられそうな子はいそう?』

「一日で分かるわけないやろ。まあ、やたら質問が多い子はおったけど」

 

ま、多分その子はノリが良いだけで聞いてきたと思うけどね。数学準備室にも来なかったし。

 

『ふーん…』

 

飛鳥の顔は笑顔であるが、ジト目が混ざってなんとも言いようがない顔である。

 

「その顔恐えぇよ」

『あら失礼』

 

自覚しておらず自然に出たようだ。

 

『それにしても、ことりや中野さん達の担任になって、結愛のクラスの数学担当。そして、同じクラスの副担任に立川先生。やっぱり私だけはぶられてない?』

 

今度はプクッと頬を膨らませながら話す飛鳥。今日は表情豊かである。

 

「こればっかりはしゃあないでしょ。僕が決めたことじゃないんやから。むしろ、五つ子のクラス担任を辞退したいって会議で言ったくらいなんよ?」

『それはそれ。これはこれよ』

「さいですか」

 

僕の言い訳には納得してくれなかったようである。

 

「まあ……なんだ……疑似恋愛とは言え、お前は僕の彼女なんだ。はぶられてはないだろ?」

『──っ!』

 

恥ずかしがりながらも頬をかきながらそう伝えると、飛鳥は目を見開いて驚いた顔を見せた。

 

『あなたって、本当に女たらしよね。疑似恋愛とは言え、初めて彼女って言われて……こんなに嬉しいことはないわ。ありがとう』

 

すると飛鳥からはとびっきり笑顔を返された。その顔に不覚にもドキッとしてしまい、慌てて話題を変えることにした。

 

「そ…そういえば、もうすぐ全国模試が始まるやろ?飛鳥もちゃんと勉強しよるんよね?」

『ふふふ、何よ急に。まあいいわ、そこは抜かりないわよ。一応推薦を貰うことになってるけど手は抜かないわ』

 

突然の話題変換に可笑しそうに笑いながら飛鳥は答えた。

 

『ちょうど今もしていて、気分転換にあなたと話してたの』

 

そう言うとこちらに参考書を見せてきた。

 

「そうか。こっちもことりが飛鳥には負けないって息巻いてたよ」

『あら、それを聞いたら俄然やる気になったわね』

 

ことりの話題を出したが特に動揺を見せていないところからすると、しっかりと準備は出来ているのだろう。まあ、その辺りの心配はしていないが。

 

「そういやー、全国模試と言えばこっちでは一悶着あったな」

『なぜ模試が始まる前から一悶着あるかはさておき、何があったの?』

「いや、上杉の事をライバル視してる生徒がいてね。その生徒が、上杉の成績が下がったのは五つ子のせいだと勉強会に乗り込んで宣言したんだよ」

『まあ、その人の言いたい事も分かるわね。ある程度関係はしているだろうし』

 

僕の説明にどこか納得している顔で飛鳥は聞いていた。

 

「ま、そうなんだけど。上杉はそう答えなかった。五つ子に出会えなかったら今の自分はいないって。で、五つ子は足枷なんかじゃないってことを全国模試で証明するって宣言したんだよ」

『証明って高い点数を取るってところ?』

「そういうこと。上杉は全国一桁を目指すそうだよ」

『全国一桁……』

 

上杉が全国一桁を目指すことを伝えると、飛鳥は神妙な顔で顎に手を持っていき考え始めた。

どうしたんだ?

 

『ねえ和彦』

「んー…?」

『今度の全国模試、私が風太郎君に勝ったら何でもお願いを聞いてくれる?って言ったら叶えてくれる?』

「は!?お前!全国一桁だぞ!?」

『そうよ。その風太郎君に勝つの。どう?そうしたら私のお願い聞いてくれない?』

 

真剣な表情でこちらを見ながら懇願する飛鳥。確かに飛鳥の成績は良い。だが、上杉と比べたらどうだ?飛鳥の通っている学校は進学校だからうちよりもレベルは高いだろう。なら飛鳥の方が全国一桁の可能性があるんじゃないか?

 

『和彦……』

 

切なそうな目でじっと見つめられた。そうされるとこう言うしかないだろ。

 

「分かった。けど、常識の範囲内だからな!」

『ありがとう♪きっと良い成績を取ってみせるわ』

 

僕の承諾を受けた飛鳥はニッコリと笑顔を向けてくるのだった。

 


 

~朝の登校風景~

 

次の日の朝。風太郎は物凄い形相で参考書を睨みながら登校をしていた。

その様子は凄まじく、誰もが風太郎の行く手を退いていく程だ。

そんな風太郎に声をかける者がいた。

 

「いい加減そんな歩き方してるといつか怪我するよ」

「!」

「おっはー、フータロー君」

 

一花である。一花はコーヒーショップの前で優雅にフラペチーノを飲んでいた。その一花は今日は眼鏡をかけている。

 

「なんだ一花か。なんか登校時に不思議なほど会うな」

「そりゃあ、好きな人と一緒に登校したいじゃない。だからここで待ってたの」

「──っ!」

 

ウィンクしながら話す一花にドキッとしてしまった風太郎は、目線を剃らしながら顔を赤くしていた。

それに気づかない一花ではない。果敢に攻めに入った。

 

「あれ~、もしかして嬉しかった?」

「そ、そんなんじゃねぇよ!」

「ふふふ、今はそういうことにしといてあげる。はいこれ。フータロー君の分のコーヒー」

 

風太郎の焦っている行動が嬉しくなった一花は笑顔でコーヒーを差し出した。

 

「あー…すまん一花。俺コーヒー飲めないんだわ。苦いし…」

「あ、そうなんだ」

 

(う~ん…貢ぎ物作戦は失敗か…)

 

「仕方ないか。じゃあ私が──」

「じゃあ、私が貰っちゃおっかな」

 

風太郎に差し出そうとしたコーヒーを一花は自分で飲もうとしたのだが、不意に手が伸ばされてそのコーヒーはある人物の手に渡った。

 

「「ことり!」」

「おっはよー、二人とも」

 

挨拶をしたことりはそのままコーヒーを飲みだした。

 

「な、なんでことりがここに?みんなと一緒だったんじゃ…」

 

そんなことりの登場に一番驚いたのは一花である。ことりを出し抜き風太郎との二人の時間を作れると思ったからだ。

 

「ふふん。みんなと登校してたら一花だけいないんだもん。これはひょっとしてと思ってね」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら話すことりに対して、思い通りにいかなかった一花はプクッと頬を膨らませていた。

 

「ほら、遅刻するだろ。二人とも置いてくぞ」

「わわ、待って待って」

「置いてくのはさすがに酷いよぉ」

 

結局、風太郎を中心に三人並んで登校することになった。

 

「ん?お前眼鏡とかしてたっけ?」

 

するとそこに眼鏡をしていた一花に今気づいた風太郎は、一花に確認をした。

 

「今更!」

「風太郎君、鈍いにも程があるよ」

「う…うるせぇな」

 

二人に責められた風太郎は焦りながらも反論をした。

 

「どう?少しは知的に見えるんじゃない?」

 

眼鏡の両端を上げながらウィンクする一花。少しでもアピールしようとしているようである。

 

「一応変装なんだけどね」

「変装…」

「もしかして昨日テレビでやってた完成試写会?」

 

変装の言葉が出ると、ことりが興奮するように聞いてきた。

 

「そうそう。うわぁ、見てくれたんだ」

「うん。結愛ちゃんと一緒にね。テレビに出てきた時はビックリしたよぉ。兄さんはその時いなかったから後から教えたんだけどね」

「ふーん…そんなにでかい映画なのか」

「まぁねぇ~」

 

家にテレビがない風太郎には知ることが出来ない事であったので、確認するように話すと一花が自慢気に反応した。

 

「…どうでもいいけど……まあ、なんだ。オーディション受けて良かったな。もう立派な嘘つきだ」

 

ドキッ…

 

笑顔で答えた風太郎の言葉に一花の心臓が高鳴った。

 

(こんな単純でいいのかな…君が私を気にかけて覚えていてくれた。たったそれだけが、どんな賛辞より胸に響いてしまうんだ)

 

そしてニッコリと一花は自分の胸を押さえながら花火大会の日の事を思い出していた。

そんな一花の様子にことりは頬を膨らませながら機嫌が悪くなっていった。

二人だけが分かり合っているという雰囲気が出ているからだ。

 

「むー…」

「なんだ?面白い顔してどうしたことり?」

 

風太郎に今のことりの心情を理解するには酷というものかもしれない。

そんな風太郎の言葉に更に不機嫌になったことりは風太郎の腕に自分の腕を絡ませた。

 

「お、おい!」

「ちょっとぉ!」

 

それに風太郎と一花も黙っていないが、ことりはお構い無しである。

 

「良いじゃない。私たちは学校では付き合ってることになってるんだから、このくらいどうってことないよ」

 

そんな二人の言葉を無視するようにことりは腕を風太郎の腕に絡めたままである。

そのことりと一花が風太郎の胸の前あたりで『むー…』と睨み合っており、風太郎はただため息をつくしかなかった。

そんな状態がしばらく続いた時、ことりが不意に言葉を口にした。

 

「そういえば、このまま学校行ったらクラスは大騒ぎじゃない?結構テレビで取り上げられてたし」

「かもね。これで女優であることがばれるって訳だ」

「結構落ち着いてるね」

「そんなことないよ。今でも結構ドキドキなんだから」

 

そんな感じで参考書を読むのに集中している風太郎を他所に、一花とことりは結局楽しそうに話しながら登校するのだった。

もちろんこの後、クラスで大騒ぎになったのは言うまでもない。

 


 

今日は三年生組がこの数学準備室を利用している。

あんなことがあったからか、皆集中して勉強が出来ている。

ただ一つだけ言えば、先程から一花の機嫌が悪い。

何故かと言うと、クラスメイトに囲まれてこの勉強会に参加出来なくなりそうだったので、三玖に変装をしてクラスメイトを撒いたそうだ。そこまでは良かったのだが、ちょうどそこに居合わせた上杉が、最後まで三玖だと思い込み一花であることを見破られなかったのだ。

一度は見破ったものの、やはりまだまだ上杉に見分けるのは難しいらしく…

それで機嫌が悪くなるというのも上杉にとっては理不尽かもしれない。

まあ、それでもちゃっかり上杉の横に座っているのは流石ではあるが。

 

「あれ?そういえば、今日は五月いないんだ」

「五月はバイト。今日からなんだって」

 

五月の姿が見当たらなかったので聞いてみると、三玖からバイトだと返事が返ってきた。

そうか、今日からだったのか。

 

ヴー…ヴー…

 

するとそこにメッセージが入った。

 

『今日から下田さんのところで頑張ってくるよ』

『気負わず頑張んな』

『うん♪』

 

メッセージは五月から。激励の言葉を返すとすぐに返事が返ってきた。その文章を見るだけで五月の笑顔が思い浮かんできて、自然と笑みを浮かべていた。

 

「どうしたの?嬉しそうな顔しちゃって」

 

そんな笑みをことりは見逃さなかった。

 

「いや、こうやって皆が勉強に励む姿が見れて嬉しかったんだよ」

 

なんとなく五月からのメッセージに笑みを浮かべていた事は避けていた。

 

「ふ~ん…そういえば飛鳥から聞いたけど、飛鳥には全国模試を頑張ったご褒美があるんだってね」

 

ピクッ…

 

ことりの言葉に二乃と三玖の肩が震えた。

こいつは……この後の事分かってて言ってんなぁ。目が笑ってるし。

 

「ちょっとぉ!どういうことよ!」

「うん…!聞いてない」

 

予想通り二人は立ち上がり文句を言っている。

 

「まあまあ、落ち着いて」

「落ち着けるわけないでしょ!」

「そうだよ…!飛鳥にはご褒美があって私たちにはないなんて…!」

 

落ち着くように促すがヒートアップしているのか、二人は僕のところまで来て詰め寄ってきた。

 

「だ、か、ら。タダでご褒美あげる訳じゃないんだって」

「じゃあ、何が条件よ!」

 

両手を前に出して抑えようとすると、ご褒美の条件とはなんなのか二乃が聞いてきた。それに三玖もうんうんと続く。

 

「はぁ…全国模試で上杉に勝つことだよ」

「「え?」」

 

条件を口にすると驚きの顔で二乃と三玖は止まった。

 

「て!俺っすか!?」

 

そしてワンテンポ遅れて上杉が反応した。

 

「ああ。この間の武田との騒動。あれを飛鳥も知ってるんだよ。で、前から上杉の成績を気にしていた飛鳥が、上杉が全国一桁を目指すなら、それに勝ちたいってさ。で、その時はご褒美として何でもお願いを聞いてほしいって言われたんだよ」

「なんでも…」

 

二乃がそこでボソッと口にした。

 

「飛鳥は頭良いんすか?」

「ん?中学の頃はことりよりちょい上ってとこかな」

「違うよ!私と変わんないって!何回か勝ったし」

 

僕の説明にすぐさまことりが訂正を入れた。

 

「はいはい。高校は進学校に通ってて、入学してから学年一位は譲ってないってさ」

「!」

 

そこで驚きの顔を見せた上杉であったが、次の瞬間にはニッと笑みを浮かべていた。

 

「上杉!」

 

ちょうどそこで二乃が上杉の方を見て呼び掛けた。

 

「あんた負けたら承知しないわよ」

「……ふっ…誰に言ってんだ。俺は誰にも負ける気はしねぇよ」

 

二乃の言葉に上杉は笑って答えた。

 

「それは良いとして。私たちにはないのかな?ご褒美」

 

ちょうどそこに一花が笑みをこぼしながら聞いてきた。

言うと思ったよ。

 

「そうよ!飛鳥だけなんて不公平よ!」

「公平であるべき…!」

 

そこで息を吹き返した二乃と三玖がまた迫ってきた。

 

「て言ってもなぁ……何?上杉に勝つ?」

「それは無理」

 

僕の提案は三玖が呆気なく否定した。

少しは考えようよ。

 

「うーーん…じゃあ、五人の中で一番の成績だった子にご褒美はどうかな?」

「五人の中で…」

「一番…」

 

僕の提案に二乃と三玖はそれぞれ復唱した。

 

「当然だけど、3割未満の成績が一つでもあればなしだからね」

 

念のためもう一つの条件も付け加えた。

 

「あの!」

「ん?」

 

そんな時、今まで黙っていた四葉が手を挙げた。

 

「それって私たちも入ってますか?」

「え?……ああ、良いよ。一花に四葉、それに五月も一番だったらご褒美あげるよ」

 

僕の言葉にどこか気合いが入った四葉。何か欲しい物でもあるのだろうか。

 

「そのご褒美って、飛鳥と一緒でなんでも言うこと聞いてくれる、でも良いのよね?」

 

そこに笑いながら二乃が聞いてきた。

 

「別に良いけど、常識の範囲内だからね?」

「わかってるわ」

 

返事をした二乃は早速勉強に取りかかった。三玖もそれに続く。

 

「ねぇー?私はぁ?」

 

そこにことりが文句を言いたげな顔で聞いてきた。

 

「お前は飛鳥に勝つんだろ?ならそれで良いじゃん」

「むーー、本気の飛鳥にか……わかったよ」

 

納得したようで、ことりも自分の勉強に取りかかった。

 

「上杉。さっそくで悪いんだけどここ教えてくれる?」

「ことり、お願い」

 

どうやら全員に火が付いたようである。まあ、理由は少しあれだけど。

 

「先生!教えてほしいところがあります!」

 

皆の勉強姿に感心しながら見ていたら四葉から質問がきたので対応することにした。

 

「良いよ。隣座りな」

「はい!」

 

隣の席を誘導すると、心なしかいつもより近くに座ったように思えた。

まあ、教えを聞くのにはちょうど良いか。

ちなみに、このご褒美の話を五月にメッセージで送ると、『絶対に負けない!』と返事が返ってくるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、全国模試に向けてそれぞれが目標を達成したら和彦からのご褒美があるというお話を書かせていただきました。果たして、和彦からのご褒美を貰えるのは誰になるのでしょうか。

次回は、全国模試の間にあるもう一つのイベント、風太郎の誕生日に関わるお話を書こうかと思っております。

次回の投稿は11月25日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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