「はぁ~~…」
ある日の夕食時。今日は早く仕事を終えたので三人でテーブルを囲んでいるのだが、先程からことりがため息ばかりついている。
「どうしたのことりさん?もしかして夕食お口に合わなかった?」
心配になった隣に座っている結愛がことりに語りかけた。結愛が言ったように今日の夕食は結愛が作っている。全国模試も近いからことりには勉強に集中してほしいからだそうだ。
「あぁ、ごめんごめん。そんなことないよ。今日のご飯もとっても美味しいよ。いつもありがとう」
すると作り笑いではなく、本当に笑顔でことりは返してきた。
「なんだ?勉強でうまくいかなかったりしてるのか?」
「うーん…そう言うことじゃないんだけど……ねえお兄ちゃん。もうすぐ何があるか知ってる?」
「は?全国模試だろ?」
「そうだけど、その前にだよ」
その前?はて、何かあっただろうか?
何も思い当たることが無いので首を傾げた。隣の結愛も検討がついていないようだ。
「あれ?お兄ちゃん知らなかったの?今度の日曜日は風太郎君の誕生日なんだよ」
「へぇ~」
「そうなんだ!」
ぶっちゃけ生徒一人一人の誕生日など覚えていない。そもそも五つ子の誕生日だって知らないしな。
「あれ?でも、なんでそれで悩んでるの?」
上杉の誕生日を知った結愛は明るい声で返したが、そこである疑問が出たのでことりに質問をした。
確かにそうだ。プレゼントの内容でも悩んでいるのだろうか。
「ほら、今って全国模試に向けて皆勉強頑張ってるでしょ?特に風太郎君なんかは全国一桁目指してる訳だから尚更勉強に集中してると思うんだ。だから、そんなところにプレゼント渡しても良いのかなって考えてたの」
「そっかぁ…好きな人なら尚更気を遣っちゃうよねぇ」
ことりの考えに結愛も同意した。
「ま、どうするかは五人と決めるんだね。誰かが抜け駆けするかもしれないんだし」
おかずを口に入れながらことりに提案する。
四葉はないかもだけど一花あたりが考えてそうだからなぁ…
すると、ことりは目を見開いたかと思うとニヤッと笑みを浮かべた。
「抜け駆けかぁ…」
こいつやる気か?
「ふふふ、恋は駆け引きだもん!」
「「ねぇーー?」」
結愛まで…
まさか結愛の口から恋は駆け引きという言葉を聞くことになるとは。やっぱり女の子なんだなぁ。
そんな風に考えながら残りの夕食を食べるのだった。
~一花side~
「うーーん…」
一花もまたお風呂に入りながら一人唸っていた。
もちろん考えている事は風太郎の誕生日の事である。
「きっとことりは準備してくるだろうし、どんなの用意してるんだろう」
五つ子の方では三玖が風太郎の欲しい物、というよりも叶えたい事のリサーチを実はしていたりする。
・お金持ちになりたい
・体力向上
・疲労回復
・寝つきを良くしたい
・運気UP
以上である。ある意味風太郎らしい願いである。
「あの中だと、私はやっぱりあれだろうしなぁ。うーん、問題は渡すタイミングだよねぇ。当日は……多分勉強モードだし他の子もいるしだしなぁ」
渡すものは決まっている。後は如何にして風太郎に印象付けれるかがポイントと一花は考えていた。
「となると、前日に学校で渡すのがベストか…」
バシャッ…
そこで一花は顔にお湯をかけた。
「問題は学校でもフータロー君は勉強してるからその邪魔はしたくない。かと言って教室で渡すのもなぁ……となると登校時間が一番良いかも」
あれから一花は毎日風太郎をコーヒーショップの前で待って一緒に登校をしていた。たまにことりの邪魔も入るものの毎日という訳でもないので、二人の時間になるこの時間を一花は気に入っていた。
「よし!」
決心がついた一花は勢いよく立ち上がりお風呂から上がるのだった。
~中野家リビング~
一花がお風呂に入っている間、他の姉妹はテーブルを囲んで勉強をしていた。中々見られない光景でもある。
「はぁぁ~~…ちょっときゅうけーい…」
そう言って仰向けに倒れこんだのは四葉であった。
「そうね。そろそろ私も集中力がなくなってきたかも」
「私も...」
かく言う二乃と三玖もそろそろ限界のようであった。
普段からしない勉強をここまでしているのだ、無理もないだろう。
そんな中カリカリと一人集中して勉強している五月を二乃は黙って見ていた。
「そういえば四葉も今回頑張ってるじゃない。私と三玖は目的がある訳だけど」
「うん…四葉頑張ってる」
二乃と三玖は姉妹で一番の成績を取って和彦からお願いを聞いてもらうという野望があるので、ここまで勉強を頑張っていたのだ。
「えへへ…実は私も先生のご褒美目当てだったりして」
「「え?」」
仰向けに倒れたまま笑いながら答える四葉に、二乃と三玖は驚きの声をあげた。
「……冗談だよ。武田君に言われたことがやっぱり気になっちゃって」
「ああ、あいつね。ホント失礼しちゃうわよね。私たちを足枷なんて言うなんて」
「でも、今回のフータローの成績を見たらそう思われちゃうのもわかるかも…」
風太郎が前回の定期試験で成績が下がったことを実は五つ子は知っていた。それを知った五つ子達は自分達のせいで下がったのではないかと責めたものである。
だが、風太郎はお前達のせいではないと言ってくれたのだ。
そんな彼に報いたい。五つ子達はその思いで今回の模試に挑んでもいる。
「きっと今も勉強してるんだろうな、上杉さんは…」
仰向けに倒れ両手を広げて四葉は呟いたが、その光景が容易く想像が出来たので、二乃と三玖は『たしかに』と笑ってしまった。ペンを走らせる五月の顔にも笑みが出ていた。
そこで、よっと口にしながら起き上がった四葉は三人にあることを確認した。
「それよりどうしよっか、上杉さんの誕生日」
「そういえばそうだったわね。一応プレゼントの用意はしてるけど」
「私も...でもパーティーみたいなこと開いてるほど余裕はない」
「だよね…」
風太郎の誕生日の事を確認した四葉であったが、二乃と三玖はプレゼントは用意しているようだった。ただ、今の状況では盛大なお祝いは出来ないだろうと三玖が溢した。それに、残念な気持ちがあるものの四葉も同意した。
そこで、それまでペンを動かしていた五月の手がピタッと止まった。
「しかし意外ですね。三玖ならまだしも二乃までもうプレゼントの用意ができているなんて」
「失礼ね。私だってそのくらいするわよ!」
プイッと頬を膨らませて五月から顔を剃らした。
「あはは…すみません」
(ま、まあ…実際は早めに用意してることを和にぃにアピールするためなんだけどね)
「「「?」」」
そう考えた二乃はニヤリと笑うも、三玖と四葉と五月は分からず不思議な思いでいた。
「そう言うあんたも随分と勉強にご熱心ね。和にぃのご褒美でも狙ってるの?」
「それは……なくはないですが、やはり教師という進路を決めましたし、少しでも良い点が取れればと考えてます」
「先生のご褒美も狙ってるんだ」
「ふふふ、何か美味しいものでもご馳走になります♪」
三玖の問いに五月は笑顔で答えた。
「あんたらしいわね。てことは、もっと勉強しないとかぁ…バイトもあるんだけどなぁ」
そんな言葉を口にしながら、二乃はげんなりした顔で天井を見上げた。
その後もお風呂から上がってきた一花も交えて、五つ子の勉強会は深夜まで続くのだった。
「失礼します!」
朝の準備を職員室でしていると元気のある声で四葉が入ってきた。そして、僕の席まで来たのだ。
「おはようございます、先生!」
「おはよう四葉。四葉は朝から元気だねぇ」
「おはよう四葉さん」
四葉の挨拶に隣の席の芹菜さんも笑顔で答えた。
「それで?どうしたこんな朝から?何か学級長として仕事頼んでたっけ?」
「いえ、ただちょっと相談事がありまして…」
「相談?ここで大丈夫?」
「はい」
チラッと芹菜さんの方見ていたが問題はないようだ。
「で?どんなの?」
「その…もうすぐ上杉さんの誕生日じゃないですか?」
「ああ、そうらしいね。ことりから聞いたよ」
「へぇ~、上杉君誕生日近いんだ」
芹菜さんも興味を持ちながら朝の準備をしている。
「それで、どんな物をあげたら良いか迷ってて…それで相談に来ました」
「ふ~ん……ちなみに、候補とかあるの?」
「えっと…運気が上がるものです」
なんだそれは。漠然とし過ぎではないか?
「運気……なんでそう思ったの?」
当然のように芹菜さんが質問をした。
「実は前もって上杉さんにお願いを五つ聞いてたんです。それで、それぞれのパートに分かれてプレゼントすることになって…」
「で、四葉が運気と」
四葉の説明に僕が答えると、四葉はコクンと頷いた。
「ふ~ん、運気かぁ。運気と言えばやっぱりお守りが出てくるわね。今では色んな形のがあって可愛いし」
「後は、ブレスレットとかかな。効果がある天然石で出来たブレスレットも運気UPに繋がると思うよ」
「ふむふむ…」
芹菜さんと僕が意見を伝えると、頷きながら四葉はメモを取っている。
「ち…ちなみに、先生が貰うと嬉しいのとかありますか?」
「僕?」
僕なのか聞くと四葉はコクンと答えた。
前のバレンタインの時もそうだったがやたら僕の好みを聞いてくるな。バレンタインでも結局僕が伝えたチョコをプレゼントしてくれたし。
まあ、今回は上杉の誕生日プレゼントだから渡してくるってことはないだろうが…
「あ、それは私も気になりますね」
「立川先生まで……うーん…一番困る回答になっちゃうけど、僕としては結局何を貰っても嬉しいんだよね。その人が相手の事を想って考えたり作ったりしたものだから。この万年筆だって、僕がこっちに来る前にことりと飛鳥と結愛がお互いにお金を出しあって買ってくれた物なんだ。それだけで嬉しくって今でも大事に使わせてもらってるよ」
以前のクリスマスプレゼントで貰った万年筆を見せながら四葉に答えた。
「相手の事を想って…」
「ああ。それこそ、四葉のクローバーを押し花に仕立て上げた栞でだって僕は嬉しいよ。四葉のクローバーは運気が上がるって言われてるし、それに君の名前も入ってる。僕もそうだけど、きっと上杉も喜んで使ってくれるんじゃないかな」
「──っ!ありがとうございます!参考にさせてもらいますね」
僕の言葉を聞いた四葉は笑顔になって頭を下げた。
「ところで……先生のお誕生日っていつなんですか?」
顔を上げた四葉はいきなり話を変えて僕の誕生日を確認してきた。
「僕?僕の誕生日は11月だよ。11月22日。結構覚えやすいと思うよ」
「11月22日…」
「あら、そうだったんですね。さっそくスケジュール帳にメモしておかないとですね。ちなみに、私も11月生まれで、11月11日です。私も結構覚えやすいですよ」
「へぇ~、そうだったんですね。1が並んで確かに覚えやすいですね」
まさかお互いに同じ月が誕生日だったとは。驚きである。
「それにしても11月22日ですか…良い夫婦の日でとても良い日ですね」
「まあ、とは言え奥さんもいないので夫婦も何もないんですけどね」
「良い夫婦の日?」
芹菜さんが言う良い夫婦の日に四葉が首を傾げた。
「ほら、一はいちって読むからい。そして、二はふたつとか言うからふ。それを並べると『いいふふ』。つまり、良い夫婦って読めるのよ」
「なるほど!」
芹菜さんの説明に四葉は納得の顔になった。
「あと……私、和彦さんにとって良い奥さんになれると思いますよ。どうですか?」
そんな言葉を芹菜さんは僕に耳打ちしてきたのでドキッとしてしまった。
当の芹菜さんはふふふっと笑っている。そんな顔も妖艷に見えてくるようだ。
「むー…」
芹菜さんから四葉に目線を変えると何やら難しい顔をしていた。
「どうした?」
「!いえ、なんでも!そうだ!先生の誕生日を皆に伝えてもいいですか?二乃が知りたがってたので」
「別に構わないよ」
「ありがとうございます!じゃあ、私はそろそろ教室に戻りますね。失礼しました!」
頭を下げた四葉はそのまま職員室をさっさと出ていってしまった。
「何だったんだ?」
「さあ?私達の仲に妬いたのかもしれませんよ」
「まさかぁ…」
芹菜さんの冗談を笑いながら返した。いや、だって四葉の好きな人は上杉な訳だし…二乃や三玖の事を思っての感情かもしれないな。
そんな風に考えながら朝の準備を進める。
「それにしても、中野さん達は良い子ですね。ちゃんと五人で上杉君に誕生日プレゼントを用意するなんて」
「端から見たら上杉を羨ましいと思う男子もいるかもですね。ことりとは付き合ってることになってるし、中野姉妹とは仲が良い。それに加えて成績抜群」
「ふふふ、確かにそうですね」
そんな感じでお互いに笑いながら話し、朝の朝礼を迎えるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は風太郎の誕生日プレゼントをどうするか、五つ子とことりが悩むところを書かせていただきました。
一花はすでに告白してるのと、ことりへの対抗策として前日に渡すことを決めたようです。
果たしてことりはどう動くのでしょうか。
また、四葉の動向も気になります。
次回は、和彦が紹介したバイト先を見て回るお話を書かせていただきます。
次回の投稿は11月30日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。