カランコロン…
「いらっしゃい。おや君だったかい」
「お久しぶりですね、店長」
今日は早めに仕事を切り上げてREVIVALに立ち寄っていた。
「最近は顔を見なかったけど忙しかったのかい?」
「まあ、新年度なのでやることが多く…」
「教師というのも大変そうだねぇ。じゃあ席に案内しよう」
店に入ると店長さんが出迎えてくれたので、軽く世間話をしながらテーブルに向かった。
「そうだ。最近中野って子がバイト始めたと思うんですけど」
「ああ。彼女の事かい。もしかして、彼女も君の生徒なのかな?」
「ええ。バイトを探してる彼女にここを薦めたのも僕です。どうです?うまくやれてます?」
「君がここを彼女に紹介してくれたのかい!?いやー、助かったよぉ」
二乃の事を聞くと何故か店長さんから感謝された。
「彼女は天才だよ!もう厨房もある程度は任せているしね。たまに接客も任せているが、愛嬌もあって素晴らしい人材だよ」
二乃はの事を凄い褒めている店長。でもそうか、うまくやれているようで何よりだ。
「彼女の作ったケーキもあるから今日はそれにするかい?」
「では、折角なので。後紅茶もお願いします」
「わかってるよ。じゃあしばらく待っていてくれ」
オーダーを取った店長さんは厨房の方に行ってしまった。
僕は、暫くかかるだろうと持ち帰っている資料に目を通すようにした。
「お待たせしました」
暫くすると明るい声で商品を持ってきた店員さんが来たのだが聞いたことがある声だったので目線を上げると、そこにはニコニコした二乃の姿があった。
「二乃。こっちに来て大丈夫なの?」
「ええ。店長さんが気を使ってくれたのよ。はいどうぞ。私の作ったケーキよ。自信作なんだからちゃんと味わって食べてよね」
ご機嫌な二乃はそう言いながらケーキを前に置いた。
そんな二乃は、仕事のためか後ろに髪を束ねている。いつもの髪型ではなかったので新鮮である。
「その髪型似合ってるね。可愛いよ」
「ホント♪えへへ、さすが和にぃね。褒めてくれて嬉しいわ」
よほど嬉しかったのか、お盆で顔半分を隠しながら笑顔を見せてくれた。するとそんな彼女は僕の向かいの席に座った。
「戻んなくて良いの?」
「ええ。休憩がてら話してくると良いって店長さんが言ってくれたの。さ、ケーキ召し上がれ♪」
ニコニコと上機嫌な二乃に見られながらケーキを口にする。すると控えめな甘さが口の中に広がった。
「どう?」
「美味しいよ。え?本当に二乃が作ったの?」
「当たり前よ。少しは見直してくれた?」
「ああ。本気で驚いてるよ。普段の料理も美味しいけど、まさかお菓子作りまでこんなに上手なんて」
「ふふふ…なんだったら家でもクッキーとか作ってお裾分けしてあげるわよ」
「それは嬉しいね。楽しみにしてるよ」
紅茶を飲みながら二乃の提案に色好い答えを出した。
「ふふん、端から見たら私たちって恋人に見えるかしら?」
「見えてるんじゃない。さしずめ僕は働いてる彼女の様子を見に来た彼氏ってところかな」
「ふふふ…良いシチュエーションね♪」
二乃の質問に肯定してあげると、二乃は更にご機嫌になっている。やっぱりこの子達には笑顔が似合ってるな。
「そういえば、もうすぐある上杉の誕生日のプレゼント、皆で用意してるんだってね。四葉から聞いたよ」
「まあね。一応お世話になってる訳だし。ま、私はもう準備万端だけどね」
上杉の誕生日プレゼントの話題を出すとドヤ顔で二乃が話した。
「へぇ~、さすがだね。ま、二乃は優しい子だからそこも当然か」
「──っ!」
紅茶を口にしながら、二乃の行動は当然だろうと伝えると、二乃は驚いた顔をした後、唇を尖らせてジト目で見てきた。
「和にぃってホントずるいわよね」
「え?何が?」
「べっつにー……後、もう少し褒めてくれても良いと思うわよ」
そう言った二乃は顔を少しだけこちらに寄せてきた。
なるほど。
理解した僕は、綺麗にまとまっている髪を崩さないように優しく二乃の頭を撫でてあげた。
「さすが二乃。よくできました」
「えへへへ…」
そこで二乃はとびっきりの笑顔を見せてくれたので、対応は間違っていなかったようだった。
その後、REVIVALを後にした僕はまっすぐ向かいの店に入った。
「い……いらっしゃい…ませ……て、先生…!」
入った店はこむぎや。三玖がバイトしているパン屋だ。
入店するとまだ慣れていないのか、緊張したような声で出迎えてくれた。だが、客が僕と分かると驚きの後笑顔を見せて近づいてきた。
「どうしたの?」
「どうしたって、ここにパンを買いに来たんだよ。後は三玖の様子見もね」
「私に会いに来てくれたんだ…嬉しい…」
そんな三玖ははにかんだ笑顔を見せてくれた。
しかし、会いに来たとは言っていないが…まあいいか。
三玖も二乃と同じように白い作業服のような物を来ており、帽子も被っている。もしかしたら裏方も担当しているのかもしれない。
「制服似合ってるよ。後ろ髪も束ねてて可愛いね」
「──っ!」
僕の言葉に三玖はボンと音が鳴っているかのように顔を赤くして目を見開いていた。
「嬉しいけど…きゅ…急に言われると照れる…」
「あはは、ごめんごめん。じゃあ、明日の朝のパンに三玖のオススメを貰おうかな」
「うん…!任せて」
僕がオススメをお願いすると、三玖ははりきってパンを選び始めた。
「あら、いらっしゃいませ。今日もいらしたんですね先生。いつもありがとうございます」
そんなところに奥からこむぎやの店長さんが顔を出した。こむぎやの店長さんは黒髪で両端の髪を結んでいる少し若目の女性だ。と言っても僕よりは年上だと思われる。
「いえ。今日は生徒である三玖の様子も兼ねてですから」
「ああ。三玖ちゃんを紹介してくれたのは先生でしたね。仕事熱心で良い子ですよ。まだまだ緊張は抜けないようですけどね」
そんな風に笑いながらも三玖の事を褒めている。
「まあ、ちょっとまだパン作りは早いかもしれませんが…」
あはは、と乾いた笑い声で答えてきた。
まあ、パン作りなんて難しいだろうし不器用な三玖には中々大変だろう。
「先生、選んできたよ」
ちょうどそこにトレイに三つのパンを乗せた三玖が笑顔で近づいてきた。
「ありがとう。じゃあ、これに食パンを追加して会計してもらおうかな」
「わかった…!」
僕の言葉に元気良く答えた三玖は食パンを追加したトレイを持ってレジに進んでレジ打ちを始めた。
「えっと…」
そこまで慣れた手つきではないが丁寧に仕事をこなしていると思う。
そこでふと気づいた事を店長さんに聞いた。
「あれ?まだバイト募集してるんですね」
「ええ。後一人くらいはと思ってるんですけど…三玖ちゃんを薦めてくれた先生は誰か心当たりないですか?」
「うーん…今のところは。誰かいたら紹介しておきますよ」
「よろしくお願いしますね」
「先生、会計できた」
「ああ、よろしく」
三玖の会計を終わらせて帰ろうとしたところで三玖に声をかけられた。
「先生。もう少しだけ待つことできる?私もうあがるから一緒に帰ろ?」
「そう?なら外で待ってるよ」
「うん♪ありがとう」
外で待ってることを伝えると笑顔が帰ってきた。
店を出て少し離れた場所で待つことにした僕はことりにメッセージを送ることにした。
『今明日の朝食のパン買ったとこだけど、三玖が一緒に帰ろうと言ってきたから少しだけ遅くなるよ』
返事は早く、『はーい』と一言だけ返ってきた。
「あら。まだ帰ってなかったのね」
メッセージを見てスマホをしまったところでREVIVALから出てきた二乃に声をかけられた。
「もしかして待っててくれたとか?」
「残念。三玖の店で買い物して帰ろうとしたところに三玖に一緒に帰ろうって提案されたんだよ」
「へぇ~、あの子もなかなか攻めたことするじゃない。ま、そのお陰でこうやって和にぃと帰れるんだけどね」
三玖の行動に面白そうな顔をした二乃は、その後笑みを浮かべながら腕を組んできた。
「こらこら、腕を組むんじゃないよ」
「えー、良いじゃないのこれくらい」
「馬鹿言わないの。誰かに見られたらどうするの」
「そりゃあ……付き合ってるって」
組んでいない方の手を頬に当てながら恥ずかしそうにそんなことを二乃は言った。
そんな二乃の言葉にため息つきながら、僕は組んでいる腕を外した。そこはよくことりにされていることなので慣れたものである。慣れたくはないが…
「あんっ…もう!」
「先生おまたせ…♪…………なんで二乃がいるの?」
腕を解かされた事で二乃が文句を言っていると、普段では見られない程の笑顔を向けて駆け寄ってきた三玖であったが、僕の隣の二乃の存在に気づくと一気にテンションが下がったのか、いつもの無感情な顔になってしまった。
まあ、そりゃそうだろうな。
「あら、私も今バイトが終わったところよ。そしたら和にぃがいるんだもの。もう感激しちゃったわ」
三玖のドスが効いた言葉に二乃は気にすることなく両手を頬に持っていきうっとりしたように話している。
「ふーん…そう。先生は私と帰る約束してるから、じゃあ二乃は気をつけて帰ってね」
感情のこもっていない声で三玖はそう言うと、僕の左腕に自分の腕を組んで歩きだそうとした。
だが、それを二乃が許すはずもない。僕の右手を両手で掴んでそれを止めた。
「ちょっ…!ちょっと待ちなさいよ!」
「何?」
僕と三玖が歩きだすのを拒んだ二乃に三玖はジト目で答えた。
「何?じゃないわよ!どうせ帰る場所は一緒なんだから一緒に帰れば良いじゃない!」
「むー…」
文句がありそうな顔で僕を見る三玖。僕に断ってほしいようだ。
「はぁぁ…三玖、三人で帰ろう。二人で帰ってあげられないのは申し訳ないけど、二乃一人で帰らせるのも可哀想でしょ?」
「……わかった」
不服そうではあるが、僕の言葉には従ってくれるようだ。
「後、腕を離してもらって良いかな?」
「?なんで?」
僕のお願いに至って不思議そうな顔で三玖は聞き返してきた。
「他の人、特にうちの生徒には見せられないでしょ?」
「…………わかった」
長い間があった後、三玖は僕の左腕から自分の腕を解いてくれた。
その後は僕を中心に左に三玖、右に二乃が並んで帰ることとなった。
「それにしても二人とも立派に働いてるようで何よりだよ」
「ま、私の場合は普段家でも料理してるからなんて事ないけどね。まあ、ちょっと失敗したこともあったけど、上杉にフォローしてもらったし」
「へぇ~、さすが面倒見が良いもんだ」
「……そうね。あいつの優しさは認めるわ」
ぶっきらぼうな言い方ではあるがニッと口元も上がってるので本音で話してくれてるのだろう。
「私は先生が言ってくれてるほどまだまだ。接客も慣れないし、パン作りもうまくいかない…」
楽しそうに話す二乃とは反対に三玖は少し沈んだ表情で話している。それだけ大変な思いをしてるのだろう。
「今の感じでも良いと思うけどね。普通に笑顔だったし、そのうち三玖目当てで来るお客さんも増えるんじゃない?可愛い店員さんがいるって」
「むー…先生に可愛いって言われるのは嬉しいけど、そういうのはよくわかんない…けど、頑張ってみる」
先ほどの沈んだ表情を一変して三玖はやる気な顔になり、両手で握り拳を作っている。
「それより、この後帰ったら勉強しないとなのよねぇ」
両手を頭に持っていきうんざりした声で二乃が語りだした。
「やる気があって何よりだよ」
「そりゃあ、和にぃのご褒美がかかってる訳だし頑張るわよ」
「ご褒美ねぇ…」
「私たち二人だけじゃない。四葉と五月もいつも以上に勉強してる。特に五月は進路決めてるから」
「へぇー。一花は?」
「あの子はそこまでって感じね。でも、上杉の足枷とは言わせないってそこそこ頑張ってるわよ」
「そうか」
五人とも目的は違えど頑張ってるようで何よりである。
しかしご褒美か。飛鳥が求めるご褒美も読めないが、この二人も読めないんだよね。
「ちなみに二人はもうご褒美の内容とか決めてるの?」
なので駄目元で聞いてみることにした。
「えー、ふふふ…ひ、み、つ♪」
僕の質問に対して二乃は、ニコッとウィンクをしながら右手の人差し指を自分の唇に当てて答えてきた。
嫌な予感しかしない。
「三玖は?」
「わ…私も…秘密…」
こちらは恥ずかしそうにモジモジと答えてきた。
マジで何を要求されるんだ!?
ここは一番平和そうな五月に頑張ってもらうしか。後、上杉にも頑張ってもらわねば。
ほとんど腕も当たっているくらいの距離で、今にも手を繋いできそうに歩きながら、機嫌が良さそうな二人を余所に僕はそう願うしかなかった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、二乃と三玖の二人のバイトを和彦が視察するお話を書かせていただきました。
二乃も三玖もそれぞれ嬉しそうに和彦と話してましたね。逆に和彦は天然たらし炸裂です。
さて、全国模試によるご褒美の結末はいかに…
次回はちょっと風太郎の誕生日も近い事もあり風太郎側を中心に書かせていただきます。
次回の投稿は12月5日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。