少女と花嫁   作:吉月和玖

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108.愛の暴走機関車再び

「バイトを始めたい?」

 

二乃と三玖の三人で帰ってきたその日の夕食時、結愛からバイトを始めたいと提案された。

 

「でも、確か仕送りがあるよね?足りないの?」

「ううん。そんなことないです。けど、ここまで我が儘を聞いてもらってるから、自分のお小遣いくらいは自分で稼ぎたいと思って…」

 

真面目な結愛らしい理由である。

 

「おじさん達は?」

「結愛がそうしたいのならそうしなさいって。だけど、和彦さんの許可は取りなさいって言われました」

「なるほど...」

 

バイトを始めることで、僕に迷惑がかからないようにっていう意味も込められてるのかもな。でも、ちょうど良かったかも。

 

「バイトをするのは構わないよ。ただし、学生の本分は学業にあるんだから。勉強を疎かにしないこと。約束できる?」

「もちろん!和彦さんが悲しむことはしないよ!」

 

僕が許可すると笑顔で結愛から返事があった。

 

「バイトはこれから探すの?」

「そうだね。ただ、この辺もあまり詳しくないし…やっぱりモール内とかかなぁ…」

 

ことりの質問にご飯を食べながら結愛は自分の今の状況を話した。

 

「それなんだけど、今三玖が働いてるバイト先のパン屋さんがまだバイト募集してるみたいだから、そこなんてどうかな?」

「それってこむぎや?」

「そうそう」

 

三玖のバイト先の話が出たので、ことりがパン屋の名前を出した。

 

「そこだったら何度か連れていってもらったから道もわかるし、三玖のさんもいるからやり易いかも!和彦さん、紹介お願いできますか?」

「ああ。善は急げ。明日の放課後早速行ってみよう。放課後になったら数学準備室に来てくれるかな?」

「はい!」

 

僕の言葉に元気良く返事をする結愛。これで明日の放課後の予定は決定だ。

あそこの店長さんなら優しそうだから結愛を安心して預けられそうだし問題ないだろう。

そう考えながら、その後も雑談を交えながら夕食を続けるのだった。

 


 

~一花side~

 

今日も今日とて朝から参考書を読みながら風太郎は登校をしていた。目の下は隈だらけでどれだけ徹夜をしたかを物語っていた。

 

「おっはー」

「おー…今日もいたのか」

 

そんな風太郎に朝から元気良く一花はいつものコーヒーショップの前で挨拶をして声をかけた。声をかけられた風太郎は話すのもやっとの状態である。

 

「大丈夫?目の下の隈、すごいことになってるよ?」

「大丈夫に決まってんだろ」

 

心配そうに一花は聞くが、風太郎はいつも通りに答えた。だが、風太郎自身寝不足なのは否めないでいた。

 

「なら良いんだけどね」

 

そう言いながら、一花はいつも通り風太郎の右側に並んで歩きだした。

 

「お前も毎日よくやるな。そんなに俺といて楽しいのか?」

「好きな人と一緒にいるんだよ?幸せな気持ちになるに決まってるじゃん」

「!そ…そうか…」

 

風太郎の素朴な質問に、一花は屈託のない笑顔で答えてきたので風太郎は驚き、顔を剃らしながら前髪を弄り始めた。

 

「ふふっ、少しは意識してくれてるんだ」

「ま、まあ…そんなにまっすぐ気持ちを言われて意識しない奴はいないだろ」

「そっか♪そっか♪」

 

少しでも自分のやってきた事が実ってきていることを感じて、一花はニコニコと笑顔になった。

 

(フータロー君が私を意識してくれてる今がチャンスかも!ことりもいないし…よし!)

 

「あ、あのねフータロー君。君に渡したい物があるんだ」

「?俺に?」

 

緊張した赴きで一花が話しかけると、少し驚きを見せながら一花に視線を向けた。

そこで一花は立ち止まって鞄の中を確認しだしたので、風太郎も自然に立ち止まって一花の行動を見ていた。

そして一花はある物を鞄から取り出して風太郎に差し出した。

 

「こ…これ……良かったら使って!」

 

勇気を出して差し出した一花の手には、包装されて『gift for you』と書かれた薄い物だった。

 

「なんだこれ?」

「ギフトカード。これで好きなもの買えるんだよ」

「いや、それもあるんだが。なんでくれるんだ?」

 

本当に分かっていないようで、何故自分にプレゼントをくれるのか疑問を風太郎は一花に投げかけた。

 

「ふふふ…やっぱり思ってた通りだったね。明後日は君の誕生日でしょ?」

「あっ……」

 

思った通りだったことが可笑しくて笑いながら一花は説明すると思い出したように風太郎は目を見開いてしまった。

 

「どうせ勉強ばっかで覚えてなかったんでしょ?」

「うぐっ…」

 

図星をつかれて風太郎は何も言い返せないでいた。そして、一花の手に持っているギフトカードを受け取った。

 

「土日は多分勉強尽くしで忙しいだろうから前もって渡しておこうと思ってたの」

「そうか…サンキューな。しかし、何に使えば良いのやら」

 

自然な笑顔でお礼を言う風太郎に一花はドキッとしてしまった。そんな一花には全く気付かない風太郎は、このギフトカードをどう使おうか悩んでいた。

 

「別に自分の好きなものを買えば良いと思うよ。後は……そうだなぁ、らいはちゃんの好きなものを買ってあげたら喜んでくれるんじゃないかなー」

「最高!その手があったな!マジで助かる!ありがとな一花!」

「へへへ」

 

らいはの好きなものを買ってあげる。その言葉は風太郎にとっては大きなものであったようで、風太郎の喜びようは今まで一番ではないかと思う程であった。

そんな喜びに満ちている風太郎の顔を見た一花は大いに満足していた。

 

(やったー!これって成功じゃない?よし!このまま話題を振ってと)

 

「らいはちゃんの好きなものってなんだろうね?」

「うーん…そうだな。本人に聞くのも良いが…」

「ここはやっぱりサプライズでしょ!どんなものを買ってあげたら良いか相談にも乗るよ?」

「マジか!?助かるぜ!模試が終わったら頼むかもしれないから、そんときはよろしくな!」

「うん!お姉さんに任せなさい♪」

 

その後も一花と風太郎は、らいはへ買ってあげるものはどんなものが良いか学校に着くまで盛り上がり、この時間がずっと続けば良いのにと一花は思うのだった。

 


 

~三年一組~

 

昼休み。

三年一組のクラスになってから一つの定例行事がある。

それは風太郎とことり、加奈、智子の四人で昼休みにお昼ご飯を食べていることである。

最初は風太郎は嫌がったものの、ことりの粘り勝ちで今の体制が取られている。

 

「もう…ご飯食べてる時くらい勉強止めなよ」

「仕方ないだろ。時間が足りないんだ」

 

単語帳を広げながらご飯をいつも通り食べている隣の風太郎に、ことりは止めるように伝えるも風太郎は一向に止める気配がなかった。

 

「なーんか、この光景も慣れてきたね」

「そうね。私たちは気にしてないから上杉君は続けてていいよ」

「助かる」

 

智子の言葉に風太郎は答えながら単語帳をめくってはご飯を食べていた。もちろん、そのご飯もことりが作ってきたお弁当である。

 

「もう、智子は気にしてよぉ。これじゃあ一緒に食べてる意味ないじゃん!そりゃあ、風太郎君には今度の模試頑張ってもらいたいけど…もう少しおしゃべりとかしたいよ…」

 

寂しそうな顔でことりはお弁当のおかずを箸でツンツンとつつきながら答えた。

 

「…………」

 

そんなことりの声を聞いた風太郎はどう答えたら良いか迷い、弁当を食べる箸が止まってしまった。

そんな中、周りの男子からは『ことりさんを悲しませてんじゃねぇよ』『儚い表情も可愛いすぎる』『そこ代われ』という、小さな声ではあるが上がっていた。

 

「はぁぁ…ったく…」

 

ため息ついた風太郎は単語帳を机に置きお弁当を食べ始めるとことりに話しかけた。

 

「で?何話したいんだ?言っとくが俺に話題を期待するなよ」

 

ぶっきらぼうながらも声をかけてくれた風太郎に、ことりは風太郎の声から優しさが感じられて満面の笑みで喜びを露にした。

 

「ありがとう風太郎君♪もーー、だから大好き♡」

 

そう言うや否やことりは風太郎の首に腕を巻きつけるように、風太郎に抱きついた。そして──

 

チュッ…

 

ことりは風太郎の頬にキスをしたのだ。

 

「「ひゅ~~♪」」

 

そんなことりの行動を目の当たりにした加奈と智子は、驚きというよりもよくやった、というような表情を見せていた。

だが、ここは教室。周りには他にも生徒がいる訳で──

 

『キャー~~~!』

『ギャー~~~!』

 

女子からは歓喜の悲鳴が、そして男子からは絶望の悲鳴が鳴り響いていた。

中には──

 

「ぐはっ…」

「おい!しっかりしろ!傷は浅いぞ!救護はーん!救護班を呼んでくれ!」

 

ことりファンクラブの面々はことりの行動に耐えきれずその場にばたりと倒れてしまい、それを近くの男子が懸命に介護していた。

 

「おまっ…」

「えへへ♡」

 

この騒動の中心でもある風太郎は、キスをされた頬に手を当てながら驚きの表情をことりに向け、そのことりは満足そうに笑顔を向けていた。

 

「それにしても、やけに周りが騒いでるね。何かあったの?」

「何かって…ことりぃ、あんたねぇ…」

「あなたたちはこの学校でも有名カップルでしょ?しかもことりは人気者。そんなことりが頬とはいえキスすればそりゃ大騒動にもなるわよ」

 

周りの騒動の原因が本当に分かっていない様子のことりに、加奈は呆れ、智子が説明をした。

 

「ふ~ん…あむっ…えへっ…えへへ♡」

 

智子の説明を聞いたことりではあるが、ことりにはどうでも良いらしく、お弁当を食べ始めるもまだ嬉しさを隠せないでいた。

 

「はぁぁ…上杉君も大変ね」

「そう言ってもらえるだけでも救われるぜ」

 

智子の言葉にため息混じり風太郎もお弁当を食べ始めた。

 

「あ!そうだ、すっかり忘れてたけど風太郎君に渡すものがあったんだ」

 

幸せに浸っていたことりであったが、そこで何かを思い出したように鞄の中を漁りだした。

 

「えっと……あった!はいこれ、誕生日プレゼントだよ♪」

 

そう言ってことりは風太郎に対して包装された薄い封筒のようなものを渡した。

 

「え?俺に?」

「あれ?上杉君って今日誕生日だったんだ」

 

笑顔でことりからプレゼントを貰う風太郎は驚き、加奈は今日が風太郎の誕生日であることに驚いていた。

 

「ううん。本当は明後日なの。だけど、土日は模試の勉強で忙しいだろうから先に渡しとこうと思ったんだ」

「へー、ちゃんと考えてるのね」

「もちろん!風太郎君の事大好きだからね♡」

 

智子の言葉にことりは恥ずかしい言葉を堂々とどや顔で発言した。その発言でことりファンクラブの被害が更に増えたのはまた別の話である。

 

「そうか…」

「中身は焼き肉店で使える商品券だよ。模試が終わったら家族で行ってくると良いよ」

 

受け取ったプレゼントを笑みを浮かべて見ていた風太郎に、ことりはプレゼントの内容を伝えた。

 

「あれ?てっきり一緒に行こうって言うと思ってた」

 

家族と行くことを提案することりに、加奈は疑問を投げかけた。

 

「そりゃあ一緒に行きたいけど、やっぱり私は家族想いの風太郎君が好きだから。だから家族で楽しめたらなって思ったんだ」

「ことり…お前……サンキューな!すげえ嬉しいぜ!」

 

ことりの言葉に嬉しさが汲み上げてきた風太郎は笑顔でお礼を伝えた。そんな笑顔を見れて、ことりは更に幸せを感じた。

 

「なんなら、嬉しさのあまりに私を抱き締めても良いんだよ♡」

「調子に乗るな」

「ざんねーん」

 

両手を広げて抱き締めてもらう準備をしていることりに、風太郎はいつも通りに却下したのだが、ことりは本当に残念な気持ちではないようで、笑って答えていた。

 

「ま、なんにせよ、お互いに模試頑張ろうね。私だって飛鳥に負けてられないし」

「ああ、もちろんだ」

「そだ!風太郎君だけ何もご褒美なかったよね。みんなはそれぞれ目標達成したらご褒美貰えるのに」

 

風太郎とことりがお互いに模試に向けて意気込みをしていたところで、ことりがあることに気づいた。

 

「別にいいだろ。これは俺のためにやることなんだから」

「でも、やっぱりご褒美とかあった方がやる気になるじゃない?そうだなぁ………全国一桁取れたら、頬じゃなくて唇にキスしてあげる」

「はぁ!?」

 

右手人差し指で自身の唇に当てながら話すことりに風太郎は驚きの声をあげた。

 

「ほら、まだ私たちキスしたことないでしょ?だから、今回の模試で全国一桁取れたら、ご褒美のキスしてあげる♪」

『なにーーーーー!?』

 

ことりのご褒美のキス発言に教室の中は大騒ぎである。

 

「ただあんたがしたいだけでしょ?」

「あ、バレたか。でも良い機会だと思うんだよね」

 

大騒ぎの教室の中でただ冷静に加奈はツッコミを入れた。それに対してことりは笑いながら答えた。

そんな光景を風太郎はただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 

そして、昼休みが終わった次の時間は数学ということもあり、和彦がチャイムの鳴る前に三年一組の教室に入ってきた。

和彦が教壇に立って教室を見渡すとちょっとした異変に気づいた。

 

「なんだ?やけに男子達が気落ちしてるようだが…何かあったのか?」

 

ちょうど五月の席に集まっていた五つ子に和彦は問いかけた。

 

「さあ?私たちは学食に行ってたから。帰ってきたらもうこんな感じだったわ」

「フータロー君、何かあったの?」

 

和彦の質問に二乃が答え、一花が風太郎に質問をした。

 

「さ、さあな…俺にはわからん」

 

そんな風太郎は勉強をしているものの、一花から顔を逸らしながら答えていた。

 

(上杉のこの態度…元凶はあいつか…)

 

そんな風太郎の態度からすぐに考えが纏まった和彦は元凶であろう人物に声をかけた。

 

「ことり。お前何かやらかしたな?」

「えーー、先生酷いですよぉ。私は何もしてませんって」

「本当か?」

 

何もしていないと答えることりに和彦は疑うも、動揺を見せずにことりは頷いた。

 

「そうですよ先生。吉浦さんは何もしてませんよ」

「ただ、ちょっと彼氏とラブラブだっただけだよねー?」

 

疑いの目を尚も向ける和彦に別の女子生徒が答えた。

 

「そんなラブラブだなんて。普通に一緒にご飯食べてただけだよぉ」

 

そこでことりは両手で頬を覆うように恥ずかしそうにした。

 

「えーー!彼氏の頬にキスするなんてラブラブ以外ないじゃない」

「「「!!」」」

 

(それか!)

 

女子生徒の言葉に反応した和彦は、男子達の異変の原因に気づいた。一花と四葉も女子生徒の言葉に驚き目を見開いている。

 

「あんた、人前でよくやるわね」

「だってぇ、嬉しかったからつい……」

 

呆れたように話す二乃に対して照れながらも後悔の色もなくことりが答えた。

 

(さすがに教室では何もしないと思ってたけど、甘かったのかも)

 

そんなことりを見ながら一花は焦りを感じていた。

 

「それだけじゃないもんね。上杉君、全国一桁取れたら吉浦さんとキスができちゃうもんね」

「「「!!」」」

「ぐはっ…」

「おい!しっかりしろ!まだ決まった訳じゃないだろ!」

 

全国一桁で風太郎はことりとキスが出来る。その言葉に和彦のみならず、一花と四葉は驚きことりを見た。

するとことりはテヘッと舌を出して笑みを浮かべた。

一方のことりファンクラブの面々は大きなダメージを受けて天を仰いでいた。

 

(こいつは……恋人のフリをしていることを利用しやがった…)

(まずい!フータロー君とことりがキスする口実ができちゃった…ど、どうしよう…)

 

和彦はことりの行動に呆れ、一花は更に焦りを感じていた。

一方四葉はというと、ぎゅっと両手を握りしめ関わらないように必死に勉強に集中している風太郎ともう一人の人物を見ていた。

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、一花とことりがそれぞれ風太郎に誕生日プレゼントを渡すお話を書かせていただきました。
純情な一花と恋には一直線のことり。それぞれの風太郎に対する真逆の行動が書けたのではないかと思っております。
ことりの暴走に対して一花と四葉は今後どのような行動を取っていくのか…

次回はちょっと趣向を変えると言いますか、色々と考えた結果のようなものを書かせていただこうかと思います。

次回の投稿は12月10日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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