少女と花嫁   作:吉月和玖

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11.おんぶ

時は少し遡り。

僕と五月は人混みをかき分けて、ようやく四葉とらいはさんがいるであろう時計台に到着した。

 

「見てください。あそこに二人が」

 

二人を見つけた五月は繋いでいた手を離し、二人のもとへ急いで向かった。どうやら向こうもこちらに気づいたようだ。

 

「五月っ!」

「四葉ぁ!」

 

そして二人はお互いに抱き締め合い無事を分かち合っていた。

 

「五月が無事で良かったよ。先生と一緒だったんだね。せんせーい!」

 

ちょうど帽子と眼鏡を外していると、四葉から手を振られたのでそれに手を上げて応えながら三人に近づいた。

 

「それにしても、よくここがわかったね」

「ええ。上杉君に聞いて…」

「お兄ちゃん!?お兄ちゃんもいるの?」

 

五月の言葉に辺りをキョロキョロと探すらいはさん。

だが、その姿を見つけることは出来ない。

 

「ごめんねらいはさん。彼はここにいないんだ。ここに来る途中ではぐれてしまって…」

 

らいはさんの背に合わせるようにしゃがみこみ頭を撫でながらそう伝える。

すると「そっかぁ…」と残念そうに下を向いてしまった。

そんならいはさんの頭をさらに撫でてあげると少しは笑顔が戻ってきたようだ。

 

「四葉はここにいるって事は二乃の予約した場所は知らないんだよね?」

 

らいはさんを撫でながらなので見上げるように四葉に尋ねる。

 

「ですね。なので二乃に連絡をしたのですが、場所を聞く前に電話が切れてしまって。再度掛けてはいますが掛からずで困っていた状況です。二乃からはそこにいるように言われたのでここでずっと待っていました」

 

申し訳なさそうに言う四葉だがこればっかりは仕方がない。

四葉の言葉を聞き終えると立ち上がり今後の事を考えてみる。

とはいえ、ここで上杉が来るのを信じて待つしか出来ないんだが。

 

「後は上杉が合流すれば万事解決なんだけど」

「その上杉君と連絡をとることすらできませんからね」

「困りましたぁ…」

 

うーん、と僕と五月それに四葉が腕を組んで唸ってしまう。

無情にも夜空には花火が舞い上がっている。

そんな時だ。ふと人混みの方を見ていると男の人が浴衣姿の女性の手を引いて歩いているのを目撃した。それだけであれば特にどうということではないのだが…

 

「ねえ、あれって君たちの姉妹じゃない?」

「「え?」」

 

僕の指摘した方を四葉と五月が見る。そこには、この二人と同じ顔をした女性がいるのだ。

 

「「三玖!?」」

「え、三玖なの?ヘッドフォンは?」

「わかりません。しかしあれは三玖で間違いないです!」

 

髪を後ろで団子のように結んでいる時点で二乃か三玖であるとは思ったのだが、五月がヘアピンをつけているといった特徴がなかったので判別が出来なかった。

しかし、僕の疑問に五月が自信を持って答えているので三玖で間違えないのだろう。

 

「二人とも。あの男の人に心当たりは?」

「ありません」

「私も。もしかして誘拐!?」

「え~~!?」

 

四葉が縁起でもない事を言うものだから、らいはさんが驚いてしまった。

一瞬だけ見えた三玖の顔は、どこか困惑したようだったので知り合いの線は薄いかもしれない。

 

「三玖は僕が。二人はここでらいはさんと待っててくれないかな?」

「わかりました。三玖をどうかよろしくお願いします」

 

三玖のところに向かう事を伝えると五月が答えたので、それに対してコクンと頷き三玖のもとに向かった。

追い付けるか心配ではあったが三玖が足を怪我していることが原因か、向こうはそんなに早く歩けていない。

チャンスだ。

そんな思いで人混みををかき分けながら歩みを進める。

そしてようやく追いついた!

 

「…っ!あの…私…一花じゃ…」

 

一花?

三玖まですぐのところで三玖の口からそんな言葉が聞こえた。

一花と間違われて連れていかれている?って、今はそんなことを考えてる場合じゃないか。

 

パシッ…

 

そんな思いで引かれている三玖の手を握り自分の方に引っ張った。

 

ポスッ…

 

そしてそのまま僕の胸に三玖が収まる。

 

「すみません。どういう状況かは分かりませんが、彼女嫌がってるようなので返したいただきますね」

「……っ」

 

僕の胸に収まった三玖は驚いたように僕を見上げる。

 

「なんだ君は…!?」

 

三玖を奪われた男は噛みついてきた。

うーん、教師というと話がおかしくなるのか?だったら…

 

「彼女は僕の大切な人です。そんな彼女を連れ去るのはやめていただきたいですね」

「~~っ…」

 

本当は大切な生徒だけど同じだよね。

そんな風に考えていると男はさらに食いついてきた。

 

「な、何を!?一花ちゃんそんな人がいたのかい?」

「え…えっと…」

「一花?この子は一花じゃないですが」

 

すごい興奮している男に一花ではないことを伝えるも聞く耳がないようだ。

 

「その顔は見間違いようがない!さあ早く…うちの大切な若手女優を放しなさい!」

「は?」

 

そんな男が何かとんでもない事を言ったように聞こえた。え、若手女優?一花が?

 

「わかてじょゆう…」

 

後ろから聞いたことがある声が聞こえたので振り返ると上杉と一花の姿があった。

 

「上杉!?それに一花も!?」

「え!?一花ちゃんが二人ぃー!?」

「え…カメラで撮る仕事って…そっち?」

 

一花を若手女優と話す男は一花の登場で驚きの声をあげている。

上杉も上杉で信じられないものを聞いたからか驚きの顔で一花を見ている。

当の一花は秘密がばれた事での申し訳なさか顔を下に向け髪を弄っている。

 

「先生…あの…」

 

そんな時、自分に抱き寄せていた三玖から声をかけられた。そういえば、ずっと抱き寄せたままだったな。

 

「っと、ごめんね。足の怪我は大丈夫?無理に歩かされてたから酷くなってなければ良いけど…」

「心配してくれてありがとう…でも、ゆっくり歩く分には問題ないよ」

「そっか、良かった」

 

慌てて三玖を自分から離す。

引きずられるように引っ張られてたから足の怪我の状態が心配になり確認すると、笑って答えてくれたのでとりあえず安心した。その安心もあり自然な流れで三玖の頭を撫でていた。

 

「あ…あのっ…先生…」

「あっ、悪い。いつもことりにしてる感じになっちゃってて」

「ううん…問題ない…」

 

問題ないとは言ってくれたが、三玖は下を向いたままこちらに目を向けてくれない。一瞬目が合ったかと思えばすぐに反らされる始末。

嫌なことしちゃってごめんね三玖。

 

「待てって!」

 

そんな考えをしていると上杉の一花を止める声が聞こえた。どうやら、一花を連れていこうとする男の人、社長さんらしいが、と揉めているようだ。

上杉としては五人一緒に見る花火を実現させたいようである。そして、社長からすれば今から大事なオーディションがあるので何としても連れていきたい。平行線である。

だが肝心の一花はというと。

 

「みんなによろしくね」

 

そう笑顔で言ってきたのだ。

でもあの笑顔は……

そして一花は社長に連れられて行ってしまった。

 

「あいつ…」

「フータロー。足…これ以上無理っぽい。一花をお願い」

「だが…」

「三玖には僕が付いてるから行ってきな。上杉にも何か感じるところがあるんでしょ?」

 

そう笑って伝えると、上杉は目を見開いた顔でこちらを見てきた。

 

「……ありがとうございます」

 

そして頭を下げてきた。

 

「気にしないで良いって。後、らいはさんの事も面倒見ておくから」

「助かります!」

 

そう言うや否や走って行ってしまった。

 

「いやぁー、青春だねぇ~」

「先生、おやじくさい…」

「辛辣ですね、三玖さんや」

 

両手を腰にあててそう口にすると、三玖からは冷めた目で返された。結構ヘコむなぁ…

さて!

そこで三玖の前でしゃがみこみ後ろを向く。

 

「え?何?」

「背中に乗りなよ。足にあまり負担をかけない方が良いでしょ?」

「で…でも…」

「まぁ、もちろん嫌って言うなら強制はしないけどね」

 

顔だけ少し後ろに向けながら伝える。すると、三玖はこちらに近づいてきて僕の背中に預けてきた。

 

「重いって言うの禁止…」

「はいはい、と…」

 

少し力を込めて三玖を担ぐ。

これくらいの重さなら大丈夫だね。

立ち上がった後は、三人が待つ時計台に向かって歩き出した。

 

「やっぱりフータローと違うね」

「んー?上杉もおんぶしたの?」

「うん…立ち上がっただけだけどね。重いってすぐに降ろされたよ」

 

なるほど。だからさっき重いと言うのを禁止したのか。

心の中で笑いながらどんどん進む。

三玖は安心してるのか、こちらに体を預けきっている。

 

「そういえば、三玖も髪型変えたんだね。その髪型も似合ってるよ」

「ほんと?」

「ああ」

「そっか…ありがとう…

 

そんな言葉と共に首にまかれた三玖の腕に少しだけ力が込められたように感じる。

 

「あのね…さっき言ってた大切……」

 

ブー…ブー…

 

そんな時だ。三玖が持っている巾着から携帯のバイブレーションの音が鳴った。

 

「……っ!」

「着信?」

「うん…待って……えっと…あ、ことりだ」

 

おー、なんともタイミングが良い時に掛かるものだ。

 

「僕は気にしないでそのまま出ちゃいな。またいつ掛かってくるか分かんないし」

「わかった…もしもし、ことり?」

 

これでことりと二乃のいる場所が分かるだろう。まあ、時間は残り15分あるかないかだけども。

 

「うん、今は先生といるよ……え、わかった。ねえ?ことりが代わってほしいんだって」

「んーー、なら一度降ろしても良いかな?」

「わかった…」

 

そして道の端に寄って三玖を降ろし、三玖から携帯を預かった。

 

「もしもし、ことり?何か用?」

『もぉー、何か用じゃないよ!電話も繋がんないしで心配してたんだよ?』

「それはこっちも一緒だよ。まあ、僕は上杉から二乃と一緒に予約した屋上にいるって聞かされてたから安心はしてたんだけどね」

『そっか、風太郎君に会えたんだね。なら、すぐにこっちに合流すればよかったのにっ!』

「こっちも色々あったんだよ。ちょっと待って……三玖、もう少しで時計台だけど歩ける?」

 

一旦携帯の通話口を押さえて三玖に確認する。

 

「大丈夫…」

「よし!じゃあ、はい…」

 

そこで手を差し出した。

 

「支えながら歩くから手を握って」

「う…うん…」

 

三玖が僕の手を握ったのを確認すると先導するようにゆっくり歩き出した。

 

「ごめんごめん、今四葉と五月とらいはさんが待ってる時計台に向かっててさ」

『四葉に五月、それにらいはさんの場所も分かってるなんて凄いじゃん』

「まあ、五月とは最初から一緒にいたんだけど、時計台の事は上杉に聞いて知ったんだよね」

 

そこで繋いでいた三玖の手がピクッと握られた反応があったので、三玖を見てみるも特に変わった様子はなかったのでまた前を向く。

 

『へぇ~~、ずっと五月と一緒だったんだぁ。ふーん…』

 

なぜか棘のあるような言い方になっているのが気になるのだが…

 

「何?」

『五月に何もしてないよね?』

「何を言うかと思えば…僕をなんだと思ってるの?何かあるわけないでしょ」

『うーー…でもでも、私だってお兄ちゃんと花火見たかったんだよ』

 

完全に素に戻ってるよ。近くに二乃もいるだろうに。

 

「はいはい。じゃあ数分だけでも一緒に見るために今いる場所教えてくれ」

『えっと、ここは………』

 

場所を聞けたところで電話が切れたので携帯を三玖に返す。そのタイミングで時計台に到着した。

 

「あっ!三玖ぅー!」

 

三人に近づくと四葉から声をかけられる。

 

「やっと合流出来たね。三玖?もう手を離しても大丈夫そう?」

「…うん…」

 

手を離した後は時計台の下に三玖を座らせた。

 

「それにしても、無事に戻っていただき良かったです」

「五月はずっと心配してたもんね」

「当たり前です!」

 

どうやら相当心配させてしまったようだ。申し訳なかったな。

 

「それで、これからどうします?このまま上杉さんが来るのをここで待ちますか?」

「いや。上杉は今諸事情で一花と行動してるからここには一時来ないだろう。で、さっきことりから三玖に連絡があったから、ことりと二乃に合流しようと思ってる」

「おぉー、二乃の場所わかったんですね」

「ではすぐに動いた方が良いかと。もう花火も終わりの時間ですし」

「だね。てことで、はい三玖」

 

五月の言葉に三玖の前に後ろ向きでしゃがみこみ、またおんぶの姿勢を取る。

 

「ちょっと早歩きになるかもだからね。今の三玖にはキツいでしょ?」

「……どうせ何言っても意味ないんでしょ?」

 

そう言いながら三玖は僕の背中に体を預けてきた。素直に行動してくれると助かるね。

 

「……よっと。僕の事分かってんじゃん。よし、皆もはぐれないように付いてきて」

 

その言葉に五月が僕の服の裾をくいっと引っ張った。

 

「ん?」

「はぐれないための処置です」

「ふっ…言い心がけだね」

 

どこか恥ずかしそうな顔で言ってくる五月に笑って答えてあげた。

 

「ではらいはちゃんは私の手を」

「うん!じゃあ、はい。もう片方は四葉さんだね」

「おぉ~、これならはぐれませんね」

 

そんな感じで、おんぶをした男を先頭に手で連なった奇妙な団体が人混みの中を進むのだった。

 

 




花火大会の話も佳境を迎えてきました。
前回の颯爽と三玖の手を握るのに現れた場面に繋がる話を今回は書かせていただきました。
次回あたりで花火大会が終わればなと思っています。

では、また次回も読んでいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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