少女と花嫁   作:吉月和玖

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110.恋

~中野家~

 

「上杉さん!さっそく答え合わせお願いします!」

 

和彦とのジョギングを終えた四葉は、今日は五つ子全員揃った状態での勉強会に勤しんでいた。

 

「お、早いじゃないか。どれどれ……なんだ四葉お前もやればできるじゃないか。これなら次の問題もランクアップできそうだな!」

「うぇ~~~、今より難しくなるんですか!?」

「当たり前だ。これは基本中の基本。まだまだ先はあるぞ」

「うーーー、頑張ります!」

 

調子の良い四葉に気分が良くなった風太郎は次のプリントを四葉に渡した。それを受け取った四葉もやる気に溢れている。

 

「何よ四葉。今日はやけに調子良いじゃない?」

「うん!なんか頭がスッキリしてるんだ」

「へぇ~、あれかな?ジョギングの効果かな?」

「うぇ!?そ…そうかもしれないね……」

 

二乃の言葉に笑顔で答える四葉。そんな四葉に、一花はジョギングで頭が冴えたのかもしれないと尋ねると、少し動揺した姿を四葉は見せた。

 

「何動揺してんのよ。ジョギングなんて毎日してるじゃない」

「あはは…そうだね」

「しかし、今日は先生もご一緒だったとか。ちゃんと先生のペースに合わせてあげたのですか?」

「うん!そこは問題なかったよ。先生も運動してたみたいで、結構走れてたし」

 

四葉の毎日の日課でもあるジョギングに、今日は和彦が一緒であったことに、和彦は大丈夫だったのか五月は心配そうに尋ねた。

しかし、四葉は問題ないと、むしろ運動していたから十分に走れていたと答えた。

 

「運動…?ことり、先生って何かしてたの?」

 

和彦が運動をしていたことに疑問を持った三玖はことりに質問した。

 

「ああ、言ってなかったね。兄さん、あれでも大学までは空手してたんだよ。結構良い成績残してたしね」

「はい。とてもかっこよかったです!いつも大会に応援に行っていました」

 

ことりの返答に結愛も興奮気味に答えた。

 

「へぇ~、和にぃの空手姿かぁ…見てみたいかも」

「うん…!きっと凛々しくて格好いいんだろうな…」

 

ことりと結愛の言葉に二乃と三玖はうっとりした顔で和彦の道着姿をして空手をしているところを想像していた。

 

「うん!兄さんの空手の姿はカッコいいよ。それもあって高校ではめっちゃモテてたもん」

「ただ、和彦さんがあまり乗り気ではなかったのか、お付き合いしても長続きしなかったみたいですね。その頃の私もまだ小さかったので詳しくは知りませんが」

「私もぉ……たまに彼女を家に連れてきてたけど、すぐに別れて今度は別の彼女連れてたりしてたもんなぁ」

「なんかそれだけ聞くとプレイボーイ感が凄いなぁ…」

 

ことりの和彦は彼女を取っ替え引っ替えしているという言葉に、一花は今の和彦からは想像が出来ず苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「まあ、兄さんは彼女よりも私と飛鳥、結愛ちゃんとの相手を優先してたから、相手から愛想つかれたんじゃないかな。仕方ないよね。両親共働きで私たちもまだ小学生だったし」

 

少し(かな)しげな表情でことりは語った。ことりとしては、まだ自分達のせいで兄の和彦がまともなお付き合いをしてこなかったと思っている。

実際には和彦自身の気持ちの問題ではあるのだが、それを何度も和彦からことりに説明してもことりは納得していなかった。

 

「ま、今のあんたたちはもう高校生だし、和にぃも気にせず恋ができるだろうからそこは気にしないわ」

「今回の全国模試、絶対姉妹で一番を取る…!そして、先生にお願いを聞いてもらうんだ。はい、フータローできたから見て」

「おう!」

 

勉強をする目的は微妙ではあるものの、勉強への意欲が感じられたため、風太郎は生き生きと三玖のプリントの解答をしていくのだった。

 


 

「ん……ちゅ……はぁ……んン……ちゅっ……はぁ……」

 

夕方にさしかかった頃、四葉に呼び出されてマンションの非常階段に行き、階段に座っていた四葉の隣に座るや否や、顔を両手で固定されていきなりキスをされた。

 

「ど、どうした?」

「すみません。なんか体が火照っちゃって……それにキスすると、何て言うのか頭がスッキリして勉強も捗れるんです。さっきも風太郎君に良くできてるって誉められました!」

「これは誉められた行為ではないがな」

「うっ…ですよねぇ…すみません…」

 

キスの事を注意すると四葉は隣でシュンとなっていた。心なしかリボンも垂れている。

 

「まったく……学校の勉強はいまいちなのに、こっちの勉強は得意のようだね。今のキスは良かったんじゃない?気持ち良かったよ」

 

横の四葉の頭をポンポンと軽く叩きながらキスの感想を伝えた。

 

「…嫌じゃなかったですか…?」

「四葉みたいな可愛い子にキスされて嫌がる男がいるもんか。上杉なんて、今みたいなキスで虜に出来るかもよ?」

 

(かな)しみを帯びた目でこちらを見てくる四葉に対して、笑みを浮かべながら伝えた。

 

「ししし、できたらいいんですけどね……先生は虜になりましたか?」

「は?僕を虜にしてどうすんの、さ!」

「あいたっ…」

 

四葉の言葉に軽くデコピンをお見舞いしてやった。本当に軽くなので実際は痛くないだろうが。

 

「う~~…そうなんですけどぉ。ほら、先生を虜にできるくらいなら私にも自信がつきますし!」

 

両手の拳をぐっと握って笑顔で答える四葉。

 

「阿保。そしたら虜になった僕はどうするのさ?四葉は上杉と付き合いたいんだろ?」

「それは………その時は責任取って私が先生とお付き合いします!」

 

真面目な顔で何か覚悟したような顔でそんなことを言うものだから、また四葉の額にデコピンをした。

 

「あいたっ…」

「それを本末転倒って言うんだよ。これは上杉にアピールするための授業なんだろ?」

「それは……そうなんですけど…」

 

デコピンされた額を擦りながら何か言いたげな顔で四葉は下を向いてしまった。

うーん、四葉は素直な子だからなぁ。ここらで男の怖さを教えとくか?もしかしたら嫌われるかもしれないが。

そんな考えをしながら、下を向いている四葉の顎を持ってくいっとこちらに顔を向けさせた。

そんな僕の行動に四葉は驚きの表情を見せた。

 

「まあ、こんな可愛い子とキスできる口実が出来るんだ。僕としては何も損はないけどね」

 

ニヤリと笑みを浮かべてそのままキスをする体制に入った。後は四葉がこれを拒んでくれたら……

そんな思いで顔を近づけていくと、何故か四葉は目をつむり自ら唇を差し出すような行動を取った。

え?何考えてるのこの子は。

 

「………」

 

何も言わずただこちらに唇を差し出している四葉。訳が分からず後少しでキスするところで固まってしまった。

中々キスされないことに疑問を持ったのか、四葉は薄目を開けた。

 

「先生……」

「──っ!」

 

薄目で開いているからかどこか懇願しているような四葉の顔を見た僕は何かが切れる音と共にそのまま四葉の唇を奪った。

 

「ん……ちゅっ……はぁ……ちゅっ……せんせい……ちゅっ……」

 

切なそうな声出す四葉。そんな四葉の声に頭の中が蕩けそうになる。

僕は我を忘れたかのように四葉を抱きしめ更に深いキスをした。

 

「んむっ…!」

 

僕が自らの舌で四葉の唇から中に侵入して歯を舐めあげたのだ。それに四葉も驚きの声を上げそうになったが我慢したようだ。

ここで四葉が僕を拒否してくれたら──

 

「ちゅる……れろ……」

「!」

 

だが四葉は拒否するどころか、自身の舌を出し僕の舌に絡めてきたのだ。

 

「んン……ちゅる……はぁ……れろ……ちゅる……はぁ……きもちいい……せんせい……もっと……」

 

先ほどまでは腕を下ろした状態であった四葉だが、四葉にも火がついたのか、僕の首に巻き付けるように腕を回し、もっととキスをせがんできた。

 

「ちゅっ……れろ……はぁぁ……あ、んン……ちゅっ……」

 

どれくらいそうしていただろうか。

お互いがようやく落ち着いたところでお互いの唇を離した。すると四葉の口から銀色の糸が引いていた。

 

「はぁ……はぁ……四葉、お前……」

「はぁ……えへへ、とても気持ち良かったです…」

 

そこでペロッと四葉は舌で自身の唇を舐めた。

その姿が妖艶過ぎていつもの明るい笑顔の四葉とは正反対であった。

四葉の腕はまだ僕の首に巻き付けているので、お互いの顔は近い状態だ。そこで何を思ったのか、そのまま腕を引いた四葉は、自分の肩に僕の顔がくるように抱きしめてきた。

 

「大丈夫です。先生は何も悪くありませんし、怖くもないです。また、しましょうね?……ちゅっ」

 

僕の耳元で声をかけた四葉は僕の頬にキスするとようやく離れてくれた。

そして、すくっと立ち上がった四葉は敬礼姿勢になると、いつもの元気な声を発した後、ニッコリと笑い部屋に戻っていった。

 

「では、先生!今後ともよろしくお願いします!」

 

僕はというと、後悔の念が押し寄せてきてその場から暫く動けないでいた。

 


 

~中野家~

 

「ただいま♪」

 

和彦との会瀬を終えた四葉はご機嫌な声で帰宅した。

 

「遅かったじゃない。もう夕食できてるわよ」

「ごめんごめん。ちょっと長引いちゃって」

 

夕食の配膳をしている二乃から文句を言われた四葉は謝りながら食卓の席に着いた。三玖も配膳の手伝いをしているので、一花と五月はすでに食卓を囲んでいた。

 

「先生のところに行ってたんだよね?何々?恋の相談ですかぁ?」

「ち、違うよぉー!授業についての相談だって!どんな風にノートを取ったりしたら良いかとか…」

 

一花の言葉にドキリとした四葉であったが平静を保ちながら返答をした。

 

「この子に恋愛相談はまだ早いんじゃない?」

 

配膳を終わらせた二乃は話しかけながら食卓に着いた。それに三玖も続き、『いただきます』という五人の挨拶で夕食が始まった。

 

「それで、一花はなんで恋愛相談してきたと思ったのよ」

「えー、だって帰ってきた四葉ってばすっごい機嫌が良いんだもん。これは何かあったなと思ったんだよ」

 

四葉の和彦のところへ行った理由がなぜ恋愛相談なのか二乃が聞くと、一花は笑いながら答えた。

 

「そ、そんなに機嫌良かったかな?」

「言われてみれば、確かに声に嬉しさが混ざってましたね」

 

四葉の質問に五月が思い出しながら答えた。

 

「あはは…まあ、先生ってやっぱり私たちのお兄ちゃんって感じだから、話してても楽しくって。それでそのまま帰ってきたからそんな風に見えたのかもね」

 

そんな五月の言葉に苦笑いを見せながら四葉は答えた。

 

(本当は先生とのキスの余韻が残ってたなんて口が裂けても言えないよねぇ。特にこの二人の前では…)

 

そんな風に考え、冷や汗をかきながら四葉はチラッと二乃と三玖の方を見た。

 

「それはまあ…理解できますが…」

「そうねぇ。でも、私はもう兄なんて思ってないわ。一人の男性として好きなんだから」

「私だってそう…!本当は先生じゃなくて名前で呼びたいくらい…今度呼んで良いか聞いてみようかな?」

 

どうやら四葉の言葉を姉妹全員が同意しているようで、四葉としてはなんとか話を逸らすことが出来てホッとしていた。

 

「良いんじゃないかな。二乃だって和にぃって呼んでるんだし。ちなみに何て呼ぼうと思ってるの?」

「え…?普通にカズヒコ…さん…とか…」

 

一花からの質問にもじもじしながら三玖は答えた。

 

「もー、可愛いなぁ三玖は!」

「ひゃっ…!」

 

そんな三玖に一花は笑いながら抱きついた。

 

「一花!食事中ですよ」

「えー、こんな可愛い妹を見たら抱きしめたくなるよぉ」

 

食事中にも関わらず三玖に抱きつく一花に注意する五月であったが、それに対して唇を尖らせながら一花は答えた。

 

「ふーん…じゃあ、三玖の和にぃへのお願いはそれでいくのね?」

 

今までの様子を見ていた二乃はニヤリと笑いながら三玖に話しかけた。

 

「違う。これとそれは別。二乃だって呼び方は普通に頼んだでしょ?なら私だって普通に頼むよ」

 

そんな二乃の言葉に三玖はすぐに反論した。

 

「へぇー、じゃあ三玖は先生に何をお願いするの?」

「そ…それは………キス…

 

そこで四葉から三玖がどんなお願いをするのか興味を持ち聞いてみた。

 

「「「「え?」」」」

キス…してほしいってお願いするつもり……

「ゴホッ…ゴホッ…」

 

小さい言葉ながらキスをお願いすると三玖が言った瞬間、五月は咳き込んでしまった。

 

「へぇ~」「ふ~ん」

 

一方の一花と二乃はある程度予想はしていたので落ち着いた表情で聞いていた。

そして四葉はというと、箸を口に咥えたまま目を見開いて固まってしまった。

 

「キ…キキ…キスと言ったのですか三玖!?」

 

そんな中一人動揺している五月は三玖に聞き返すと、それを三玖はコクンと頷いた。

 

「私は先生……カズヒコさんとキスしたい…」

「~~~っ!!」

 

堂々と三玖が宣言する事で、五月は更に顔を赤くしてしまった。

 

「ま、そうなるわよねぇ。やっぱ考えることは一緒だったか」

「てことは二乃も?」

 

落ち着いたまま食事を続けながら話す二乃に対して一花は問いかけた。

 

「当然でしょ。まあ、私の場合はデートして、最後に雰囲気あるところでキスすることを狙ってるんだけどね」

 

ふふっ、と笑いながら二乃は自身の計画を話した。

 

「し、しかし!私たちと先生は教師と生徒!そのような不純なこと……」

「飛鳥だってしてるんだからこのくらい良いでしょ?」

「飛鳥さんは幼馴染みであって、教師と生徒という関係性はありません」

 

教師と生徒でそのようなことはあってはならないと自身の考えを伝える五月に対して、二乃は飛鳥も和彦とキスしているだろと反発した。しかし、それは幼馴染みという関係があってであり、教師と生徒という関係性はないと、五月が更に反発した。

 

「相変わらず固いわねぇ。私はね。先生という和にぃに恋したんじゃないの。和にぃっていう一人の男性に恋したのよ。そんな人にキスしたいと思うのは当然でしょ」

「──っ!」

 

一人の男性に恋をした。その言葉に五月は反論が出来なかった。

 

「私も一緒。確かに私たちは教師と生徒。でも、そんな関係なんてどうでもいいって思える程私はカズヒコさんが好き」

 

二乃の言葉に三玖も真剣な顔で伝える事で、五月は反論することを諦めた。

 

「恋って凄いよねぇ。時にはこんなにも人を動かせるんだもん」

 

そこでしみじみと一花は言葉を紡いだ。

 

「あんたも余裕そうにしてるけど、ヤバイんじゃないの?このままだと、上杉をことりに取られるわよ。あの子も上杉にキス宣言してるんだから」

「ありゃ、私の気持ちバレてたか」

「バレバレでしょ」

 

自分の好きな人が二乃にバレている事にさほど驚きを見せずに一花は答えた。

バレバレだという二乃の言葉に同意するように三玖も頷いた。だが──

 

「えーーーー!?一花は上杉君のこと好きだったのですか!?」

 

姉妹で唯一気づいていなかった五月が驚きの声を上げた。

 

「ここに気づいてないのがいた…」

「あはは…」

 

三玖の言葉に四葉は乾いた笑みを浮かべた。

 

「それにことりさんも上杉君が好きなのですか!?」

「あんなあからさまだったらわかるでしょ、普通」

「うーー…」

 

更にことりも風太郎が好きだという事に気づいていなかった五月に、二乃は気づかない方がおかしいと答えた。

自分だけが気づけていなかったことに五月はショックを受けているようである。

 

「で?勝算の方はどうなのよ?」

「うーん…やっぱり学校だと二人は付き合ってることになってるから、正直不利かなって。だから、他の場所とかでアピールしていこうかなって思ってるよ。買い物に誘うとかね」

 

二乃の質問に口角を上げながらまだまだ諦めた訳ではないと想いを一花は伝えた。

 

「ちゃんと考えてるなら良いんじゃない?ま、まずは目の前の模試に集中しないとね」

「そうだね!上杉さんの為にも私たちも良い点取らないと!」

「それに、カズヒコさんのご褒美も懸かってる…」

「うーーー、ここは何としても二乃と三玖の暴走を止めなくては…!」

「五月ちゃんはまだ言ってるんだ。まあ、何にせよ今日はこの後夜の勉強会もあるわけだし、頑張っていこう!」

「「「「「おーーーーー!!」」」」」

 

一花の音頭で五人全員が拳を挙げて頑張る気持ちを高々に掲げるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は四葉の行動を中心に姉妹の様子を書かせていただきました。
四葉の行動を止めなければいけない立場にある和彦ですが、結構流されやすい性格なのかもしれませんね。まあ
、あんな可愛い子にキスをされれば男としては止められないかもしれませんが。
そして、二乃と三玖も和彦とのキスを狙っており、これからどんどん和彦の周りは荒れそうです。

次回は、久しぶりに出演するキャラが登場し、更には少し混沌としていくかもしれません。

次回の投稿は12月20日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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