少女と花嫁   作:吉月和玖

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114.格闘戦

~三年一組~

 

──ごめんなさい、結愛さん。その恋のレース(わたくし)も参加させてもらいますわ

 

(はぁぁ…何でこんなことに...)

 

今は全国模試最終科目の英語が実施されており、和彦もまた監督官として参加していたのだが、その和彦はいつも通りを装いながらも先程の今井の発言を思い出しては心の中でため息をついていた。

 

(フータロー君の体調も気になるけど、先生何かあったのかな?)

(和にぃ元気ないみたいだけど…)

(カズヒコさんどうしたのかな…?)

(うー…もしかして私の事で悩んでるのかなぁ。でももう後戻りはできない…)

(お兄ちゃんどうしたんだろう?たまに心ここに在らずって感じで。何かあったのかな?)

(なんか風太郎君グラグラしてるけど大丈夫かなぁ…後お兄ちゃんも。一限目の時は普通だったからその後に何かがあったってことだよね?)

 

五つ子とことりには和彦がいつもと雰囲気が違うことには気づいていた。

そんな時だ。

 

(やべぇー、もう…げん……か……い……)

 

バタンッ…!

 

ふらふらとしていた上杉はその場に倒れ込んでしまったのだ。

 

『!!』

「フータロー君!」「風太郎君!」

 

風太郎が倒れたことで席が近い一花とことりが席を立ち近づこうとした。

 

「動くな!まだ試験中だぞ!みんなも静かに!」

 

そこに和彦の声が響き一花とことりは自分の席についた。周りも騒ぎだしたので和彦はそれも抑えた。

 

「騒がず、各自試験を続けるように!上杉は僕が看るから」

 

和彦の言葉に騒ぎは収まり各自試験の続きを始めた。

だが、風太郎知る五つ子とことりはそれどころではない。

 

「上杉?おーい」

「すぅ……すぅ……」

 

(駄目だ。完全に寝てしまった…はぁぁ…これが受験本番じゃなくて良かったよ)

 

和彦が風太郎の肩を叩きながら声をかけるも、規則正しい寝息だけが聞こえるだけだった。

 

「上杉は寝ただけだから心配しないように。さあ、まだ時間があるから終わってる人は見直しを。まだの人は解答を埋めていくように」

 

風太郎の現状をクラス中に説明した和彦は、まだ試験中であるので解答を進めるように促した。

和彦の言葉にホッとした五つ子とことりは、また試験に集中した。

 

(ったく……後で呼び出しだな)

 

和彦は笑みを風太郎に向けながらそんなことを考えていた。

 


 

「すみませんでした!」 

 

全国的模試も終わり、帰りのホームルームが終わった後、上杉を職員室に呼び出した。

上杉は今、僕と芹菜さんの前で垂直と言わんばかりに頭を下げて謝っている。

 

「ったく…体調管理も試験の一環。お前が一番分かってるはずだろ?」

「はい…!」

 

頭を下げたままの上杉に言葉をかけるとしっかりと返事が返ってきた。

 

「うん。十分反省してるようだからもう頭を上げても良いわよ」

 

上杉の姿に笑顔で優しい声を芹菜さんはかけた。

芹菜さんの声かけで顔を上げた上杉の顔はだいぶ反省の色が見える。

 

「上杉が全国一桁の成績を目指すために努力してきた姿は見てきた。そこで僕もある程度で止めるべきだったね。僕も反省してるよ」

「いえ!先生はいつも無理しないように声をかけてくれました。それを聞かなかった俺が全面的に悪いんです」

「そうか…じゃ、今日はもう勉強の事は忘れて、帰ってゆっくり休むこと。良いね?」

「はい!」

「よし。じゃあもう帰んな。次は無理するんじゃないよ」

「失礼します!」

 

最後に上杉は頭を下げて職員室を出ていった。

 

「はぁぁ…監督不行届ですね。反省です」

「まあまあ。大事にはならなかったので良かったじゃないですか」

 

もう少し上杉の事を見ていれば良かったと反省をしていると、隣の芹菜さんから励ましの言葉をもらった。

 

「それにしても、上杉君は今回の模試で全国一桁を目指してたんですね。それであの熱量だったんですね。納得です」

「まあ、色々ありまして今回は全国一桁を目指すことになったんですよ。今度お話ししますね」

「はい」

 

上杉の全国一桁を目指すきっかけを今度話す事を伝えると笑顔が返ってきた。

 

「?どうされたんですか?」

「いえ。今ここで話すのではなく、私との時間を別に作ってくれるのかなって思ってしまいました」

 

ふふふ、と笑いながらそんなことを言って芹菜さんは作業に戻った。

参ったね。恋は人を変えると言うが、あの消極的だった芹菜さんがここまで変わるとは。昼休みの時も結愛に積極的に対抗意識燃やしてたし…

 

ヴー…ヴー…

 

そんなところに着信が入った。相手はことりだ。

 

『今日はみんなで風太郎君を家まで送るよ』

『任せた』

『うん!』

 

どうやらことり達は上杉を待っていたようで、みんなで家まで送ってくれるそうだ。

 

「ことり達が上杉を家まで送ってくれるそうです」

「あら、上杉君も良いご友人に恵まれてますね。それ以外にも誰かの想いがあったり?」

 

確認するように目線をこちらに見せながら芹菜さんが聞いてきた。

 

「立川先生の予想通りです。ことりと一花は上杉に告白済みですよ」

「あら、じゃあ今の学校での噂も本当になるかもしれないし、女優である一花さんの彼氏ということもあり得るんですね」

 

ふふふ、と面白そうに話す芹菜さん。やはり、女性はいくつになっても恋話が好きってことか。

 

ヴー…ヴー…

 

そこにまた着信が入った。今度は結愛か。

 

『憂ちゃんがお話ししたいんだって。数学準備室行っても良いかな?』

 

うーむ…どうしたものか。

別に今井のことを嫌ってる訳ではないんだが…

そんな風にスマホとにらめっこをしていたら、不思議に思ったのか芹菜さんが声をかけてきた。

 

「どうしました?」

「いや…えーと…今井が僕と話したいから数学準備室に行っても良いか、と今結愛から連絡がありまして…」

 

言うべきか迷ったのだが、芹菜さんには正直に伝えた。

 

「今井さんですか…彼女はまた個性的な子ですからね。吉浦先生はお会いしたくないんですか?」

「いや、まあ会って話をするくらいなら良いかなって思ってはいるんですけどね。ただ、既に僕に好意があるようなことを言っているのでどうしたものかと…」

「ふむ…」

 

そう。僕に対しての感情が何も無いのであれば、問題なく会っても良いと思っている。ただ、彼女は僕に好意があるようなのだ。今の僕には想いを伝えてくれた人が何人もいる。それに四葉の事も考えなければいけない訳で、と結構キャパオーバーしていたりする。

今の苦労をどっかの男に相談したら罵倒されそうだ。

だが、本当にどうすれば良いか分からない状況なのだ。

 

「あの、吉浦先生。今日の夕食ご一緒しませんか?」

「え?」

 

そんな風に悩んでいる僕に、芹菜さんが夕食を一緒にしないか提案があったのだった。

 

・・・・・

 

帰る準備を整えて校門まで芹菜さんと歩いていると、校門近くに三人の女子生徒が佇んでいた。

 

「悪い。待たせたね」

「ううん。大丈夫です」

「ふふっ…この度はご夕食にご招待いただきありがとうございます」

 

三人の女子生徒に近づくと、その内の一人結愛が笑顔で迎えてくれた。その横ではスカートの両端を摘まんで礼をする今井の姿があった。

さすが格式の高いご令嬢様だ。その姿は堂々としている。

しかし気になるのは今井の側に立っている女子生徒…あの子は…

見た目は普通の女子高生と変わらない。黒のロングの髪をポニーテールで後ろで纏めており、真面目な子であると感じられる。だけどこの雰囲気…

ふと気になってその女子生徒に目が行っている事に気づいたのか、今井が紹介してくれた。

 

「この子は、一年四組の木下綾那(きのしたあやな)(わたくし)の側勤め兼ボディーガードを務めていますの」

「ボディーガード?」

 

今井の説明に芹菜さんが、どう言うことだろうといった顔で口にした。

 

「憂様よりご紹介いただきました。綾那です。以後お見知りおきを」

 

右肘を曲げ胸の前に腕を持ってきて、そのまま木下は頭を下げた。

なるほどボディーガードね。道理で…

 

「一見は百聞にしかず。彼女がボディーガードと言われている所以、見てみたいと思いませんか?」

 

今井のその言葉の後、木下から放たれる空気が変わった。

まずい…!

 

「芹菜さん離れて」

「え…?」

「しっ……!」

 

僕が芹菜さんに声をかけた後間もなく、木下さんから強烈な突きが繰り出された。

 

「「和彦さん!!」」

「おいおい、ここは学校…いきなり…教師に暴力とはどうかと思うぞ…!」

「──っ!」

 

心配してくれた芹菜さんと結愛の声。

完全に決まったと思ったのか、木下さんは驚きの顔でこちらを見ていた。

木下さんの突きは何とか左手で掴んで防いでいたのだ。

 

「くっ……!」

 

木下さんは僕の掴んでいる手を振り払って少し距離を取った。

 

「和彦さん!大丈夫ですか!?」

「ええ。僕は大丈夫なので芹菜さんは結愛達のところへ。多分まだ、来ます…!」

 

彼女からの空気は変わらない。木下さんは構えを取っている。

僕は芹菜さんから少し離れた位置に着き。相対することにした。

まずいな…昔の血が騒ぎだしそうだ。

軽く笑みを浮かべた瞬間木下さんからの猛攻が始まった。

 


 

(何?何が起きてるの?)

 

芹菜の眼の前では木下綾那と名乗った女子生徒が和彦に対して突きや蹴りを交えながらの猛攻をしていた。それを和彦は全て捌いている。

 

「うわぁ~!和彦さんのあれ久しぶりに見たなぁ♪」

「あれ?」

 

そんな中、驚きもせずどこか興奮した様子の結愛に芹菜は疑問を抱いた。

 

「そんなことより、早く止めないと和彦さんが!」

「和彦さんなら大丈夫だよ」

「それに、(わたくし)たちに止められると?」

 

芹菜が焦りの表情でいる中、なおも続く綾那の猛攻を見ながらも落ち着いた様子で結愛と憂は口にした。結愛に至っては笑顔である。

 

「それは……今井さん。あなたが木下さんに止めるように言えば…!」

「それは無理なお話です」

「え?」

 

憂が綾那を自分の付き人だと紹介していた事を思い出した芹菜は、憂に止めるようにお願いするも憂はそれを拒んだ。

 

「あんなに楽しそうな二人を止めるなんて、(わたくし)にはできません」

「え?楽しそう?」

 

憂の言葉に芹菜は二人を見た。

 

(和彦さん……笑ってる?)

 

綾那の猛攻を全て受け流しながらも、和彦の顔は笑っていた。

 

「和彦さんって強い人と戦う時っていつも楽しそうだったんだよねぇ」

「ふふふ…」

 

昔の事を懐かしみながら呟く結愛に対して、憂は笑顔で二人の様子を見ていた。

 

(私の知らない和彦さん……)

 

そんな二人とは違い、芹菜は呆然と闘いを見ていた。

 

「明鏡止水…吉浦先生の技の一つですね」

「憂ちゃんよく知ってるね!」

「ふふふ…昔、実際に見たことがありますから。明鏡止水。その言葉の通り、相手の全ての技を静かな水が流れるようにくもりの無い心で受け流す。吉浦先生が最強と言われた所以の一つの技です」

 

(そういえば、昼休みに空手で敵なしって言われていたって今井さんが説明してたわね)

 

和彦の技を見ることが出来、嬉しそうに話す憂を見て、芹菜は昼休みの憂の言葉を思い出していた。

 

「………綾那もよく頑張りましたが、ここまでのようですね」

「え?」

 

憂がそう口にしたので、芹菜は闘っている二人に目線を戻していた。

 


 

時は少し戻り──

 

この子、この年でここまでやるなんて凄いな。

木下さんの猛攻を全て受け流しながら、そんな感想を抱いていた。

それにしても、スカート姿の女子高生がそんな蹴り回さなくても…一応、スパッツを履いてるようだから良いんだが…いや良いのか?

最初はいきなりの事だったので驚きはあったものの、段々と目も慣れてきて、色々と考える余裕も出来てきていた。

とは言え、このままって訳にもいかないしなぁ…

そう考えていたら、彼女の攻撃が単調になってきた。全ての攻撃を受け流されて考えを放棄したのかもしれない。

潮時だな…

木下さんの右の突きを受け流すと、そのまま距離を詰め足払いをした。

 

「──っ!?」

 

その動作に彼女は予想していなかったのか驚きの表情を浮かべていた。

ああ、そういえば足払いって中学は禁止だったっけ?それは悪かったかも。

体制を崩された木下さんは頭から倒れそうになったので、それを抱き抱えた。所謂、お姫様抱っこ状態である。

 

「ひゃっ…!」

「っと……危ない危ない。大丈夫?あんまりお転婆なことはしないように」

「~~~~っ……!」

 

抱き抱えたまま木下さんの顔を覗き込むとみるみる顔を赤くして声にならないものを発している。

 

「「和彦さん!」」

 

名前を呼ばれたのでそちらを向くと何故かプクッと頬を膨らませて睨んでいる芹菜さんと結愛の姿があった。

え?何故僕が非難されるの?え?僕って被害者なんじゃ…承服しかねるんだが。

 

「立てる?」

「は、はい!」

 

芹菜さんと結愛の二人に非難されるのをおかしくも思いながら木下さんを立たせた。

 

「大丈夫?怪我はさせてないつもりだったんだけど…」

「は、はい!お陰様でこの通り無傷です!あのぉ…」

 

傷がないことを木下さんはアピールすると、その後もじもじしだした。

 

「ま、前からファンでした!サインください!後、出来れば握手もお願いします!」

 

すると頭を下げながら右手を差し出してきた。

 

「え?サイン?そんなもの持ってないけど…普通に名前書くだけで良いのかな?後、握手くらい大丈夫だよ」

「──っ!!ありがとうございます!」

 

僕が木下さんのお願い事に承諾すると先程までの雰囲気などどこえやら。明るい笑顔を向けて握手をしてきた。

 

「!この手……本当に空手をお辞めになったのですね…」

 

さすがだ。握手しただけでそこまで分かるとは。

 

スリスリ…

 

「えっと……木下さん?少し触りすぎでは?」

「はっ!?し、失礼しました!」

 

右手で握手をしていたのだが、木下さんは更に左手で僕の右手を覆うように握りサワサワと手の感触を確かめていた。

そこに僕が一声かけると木下さんは、はっと顔を上げて急いで手を離し急いで一歩下がると頭を下げてきた。

技を受けている時は感じなかったが、中々天然なところを感じさせられる。

 

グイッ…

 

そんな風に考えていたら、両側から腕を掴まれた。芹菜さんと結愛である。

 

「少々彼女と親しすぎでは?」

「そうです!和彦さんは私のなんですから!」

「何故そうなるのか説明が欲しいところね!」

「良いですよぉ。私がどれだけ和彦さんを愛してるのか語り尽くします!」

 

むぅーーっと、また僕の胸の前で芹菜さんと結愛がお互いに僕の腕にしがみつきながら睨みあっている。

仲が良いのか、悪いのか…

 

「ふふふ…お二人が羨ましいですね。吉浦先生、先程はうちの綾那が失礼しました」

 

笑いながら近づいてきた今井であったが、僕の前まで来ると頭を下げた。それに木下さんも続いた。

 

「まあ、いきなりで驚いたけど、お互いに怪我がなくて良かったよ。で?説明はしてくれるのかな?」

 

僕の質問に今井さんはゆっくりと頭を上げ、微笑みながら頷くのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話で全国統一模試は終了となりました。
原作通り、風太郎は最後の試験で眠りについてもらいました。
そして、また一人オリジナルキャラの登場です。
戦闘シーンはもっと上手く書ければと思っているのですが、如何せん僕の文章能力が欠落しているので、これが精一杯です……

次回は、オリジナルキャラとして登場した憂と綾那について書かせていただきます。

次回の投稿は、新年の1月1日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

また、本年も大変お世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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