少女と花嫁   作:吉月和玖

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新年明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。


115.約束

「わぁーー♪(わたくし)ファミレスって初めてなんです!感激してます!」

 

校門での騒動の後、話を聞くのも含めてということで、最初に話していた夕食を食べるため近くのファミレスに来ていた。

今井はファミレスが初めてだという事でとてもテンションが高く、目もキラキラしている。

 

「ふふふ…ファミレスでそこまで喜んでくれるのも嬉しいわね」

「憂様は家柄からあまりこういった場所での食事を許されておりません。このように色々な人がいる中、何が起きるか分かりませんから」

 

今井の喜ぶ顔を見て、僕の隣に座っている芹菜さんがニコニコしている。そんな中、今井を中心に木下と結愛が並んで座っているのだが、その木下から事情が説明がされた。

 

「今回ここを許されたのは、周りの護衛してる人達のお陰でもあるわけか…」

「!さすが和彦様!よく気付かれましたね♪」

 

僕の言葉に嬉しそうに木下さんは話した。

 

「ま、まあね…」

 

これだけ殺気立てられれば気付くよ。多分、主に僕にその殺気を当ててるんだろうけど…

 

「和彦さん。本当に護衛の方などいるのですか?私にはいつもの風景と変わらないように見えるのですが」

「素人の芹菜さんには仕方ないですよ。彼等はかなり腕が良いんでしょう。他のお客さんと上手く溶け込んでいますし」

「へぇ~。ふふっ、和彦さんのまた新しく凄いところが知れて私嬉しいです」

 

辺りをキョロキョロと見ながら芹菜さんが問いかけてきたので、護衛の方々が上手く潜伏出来ている事を説明してあげた。

すると、芹菜さんは自分の知らない僕の事を知れて嬉しいと僕の腕に自分の腕を絡ませながら寄り添ってきた。

 

「むーーっ!立川先生近すぎです!」

「羨ましいですわ」

「………(コクン、コクン)」

 

そんな芹菜さんの行動に、結愛が文句を言い、今井は羨ましそうな顔でこちらを見て、その今井をに同意するかのように木下は頷いていた。

 

「ここは外ですからね。学校と違い遠慮いりませんから。さすがに、あなた達の服装で和彦さんに寄り添ってたら、周りからおかしな目で見られるでしょ?」

 

芹菜さんの言葉に三人は自分達が制服姿であることを改めて確認して、ここは諦めることにしたようだ。

 

「ま、まあまあ。折角来たんだから早速注文をしようか。芹菜さんも離れてくださいね」

「ふぅ…そうですね。あまりし過ぎても大人げないですからね」

 

僕の言葉に各々がメニューを見て考えている中、芹菜さんに離れるように伝えると、笑みを浮かべながらすぐに離れてくれた。

そして、自分達の注文が終えたので、話を切り出した。

 

「それで?結愛が言うには僕の事を前から知ってるようだったけど?」

「ええ。(わたくし)達は吉浦先生の事を前から知っております。あれは、六年前になるでしょうか──」

 


 

~六年前・憂side~

 

『決まったー!吉浦選手の上段蹴りが炸裂!今年の全日本選手権個人の部。優勝は吉浦選手だぁー!』

『いやぁー、彼は凄いですね。中学から負け無し。彼に勝てる人はいるんですかねぇ?』

 

「「うわぁ~♪」」

 

テレビに映し出された、空手の全日本選手権個人の部決勝が終えると同時に、小学生の憂と綾那は感嘆の声を上げていた。

 

「何度見ても素晴らしい殿方ですわ!一度でも良いからお会いしたいです」

「はい!私も憂様と同じ気持ちです!」

 

憂はうっとりとした顔でテレビに映し出されている和彦のインタビューを観ていて、綾那は興奮するように憂に同意した。

 

スー…

 

「おや、また観られていたのですか?」

「じい。もちろんですわ。一度見てからはこのような方が(わたくし)の伴侶になっていただきたいと思っておりますの」

 

襖を開け、部屋に入ってきて憂からじいと呼ばれたその男は木下達郎(きのしたたつろう)。綾那のお祖父さんであり、今井家の執事長を務めている。また、憂と綾那の送迎車の運転も担っている。

 

「はっはっは。そうですかそうですか。確かに彼ならば今井の家を良い方向へと導いてくれるでしょうな」

「憂様の旦那様にですか?」

 

自分の伴侶に和彦をしたいと宣言した憂に、達郎は笑い、綾那は質問をした。

 

「ええ。そうすれば、私と綾那。そして、和彦様。三人でいつも一緒にいられるでしょう?」

「わぁーー♪良いお考えです!」

 

憂の計画に綾那はすぐに賛同した。

 

「おや、私は憂様が独り占めされるのかと思っておりました」

「もちろん独り占めもしたい気持ちもあります。でも、私にとって綾那も大事な人ですから、一緒にいたいと考えてるのです」

「左様ですか」

 

憂の綾那も大切な人間だから一緒にいるのは当然だと言う言葉に、笑みを浮かべながら達郎は頷いた。

 

「それで?じいは(わたくし)に用事があったのでは?」

「おー、そうでした。驚きになりませ。なんと、今年行われる全日本選手権個人の部の会場のチケットを旦那様がご用意していただけたのです」

 

憂から用事があるのではと聞かれた達郎は、服の内ポケットからチケットの入った封筒を出しながら、そんな報告をした。

 

「本当なの!?じい!」

「ええ。チケットは三枚。憂様と私と綾那で向かいます」

「私も行けるの!?おじいちゃん!」

「ああ。お前にとっても良い勉強になるだろうしな」

 

綾那は自分も行けるのかと達郎に近づきながら聞くと、達郎から勉強のためになると綾那の頭を撫でながら答えた。

その日から憂と綾那は、全日本選手権が始まる日まで毎日興奮していた。もちろん習い事などを怠ることもない。むしろ、より一層のやる気に満ちていた。

 

そして迎えた当日。この日も見事和彦が優勝を飾り会場は大盛上がりだった。

かくいう憂と綾那の興奮も最高潮に達していた。

 

「素晴らしいですわ!明鏡止水。じい、あなたにできて?」

 

達郎も武を追及する者。今井家の中でもトップクラスの腕前でもある。

 

「ふーむ…相手の攻撃を受け流すと言うのであれば、ある程度出来ますが、あれは次元が違いますな。相手からしてみれば、攻撃をしたつもりがふわりといなされる。しかも、どんな攻撃もです。いやはや末恐ろしい方ですな」

 

ははは、と笑いながら達郎は答えた。

一方の綾那は何か盗めるものはないかと一生懸命カメラに撮り、またメモも取っていた。

大会も終わり、部外者以外が通れない廊下を憂と綾那と達郎は歩いていた。

 

「はぁ~~…今でも目に焼き付いていますわ。和彦様の勇姿…」

「はい!私も日々精進したいと思います!」

「ふふふ…期待してますわ」

 

そんな三人の前にそれは突然現れた。

 

「お兄ちゃん、トイレ行ってくるね」

「おー、迷子になるなよ?」

「大丈夫です。私も付いてますから」

「いってきます、和彦さん」

 

(あれは……和彦様!)

 

会場に駆けつけていた、ことりと飛鳥と結愛を連れた和彦が憂達の前に現れたのだ。

和彦の存在に気づいた憂は一目散に和彦に近づいた。

 

「憂様!」

「ん?」

 

達郎の驚きの声に振り向いた和彦の近くには、走って息切れをした憂が立っていた。

 

「あれ?ここ関係者以外立入禁止じゃあ…迷子かな?」

 

(ことりや飛鳥……いや、結愛ちゃんくらいの年頃かな)

 

「あ、あの!」

「ん?何かな?」

 

憂が勇気を振り絞り声をかけると、和彦は笑みを浮かべながらしゃがみこみ目線を優に合わせた。

 

「わ、わ、(わたくし)の伴侶となってください!」

「!?」

 

突然の告白に和彦は軽く混乱をしてしまった。

 

「えっと……まだちょっと子ども過ぎるかなぁ…」

「では!(わたくし)が結婚できる年になったら考えていただきますか?」

「えーーと……まあ、その時に僕に相手がいなかったら考えてあげるよ」

 

和彦は困りながらもそう言って憂の頭を撫でてあげた。

 

「約束ですわよ!」

「ああ。でも、その時に会えないと意味がない。良き縁があると良いね」

 

ニッコリと和彦が答えると、憂はぽぉーとなりコクンと頷くしか出来なかった。

 

「お兄ちゃん、行くよー!」

「はいよ。じゃあね、可愛らしいお嬢さん」

 

そう言って後ろ手にヒラヒラと振りながら和彦はその場を離れていった。

そんな和彦の後ろ姿を憂は目に焼きつけていた。

 

(約束ですからね)

 


 

「と、言うように(わたくし)と和彦様には深い縁が結ばれているのですわ」

 

最後にうっとりした顔で今井さんは締めくくった。

ちなみに、今井さんの話の最中に料理も運ばれ、それぞれが食事を進めていた。

あーーー…なんか言われてみれば、そんな女の子と会ってたような…

僕は今の今まで忘れていたので、なんとも言いにくい。てか、いつの間にか和彦様呼びになってるし。まあ、木下さんは最初からだけど。

 

「そして、とうとうその日がやってきたのです」

「ん?」

「…っ!そうか、今年で16歳。親の同意があれば結婚はできる年齢という事ね」

 

ニッコリと話す今井に、なんの事だと思っていたら、芹菜さんが気づき説明してくれた。

 

「憂様のお誕生日は4月19日。昨日16歳となられたのです。そして今、和彦様には決まった女性はいらっしゃらない」

「!だから憂ちゃん今日あんな宣言をしたの?」

「ええ。一目惚れと言うのは真っ赤な嘘。(わたくし)はこの時を六年間待ち望んでおりました。和彦様、今後とも宜しくお願いいたしますね」

 

そしてニッコリと微笑みながら木下さんはそう宣言をするのだった。

 


 

「なんだか大変な事になりましたね」

「ええ。自分で撒いた種とは言え、どうしたものか…それに……」

 

ファミレスでの夕食が終わった後、家まで送ると言う今井の提案もあったが、芹菜さんの家は近いことと、僕が芹菜さんを送っていく事で丁重に断った。ただ、結愛の事はお願いをした。当の結愛は不満そうな顔をしていたが。

そして、今は芹菜さんと並んで芹菜さんのマンションに向かって歩いているところだ。

 

「どうされるのですか?それ」

「うーん……」

 

帰り際に今井に渡された一枚の紙。それは、全日本選手権個人の部の予選が行われる日程の書かれた紙であった。

 

──理事長には既に手を回しております。後は、参加されるかは和彦様次第です。

 

さすが今井家ご令嬢。手回しが早いことで。

 

「もう少し考えてみます。空手の事も、今井の事も」

「そうですか。私は和彦さんの考えを尊重します。だけど...」

 

ちょうど芹菜さんのマンションの前に着いたところで、芹菜さんは僕に抱きついてきた。

 

「和彦さんの隣は誰にも譲る気はありません。それだけは知っててほしいんです」

「はい…」

 

そう返事をした僕は芹菜さんを抱きしめ返した。

 

「和彦さん…」

 

うるっとした目でこちらを見上げている芹菜さんの唇に僕はキスをした。

 

「ん……ちゅっ……ふふっ…ではまた学校で」

「ええ。おやすみなさい」

 

満足した芹菜さんは僕から離れると手を振りながらマンションに入っていった。

僕に想いを寄せる人。今井の事。空手の事。そして、四葉の事。考えることは色々あるけど、一つずつ慎重に頑張っていこう。そう決意しながら夜空を見上げ帰路につくのだった。

 

「ただいまぁ~」

 

玄関を開けると、我が校規定のローファーが七個並べられている。

こっちで夕食食べたのか。

そう思いながらリビングに行くと、何故かニッコリと笑みを浮かべた二乃とその後ろに顔をプクッと膨らませながらこちらを睨んでいる三玖の姿があった。

 

「あら、おかえりなさい。色男は大変ね」

 

ゴゴゴゴ…

 

うっわぁ…マジギレじゃん。

触らぬ神に祟りなし。な訳にはいかず、正面から話すことにした。

 

「結愛から聞いてるんだろ?今井の事はしゃーないでしょ。僕だって覚えてないんだから」

 

ネクタイを緩めながら事情を説明する。

 

「まったく。あんた至るところでそんな約束をしてきてないでしょうね?」

「僕の記憶ではないな。あるとすれば二乃には話しただろ?京都で会った女の子の話。それくらいだよ」

「ふ~ん…」

 

僕の説明に納得したのか、二乃からは怒りのオーラは消えていた。

 

「京都?先生は京都で誰かにお会いしたのですか?」

 

逆に四葉が京都で会った女の子の話に食いついた。

 

「ああ。六年前にね。その時はお互いに名乗らなかったから、名前は知らないんだけど…ま、その子のお陰で今の僕があるのかもね」

「へぇ~、そんな出会いがあったんですね。六年前と言えば、私たちも京都に行ってましたよ。修学旅行で」

「らしいね…」

 

四葉の言葉にチラッとある子を見ると、もじもじしながら少し笑みを浮かべていた。

やっぱビンゴかな。今度鎌かけてみるか。

 

「それにしても。まさか、こっちに昔の兄さんを知ってる人がいるなんてね。しかも結婚の約束までしちゃって」

「だから。考えるとは言ったけど、するとは言ってないから」

「でも憂ちゃんは本気で狙ってくると思うよ」

「だよなぁ…」

 

どうしたもんか。

 

チンタラしてらんないわね。もしあの子まで動いたら厄介だわ

 

今後を考えていると、二乃も何かを考えるようにブツブツと言っている。

 

「和にぃ!」

「ん?」

「今度の日曜日、一日私にちょうだい。デートをするわよ!」

『!!』

 

二乃の言葉にその場にいた全員が驚きの顔になった。

 

「待って…!なんで二乃なの?」

「あら、この間の結愛ちゃんの入学式の動画のご褒美をまだ貰ってなかっただけよ」

「…っ!」

 

三玖が二乃に何故自分だけなのかと問い詰めると、ニッと笑って二乃が説明した。

 

「デートくらい常識の範囲内でしょ?」

「ま、まあ…それくらいなら」

「よし!さっそく当日着ていく服とか決めないと。じゃ、私は先に帰ってるわね」

 

デートの約束事が取れたのが嬉しかったのか、ご機嫌になった二乃は隣の部屋に帰っていった。

 

「それじゃあ私たちもお暇しますか」

 

そう言って一花は立ち上がりながらみんなに伝えた。

 

「一花。上杉はどうだった?」

「ん?大丈夫。ちゃんとらいはちゃんに説明しといたから。今日はもう寝てるんじゃないかな」

「そうか」

 

とりあえず上杉の件は大丈夫のようだ。

一花に続くように他の姉妹も玄関に向かっている。そんな中、三玖が僕に駆け寄ってきた。

 

「カズヒコさんは明日は家にいる?」

「ん?ああ。明日は朝にジョギングして、その後は家でゆっくりしてると思うよ」

「わかった…」

 

何か用事があるのか、僕が明日一日家にいることを確認できた三玖はさっさと家に帰っていった。

 

「じゃ、後はお風呂に入って寝るだけだね。お兄ちゃん先入る?」

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「お背中流しましょうか?」

「それは遠慮しとくよ結愛」

「ちぇっ…」

 

結愛の提案を丁重にお断りした僕はお風呂に入り、そのまま寝ることにした。

 

「あ、そういえば四葉に連絡しとかないと。明日はちょっと早く出たいし」

 

四葉へのメッセージを送ると、すぐに『了解しました!』と返事があったので、それを確認した僕はそのまま眠ることにした。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は憂と綾那の過去のお話を中心に書かせていただきました。
今後もこの二人、特に憂が中心となり話を進めていこうと思っております。
憂の存在に焦りを始めた二乃。そして、和彦が六年前に会った子は……

次回以降はちょっと趣向を変えて書いていきます。
それは、18禁を交えての投稿です。
以下にリンクを貼っております。
https://syosetu.org/novel/361189/

ただ、18禁を見れない方の為に、話はしっかりとこちらでも繋げていくつもりです。

次回の投稿は1月5日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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