「ふぅぅ~、ようやく着いたね。三玖、大丈夫?」
「うん…ここまで引っ張ってくれてありがとう…」
ことりに教えてもらった建物の下まで着いたところで三玖は自分で歩くと僕の背中から降りた。
三玖本人曰く、後は階段を登るだけだからと。
むしろ階段を登る方が足に負担がかかると思うが、三玖なりに僕へ配慮したのだろう。
まったく生徒に気を遣わせてしまうとはね。
さすがに一人で登らせるのは気が引けたので、四葉と五月とらいはさんには先に行ってもらい、僕は三玖の手を引いて登ることにしたのだ。
「おっ、椅子もあるじゃん。三玖も座りな」
屋上に設置されていたテーブルと椅子を発見した僕はその椅子に座りながら三玖にも勧める。
言葉には出していないが僕も体力が限界っぽいからな。
「先生早い…もしかして疲れてる?」
三玖も椅子に座りながらそう聞いてきた。
「あはは…皆みたいに若くないしね…」
「十分若いでしょ…」
「ふふふ、ありがと」
ドォーン…ドン…ドン…ドォーン…
フィナーレに向けて駆け足のように花火が夜空に舞っている。僕と三玖はそんな花火を椅子に座って見上げながら話していた。
「兄さん!」
そんな僕達二人のところに他のメンバーも駆け寄ってきた。
「三玖。あんた足は大丈夫なわけ?」
「問題ない。先生が過保護すぎるだけ…」
「そ。ならいいわ」
素っ気ない態度をとっているように見えるが、どこか優しさを言葉に感じる。
花火が終わるまで残り5分。結局、一花は間に合わなかったか…
椅子に座っている三玖を中心に中野姉妹が舞い上がっている花火を見上げている。その顔は笑顔である。贅沢を言えばここに一花を入れたかった。それに今回一番の功労者である上杉も…
「よいしょっ…」
ことりが近くの椅子を僕の横に持ってきて自らそこに座った。
「よかったぁ…少しだけどお兄ちゃんと花火が見れたよ」
「素に戻ってるよ?」
「いいの。どうせみんな花火に夢中だよ」
そう言いながら体をこちらに預けてきた。そんなことりの頭をポンポンと撫でてあげる。
ヒュ~~~~~…ドォーーーン…
そして花火大会を終える大輪が夜空に咲いたのだった。
『秋の花火大会は終了いたしました。ご来場いただき誠にありがとうございました』
「あ、お兄ちゃんから電話だ」
花火も終えたのでこれからどうしようかと話しているところに、らいはさんの携帯に着信があった。
「もしもし、お兄ちゃん?今どこにいるの?……うん…うん…え?四葉さん?いるけど。ちょっと待ってね……四葉さん、お兄ちゃんが代わってって」
「私ですか!?」
まさか自分が指名されるとは思えなかったのだろう。驚いた顔で四葉はらいはさんから携帯を受け取った。
「風太郎君、四葉に何の用なのかな?」
「さあ?今後の事を話すのに四葉が近くにいる可能性が高いと思ったのかもね」
「あぁ、なるほどね」
そんな話をことりとしていたのだが。
「おー!なるほど、それはいい考えですね!分かりました、みんなには説明しておきます」
四葉が急に大きな声をあげたかと思えば通話を終了した。
「あいつ何だって?」
「うん。一花は近くにいないけど、すぐに連れて戻ってくるって」
「そう」
上杉のというよりも一花の動向が気になったのか、二乃が真っ先に四葉に確認した。
「それで、いい考えと言ってましたが何を言われたのですか?」
「これだよ!」
五月の質問に四葉はあるものを掲げた。
「へぇ~、なるほどね」
「ふん!上杉にしては考えたんじゃないかしら」
「そうですね。あの人にしてみれば」
「二人は素直じゃない…」
関心の声をあげた僕に対して二乃と五月は素っ気ない言葉を口にする。三玖ではないが、本当に素直じゃない。
「……ことりも行くの?」
「うん。みんなが良ければだけど」
「問題ない…もちろん先生も…」
「僕も?」
まさか僕にも声をかけられるとは思わなかったので、三玖の言葉に少しビックリしてしまった。
「え……」
「兄さん来ないの?」
「い、いや。何も考えてなかったからちょっと驚いただけだよ」
三玖とことり視線に慌てて答えた。
会場を後にした僕達は近くの公園に来ていた。
「じゃ準備しましょうか」
二乃の言葉で準備を始める。それを僕は近くのベンチに座って眺めていた。とはいえ、バケツに水を入れ後はろうそくに火をつけるだけだ。火をつけるのは実際に始める時で良いだろう。
そう。僕達は今、らいはさんが四葉に買ってもらった花火をするための用意をしているのだ。上杉からの案である。
なるほど。五人揃って花火か…上杉もなかなかやるな。それにしても…
「なんだかいつ以来かな……」
僕は思わず感慨深い気持ちになってしまった。昔はよく家族みんなでこうやって花火をしたものだ。それこそことりともよくやったな……
疲れて僕の太ももを枕に寝てしまったらいはさんの頭を撫でながら昔の事を思い出していた。
「ねえ、もう始めとこうよ。二人はそのうち来るだろうし」
僕が昔のことを思い出しているうちに四葉が我慢の限界になったようだ。
「うーん…兄さんも追加で買って来てくれたのですぐになくなることはないと思うよ」
「仕方ないわね。あんまりやり過ぎるんじゃないわよ」
そう言って二乃がチャッカマンでろうそくに火をつける。それをきっかけに姉妹みんなとことりが花火に火をつける。五人それぞれの花火がパチパチと灯っていて見ていて綺麗だと思える。そこへ...
「あ、一花に上杉さん」
一花を連れた上杉が公園に現れた。上杉の後ろに控えていた一花はこちらの光景を見て驚いた顔をしている。
「上杉さん準備万端です。我慢できずにおっ
四葉が花火をぶんぶんと振り回しながら上杉に声をかけている。
まったく後で注意しとかないとな。
らいはさんの事が気になっていた上杉はこちらに目配せをすると頭を下げてきたので、それに手を挙げるだけで応えた。
「四葉。お前が花火を買ってたおかげだ。助かったよ」
「ししし」
上杉の感謝の言葉に四葉は嬉しそうな笑顔でいる。
「キミ!」
そんな時、二乃が上杉に詰め寄った。それに五月も続いている。
「五月から聞いたわよ!あんた五月と先生を置いてどっか行っちゃったらしいじゃない!」
「二乃。そのことはもう良いと。私は先生と一緒にいられたので一人になることもありませんでしたし...」
二乃の行動に五月は止めるように動いている。
「わ、悪かったな五月...」
「い、いえ」
「それでもあんたに一言言わなきゃ気が済まないわ!お!つ!か!れ!」
一つ一つの言葉に何か思いを込めて迫るように言う二乃。
「紛らわしい...」
全くだ。
言いたい事だけ言った二乃はすぐに上杉から離れて花火をしている子達のところに戻っていった。
まあ、他にも言いたい事があっただろうにそれを我慢した二乃の事を今は褒めるべきなのかもしれないな。
「五月ちゃん...」
何かを言いたそうに一花が話しかけるもそれを気にしないように五月は接している。
「ほら。一花も花火をしましょうよ」
「だね。ほらこれが一花の分だよ。で、こっちが風太郎君ね」
そんな風に花火を差し出しているのは我が妹のことりである。全くもって良いタイミングだ。
「さ、みんな集まったし本格的に始めよっか」
「わーい」
全員の手元に花火が行き渡ったことで二乃が花火開始の号令を出すと四葉が待ってましたと言わんばかりに声をあげた。しかし...
「みんな!」
それに待ったをかける者がいた。一花である。
その一花は全員に向けて頭を下げている。
「ごめん。私の勝手でこんなことになっちゃって...本当にごめんね」
「そんなに謝らなくても」
「まぁ、一花も反省してるんだし...」
皆への謝罪に対して五月と上杉はこれ以上の謝罪は不要といった態度を示している。だが...
「全くよ。なんで連絡くれなかったのよ。今回の原因の一端はあんたにあるわ」
「二乃...」
二乃が責めるように言うのでつい名前が口から漏れてしまった。今回の件は全て本人達で解決してほしかったので口は挟まないと最初から思っていたので、ここもやり取りを見ているつもりだ。
「あと、目的地を伝え忘れてた私も悪い」
二乃が照れた仕草でそんな事を言う。心配しただけどうやら無駄だったようだ。
「私は今回先生のお世話になりっぱなしで。もし一人であれば一花よりも迷惑をかけていたかもしれません」
「私も怪我したりで今回は失敗ばかり」
「よくわかりませんが、私も悪かったということで!屋台ばかり見てしまったので」
この子達は...
全員が自分も悪かったと。一花だけが悪いわけではないと言っている。
「みんな」
顔を上げた一花は驚きの顔をしている。
「ほら、みんなの手に渡ってるんだから始めるわよ」
二乃が促すと姉妹全員が同じ花火を持って同時にろうそくに火を灯す。
「お母さんがよく言ってましたね。誰かの失敗は五人で乗り越えること。誰かの幸せは五人で分かち合うこと」
「喜びも」
「悲しみも」
「怒りも」
「慈しみも」
「私たち全員で五等分ですから」
五人が円となり、その中心に向かってそれぞれの花火を向けている。いい場面だ。
「先生」
そんな時、上杉が僕のところまで来た。
「らいはのことありがとうございます。それに一花以外の姉妹のことも」
「気にすることないさ。上杉の方が頑張ってたよ」
「......変わりますよ」
照れたような顔で上杉がそう申し出てきたので、らいはさんを上杉に引き渡した。そこにことりもやってきた。
「あれ?五人と一緒に花火してたんじゃないの?」
「うん......やっぱりあの五人の中に今入るのは違うんじゃないかなって」
「まあ、そうだね」
ことりと上杉と三人で少し離れた場所から五人が楽しそうに花火をしているのを見守っている。
「すごい絆だよね」
「ああ。全員で五等分か......なんかいいね」
「そうっすね」
見守っている三人の口元は上がっている。
「ん?待てよ?」
「どうしたの風太郎君?」
そんな時、不意に何か気付いたことがあったのか上杉が言葉を発した。
「いや、あいつらは五人全員で花火をしている」
「うん。そうだね」
「らいはは満足して寝てる」
「うん。今日は疲れちゃったんだろうね」
ことりは風太郎の横で寝ているらいはさんの頭を撫でながら答える。
「俺帰ってもいいんじゃね!?」
「ぶっ......」
「風太郎君......」
上杉のとんでも発言で思わず吹いてしまった。全く、何を言い出すんだこの男は。
「こんな時間になっちまったがようやく自習再開だ。全く無駄な一日を過ごしちまったぜ」
「全く、はこっちが言いたいよ…」
「だね。とはいえ、それはそれで上杉らしいけどね」
上杉と代わって立っている僕は腰に手を当て空を見上げた。すると。
「いくよー」
ドッ……パパパン
四葉の合図で花火セットに入っていたであろう打ち上げ花火が打ち上げられた。
「しょぼい花火」
「こら!思っても言わないの!」
上杉の発言にことりは軽く上杉の頭を小突いた。小突かれた上杉は、頭を擦りながら五人で抱き合いながら笑顔で花火が打ち上げられたところを見ている五つ子達を見ている。
「ま、もう少しだけ見ておくか」
「はじめからそう言ってれば良かったのに。それじゃあ兄さん、私たちも花火参加しに行こう」
「あぁ。上杉は?」
「俺は少しだけでもしましたから。後はここでらいはを見てます」
そんな上杉を置いて五つ子達がいるところに行き花火に興じる事にした。
しばらく花火を楽しんでいると終わりも近づき、花火も残り僅かになっていた。残りは七本。上杉を抜けば一人一本である。しかも種類もばらばらである。あ、でも一種類だけ二本残ってるな。
「残り七本…」
「もうこれだけ?」
「やり足りないねー」
そんな花火を全員で覗いていると、二乃と三玖と四葉がそれぞれ口にした。
「じゃあ一人一本ずつ取っていこうか。僕とことりは後でいいから先に五人で選びな」
そんな風に五人に選ぶように促すとそれぞれが希望の花火を選び出した。
「最後はこれでしょー」
「これが一番好き」
「これが楽しかったなー」
「これに決めた!」
「私はこれがいいです」
「「「「「せーの……これ!」」」」」
五人は話し合いをするわけでもなく自分の希望の花火に手を伸ばす。見事にばらばらだ。
「すごいね。一本も被らないなんて」
「五つ子ってこんな感じなのかなぁ…」
ことりが疑問に思っているが同意である。
そういえば、屋台で食べたいものもばらばらだったな。
「さて、残り二本残ったわけだけど」
「兄さんはこっちでしょ?私はもう一つの方でいいよ」
さすがことりだ。僕の好みを把握している。
選んだ花火に火をつけるためにろうそくの場所に行くと、ちょうど三玖が火をつけようとしていたところだった。
「三玖!線香花火より派手な方がおもしろいよ!」
少し離れたところから四葉がブンブンと花火を回しながら叫んでいる。
「私はこれがいい」
「へーそんなに好きなんだ」
「うん、好き」
「こら、四葉!花火は回さない!」
「ひぇっ!ごめんなさーい!」
「まったく……」
線香花火をしている三玖の横にしゃがみこみ自分の花火に火をつける。
「先生…それにことりも…」
「やっほー。三玖も線香花火好きなんだ」
「う、うん」
「実は兄さんもなんだよ。ね?」
「まあね」
僕の目の前ではパチパチと線香花火が火の花を咲かせている。ことりは自分の花火に火をつけると五月達の方に向かった。
「先生、線香花火が好きなんだ…」
「うん。昔は毎年やってたなぁ。三玖も好きなんだね」
「…………」
僕の言葉に三玖は静かにコクッと頷いた。
「そっか……良いよねぇ、静かな中に綺麗な花を咲かせる感じがさ」
「……うん…この時間がずっと続けばいいのに…」
「ん?何か言った?」
「ううん。なんでもない…」
色々とあった今日一日は、静かに線香花火を三玖とすることで終わりを迎えた。こういう日もたまにはあっても良いように思えてくる。そう思える日だった。
~風太郎side~
ベンチに座っている風太郎のもとに一花が近づいていた。
「まだお礼言ってなかったね。応援してもらった分、私も君に協力しなきゃ」
『俺とお前が協力関係にあるパートナーだからだ』
風太郎が一花を追いかけてきた時に言われた言葉を、一花は思い出していた。
『ただあいつらと違う笑顔だと思っただけだ』
一花の作り笑いに気づいた時に言った風太郎の言葉。
(ホント。見てないようでわたしたちのことを見てるよね…)
そこでふふっと笑みがこぼれる一花。
一方の風太郎は目を開けたまま反応がない。
「パートナーだもんね。私は一筋縄じゃいかないから覚悟しててよ」
そんな言葉を伝えながら風太郎に近づくもやはり反応がない。
「……すぴー」
「……」
風太郎は目を開けたまま寝ているので今まで反応がなかったようだ。さすがに一花も予想だにしていなかったようで言葉を失くした。
「もう!」
文句を言いながら一花は風太郎の横に座り、風太郎を自分の方に倒し膝枕の体勢に持ってきた。
「頑張ったね。ありがとう。今日はおやすみ」
その時の一花は、頬を赤くして笑顔で風太郎を覗き込んでいた。頭を撫でながら。
その光景を遠くから和彦だけが見ていた。
花火大会もいよいよクライマックスです。
花火大会後の近くの公園で行う花火。そこでの『全員で五等分』のセリフはやっぱり良いですよねぇ。
文章能力がなくてその場面をうまく書けずに申し訳ないです…
先生と教師ということもあり、関連を持てるところを長めに書かせていただきました。
この後どんな風に絡んでいくのか…難しいと思いますが頑張って書いていこうと思います。
では、また次回も読んでいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。