少女と花嫁   作:吉月和玖

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120.特別

「先週末は全国模試お疲れ様」

 

朝のホームルーム。週明けではあるが欠席者はいないようである。

 

「全国模試の結果は今週末には出る予定だから楽しみにしてるように」

 

結果を楽しみにするように伝えるとあちこちから『えー』や『ぐわー』などあまり良い反応は伺えないようだ。

 

「ま、今回の結果で進路を決める訳でもないからそう悲観なさんな。とは言え、結果を見たことで自分の進路に迷うような事があれば、僕や立川先生に相談してもらって構わないから、気軽に声をかけてくれ」

『はーい』

 

相談するように伝えると軽く返事が返ってきた。

ま、返事があるだけましか。

 

「君達は受験生でもある。今後もこういった模試が増えていくから、今回で失敗したことは改善して、良かったところは継続出来るようにしていこう。ま、この間の上杉みたいに試験中に熟睡なんてことは特に気をつけるように」

「ぐっ…」

『あはははは』

 

今回の全国模試では、最後の試験で途中から上杉が熟睡してしまうということが起きた。それを例に、今後気をつけていくように伝えると、上杉は反論も出来ず、周りからは爆笑が起きている。

 

「とはいえ、高校生活をただ勉強だけで終わらせるのもつまらないだろう。趣味や部活。友人との付き合いや恋愛。今しか出来ないこともやって悔いの残らない一年にするように」

「先生、わかってるぅー」

「ホントホント」

「いやぁー、先生が担任で良かったぜ!」

 

勉強だけじゃなく他の事でも楽しむように伝えると、あちこちから楽しそうな声が聞こえてきた。

 

「ふっ…そんな君たちの待ちに待った修学旅行が六月の頭に控えてる。その修学旅行でも楽しい思い出を残すように頑張ってくれ」

「いよっしゃー!修学旅行、楽しもうぜー!」

『おおぉぉっ!』

 

前田が音頭を取ると周りは揃って楽しみな声をあげた。

五つ子達やことり達も前後の席の者と楽しそうに話している。

 

「ま、その修学旅行の前には中間試験もあるから、僕はこっちの結果も楽しみにしてるよ。精々頑張ってね」

『お…おおぉぉ…』

「先生、飴と鞭の使い分け上手すぎるぜぇ!」

 

修学旅行の前の中間試験も頑張るように伝えると、先ほどの元気はどこえやら、沈んだ声で返ってきた。

そこに前田が頭を抱えて叫ぶのだった。

 

ホームルームも終わり教室から出て廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。

 

「先生!」

「ん?」

 

振り返ると、二乃と三玖と四葉が駆け寄ってきていた。

 

「どうした?」

「いえ、その…先生とお話しがしたくって!」

「前から言ってるが、お前はもうちょっと上杉にもアピールしたらどうだ?」

「う、上杉さんは今一花やことりさんと話してるのでこっち優先です」

 

四葉が先頭を切って話しを進めたので、ツッコミを入れると慌てた様子で返してきた。

 

「二人も好きな人がいると大変ね四葉は」

「ううぅぅ…」

 

そこに二乃がからかうように話しかけるので四葉は居たたまれない気持ちでいるようだ。

 

「それより先生。私たち見て何か気づかない…?」

 

そこに三玖が何か気づかないか聞いてきた。

三玖の言葉に三玖と四葉の二人を見るとワクワクしたような顔を向けている。

ふむ……ああ、なるほどね。

 

「三玖と四葉が珍しく化粧してるじゃないか。へぇ~…良いんじゃないかな。三玖は美人で大人っぽく見えるし」

「美人……♡」

「四葉は可愛さが増して素敵だと思うよ」

「可愛い……♡」

 

三玖と四葉の化粧について褒めてあげると、顔をポーッと赤くして下を向いてしまった。恥ずかしさと嬉しさがあるようである。

 

「にしても、二乃は化粧の種類変えたの?」

「え?ええ、まあね…」

 

こちらに話が来るとは思わなかったのか、二乃は驚きな声をあげた後、髪を弄りながら答えた。

 

「うん。そのメイクも良いんじゃない?ま、元が良いのと二乃の美的センスの強さで言えば似合って当然か」

「はうっ…♡」

 

褒めたつもりなのだが、二乃の顔はどんどん赤くなってるようだ。

て、ヤバ時間がない。

 

「悪い。一限は一年の教室に行かなきゃだからもう行くわ。三人とも授業中寝ないようにね」

 

そう言いながら三人の元を離れていった。

 


 

~二乃・三玖・四葉side~

 

「「「…………」」」

 

和彦が去っていく後ろ姿をポーッとした顔で三人は見ていた。

 

「あれは、天然たらしね」

「好き…♡」

「はうぅぅ!ドキドキが収まらないよおぉ!」

 

二乃の言葉に続くように、三玖と四葉も気持ちを口にした。

 

「ヤバッ……!」

 

そんな時、二乃がばっとスカート越しに下半身に手が行ってしまった。

 

「二乃も…?」

「そう言うあんたもなのね…三玖」

「あー…実は私もだったり…」

「「「…………」」」

 

三人には今同じことが起きている。それが分かった三人は黙ってお互いを見ていた。

 

「今日、数学なくて良かったね?」

 

四葉の言葉に二乃と三玖は頷くしかなかった。

 


 

~四葉side~

 

放課後。

和彦にお願いされた風太郎と四葉の学級長コンビは、立川先生と一緒に作業を進めていた。

 

「ごめんなさいね二人とも。本来なら私でやらなきゃいけないのに...」

「いえいえ。立川先生はこの後会議があるから頼むって吉浦先生も言ってましたので」

「ありがとう」

 

芹菜が申し訳なく謝ると、四葉は笑顔で問題ないと答えたので、それに対して芹菜も笑顔でお礼を伝えた。

ちなみに、二人に作業をお願いした和彦は自分の仕事のため数学準備室に行っている。

 

「吉浦先生はすぐに数学準備室に籠るんですね」

「そうね。たまにここでも仕事はしてるけど、ほとんどがあっちね」

 

四葉の質問に芹菜はどこか寂しそうに答えた。

 

「さて、そろそろ会議だから行くわね。終わったらそのままにして帰っても大丈夫だから」

「「はい」」

 

会議が始まる時間になったので席を立った芹菜。

すると、自然に風太郎と四葉の二人っきりの時間となっていた。

ここは、職員室であっても隅にある作業テーブルが置いてある場所なので、敷居があり本当に二人っきりの空間でもあるのだ。

二人がしている作業は芹菜が授業で使う資料の整理。印刷されたプリントをホッチキスで留めていくという実にシンプルなものである。

 

「「…………」」

 

カチッ…カチッ…

 

芹菜がいなくなってからというもの、二人の間に会話がないのでホッチキスで留める音だけが辺りに響いていた。時折、敷居の向こうから教師達の声は聞こえるものの静かなものである。

 

(なんだ…今日の四葉いつもと違わないか!?)

 

沈黙が続いている原因の一つでもあるのだが、風太郎はいつもと雰囲気の違う四葉にドキドキが止まらないでいた。

そんな風太郎の気持ちを知ってか知らずか、四葉はクスクスと笑いながら作業を続けていた。

 

「な、何笑ってんだよ?」

「だって、上杉さんさっきから緊張しっぱなしじゃないですか。どうしたんです?」

「べ、別に緊張してねぇよ。いつも通りだ」

「ふふふ…そう言うことにしておきます!」

 

風太郎の緊張が四葉には気づかれているのだが、それを風太郎は否定した。それを四葉は余裕の笑みで返した。

 

(こいつ……こんな感じだったか…?)

 

そんな四葉の態度にいつの間にか風太郎は作業の手を止めて四葉の横顔を見ていた。

 

(ふふっ…先生との時間が多いからか風太郎君が子どもみたいに見えるよ。前まではどちらかと言えば私より年上って感じてたのになぁ…)

 

和彦と過ごしていた事で、和彦がいつも自分の事をリードしてくれているのに慣れた四葉には風太郎が子どものように見えているようである。

そんな風に考えていた四葉は風太郎がこちらを見ている事に気づいた。

 

「どうしましたか?私の顔に何かついてます?」

「い、いや…………クラスの男子たちが言っていた。お前が急に可愛くなって驚いていると…」

「ええぇぇっ!?そんな風に言われてたんですか!?」

 

クラスの男子達の自分への評価を聞いて四葉は驚きの声をあげた。

 

「原因はことりから聞いている。お前、化粧してるんだってな」

「ししし。ことりさんから聞かないと気づかないあたりが上杉さんらしいですよねぇ」

「ぐっ…ま、まあそのあたりはいつもことりに怒られてるがな。どうしたんだ?今までそんなのには興味なさそうだったが…」

 

ことりに聞くまでは自分が化粧をしていることに気づいていなかった事に四葉は笑うと、風太郎は事実の為に反論も出来なかった。

事実、ことりがメイクを変えている事に風太郎は気づかず、ことりに怒られているのだ。

 

「私だって華の女子高生です。こういうのに興味を持ちますよ。でも良かったです。おかげで上杉さんをドキドキさせることができましたから」

「はあぁぁ!?べ、別に俺はドキドキもしていないぞ。いつも通りと言っただろ。はっはっは…」

 

風太郎をドキドキさせたことが嬉しいと話す四葉であったが、風太郎はなおもドキドキなどしていないと主張している。

 

「むっ…上杉さんも素直になった方が良いと思います」

「何を言う。俺はいつも素直だ」

 

そんな風太郎の態度に四葉は素直になるように促すが、風太郎は自分はいつも素直だと伝えるとまた作業の続きを始めた。

もちろんそんな態度を面白くないと四葉は考え、頬が膨らんでいった。

 

「むうぅぅっ……そうだっ!ししし、なら上杉さんはこんなことされてもドキドキしませんよね?」

「あ?」

「ちゅっ……」

 

そこで四葉は良いことを思いつきイタズラするみたいな顔をして風太郎に近づいた。何をされるとも知らない風太郎は何やらかすんだ、と言わんばかりの顔をしていた。そんな風太郎の頬に四葉はキスをした。

 

「な…っ!?」

「ふふふ…いつも勉強を教えてくれてるお礼です。どうです?ドキドキしましたか?」

 

突然の四葉の行動に驚いた風太郎はキスされた頬を押さえながら四葉を見た。

すると、その四葉はいつもの明るい笑顔でではなく、どこか妖艶な笑顔であったので、風太郎を更にドキドキさせていた。

 

(なんだ?この間のことりとは違うこのドキドキは…)

 

胸の高鳴りの正体が分からない風太郎は笑顔の四葉の唇に自然と視線が持っていかれた。その唇はリップをしておりプルンとしている。

 

(ゴクンッ……)

 

その唇を見た風太郎は自然と唾を飲み込んでいた。

そんな風太郎の変化を四葉はもちろん感じ取っている。このまま押せばもしかしたら風太郎でさえ落ちてしまうかもしれない。だが──

 

「さて!作業に戻りましょう!後少しで終わりですし、頑張りましょー!」

 

いつもの雰囲気に戻した四葉は作業をこのまま続けていこう、と風太郎に語りかけた。

 

「あ……ああ、そうだな。後少しで終わるんだ。さっさと終わらせて帰ろうぜ」

 

いつもの四葉に戻った事でどこかホッとした気持ちとまた別の感情が風太郎の中で渦巻いていた。

 

(なんなんだ…この気持ちは…)

 

自分の気持ちの正体が分からない風太郎はモヤモヤした気分で作業を続けた。

そんな風太郎の横では、口角を上げて、満足そうな四葉の姿があった。

 


 

コンコン…

 

「はーい、どうぞ」

 

数学準備室で仕事をしていたところに来客が来たようだ。

 

「失礼します」

 

聞いたことがある声だったので振り返ると五月が扉を閉めて立っていた。

 

「どうした?」

「ううん。勉強で分からないところがあったから教えてもらおうかなって」

「んー?ことりや上杉はどうした?って、そう言えば上杉には四葉と仕事を任せてたんだっけ」

「うん。ことりさんは普通に一花たちと帰ったよ」

 

五月はそう説明しながらソファーに鞄を置き、中からノートと参考書を取り出した。

 

「なら、五月も一緒に帰ってことりに聞けば良かっただろ」

「良いの。それに、前お兄ちゃんも勉強見てくれるって言ってくれたよ?」

 

そういやぁ、そんなこと言ったような…ま、いっか。

 

「仕事も落ち着いてるし良いよ。こっち来な」

「うん♪」

 

隣の席に来るように促すと嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「ん?そんな参考書持ってたっけ?」

「これはバイト先で申請すれば借りれる参考書だよ。今の私にはちょうど良いかなって」

「ふーん…どれどれ…」

 

五月に差し出された参考書の中身をパラパラと見ていった。その間に五月は隣の席に着いて机の上にノートを広げていた。

 

「へぇ~…良いチョイスだね。うん、今の五月にちょうど良いと思うよ。ちゃんと自分の立ち位置が分かってて偉い偉い」

 

参考書を返しながら五月の頭を撫でてあげると、五月は満面の笑みを見せてくれた。

 

「えへへ…お兄ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ、よろしくお願いします」

「ああ」

 

そして勉強が始まった。こうやって普通に五月の勉強を見る時間も、もしかしたら好きな時間かもしれない。

 

「えっと…ここの問題なんだけど…」

「どれどれ……前の問題は問題なく解けてるよね?」

「うん。当てはめる公式も合ってると思うんだけど、何度やっても答えが合わないの…」

「ふーむ……ああ、ここの部分の計算方法が間違ってるよ。もう一度落ち着いて解いてみな」

 

見せられた五月の解いている途中式が書かれたノートを見てみると、確かに使っている公式は合っているが解き方がミスっている。なので、そこを指摘してあげた。

 

「わかった。えっと……たしか…こうなって…こうだから...…あっ、できたぁ!」

「うん、良く出来ました」

 

自力で解けたのが嬉しいのか満面の笑みを五月は見せてくれた。なので、そんな五月の頭を撫でてあげる。

 

「えへへ…ありがとうお兄ちゃん…!っ……!」

 

最初は喜んでいた五月ではあったが、何かに驚いた顔に変わった。

 

「どうした?」

「う…うん。そのお兄ちゃんの顔が近くにあると、二乃の話が頭を過って、ちょっと意識しちゃったかも…」

 

そう言った五月は顔を赤くして下を向いてしまった。

 

「二乃の話…?ああ、キスか……大丈夫だよ。そんなこと今はしないから。するとすれば、ちゃんと相手が望んだ時にしかしないから」

 

安心させるように優しく話すもまだ五月は緊張しているようだ。

 

「…………じゃ、じゃあ、ここで私がキスしてほしいって言ったらキスしてくれる…?」

 

顔を上げながら僕の方を見てそんな言葉を伝えてきた五月であったが、僕と目が合うとバッとまた下を向いてしまった。

まさか五月の口からそんな言葉が出てくるなんてね。でもなんだろう。今までしてきた人達と違って、五月にはしちゃいけないって気持ちが高まってくるような…

そんな思いから、五月をこっちに向かせると前髪を上げて額にキスをした。

 

チュッ…

 

「え……?」

「……学校でそんなこと言ってるようだと、それこそ不良娘だろ?今はこれで我慢しな」

 

五月の額にキスをした僕はすぐに五月から距離を置いた。当の五月はと言うと、キスされた額を両手で撫でながらボーッとしていた。

 

「えっと……」

「……ごめん。上手く言えないんだけど、五月が望んだとしても出来ないって言うか…今のままの五月でいてほしいって言うか…ごめん、やっぱり上手く纏まらないや」

 

あはは、と頭をかきながら話すと五月はキョトンとした顔でこちらを見てから微笑んだ。

 

「そっか…私ってお兄ちゃんにとって特別ってことかな?」

「え?ま、まあそうかも…?やっぱり上手く纏まんないや」

そっか…お兄ちゃんの特別…ふふふッ…

 

僕がどう説明したら良いか分からずに困っていると、五月はふふふ、と上機嫌でいたのでまあ良いかと思えてしまった。

このなんともない、ただ勉強を教えている時間がとても充実した時間だと感じるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

原作では翌月にならないと模試の結果は出なかったのですが、今回の作品では物語の都合上一週間後に結果が分かるようにしました。
また、原作での修学旅行の時期もちょっと分からなかったので、夏服を着ていた事から六月とさせていただきました。違ってたらすみません。

今回のお話では、和彦の女たらし振りの発揮と風太郎と四葉の時間。そして、放課後の和彦と五月の勉強時間と、三部構成で書かせていただきました。
四葉の余裕も和彦との経験が活かされたのかも知れませんね。恋愛経験ゼロな風太郎にはドキドキが止まらなかったようです。

次回は、和彦と五月の勉強会の続きを書かせていただきます。

次回の投稿は1月30日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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