少女と花嫁   作:吉月和玖

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121.見学

コンコン…

 

暫く五月の勉強を見ていたら来客が来たようだ。

 

「どうぞー」

「失礼します!」

 

僕が入室を促すと元気な声で四葉が入ってきた。

 

「あれ?五月いたんだ」

 

僕以外は誰もいないと思ったのだろう、僕の横にいる五月の存在に四葉は驚きの顔でいる。

 

「ええ。数学の勉強を見てもらうために。四葉はどうされたんです?」

「あー…えーと…」

「?」

 

五月の質問に四葉が何か言い淀んでいる。

まさか僕に会いに来ただけとかじゃないよな。

 

「そう!先生に頼まれてたお仕事が終わったのでご報告に来ました!」

「?何か今思いついたような言い方でしたが…」

「そんなことないよ!先生、作業終わりました!」

 

五月の訝しげな言葉を無視するかのように僕に作業終了報告を四葉はしてきた。

 

「はいはい。てか、作業は芹菜さんの仕事の手伝いなんだから僕に報告しなくても良いだろ」

「うっ……ほらっ、最初に頼んできたのは先生ですし!」

 

僕のツッコミにもめげず四葉はここに来た理由を正当化しようとしている。

 

「何を慌てているのですか?」

「あ、慌ててないよ…!」

「?」

 

四葉の気持ちを知らない五月にとっては今の四葉の言動がいまいち分かっていないようである。

 

「まあいっか。報告ありがとう。そういえば上杉は?」

「上杉さんなら先に帰りましたよ。立川先生への終わったというメモも残してあります」

「まったく。四葉を置いて先に帰るなんて。あの人はもう少し女性の扱いをしっかりとした方が良いと思います」

 

五月は先に帰ったという上杉の行動にご立腹のようだ。

ただ、僕は違う。多分上杉は四葉に一緒に帰ることを提案したと思う。けどその四葉が……

じっと四葉を見ているとバツが悪そうな顔でいたが結局顔を逸らしてしまった。

分かりやすい子だ。

 

「じゃあ、報告は受けたから四葉も帰って良いよ」

「え……?」

 

四葉に帰っても良いと伝えるとどこか寂しそうな顔でこちらを見てきた。

 

「えって…四葉は終了報告に来てくれたんだろ?なら、もうそれは終わったじゃないか。これ以上四葉を縛るものはないよ」

「うーー…そうですけど……そうだ!私も勉強していきます!」

 

そう言うや否やソファーに座り勉強道具を出し始めた。

 

「まったく…僕は今五月の質問に答えてるから、質問があったら言いなよ?」

「はい!」

 

僕の言葉に返事をした四葉は勉強を始めた。

何の勉強を始めたんだ?

 

「先生?私はあちらでも良いのですよ?」

「良いから良いから。今やってるところだけでも終わらせちゃおう」

「……先生がそこまで仰るのであれば……えっと…次はここなのですが…」

「どれどれ…」

 

五月の解いてあるノートを見るために先ほどからやっているように五月に近づいた。

 

「えっと…これはね……」

「先生!」

 

まさに今解説しようとしたところで四葉の声で邪魔が入った。

 

「何?」

「えっと…その……先生が五月に近づきすぎてるような気がしまして…」

「は?」

「?」

 

四葉の言葉に疑問の声が漏れた。五月も四葉の言葉を理解していないようだ。

 

「あのね。ノートに書いてある途中式とかを見ないと解説出来ないの。だから近づいてる訳。五月?そんなに僕は近づいてた?」

「いえ?普通だと…」

「ほら」

 

五月に近づくのはノートに書いてある途中式などを見るためだと説明し、更に五月に僕が近すぎるか聞くとそんなことはないと答えた。

 

「うっ……で…でもぉ…」

 

それでも四葉には耐えられないようである。そこまで嫉妬してくれるのは嬉しいけど、これじゃあ五月の勉強に支障が出てしまいかねない。

仕方ない。

 

「五月。今日はもう帰ろう。続きは僕の部屋で見てあげるから」

「え!?い、良いんですか!?」

「!!」

 

僕の提案に五月のは驚きの声をあげて、本当に良いのか聞いてきた。四葉は目を見開いて固まっている。

 

「ああ。お互いに夕食を食べ終わったあたりに始めよう。僕ももう帰れるしね。一緒に帰ろうか」

「あ、ありがとうございます!」

 

問題ないと答えて、夕食後に集合することと一緒に帰ることを提案すると笑顔で五月は答えた。

 

「て訳だから。四葉帰る支度して」

「むぅーー…先生ぃ、私は行っちゃ駄目ですかぁ?」

「だーめ!勉強したいなら、うちのリビングでことりにでも聞くんだね」

 

ガクッと四葉は下を向いてしまった。

 

コンコン…

 

するとそこにまた来客が来たようである。

 

「どうーぞー」

 

ガラッ…

 

「失礼いたします」

 

入室を促すと、入ってきたのは今井だった。

 

「あら、先客がいらっしゃったのですね」

「まあね。それに僕ももう帰ろうかと思ってたんだけど、今井の用事は何?」

 

今井は四葉と五月を品定めするように見ながら歩き僕に近づいてきた。そして目の前まで来るとニッコリと笑顔で答えた。

 

「そんなの決まっているではないですか。未来の旦那様とお話をするために来たのです」

「「!」」

 

未来の旦那様。その言葉に四葉と五月は目を見開いている。

 

「はぁぁ…だから、約束したのは考えるってことで結婚するとは言ってないだろ?」

「では、考えて頂けているのですか?」

「それは…まあ…ただ、まだ今井の事をよく知らないし」

 

今井は前屈みに上目目線で聞いてきたので、目を逸らしながら僕は答えた。

 

「憂です」

「え?」

(わたくし)の事は憂とお呼びください、和彦様」

 

今井は右手を胸の前に持ってくると、自分の事を憂と呼ぶように笑顔でお願いしてきた。

 

「……分かったよ憂。だけど、学校では今まで通りな」

「ええ。構いませんわ」

 

名前を呼ばれたことが嬉しいのか、憂ははにかんでいる。

 

「後、憂も感づいている通り僕には今想いを寄せられている人が何人もいる。僕は人を好きになったことがないから、今は保留状態だけど、いつかは答えを出さなければいけないと思ってる。そんな状態の僕でも構わないのか?」

「ふむ…」

 

今の僕の現状を伝えると、憂は考える素振りを見せながら扇子を取り出した。そして、その扇子を開くと口元を隠しながら話しだした。

 

「なんの問題もございません。むしろ……(わたくし)の伴侶となっていただき、和彦様をお慕いしている方々を側女として和彦様の近くに置いておくのも構いませんわよ」

「「な!?」」

「……そばめ…?」

 

憂の言葉に僕と五月は驚きの声をあげた。一方の四葉は言葉の意味が分からず首を傾げている。

 

「五月。そばめって?」

「それは…その……昔で言う側室の事を言っているのだと思います」

「んー?そくしつ…?」

「はぁぁ…もう少し勉強しような四葉。側室って言うのは、戦国時代では一夫多妻制が認められて、大名や武将といた夫の本妻である正室以外の公的に認められた女性の事だよ」

「つまり…?」

 

僕の説明でもいまいちピンと来ていない四葉に五月は続きを話し始めた。

 

「今での日本では一夫多妻制を認めていません。あ、一夫多妻制とは、一人の男の人に奥さんがたくさんいることを意味します」

「えー!?奥さんがたくさん!?」

「そうです。昔は後継ぎ問題とかがありましたから、日本でも認められてたんです」

「だけど、今は違う。憂が言ってるのは、籍は置かないが皆仲良く暮らしましょうって言ってるんだよ」

「みんな…仲良く…」

 

僕と五月の説明で憂の言っている事をやっと理解した四葉だったが、何やらブツブツと考えているようだ。

 

「良い案だと思いませんか?」

 

憂は手を合わせてニッコリと微笑んでいる。多分本気なのだろう。

 

「無茶苦茶です。男の人と女の人はお互いに引かれ合ってこそ愛が育まれるだと思います。それでは──」

「では、結ばれなかった女性には愛がなかったと?」

 

五月の言葉を遮るように憂は問いかけた。

 

「そ、それは……」

 

その問いに五月は答えられなかった。

 

「はぁぁ…ま、その話は今は良いだろ。とにかくこれは僕自身で決めなきゃいけないと考えてるから、もう少し待っててくれ」

「和彦様の御心のままに…」

 

僕の言葉を聞いた憂は、スカートの両端を手で摘み頭を下げてきた。

 

「まったく…そういえば木下は一緒じゃないのか?結愛はバイトだって言ってたけど」

「ええ。彼女は今部活をしてますから。その彼女を待っている間に和彦様とお話をと思っておりましたので」

「部活っていうと空手?」

「はい。そうですわ。もしお時間があるのであれば、ご一緒いたしませんか?」

「「「?」」」

 

僕の質問に憂は答えると、今から一緒に行かないかと誘われた。

その場所に向かう途中で、四葉と五月と憂は改めて自己紹介をした。

 

「お二方があの有名な五つ子である中野先輩だったとは。確かにお顔は似ていますね。他の三人の方にも早くお会いしたいものです」

 

ニッコリと話す憂に付いて来た場所は道場。つまり空手部の活動場所である。憂は気にせず入口の扉を開けた。

開けた場所では部員が一生懸命稽古に励んでいた。

 

「せい!」

『せい!』

 

一人のかけ声に続いて全員が同じ型をしている。

 

「ふわぁ~…」

「凄い…」

 

その光景に四葉と五月は口を開けたまま見入ってしまったようだ。

懐かしい光景だ。

僕は懐かしさもあり笑みを浮かべながらその光景を見ていた。

すると、木下がこちらに気づき凄い早さで憂の元に来た。

 

「憂様!いかがいたしましたか?」

「いえ。和彦様にお時間があったので一緒に見学に来たのですよ」

「和彦様!見学に来ていただけるなんて感激です!」

 

僕の姿を確認した木下は両手で口元を覆いながら感動の言葉をあげている。

大袈裟な子だ。

そんな木下の様子に気づいた他の部員もこちらを見ている。

 

「ねえ、あの人ってさぁ…」

「嘘っ…!本物っ!?」

「マジかよ!?生で見るの初めてだぜ」

 

すると僕達を囲むように部員達が集まってきた。

 

「何事です!?」

「わかんないよ!」

 

そんな部員達に五月と四葉が圧倒されて混乱していた。

 

「吉浦和彦さんですよね?」

 

そんな中、部員の一人が僕の名前を確認してきた。

 

「ああ。そうだけど…」

『うわぁーーーー♪』

 

自分が吉浦和彦だと名乗ると部員達のボルテージは一気に上がった。

 

「あのあの!私昔からファンで!握手して良いですか?」

「あ、ずりぃぞ!俺だってファンなんだからな!」

「わ、私もお願いします!」

 

次々に握手を求めてくる部員達。このままだと四葉や五月にも迷惑がかかるな。

 

「分かったから!一列に並んで!そうしないとしないよ!」

 

すると、先ほどまでの混乱が嘘のように静かに部員が一列に並んだ。凄い統率感だ。

そんな訳で一人一人と握手していった訳なのだが、全員が凄い感動をしていた。一教師の握手でそこまでとは…

全員との握手が終わると、整列が始まり一組の男女が前に出てきた。

 

「先生はご存知かと思いますが三年三組の酒井です。この部の部長を勤めています」

「三年四組の榊原です。私は副部長をしています」

「なんだ。酒井に榊原。お前ら空手してたのか」

「「はい!」」

 

僕の問いかけにニッコリと二人とも答えた。

 

「なんだよ。言ってくれれば良かったのに」

「いやぁー、先生ってもう空手をやってないって聞いたので、空手の話はしない方が良いかなって」

「ね?私たち気ぃ使ってたんだよ?」

「マジかぁ。悪いことしちゃったね。今後は声かけてくれて良いから。別に空手は今はやってないけど、テレビとかで試合は観てるから問題ないよ」

「じゃあ、明日からそうさせてもらいます!」

 

酒井が嬉しそうに答えた。

 

「それで、先生は今日は何しに?」

「ああ。こっちの今井って子に見学に誘われてね」

「本当ですか!?じゃあ、是非とも見ていってください!」

「みんな喜ぶと思いますので」

 

僕が見学に来た事を伝えると、酒井と榊原が嬉しそうにはしゃいでいる。

 

「ついでに組手もしてみてはいかがです?」

 

そんな僕達の様子を見ていた憂がそんな提案をした。

 

「良いんですか!?」

 

それに酒井がすぐさま反応した。

 

「はぁぁ…こうなるんじゃないかとは思ってたんだよねぇ」

 

そう言いながら上着を脱いだ。

 

「悪い五月。ちょっと持っててくれる?」

「は、はい!」

 

上着を受け取った五月にネクタイとネクタイぴんも渡した。

 

「そんじゃ、軽く相手をしてあげますか。一人ずつどうぞ」

 

僕が道場の中央に立って促すと、まずは部長からというこで酒井が正面に立った。

 

「お、お願いします!」

「ああ。じゃあ、遠慮せずに来なっ……!」

 


 

~四葉・五月side~

 

「何です!?」

「空気が……変わった……?」

 

和彦が遠慮せずに来るように言った瞬間、道場の中の空気が一変した。それを五月と四葉も感じ取ったようだ。

 

「久しぶりに感じますね、この空気……」

 

二人の横にいる憂は、いつもの余裕な表情がなく緊張した趣でいた。

 

「あの…これは…?」

「これは和彦様の闘気とでも言いましょうか。あの方は戦う時に相手を威圧するように放つのです。(わたくし)達素人でも感じるのです。いつも稽古をしている部員の方々にはとんでもない威圧を感じているでしょうね」

「闘気ですか…」

「す…すごい…」

 

憂の説明に五月は一彦から預かっている上着やネクタイなどを抱きしめながら和彦を見ていた。

一方の四葉はどこか興奮しているように和彦を見ていた。

 

「どうした?来ないのか?」

 

和彦と対面している酒井は一歩も動けずにいた。憂の言う威圧が酒井を襲い体を動かせずにいるのだろう。

 

「大丈夫。僕からは反撃しない。まずは攻撃してみな。これを乗り越えれば、きっともっと強くなる」

 

和彦の言葉を聞いた酒井は、無我夢中となり攻撃を開始した。

 

「そう。やれば出来るじゃん。でも、攻撃がちょっと単調だね」

 

和彦はそう伝えると、酒井の攻撃を全て流した。

 

「!!」

 

(え!?攻撃の起動が変わってる?なんで?いつの間に?)

 

攻撃を全て流された酒井は訳が分からず、そのまま続けて攻撃を仕掛けた。

 

「だから、単調だって。後、下半身がお留守だぞ」

 

続けての酒井の攻撃も和彦は軽く流していった。すると、宣言通り気が抜けていた酒井の足を払った。

 

「うわっ!」

 

ダンッ!

 

足払いされた酒井はそのまま仰向けに倒され、その酒井の顔の前には和彦の拳が寸止めされていた。

 

「はい、一本」

 

和彦はニッコリ笑いながらそう伝えた。

 

「すげぇ~」

「ねぇ、あれって」

「だよねだよね!」

 

今の組手を見ていた部員達は和彦の動きに見惚れ、そして興奮していた。

 

「今の。酒井さんって人の攻撃が先生の近くを通る度に自然と流されてた?」

「あら。四葉先輩は目が良いのですね。そう、あれが和彦様の明鏡止水。どんな攻撃もあのように流してしまうのです。攻撃した本人が一番混乱していると思いますよ」

 

四葉は今見た動きについて口にすると、憂が説明した。

 

「攻撃が流れるですか?」

「ええ。相手選手は和彦さんの胴に向かってまっすぐに突きをしたつもりが、自分の意思とは違う力によって違う方向に攻撃してしまうのです。水の流れの如く」

 

五月が疑問を口にすると憂がそれを説明した。

 

「そ、そんなことが可能なのですか!?」

「もちろん不可能です。しかし、あの方はそれを可能にしている。惚れ惚れしてしまいますね」

 

五月の更なる疑問に答えた憂は笑顔で和彦を見ていた。

その和彦は酒井に何かアドバイスをしているようだ。

 

「動画とは全然違う」

「ですね。この空気感と言い、これは動画では体験できないものです」

 

(凄いよ先生!こんな先生を見られるなんて!)

(お兄ちゃんカッコよすぎるよぉ!)

 

言葉には出さないものの四葉と五月の二人は心の中で興奮状態だった。

 

「よし!次っ!」

 

こうして時間の許す限りの間、和彦は部員一人一人と相手をしてはアドバイスをしていったのだった。

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回では和彦が空手部へ見学に行く話を書かせていただきました。
空手をしている和彦の姿にはちょっと現実味が薄れてきましたが、そこは創作品として見ていただければ幸いです。
また、空手部に行く前にも一悶着がありましたが、憂にとっては家が大きい所以の考えなのかもしれません。

次回は、今回の話でも上がった和彦と五月の勉強会辺りを書かせていただければと思います。

次回の投稿は連日で1月31日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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