少女と花嫁   作:吉月和玖

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125.弟子入り

「はぁぁ…」

 

昼休み。

今日一日の事を考えていたら自然とため息が出てきた。

朝のホームルームの時に五月の頬が腫れていたのが分かったので聞いてみたところ、姉妹喧嘩をした時のものだという。

喧嘩の理由は僕で、五月が一方的に僕の悪口を言ったことに三玖が頬を叩いたとか。ことりが言うには、そのお陰で二乃と三玖は五月に話しかけずにいるそうだ。

本当に五月の意図が読めない。

一応メッセージを送ってはみたのだが、『大丈夫だよ♡これも計画のうちだから』、と返事が返ってきた。

その計画の内容は教えてくれないんだよなぁ…

ことりと一花には、『絶対昨日何かしたでしょ?』、と詰められるし散々だ。

 

「はぁぁ…」

「大丈夫ですか?先ほどからため息ばかりつかれてますが…」

 

すると隣でお昼を一緒にしていた芹菜さんが心配そうに話しかけてきた。

 

「す、すいません。折角の食事の席でこんな態度を…」

「いえ、それは良いのですが…何か悩み事ですか?」

 

五月には僕達の関係は誰にも言わないでほしいと言っていたから相談もしにくいのだ。

 

「あはは…ちょっと疲れが出てまして…久しぶりに空手の指導をする事になったからそのせいかと…」

「ああ!聞きましたよ。空手部の顧問になられたとか。いよいよ本格的に始動するんですね」

 

空手部で疲れている事を伝えると、芹菜さんは手を合わせて空手を本格的に始めるのだと喜んでくれた。

 

「まあ、まだまだ感覚は戻ってないんですけどね。ただ、部の生徒達…特に木下と組手をする事でだいぶ仕上がってきてると思います」

「へぇ~、そうなんですね。時間があれば見学させてください」

「ええ。芹菜さんが来れば男子達が張り切るでしょうからね」

「ふふふ…私としては和彦さんの格好良い姿が見れれば十分なんですけどね」

 

そう言って芹菜さんは僕に寄りかかってきた。

 

「今日は誰も来ないので独り占めですね」

「そういえば珍しい事もあるもんですね」

「和彦さん……」

 

芹菜さんは二人っきりの時間が嬉しいのか、機嫌良くいる。すると、僕の方を何か懇願するように見てきた。

彼女のしてほしい事は分かってる。でも……

僕はそこで五月の顔が頭を過った。

 

───もし二乃たちから誘われたら今まで通り接してほしいの

 

それと同時に五月の言葉も過る。一体何を考えてるのかが分からない。

 

「和彦さん……?」

 

そんな風に考えていると、どこか不安そうな目で芹菜さんは僕を見てきた。

 

「す、すみません。芹菜さんのおねだりする顔があまりに綺麗でつい見惚れてました」

 

右手で芹菜さんの頬を触りながらそう誤魔化した。

 

「もう…お上手なんですから…ん……ちゅっ……」

 

ふふふ、と上機嫌な芹菜さんの唇にキスをした。

 

「ちゅっ……んむっ……ちゅっ……はぁ……んんッ…ちゅっ……」

 

啄むようにキスを続けて顔を離すと、ポーッとした顔で芹菜さんがこちらを見ている。恐らく世の男性はこの顔を見ただけで襲ってしまうだろう。

 

「はぁぁ……やはり和彦さんとのキス気持ち良いですね。あの……静から聞いたのですが、キスにはもう一つあるのですよね?」

「もう一つ?」

 

静っていうと芹菜さんの友達の一人か。

 

「そ…その……し…舌を使って…キスする…とか…」

 

どこか恥ずかしそうに話す芹菜さんの姿が無性に可愛く見えた。

 

「ああ。ディープキスの事ですか?」

 

僕が聞くとコクコクと芹菜さんは頷いた。

 

「もしかして、してみたいんですか?」

「え!?えっと…その……はい…」

 

声は小さかったがしっかりと芹菜さんは返事をしてきた。

 

「えっと……じゃあ、舌出してもらえますか?」

「は、はい!ほうへひょうは…?」

 

芹菜さんが軽く舌を出したので、僕はそれに自分の舌を絡めるようにキスをした。

 

「れろれろッ……ちゅるッ……はぁ……れろれろッ……ちゅっ……ちゅるッ……んンッ……はぁ……ちろッ……ちゅっ……」

 

ある程度して唇を離すと銀色の糸が僕と芹菜さんの唇を結んでいた。

 

「はぁぁ……どうしましょう…今までのキスなどよりずっと気持ち良くて…もっとしたいと思ってしまいます…」

 

彼女の顔はもう発情してしまっている。

 

「そんな顔、生徒には見せられませんね。仕方ないです。もう少しだけですよ?」

「はい……♡んちゅるッ……はぁ……れろれろッ……ちろッ……ちゅっ……はぁ……♡」

 

スイッチが入った芹菜さんは僕の首に腕を巻いてせがむようにキスをしてきた。

 

「もっとぉ……♡れろれろッ……ちゅるッ……かずひこさんの…だえき…ください…ちゅるッ……」

 

芹菜さんの要望に応えて唾液を芹菜さんの口に流し込んだ。

 

「んく……ちゅるッ……んく……はぁ……おいしいぃ……♡んんッ……ちゅっ……はむッ……ちゅっ……はぁ……♡」

 

結局ギリギリまで芹菜さんとキスをしていた。

芹菜さんは急いで口紅を塗り直して授業に向かっていった。僕の唇にも芹菜さんの口紅がベットリ付いていたので拭って授業に向かうことになった。

学校での本格的なキスは気をつけようと強く思うのだった。

 

・・・・・

 

放課後になり、いつもとは違い道場に向かった。

正式な顧問になったことを部員に伝えると、歓喜の声が上がった。

そして、昨日と今日とで作った自主練用の内容を書いたプリントを全員に配った。

 

「とりあえず基礎体力などを高めれるように、昔僕がしてたものを中心に書いといたから。今日の練習はそれを一度試してみてくれ」

『はい!』

 

僕が指導内容を伝えると皆張り切って始めた。

 

「やっべぇー、これって吉浦選手と同じことしてるってことだよな?」

「くぅ~…テンション上がるぜぇ!」

 

皆嫌な顔をせずに練習に励んでいるようでなによりだ。

まあ、男子を中心に張り切っている理由はもう一つある訳なんだが…

 

「君達何してるの?」

「あら、見学よ。見学するのは自由でしょ?」

 

僕の横で静かに座っている二乃と三玖と四葉に話しかけると二乃から返事が返ってきた。

時折、二乃や四葉の応援があるものだから男子達はテンションが上がってるようだ。

 

「ふふふ…お三方がいると練習の効率が上がるようですね。どうです?マネージャーなどしてみては」

 

そこに憂からそんな提案が上がった。

 

「マネージャーねぇ。バイトもあるからそんなに来れないのよねぇ」

「でも、先生の近くにはいられる…!」

 

二乃と三玖はやる気のようだ。理由がちょっとあれではあるが…

と、そこに四葉が手を挙げた。

 

「先生!」

「どうした?」

「私にも空手を教えてください!」

「「はぁ!?」」

 

四葉の言葉に僕と二乃は揃って聞き返した。

 

「あんた本気?」

「うん!この間の先生の組手見てたらウズウズしちゃって!」

「危ないんじゃない…?」

「大丈夫だよ。試合ではヘルメットとか着けるみたいだし」

 

心配そうな二乃と三玖をよそに四葉はやる気満々である。

 

「まあ、ものは試しと言いますし…綾那」

「はい!」

 

憂が木下を呼ぶとすぐに駆けつけてきた。

 

「四葉先輩の指導をしてあげなさい。ルールや型を教えてあげるのです」

「承知しました。四葉先輩こちらに」

「はい!よろしくお願いします!」

 

という感じで四葉が木下に付いていった。

 

「大丈夫かしら…」

「まあ、本人がやりたいって言ってるんだ。尊重してあげよう」

「それも良いけど、フータローが何て言うか…」

「あー…そこもちゃんとフォローするよ」

 

彼女の身体能力を考えればある程度まで強くなると思うけど。いざとなれば推薦で進学してもらう予定だったし大丈夫だろう。

 

ガラッ!

 

そんなふうに考えているといきなり入口の扉が開かれた。

そこにはいかにも不良生徒と言わんばかりの金髪の男子生徒がいた。色々とジャラジャラアクセサリーを付けている。

背は上杉くらいか…でも、服の上からも体格の良さが分かるな。

そんな感想を思っていると、その生徒は僕の前まで来て睨んできた。

二乃と三玖は怖がり僕の背に隠れている。

 

「あんたが吉浦和彦か?」

「そうだけど、教師をあんた呼びは感心しないなぁ」

 

恐らく今の睨みだけでほとんどの教師がビビり相手をしないようにするだろう。だけど、僕にはなんとも感じないので普通に接した。

 

「君は誰だい?」

「俺は一年五組の本多忠義(ほんだただよし)。吉浦和彦!あんたに決闘を申し込みに来た!」

 

本多と名乗った生徒は僕に指を差し決闘を申し込んできた。

本多忠義……どこかで聞いたことが...

 

「あら?本多さんではないですか?この学校にいらしたのですね」

「お()ぇは今井だったか…てことは木下もいるんだな?」

「ええ、あちらに」

 

憂が扇子で木下と四葉がのいるところを指した。

ああ!本多忠義って確か去年の全国中学空手大会の優勝者じゃないか。へぇ~、この学校にいたんだ。

 

「ふん!まあいい!で、やんのか?やらねえのか?」

「良いねぇ!やろうか。君ほどの実力者ならこっちからお相手願いたいくらいだよ」

 

僕が笑顔で了承すると、本多はニヤリと笑った。

 

「ちょっ、ちょっと大丈夫なの!?」

「うん…!怪我とかするんじゃ…」

 

僕が上着を脱いでいると、二乃と三玖が心配そうに声をかけてきた。

 

「大丈夫だって。怪我はさせないから。あ、上着とネクタイよろしく」

 

三玖に上着などを渡しながら大丈夫だと伝えた。

 

「私が言ってるのは、あんたが怪我しないかってことよ!」

 

二乃の言葉に三玖は上着などを受け取りながらコクコクと頷いた。

 

「大丈夫でしょう。あの男は綾那よりは強いですが、和彦様であれば一瞬かと」

 

二乃と三玖の心配事そうな声に憂が優しい笑みを浮かべて伝えた。

お互いに準備運動をして中央に向かい合って立った。

念のためヘルメットとグローブは付けている。

 

「胴着じゃなくて良いの?」

「あ!?あんたもその格好だろ!フェアじゃねぇ」

「ふーん…」

 

意外に実直なんだな。

 

「酒井。審判頼む」

「は、はい!では、はじめ!」

 


 

~二乃・三玖・四葉side~

 

試合開始前。

綾那は憂の守りのため憂の近くに立っていた。四葉も二乃と三玖に合流した。

 

「本当に大丈夫かしら…」

「うん…いくらカズヒコさんが強かったと言っても数年前の話。今は違う…」

 

心配そうに見ている二乃と三玖に四葉がいつもの笑顔で話しかけた。

 

「大丈夫だよ!それよりちゃんと見てないとすぐに終わっちゃうかもだから目を逸らしちゃダメだよ?」

 

四葉はどちらかと言えばワクワクと言って良いほどであった。

 

「あんたがそう言うなら…」

「うん…」

 

四葉の言葉に二乃と三玖はじっと和彦を見ていた。

憂は四葉を見て笑みを浮かべていた。

 

(面白いお方。恐らく天性の持ち主でしょうね。綾那のライバルとなるかもしれません)

 

そんな考えを憂がしていたところに、酒井の『はじめ!』という合図が上がった。

その瞬間──

 

ズンッ!

 

「な、何!?」

「……寒くて重い…」

「これは先生の…」

 

和彦の闘気が一気に武道場内を覆った。

その闘気にあてられた二乃と三玖はしゃがみこんでしまった。二乃と三玖だけではない。他の部員にもしゃがみこんでいる者もいた。

憂と綾那は何とか持ちこたえているようである。

 

「憂様…」

「ええ、大丈夫ですわ。和彦様の闘気…益々上がってきてますわね。ん?」

 

和彦の闘気が昨日より上がっている事に嬉しさを露にしていた憂であったが、ある人物に目がいった。それは四葉である。

四葉はこんな状況のなかであっても先ほどと変わらず楽しそうに試合を見ているのだ。

 

(なんという胆力…この方は本物だわ…!)

 

一方の試合はというと、忠義が和彦の闘気に何とか耐えていた。

 

(やっべぇー、本物だ!これだよ、これ!これを待ってたんだ!)

 

忠義は笑みを浮かべると和彦に向かって攻撃的を仕掛けた。小手調べといった形の突きである。

だが──

 

「は……?」

 

忠義が突いた先には誰もいない。というよりも忠義は全然違う方向に向かされていたのだ。

 

(やべぇー!)

 

そこに和彦の突きが来たためそれを何とか払った。

 

「へぇー、あれを捌くとはねぇ。面白くなってきた」

 

捌かれたことに驚くよりも楽しそうに話す和彦。そんな和彦と対峙している忠義からは冷や汗が出ていた。

 

(本物だぁ!本物の()()()()だぜ!)

 

冷や汗が出ているが忠義も楽しみからか笑みを浮かべた。それに和彦も気づいている。

 

「楽しそうだね」

「当たり前だ!こんな試合他じゃ味わえねぇ…!」

 

そう言いながら左の突きを出しながら回し蹴りを忠義は決めようとした。だが──

 

ダンッ!

 

「!」

 

忠義の回し蹴りは和彦の頭ではなく目の前の床に流されていた。

 

(なんで!?はっ……!)

 

一瞬の混乱をした忠義の左頭部に和彦の回し蹴りが炸裂した。

 

「………っ!」

 

(やべぇー!持ってかれる……)

 

「一本!」

 

その言葉を最後に忠義は気を失った。

 


 

「は……っ!いってぇー…」

「目覚めた?いきなり動いたら駄目だよ。軽い脳震盪起こしてるんだから」

 

試合で気絶した本多が起き上がろうとしたのでそのまま寝ておくように伝えた。だが、お構いなしに上半身だけ起き上がり胡座をかいて座った。

 

「俺どれくらい寝てました?」

「ん?十分くらいかな。大した男だよ」

「あなたに言われてもねぇ…」

 

あんたではなく、あなたか。やはり根は良い奴なのかも。

そう考えていると、本多は正座して土下座をしてきた。

 

「こんな事言う資格ないかもだけど、どうか俺をあなたの弟子にしてください!」

「は?」

 

思いがけない申し出に軽く混乱してしまった。

 

「弟子って?」

「はい!俺はあなたの強さに憧れて空手を始めました!いつかあなたと闘いたいと!でも、実際に見たあなたは普通の教師で、あの頃の迫力もなかった…」

「はぁぁ…それでグレたと?」

 

僕がため息混じりに聞くと本多はコクンと頷いた。

 

「と言っても見た目だけで、喧嘩なんかしてません!」

「そうか。そこは認めてあげるよ。まったく…お前はまず精神から鍛え直さないとな」

「え?じゃあ……」

 

僕の言葉に顔を上げた本多と目を合わせて伝えた。

 

「僕は普段弟子なんか取らない主義でね。けど、まあ君には光ものがあると思ったよ。明日から覚悟しておくんだね」

「…っ!はいっ!ありがとうございますっ!」

 

僕の言葉にまた土下座をする本多。

はぁぁ…ま、良い練習相手が出来たと思っておこう。

そんなところに三玖がおしぼりを持って本多に渡した。

 

「あの…これ…使って…まだ痛みがあるだろうし…」

「ありがとうございます……っ!」

「?」

 

おしぼりを受け取った本多は三玖を見て固まってしまった。

どうしたんだ?

 

「あの…!お名前を聞いても…!」

「え…?えっと……三玖だけど...」

「三玖さん……なんと可憐な名前だ」

「「は?」」

 

本多の言葉に僕とちょうど隣に来た二乃が聞き間違いじゃないかと思って本多を見た。

 

「えっと……」

 

三玖は三玖で混乱している。そんな三玖の右手を両手で握り、片膝を立てて本多は告白した。

 

「好きです。俺と付き合ってください」

「「ぶぅっ…!」」

「え………えええぇぇぇーーーー!」

 

そんな告白に僕と二乃は吹いてしまい、三玖はあまりの事に驚きを隠せないでいた。

 

「えと……ごめんなさい…」

「何故ですか!?もしかして、もう彼氏が!?」

「か…彼氏はいない…」

「では、少しでも考えてくれませんか!」

 

なおも食い下がる本多に三玖はタジタジである。

 

「諦めなさい。その子、今ゾッコンの相手がいるんだから」

「なっ……!!!」

 

二乃の言葉に本多はショックのあまり倒れてしまった。

 

「だ…大丈夫…?」

「あぁ…こんな俺に気を使ってくれるなんて…やはりあなたは地上に舞い降りた天使!」

「へ…?」

 

コイツこんなキャラだったのか?それとも好きな子の前ではこうなるとか?

困惑する僕の横ではケラケラ笑っている二乃の姿があった。

一方の三玖はというと、どうすれば良いのか分からずにいる。

 

「俺は諦めません!必ずあなたを振り向かせてみせます!」

 

そんな本多の言葉が道場内を響かせるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は五月の意図が分からずの和彦へのアタックが加速する芹菜と、和彦への弟子入り志願してきた忠義の二つの話を書かせていただきました。
本多忠義は、もちろん本多忠勝が由来とさせていただいております。
既に和彦の事を好きでいる三玖ではありますが、忠義の恋模様も今後も書いていこうと思います。

次回は、和彦と五月の関係をある人物に話すお話を書かせていただきます。

次回の投稿は2月20日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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