部活もあることもあり、五月とことりには話も終わったので帰ってもらうことになった。五月はことりに腕を組まれたりとたじたじではあったが、まあ笑顔ではあったので大丈夫だろう。ことりという大きな協力者も出来て、五月の心も少しは軽くなったと思う。
そして、道場に着いた僕は扉を開いて中に入った。
「あ…先生、おつかれ─」
『お疲れ様です!』
扉近くでいそいそとタオルなどの準備などをしていた三玖が、僕に挨拶をしようとしたところ、部員全員での大きな挨拶でかき消されてしまった。
そんな大きな挨拶に三玖は驚きで固まっている。
「うん、お疲れ。そのまま型の稽古続けてて」
「はい!よし、続けるぞ!」
酒井の言葉に全員がまた型の稽古に戻った。声も出てて全員気合いが入ってるようである。
うん。良い感じだ。
「三玖もお疲れ様」
「う…うん...」
「ははは…体育会系のノリについていけなかったか」
「だね…大きな声でしかもお辞儀まで揃っててビックリした…」
僕の言葉に微笑みながら答えた三玖は、僕の隣に来て稽古風景を見ていた。
「マネージャーの仕事引き受けたんだ」
「う…うん…バイトがない日だけ…フータローにも土日は勉強会に参加するって言ってる…」
「そっか…」
「後は二乃と今井さんも…動機は不純かもしれないけど、カズヒコさんの近くにいたいから…」
恥ずかしそうに三玖は答えた。
なるほどね。それでジャージ姿なのか。
「ふっ…別に良いさ。何事も経験だよ」
「うん…後、四葉は正式に空手部に入部したって」
「へぇー…上杉は?」
「毎日課題のプリントをやることを条件にってことになってる」
「ははは…まあ、上杉にしては譲歩したさ」
四葉の事を聞いて笑いながら僕は答えた。
まあ、型の稽古をしている中にあのリボンはさすがに目立つからそうかなとは思ってたけど。
「二乃と憂は?」
「二乃はバイト…今井さんは家から届けてもらうものがあるからって外に行ってる」
「届け物?」
何だろう?今日中にいるものでもあるのだろうか?
そんな考えをしていると道場の扉が開かれて憂が入ってきた。憂はまだ制服のままのようである。
「あら、和彦様。いらしてたんですね」
「ああ、遅れてごめんね。何か受け取りに行ってたんだって?」
憂が三玖とは反対側の僕の隣に来たのでそんな風に聞いた。
「ええ。こちらです」
そして憂は何かが入っている紙袋を渡してきた。
「これは?」
中身を見てみると何やらDVDが何枚も入っている。
「直近の地区大会から全国大会の試合動画。そして、県内の強豪校と思われる高校の練習風景です」
「え?」
どや顔で憂は説明した。
は?これ全部?てか、練習風景ってどうやって入手したんだ?
「えっと…とてもありがたいんだけど、大会動画はまだしも、練習風景なんてどうやって?」
「ふふっ…和彦様はきっと空手に戻ってこられる。そう信じておりましたので、今井の家の総力を使わせていただきました」
「す…凄い…」
憂の言葉に三玖も圧倒されていた。
何にせよこれは非常に助かるな。
憂の頭を撫でながらお礼を伝えた。
「助かるよ憂。これからも頼りにしてるからな」
「はうっ…!」
すると憂には珍しく驚きの声を出しながら顔を赤くしている。
「どうした?」
「いえ……こうやって撫でられるのも良いな、と思いまして…」
なおも恥ずかしそうに話す憂。
「ははは…こんなことで喜んでくれるならいくらでも撫でてあげるよ」
「いくらでも………
凄い気迫で憂は言い寄ってきた。
両手で拳も作ってるし…本当に珍しいなぁ。
そんな感想を思っていると服を引っ張られた。引っ張られている方を向くと、頬をプクッと膨らませている三玖が姿があった。
「カズヒコさん…私も頑張ってる…」
「あー…はいはい…三玖もよく頑張ってます。これからも頼むな」
「ふふっ…任せて…!」
「ふふふ…三玖先輩も甘えん坊ですね。ああ、和彦様に頼まれていた物はあちらに置いております」
僕に頭を撫でられご機嫌な三玖を見て笑った憂から、僕が頼んでいた物も用意出来ていると話してくれた。
「お、ありがとね」
「?何か頼んでたの?」
頼んでいた物を手にした僕は三玖の質問に答えた。
「いつまでもこの格好で組手をするわけにはいかないだろ」
そう話した僕は更衣室に向かった。
これを着るのも久しぶりだな。
笑みを浮かべながら着替え、更衣室から出ていくと──
『うおぉーー!』
『きゃあぁーー!』
何故か歓声があがった。
「やべぇー!本物だ!本物の吉浦選手だぜ!」
「お前何言ってんだよ。前から本物だろ!でも、その気持ちわかるぜ!」
「ヤバいヤバい!生の吉浦選手の道着姿だよ!?」
「興奮するなって言う方がおかしいよね!」
な、なるほど。そこまで有名人だったとは思いもしなかった。
三玖と四葉と木下に至ってはぽぉーっと顔を赤らめ固まっている。
「ふふふ…やはり和彦様にはそのお姿が一番似合いますね。どうです?サイズの方は?」
「ああ。問題ないよ。ありがとね。料金は後で渡すから」
「いえいえ。お金などいりません。
道着のお金の話をしたのだが、憂は必要ないと断ってきた。更には、スカートの両端を摘まんで頭を下げこれからも支えていくと言ってきた。
格式では憂の方が上のはずなのに、なんか主従関係みたいになってるなぁ。
「分かったよ。これから大会に向けて頼りにしてる」
「はい♪」
僕の言葉に頭を上げた憂は嬉しそうに微笑んでいた。
「よし!じゃあ、僕も含めて試合形式を行っていく。僕の相手は、本多と木下」
「「はい!」」
指名した本多と木下はしっかりと返事をして前に出てきた。
「あれ?本多、お前その髪……」
「うっす!俺は元々がこんな感じなので元に戻しただけです!」
本多は黒髪の短髪スタイルに変えていたのだ。一日で変えてくるとは、気合いが入ってる証拠か。
仕方ない。そんな本多にご褒美をあげよう。
「へぇ~…似合ってるじゃん。前のより全然こっちの方が良いよ。ねえ、三玖?」
「え…!?」
急に振られた三玖は驚きの顔でこちらを見てきたので、ウインクした。それで察したのか、本多に向いて感想を伝えた。
「う…うん...今の方が似合ってるよ…」
「──っ!」
もちろん笑顔付きである。
そんな三玖の言葉に本多は衝撃を受けたように固まってしまった。しかし次の瞬間──
「しゃあーー!今の俺に敵なんていません!師匠!今日は勝たせてもらいますよ!」
上機嫌にそんな言葉を僕に伝えた。
本当に分かりやすい奴。周りの皆も失笑してるし…
「本当に現金な方…」
憂は気にせず感想を述べた。
「ふっ…後は、四葉」
「は、はい!」
自分が呼ばれるとは思ってもいなかったようで、驚いたように返事をして前に出てきた。
「四葉はまだ組手もしたことないし、他の部員として怪我でもしたら危ないだろ?だから、僕が相手してあげるよ」
「~~っ…!ありがとうございます!」
笑顔満点で四葉は返事をした。
「よし!他のメンバーは、僕が予め決めておいた対戦表を今井に渡してるから今井の指示にしたがってくれ」
『はい!』
この道場には試合が出来る場所が二つある。そこで、二手に分かれて試合形式を行うということだ。
「じゃあ、まずは四葉からいこうか」
「はい!」
呼ばれた四葉はリボンを外して三玖に渡していた。そして、ヘルメットやグローブなどを装着していく。
そして試合場の中央に僕と向かい合うように立った。
「四葉、ルールは覚えた?」
「はい!相手を突いたり蹴ったりしたらポイントゲットです!」
うん...まあ、だいたい合ってるから良いか。とりあえず試合の流れとかを掴んでもらうのが狙いだしね。
「先生!」
「ん?どうした?」
「先生からポイント取ったら何かお願い聞いてくれますか?」
「!へぇ~…面白い事言うねぇ…良いよ。ただし、手は抜くかもだけど、ポイントをあげるつもりないからね?」
「…っ!はい!」
四葉の面白い提案に血が沸き上がるのを感じた。
僕の言葉にも四葉は笑みを浮かべている。
本当に面白い子だ。
「木下、審判頼む」
「は、はい!では……はじめ!」
~道場~
和彦と四葉が中央に向かい合って立った時、三玖はハラハラしながら見ていた。
「四葉、大丈夫かな…?」
「だ…大丈夫っすよ!師匠は手加減とかも上手いですし…!」
「う…うん...」
三玖の心配する言葉に隣の忠義は緊張した赴きで答えた。
(ああ……今日の三玖さんも可憐だぁ…!)
忠義にとって好きな三玖の近くにいることだけでも緊張していた。
しかし次の瞬間──
ズンッ…!
「「!!」」
和彦の空気が変わった事に三玖と忠義は気づいた。
「な、何だ!?」
「わかんない…四葉が何か言った後、先生の空気が変わった…」
その空気は隣で試合形式を見ていた憂も感じていた。
(あら…多少は闘気をばらまく事を抑えられるようになったようですね。気づかない人には気づいていないようですし…何人かは気づいてるみたいですね。メモを取って和彦様に報告しておきましょう。しかし……ふふっ…四葉さんはどんな挑発をされたのでしょう…)
憂は笑みを浮かべながら自分の仕事に集中することにした。
(しかし……これはっ!だいぶ俺の時より抑えられてるけど、素人の三玖さんだと持たないんじゃ…)
試合形式を近くで見学している忠義は、隣で試合形式をしている部員達より和彦の闘気をひしひしと感じていた。そんな忠義は三玖が心配になった。
「み、三玖さん!大丈夫で…す…か…?」
そして忠義が三玖を見たのだが、そこには忠義が想像していない三玖の表情があった。
(……っ!笑ってる…!?)
そう三玖はこんな状況でも笑みを浮かべていたのだ。
~三玖side~
少し時間は遡る。休憩時間に二乃と三玖はことりに相談をしていた。
「え?兄さんの闘気?」
窓に寄りかかりながら二人の相談を受けていたことりは、相談内容を聞いた後に二人の方を向いた。
「そうよ。昨日、道場破りしてきた後輩とカズヒコが試合したんだけど、何よあれ!?」
「道場破り……ああ、兄さんに弟子入りしたって言う本多って人の事か…ふふっ…三玖も隅に置けないなぁ。後輩をメロメロにしちゃうなんて♪」
「うっ…い…今はその話はどうでもいい…」
二乃の道場破りの話を聞いたことりは、昨日和彦から聞いた話を思い出していた。ことりのからかいに、三玖は顔を赤くしながら話を戻そうとした。
「まさかアイツも思わないわよね。告白した相手がその日に自分の師匠とエッチしてたなんて」
「たしかに!」
二乃の言葉にことりが同調して笑い始めた。
「むぅー……それよりカズヒコさんの闘気の話…!」
そんな二人の態度に三玖は頬を膨らませながらツッコミを入れた。
「もう…ごめんって三玖…えっと、兄さんの闘気だったよね。それがどうしたの?」
「これからカズヒコさんの試合を観に行くと思う…その時はやっぱり近くで観ていたいから...」
「でも、毎回あんなの感じてたら体が持たないわよ」
「あぁ、なるほどね。多分、兄さん久しぶりの空手だから闘気が駄々漏れてたんだろうね。試合の時は相手選手だけに感じるようにしてるから、その内兄さんも感覚慣れてくると思うよ」
三玖と二乃の話を聞いて理解したことりは説明を始めた。
「それでも……少しでもカズヒコさんのことを恐がるのは嫌だから…!」
「なんか大丈夫になるコツとかないの?」
和彦を恐がることを少しでも嫌だと真剣に話す三玖と二乃の姿を見て、ことりは嬉しくなり笑みを浮かべた。
「ふふふ…もう二人とも兄さんにベタ惚れなんだから……」
「もちろんよ」「当たり前」
「おぉ!」
からかい半分で話したことりに対して二乃と三玖は真剣に答えたので、ことりは少しだけ驚いてしまった。
「そっかそっか...…でも、そうだなぁ…コツって言われても私闘気を放ってる兄さんを恐いって思ったことないし…多分、飛鳥や結愛ちゃんもそうだと思うよ」
「「え?」」
ことりの言葉に二乃と三玖は驚きの声をあげた。
「だって兄さんだよ?恐がる理由がないもん」
「「!」」
屈託のない笑みを浮かべたことりを見て二乃と三玖は意表を突かれたのだった。
~道場~
(そう…カズヒコさんはカズヒコさん。どんな事があってもそれは変わらない。だから…)
そう心で自分に言い聞かせると、三玖は自然と笑みを浮かべていた。
「温かいね…先生って…」
「え?」
ポロッと口から出た三玖の言葉に忠義は驚いてしまった。
(この状況で師匠をそこまで信頼しているなんてっ…!はっ…!?)
三玖の言動に驚いている忠義は更に驚きの光景を見ることになる。
綾那の試合開始の合図と同時に四葉が和彦に攻撃を仕掛けたのだ。
(なっ…!?この空気の中動けるのかよ!)
「やっ…!せーい!」
右拳を和彦の左肩をめがけて四葉は突くも、それは難なくいなされる。しかし、それを読んでか、四葉は更に中段蹴りを右から狙った。しかし、これも呆気なく和彦ににいなされた。
(攻撃としては良い。とても初心者とは思えねぇ…だが、あれじゃあ、師匠からポイントを取るのは無理だ)
そんな四葉の攻撃を観ていた忠義は四葉を褒めつつも、まだまだ甘いところがあると自分なりに分析をしていた。
(それに攻撃の後の隙が多すぎる。あれじゃあ、撃ってくださいと言ってるようなもんだ)
その四葉の隙が多い事については和彦も四葉の攻撃をいなしながら感じていた。
(初心者だから仕方ないかもしれないけど…どうも気になる…ものは試しか…)
「やあっ!」
四葉の左拳の突きをいなした和彦はそのまま突きを返した。だが、次の瞬間──
「は……?」
和彦の突きは狙った箇所とはまったく別の方向に流れていた。
『────っ!』
この試合を観ていた他の者達も驚きの表情でいた。
「あれって…」
「あ…ああっ!師匠の技っす!」
三玖の言葉に忠義は驚きを隠せずに答えた。
だが、その後には更に驚きの展開となっていた。
「たぁっ!」
ダンッ!
四葉の上段回し蹴りが和彦のヘルメットに炸裂したのだ。
「………はっ!!い、一本!」
見事に決まった事に呆けてしまっていた綾那ではあったが、すぐに一本の合図を出した。
その瞬間周りから大きな歓声が起きた。
「四葉…凄い…」
「いや、凄いってレベルじゃないっす。あの相手の攻撃を流してからの上段回し蹴りでの攻撃は──」
「和彦様が得意とする一連の流れですね」
三玖と忠義が驚いているところに憂が話しながら近づいていた。
「良いのかよ、こっちに来てて」
「ふふふ…こんな試合を観られないなど無理ですよ。それにあちらも試合形式どころではありませんから」
憂の説明通り、隣の試合場にいる部員は全員が和彦と四葉の試合形式に注目していた。
「やるお方とは思っていましたが…まさか、和彦様の明鏡止水を使われるとは…」
さすがの憂も今の一連の動きに驚きを隠せないでいた。
「ははは…四葉やるじゃないか。本当に君には驚かされてばかりだよ」
「ししし…油断大敵です!」
一方の一本を決められた和彦はというと、楽しさが込み上がってきているようである。そんな和彦に笑いながら四葉は答えた。
「楽しくなってきた!木下続きだ」
「は、はい!はじめ!」
木下の合図に両者は構えた。
その様子を全員が肩唾を飲んで見守っていた。
「さて、虎の尾を踏んだ四葉先輩がどこまで抵抗出来るか…見物ですね」
「え……?」
そんな憂の言葉が出た瞬間全員が固まってしまった。三玖も驚きのあまり声が漏れてしまった。
トン…
「!」
いつの間にか和彦の右拳が四葉の肩に軽く触れられていたのだ。
何が起きたのか分からない四葉はただただ驚いていた。
「!ゆ、有効!」
綾那にも見えなかったその攻撃であったが、肩に拳をつけたまま止まっている和彦の型を見て合図を出した。
「え…?え…?いったい何が起きたの…?」
「すみません!俺にもサッパリで…」
「
「あれが!噂には聞いてたが生で見たのは初めてだぜ!」
憂の説明に忠義は興奮気味に話した。
「その兵法は知ってる。武田信玄が軍略としても使ってたから…たしか、行動を起こす時は雷のように威勢よくする、だったと思う」
「その通りです。三玖先輩は博識なのですね」
ニッコリと笑顔で憂が答えると、三玖は照れたような顔をした。
「先ほど三玖先輩がご説明されたように、雷のように威勢よく行動を起こし、相手の目にも止まらない速さで攻撃をするのです。守りは明鏡止水で相手の攻撃を流し。攻撃は雷霆で相手に感知されずに行う。和彦様の必勝パターンです」
「そんなの勝てっこないよ…」
「だから最強って言われてたんすよ!くぅ~、やっぱ
三玖の言葉に忠義は興奮して、左手に拳をパンとぶつけて話した。
その後も和彦の一方的な試合を展開となり、左拳の突きによる有効。そして、上段回し蹴りによる一本と決めていった。
「たったの数秒で追い越されちゃった…」
「あれを止める手段なんか高校生にはないだろ…」
「そうですね。今の和彦様の攻撃を止めることは四葉先輩には不可能かと…」
「そんな…」
忠義と憂の説明に三玖は残念そうに四葉を見ていた。
(ですが、あれに気づけばあるいは…)
そんな三玖の傍らで憂は逆転の手は思いついてはいた。
(はぁぁ……やっぱり先生は凄いなぁ…こんなの止めようがないよぉ………でも!私はまだまだいきますよ!)
逆転を許しなす術がない四葉であったが笑みを崩さず次の行動に移した。
(笑ってるか…ふふっ…今度はどんな風に驚かせてくれるのかな?)
そんな四葉に和彦は楽しみで仕方がなかった。
「はじめ!」
木下の合図と共にまた決まると誰もが思った時、和彦の放った突きが明後日の方向に流されていた。
『────っ!?』
(マジかよ!?)
それには観戦していた全員が驚いたのは言うまでもなく、和彦も驚きで隙が出来てしまった。
(ヤバッ…!)
そこに放たれた四葉の蹴りをなんとか躱して距離を置いた和彦だったが、その和彦の肩には四葉の右拳が決まっていた。
「!ゆ、有効!」
『うおおおおぉぉぉ!!』
これには観戦していた全員が歓声をあげるに十分であった。
「今のって…」
「え…ええ。和彦様の攻撃を明鏡止水で流し、その後には雷霆で決めましたね」
「マジかよ…!?」
三玖の驚きの声に、さすがの憂も驚きで声が震えていた。忠義も驚く他なかった。
「明鏡止水は、相手の行動を先読みして行うもの。つまり、目で追えないのであれば……」
「先生の行動を先読みすれば防げる...!」
「いや、確かに理論上はそうだけどよ!そんなの一朝一夕で出来るもんかよ!それに、最後の攻撃。何で四葉先輩に扱えたんだよ!」
「たしかに……四葉は今まで空手なんてしたことないし…」
先ほどの攻防を憂が解説したのに三玖が納得した。しかし、忠義はそれをなぜ四葉に行えたのかが分からず混乱していた。
「………恐らく、無我の境地に入ったのかと…」
「無我の境地…?」
憂が四葉を見ながら自身の考えを伝えると三玖が問いかけた。
「無我の境地とは、私心なく執着を離れた無心な心の状態を指します。自分の存在を意識しない状態、忘我の境地とも呼ばれます」
「つまり…?」
「無心にて体が動いている…四葉さんは自身で見た技を無心で行っているのでしょう」
「相手の技を盗むってことか!?」
「言い方を悪くするとそういうことです…」
(しかし……)
次の試合が開始され、和彦と四葉がそれぞれ雷霆で攻撃し、それを明鏡止水で流してを繰り返していた。
そんな試合展開に他の部員は大いに盛り上がっていたが、憂は一人違うことを考えていた。
(確かに和彦様の技を使えることは素晴らしい事です。それでも、あれはあくまでも和彦様だからこそ扱える技。そんなものを連発すれば…)
憂の杞憂が当たったかのように、四葉の動きが急に遅くなってきた。
それを和彦が見逃すわけもなく、中段への蹴りが決まり技ありが入った。
「これで七対四。残り三十秒か…」
「四葉、すごい息切れてるように見えるけど…」
「………無我の境地とは無心で体が勝手に動くようなもの。つまり、今の四葉先輩の体がそれに追いついていないのでしょう」
「そっか...でも、凄いよ四葉は…」
「ええ。あっぱれです」
三玖は四葉の凄さに喜びの表情で話し、それに憂も微笑みながら答えた。
その後、和彦の有効が決まり試合は終わりを迎えるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回のお話では、サブタイトルのように四葉が空手で覚醒するお話を書かせていただきました。
なんか四葉ならやりかねないと思って書きましたが、やり過ぎましたかね...
テニスの王子様でもあった、無我の境地を参考(とういかそのままかもしれませんが...)に四葉の覚醒部分を表現しました。
次回は、四葉が試合前に言っていたお願いのお話とことりから五月にお願いしたいことがあるというお話です。
次回の投稿は、月末の2月28日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。