少女と花嫁   作:吉月和玖

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128.お願い

四葉との試合形式は八対四の結果で僕が勝った。

まさか、四ポイントも取られるとはなぁ…甘く見ていたところもあったか。

僕の向かいに立っている四葉は、はぁはぁと息を切らしている。

 

「礼!」

 

木下の合図でお互いに礼をしたのだが──

 

「…!四葉…!」

 

四葉は礼で頭を下げたまま倒れようとしていた。

それにいち早く三玖が気づき声をかけた。

 

ポスッ…

 

それをなんとかギリギリで抱き抱えることが出来た。

 

「大丈夫か?」

「はぁ…はぁ…えへへ…やっぱり先生は凄いです…」

 

四葉に声をかけながらヘルメットを取ってあげると、笑顔でそんな風に話してきた。

まったくこの子ときたら…

僕はそのまま四葉の首もとに皆から見えないようにキスをした。

 

「んッ……せ、先生…!」

「よく頑張ったご褒美だよ。よっと…!」

 

そしてそのままお姫様抱っこで四葉を持ち上げた。

 

『きゃああぁぁー!』

 

四葉を抱き抱えて歩きだすと、女子部員から歓喜の悲鳴が上がった。

な、何だ!?

 

「羨ましい…!」

「だよねぇ!でも、何か絵になるよねぇ!」

 

なるほど女子達にとっては良い話種ってことか。

 

「先生っ…!」

 

三玖達の近くまで来て四葉を静かに床に寝かせた。

それを心配そうに三玖が見ている。

 

「診たところ大丈夫だよ。多分、力尽きただけだから。しばらく寝かせてれば、すぐ回復するさ。三玖、濡れたおしぼりくらいのタオルを持ってきてくれる?」

「わかった…!」

 

僕の指示を聞くとすぐに三玖は取りに向かった。

 

「和彦様」

 

そこにタオルを持った憂がやって来た。

 

「気が利くね。それで見える範囲だけでも汗を拭いてくれるかい?」

「承知いたしました」

 

憂はすぐに四葉の汗をタオルで拭っていった。

その向かいに座り込み四葉の頭を撫でてあげた。

 

「先生……」

「四葉にはまだまだあれは早かったかな。でも、これから僕が一から鍛え直してあげる。覚悟はあるかい?」

「はい…!」

 

寝たきりではあるが四葉は力強く返事をした。

 

「分かった。君に僕の全てを伝授する。頑張れよ」

「──っ!はい!」

 

最後にはとびっきりの笑顔で四葉は答えた。

 

「先生…!タオル持ってきた…!」

「じゃあ、それを額に乗せておいてくれ。本多!次いくよ!」

「お、オッス!」

 

三玖が来たので次の試合形式に入る事にした。

 

「あ…あのっ!三玖さん!」

「?どうしたの…?」

 

すぐに来ると思ったのだが、本多は三玖に何か話しかけているようだ。

 

「今から師匠との試合で、ポイントが取れたら俺のこと、名前で呼んでくれませんか!?」

「え……?」

 

三玖は本多の言葉に固まっている。そんな三玖を緊張した赴きで本多が返事を待っている。

 

「えっと……別にいいけど…」

「本当すかっ!よっしゃー!!やってやるぜぇー!」

 

三玖の答えに本多のボルテージが上がったようだ。

単純な奴だなぁ…

 

「単純なお方…」

 

そんな本多を見て憂が僕の心の声を代弁してくれた。

そして、中心で本多と向かい合った。

本多はやる気に満ちており鼻息も荒いようである。

 

「本多」

「はい!……っ!」

 

僕が名前を呼ぶと先程の浮かれた表情から緊張した赴きに変わった。

 

「お前には良くしてやりたいが……悪いな。さっきの試合で体が暖まってるんだ…今の僕の全力でいかせてもらうよ…!」

「!」

「では、はじめ!」

 

そして、木下の合図で試合が開始された。

 


 

~道場~

 

和彦と本多の試合形式が始まって三十秒後。

 

「くはっ…!はぁ……はぁ……はぁ……」

 

忠義は道場の隅で四葉と並ぶように寝転んでいた。

 

「まったく…もう少し粘れたのでは?」

「うっせぇっ!くっそぉ……本当に数年空手から離れてたのかよ!?」

 

憂の言葉に忠義は言い返すも、憂がそう言うのも無理もないだろう。

試合開始後、和彦により一本を連続で三回入りあっという間に終わったのだ。

 

(試合前の師匠……なんか周りに白いモヤみたいなの見えたんだよなぁ…そして、あの技のスピード。四葉先輩はあれ全部いなしてたのかよ!くぅーーっ!やっぱこの学校来て正解だったぜ!)

 

試合には負けたもののこの学校であれば、自分はもっと強くなれる。忠義はそう感じていた。

 

「大丈夫…?」

 

そこにタオルを持った三玖が忠義に声をかけてきた。

 

「み、三玖さん!す、すいません!威勢ばかりで恥ずかしい試合を!」

 

三玖に話しかけられた忠義は起き上がると、正座で頭を下げた。

 

「ううん…そんなことないよ…()()()()は頑張ってた…!」

「三玖さん~~………!今、俺のこと……」

「うん。別に名前で呼ぶくらい問題ない。これからも頑張ってね、タダヨシ…」

 

ニッコリと笑顔で名前を呼んでタオルを渡してくる三玖に、忠義は感動してしまい、その場にバッと立ち上がった。

 

「師匠!」

「ん?何?」

 

忠義は、今現在綾那と試合をしている和彦に声をかけた。ちょうど中断しているところなので、和彦はその言葉に答えた。

 

「今から走り込みしてきてもいいでしょうか!」

「はあぁ!?もう練習時間は終わりだよ」

「では!先に上がらせてもらい、家での自主練の許可を!」

 

なおも食い下がる忠義に、和彦はため息をついて許可した。

 

「はぁぁ…分かったよ。体もしっかり休めるんだよ?」

「はい!ありがとうございます!それでは失礼します!」

 

忠義はそう言うや否や、着替えの為に更衣室にダッシュした。

 

「三玖先輩もあの方を操るのが上手いですね」

「別に普通に接しただけなんだけど…でも、先生といると、みんな子どもっぽく見えてくる…」

 

三玖はそう言ってクスクスと笑うのだった。

 


 

はぁぁ…疲れた。やっぱり部活動顧問をしながらの通常業務は疲れるな…

部活での指導を終えた後、僕は帰路につくことにした。

 

「四葉の事もあるけど、木下や本多を中心に皆少しずつでも力量は上がってる。後は僕か……」

 

高校生相手であれば何とか勝てているが、これが大学生や社会人が相手ともなると話は別である。

 

「もう少し体力も付けたいし、やっぱり技を出す時に体のブレを感じるんだよなぁ…憂にお願いして、僕の試合も動画に撮ってもらうかな…」

 

そんな風に今後の予定を考えながら校門まで歩いていると、そこには三玖と四葉が佇んでいた。

 

「二人ともどうした、こんな時間まで?」

「カズヒコさんを待ってた…」

「お疲れ様です、先生!」

 

二人に声をかけると笑顔で返ってきた。

 

「待ってるんなら、連絡してくれれば良かったのに。数学準備室貸してたよ」

「途中まで部員のみんなと帰ってたから…」

「でもやっぱり先生と帰りたいなって三玖と話して戻ってきたんです」

 

途中まで帰ったが僕と帰りたいが為に戻ってきたと説明する三玖と四葉。

ああ……僕はこんなに想ってくれている二人を裏切ってるんだよなぁ……

僕はギュッと拳を握って俯いてしまった。

 

「?どうしたの…?」

「先生どこか痛いんですか?」

「え……?あーー…ちょっと疲れてるのかもね。じゃあ、帰ろうか」

 

笑顔を作って二人を促した。

これからも僕はこうやっていくって決めたんだ。

 

「「………」」

 

三玖と四葉は何か感ずいているかもしれないが、何も言わずに僕の両隣にそれぞれ並んで歩きだした。

 

「あーっと…そうだ。四葉との約束守らないとね。何かお願いがあるんでしょ?」

 

微妙な空気でもあったので試合形式の時に四葉が言っていた、ポイントを取ったらお願いを聞いてほしいと言っていた事を話題にあげてみた。

 

「四葉…いつの間に…」

「あはは…まあ、そんなに自信は無かったんだけどね…」

 

三玖の少し睨むような問いかけに、四葉は乾いた笑い声で答えた。

 

「それで?何となく予想は出来てるんだけど…」

「ししし…もちろんエッチがしたいです!私と三玖と三人でしましょう」

「「え?」」

 

四葉の提案に僕と三玖は聞き返した。

 

「四葉…私も良いの…?」

「うん!」

「だって、せっかくカズヒコさんと二人の時間を過ごせるのに…」

「うん……最初はそれも考えたんだけど、今こうやって自信持って先生が好きだって言えてるのは三玖のおかげだから。だから、三玖と一緒に気持ち良くなりたいんだ!」

「四葉…」

 

満面の笑顔で四葉が話すと嬉しそうな顔を三玖はしている。

良い話かもしれないが、内容が内容だけにぐっと来ないんだよなぁ。

 

「はぁぁ…分かったよ。けど、今日は早く帰らなきゃだから明日でも良いかな?」

「はい!あ、できれば泊まりが良いです!」

「は!?泊まり!?それは…だって次の日学校だろ?」

 

四葉の提案にさすがにマズイだろうと答えた。

 

「大丈夫です。ちゃんと着替えや次の日の準備もして行くので!」

「いやいや、それだと二乃達になんて言うんだよ」

「普通にカズヒコさんと泊まりデートって言えば良いんじゃない?」

 

僕の問いに三玖が当たり前のように答えた。

 

「いや、そんなの五月が許さないだろ!この間、僕達の関係が知れて喧嘩したばかりだろ」

「でもぉ……やっぱり、先生の横で朝を迎えたいですぅ…」

 

うっ…!そんなウルッとした目で見ないでほしいんだが…

 

「だぁー!もう分かったよ。でも、五月達が反対したら駄目だからね。これ以上姉妹の仲を悪くするわけにはいかないから」

「うーん…五月かぁ…」

「二乃も難しいかもだけど、五月を納得させるのはもっと難しい…」

 

その後も三玖と四葉は二人であーでもないこーでもないと作戦を練っていた。

はぁぁ…五月になんて言おう...

二人の話があまり耳に入らないままマンションに帰宅するのだった。

 


 

「え!?さすがに泊まりはマズイでしょ!」

「だよなぁ…」

 

夕食とお風呂も終わったので、今は自分の部屋で今日憂に貰ったDVDを流しながらことりに四葉の提案を報告した。

 

「どうすんの、お兄ちゃん?」

「一応、他の姉妹の同意を得られたらって約束はしたから、多分無くなるんじゃないかな…」

 

今の選手は中々良い動きだったな。戻してみるか。

画面に映った選手の動きを観ながら、ことりに答えた。

 

「この後お義姉ちゃん来るけど、ちゃんと伝えるんだよね?」

「ああ。隠すつもりはないよ」

「そ。なら良いんだけど…」

 

僕の返答に納得したのか、ことりも画面を観始めた。

 

「今の人中々良い動きしてたんじゃない?」

「お、ことりも分かる?うーん…本多なら勝てるかなぁ」

 

その後はことりと動画を観ながら意見交換をしていた。

しばらくすると、五月が来たので今日あった出来事を伝えた。

 

「そうですか…四葉が…」

「ああ。まさか初心者の四葉にあそこまで追い込まれるとは思わなかったよ」

「でも、お兄ちゃんが雷霆を使わなきゃいけないなんて、それだけ四葉が凄いってことだよね」

 

五月は僕の話を聞いた後、顎に手を持っていき考えるように目を瞑った。

そんな五月にことりは四葉の凄さを伝えた。

 

「まさか、僕の技を真似してくるなんてね…憂が言うには、攻撃の流れから僕のコピーのようだったってさ」

「へぇ~…それはちょっと観たかったかも」

 

僕の話にことりは四葉の空手のセンスに興味を持ったようだ。

 

「前にもお伝えしましたが、和彦さんが他の女性。いえ、姉妹や立川先生と関係を持つことに反対はしません。しかし、泊まりとなるとどう賛成をするか、ですね」

「え?ことりは良いの?泊まりでのデート」

「はい。構いませんよ。むしろ、ことりさんと結女ちゃんが一緒に住んでる時点で、もう他の女性との同棲と見てもおかしくないですから」

「いや、まあそうなんだけど…」

「あ、もちろん本番はなしですからね?和彦さん」

「わ、分かってるよ」

 

五月の笑顔が怖いんだが…

 

「この後、家に帰ったら和彦さんへの罵倒などを二乃達に謝ろうと思っているのです。多分、その時に三玖と四葉から話がでるでしょう。私は賛成しますが、二乃が許さないのでは?」

「まあ、そうだよね…最悪二乃も連れてく?」

「お前、簡単に言うなよ。この間三人の相手は本当にキツかったんだからね」

「でも、気持ち良かったんでしょ?」

「ぐっ…!それは、まあ……」

 

否定出来ない自分が憎い。

 

「そこは二乃次第かと………あの…やはりそんなに気持ちの良いものなのでしょうか?その…男女の交わりは…」

 

顔を赤らめて話してくる五月にことりと目を合わせた。

すると、ことりは笑いながら答えた。

 

「ふふふ…お義姉ちゃんも女の子だよねぇ…そこまで気になってるなら、結婚の約束までしてるし、もうお兄ちゃんとシちゃえば良いのに」

「うーー…それは…その…まだ心の準備ができていないと言いますか…すみません、和彦さん……」

 

申し訳なさそうに頭を下げる五月を見て、僕は五月を抱きしめていた。

 

「わお!」

「あ、あの!和彦さん!ことりさんの目の前で…!」

「良いから良いから。僕は五月の事を大事にしていくと決めたんだ。だから、五月が決心するまで待ってるよ」

「和彦さん……ありがとうございます…♡」

 

僕の言葉に五月からも抱きしめ返してくれた。

 

「まったく…二人ともどんだけお互いを好きなんだか…見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ……ふぅ...ねえ、お義姉ちゃん。一つお願いがあるんだけど」

 

そんなところに真剣な顔でことりは五月にお願い事があると伝えた。

 

「ん?何でしょうか?」

 

あまりの真剣な顔のことりに、五月は僕から離れてことりと向かい合った。

 

「その……こんなことお願いするのは、私も迷ったんだけど……結愛ちゃんのことなんだ」

「結愛ちゃん…ですか?」

「うん。今日あたり結愛ちゃんとお兄ちゃんにキスしてもらおうと思ってる。もしかしたらその先も...」

「は!?」

 

ことりの言葉に僕が驚いてしまった。

 

「いやいや、なんで!?」

「………結愛ちゃん、最近元気ないんだ…私のこともあるし、二乃とお兄ちゃんのデートのこともある。せっかくここまで来たのに、お兄ちゃんとの距離が今までと変わらないんだもん」

「そ…それは……」

 

確かに最近の結愛は元気がないように思える。このままだと、何も進展がないまま僕と五月の結婚の報告を聞くことになるだろう。

 

「良いかな、お義姉ちゃん?」

 

心配そうに聞くことりに五月は笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ。結愛ちゃんも計画の関係者ですから。問題ありません」

「ありがとう、お義姉ちゃん!もちろん、結愛ちゃんが暴走しないように見張っとくから」

 

五月の承諾にことりは涙を流しながら、ことりを抱きしめていた。それに五月は抱きしめ返していた。

 

「おい!」

「何よ、お兄ちゃん。今は感動シーンなんだから」

「お前、今見張っとくって言ったよな?」

「あーー……」

 

僕の言葉を聞いたことりは目を逸らした。

見張っとく。つまり、自分も混ざると言うことだ。

 

「お前がただヤりたいだけじゃないよな?」

「ち、違うよ!そりゃあ、お兄ちゃんとエッチしたいけど、結愛ちゃんってこういう知識ないでしょ?だから、実践形式で教えようかなって…それに見張るっていうのは本当だし!」

「ふふふっ…」

 

僕とことりのやり取りに五月は可笑しそうに笑っている。

 

「良いですよ。ことりさんも一緒で。ちゃんと和彦さんを見張っててくださいね?」

「任せてよ!もう、お義姉ちゃん大好き♡」

「ふふふ…私もことりさんが大好きです」

 

五月の承諾にことりは五月の頬を自分の頬でスリスリとするように抱きしめており、それを五月も笑顔で受け止めていた。

まったく…何が何やら。

ま、この二人の幸せそうな顔が見れるなら良いか。

二人の楽しそうな姿を笑みを浮かべて見ているのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話は、サブタイトル通り四葉とことりによる二人のお願いを中心に書かせていただきました。
四葉は、和彦と三玖との三人でのお泊まりデート。
ことりは、五月に対して和彦と結愛がキスやそれ以上の事をする事を。
五月は問題ないと言うも、和彦としては複雑な心境のようです。

次回は、今回のお話で五月が言っていたように、この間の姉妹喧嘩を五月が二乃と三玖と四葉に謝罪するお話を書かせていただきます。

次回の投稿は3月1日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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