13.連絡先交換
~風太郎side~
「や、おっはー」
風太郎が朝登校していると登校途中にあるコーヒーショップの前で一花から声をかけられた。手にはコーヒーショップで買ったであろうフラペチーノがある。
「おっす」
そんな一花には気にせず、風太郎は一言声を掛けるとそのままスタスタと歩いていった。
「ちょっとぉ、冬服へのコメントはないのぉ?」
「朝からなんの用だよ」
自分の前を通りすぎた風太郎の横に並びながらぷくぅと頬を膨らませている一花。そんな一花の態度に疲れた顔をしながら風太郎は用件を確認しようとしている。
「学校まですぐだけど一緒に登校しようと思って」
風太郎からの返事に満足した一花は一緒に登校することを提案する。
「一花、お前は妙に目立つから嫌なんだが」
「むふふ、そう?」
一花の一緒に登校の提案に風太郎はげんなりした態度で答えた。それもそうだろう。先程から一花とすれ違った男達が一花を見るために振り返っているのだ。
「昨日、あの後みんなに私の仕事のこと打ち明けたんだ。みんなビックリしてたなー」
「だろうな」
「でもスッキリした!」
そう言った一花の顔はとびっきりの笑顔になっていた。それを見れた風太郎の口元も一瞬ではあったが笑みを浮かべていたように見えた。
「俺が反対なのは変わりないがな」
だが次の瞬間にはいつもの調子に戻っていた。
「大丈夫。留年しない程度には勉強頑張るから。勉強会してるんでしょ。放課後また連絡するね」
風太郎とは打って変わって明るい表情で一花は話している。
「はい」
そんな一花が風太郎に自分のスマホを差し出した。
「え?何?くれるの?」
「……」
風太郎のあまりの反応に一花は言葉を失くしてしまった。
「もー違うよぉ。連絡先交換しようってこと!」
そう言いながら一花はスマホを自身の顔の前まで持ってきた。
「家庭教師的にもしておいたほうがいいでしょ」
「……連絡先かぁ……」
目を瞑り悩ましい顔をしている風太郎。そこに…
「連絡先がどうかした?」
「うおっ!」
風太郎のすぐ横から顔をヒョコっと出しながらことりが声を掛けてきたのだ。
「おはよ、風太郎君。一花」
「おっはー、ことり」
「おまっ…心臓に悪いからやめろ……」
突然の登場で驚きの声をあげた風太郎に悪びれもせず接することり。一花は近づいてくることりに気づいていたので普通に挨拶をしている。風太郎はまだ心臓がドキドキしているからか胸を押さえてことりに対して文句を言っている。
「あはは、ごめんね」
「ったく…」
頭をかきながら答える風太郎。そんな風太郎を真ん中に一花とことりが左右に並んで登校する。
一花だけでも注目されているのに、そこに学校で人気のことりまで一緒にいるとなるととんでもない注目だ。
学校に近づくにつれて、『あの真ん中の奴誰だよ』。そう考える男子生徒が増えているのは言うまでもないだろう。
「それで?連絡先がどうしたの?」
「うん。フータロー君と連絡先交換しようと思ってて」
「へぇ~、いいじゃん。じゃあ私も…」
風太郎を間にそんな話をしている一花とことり。そこでことりも自分のスマホを取り出している。
「お前もかよ…」
両隣からスマホを差し出されれば風太郎も観念するしかなく、二人に自分の連絡先を教えるのだった。
「よっし。じゃあ私たちも交換しよっか」
「だね。何気に一花の連絡先知らなかったよ…………うん!これで姉妹の連絡先を知らないのは四葉だけかな」
ことりは昨日の花火大会の時に、二人っきりになったこともあり二乃と連絡先の交換を済ませていたのだ。
「おー、さすがだね。フータロー君もことりを見習ってみんなの連絡先聞かないと」
「必要ないだろ」
「ぶぅー…またそういうこと言う……そうだ。ことり、吉浦先生って放課後は数学準備室にいるって本当?三玖に聞いたんだけど」
風太郎の素っ気ない態度に一花は頬を膨らませて抗議するが風太郎は気にしない。そんな時、思い出したように一花は和彦の放課後の所在をことりに聞いた。
「うん。大抵放課後は数学準備室にいるよ。でもどうして?」
「いや、昨日のこと改めて謝っとこうかなって」
「うーん、兄さんは気にしてないと思うけど。一花がそうしたいならいいんじゃないかな。だったら、今日の勉強会は数学準備室でやるのはどうかな?」
一花の謝りたい気持ちを汲んでことりは一つの提案をする。
「そんな簡単に決めてもいいのかよ」
「大丈夫だよ。私もたまに放課後お邪魔してるし。図書室よりも多少うるさくしても兄さん怒んないしね」
「ことりって吉浦先生のことに対して結構軽いよね」
「まあ兄妹だしね。前もって連絡も入れとくから大丈夫だよ」
そう言いながらことりはスマホを操作する。早速連絡をしているようだ。
「これでよし!結果はまた連絡するね」
そう言いながら二人より少しだけ前を歩くことり。そんなことりはどこかご機嫌のようだ。その理由は、大好きな兄の近くに行く口実が出来たのは言うまでもなかった。
「おはようございます、吉浦先生」
朝、職員室で準備をしていると隣の席の立川先生が出勤してきたので声を掛けられた。
「おはようございます、立川先生」
「昨日はあの後皆さんと合流出来ましたか?」
自分の席に座り、自身の準備をしながらそんな風に聞かれた。
そういえば、五月と二人でいた時に立川先生にたまたま会ったんだっけ。
「いえ。結局花火大会中に全員と合流出来なかったです」
ははは、と顔をかきながら立川先生に答える。
「えっ!?で…では、あれからずっと中野さんと…二人で…?」
僕の言葉に驚き手を止めてこちらを見る立川先生。
「いえ。途中何人かとは合流出来たので。最終的に花火大会中に全員が揃わなかっただけですよ」
「ほっ…そうだったんですね。全員とまではいかなくとも、多少でも合流できたのは良かったです」
「ありがとうございます」
ほっとしたように話してくれる立川先生。そこまで心配してくれていたなんて、やっぱり優しい人だ。
ブー…ブー…
そんな風に考えていたらスマホに着信が入った。
「ちょっとすみません」
立川先生に一言お詫びをして着信内容を確認してみる。どうやら、ことりからのメッセージのようだ。
『今日の放課後、中野家勉強会を数学準備室でやろうと思ってるけどいいよね?』
勉強会ねぇ。理事長からフォローするように言われてるから場所を貸すくらい良いか。
とはいえ、数学準備室に来る口実が出来たことをことりが喜んでいるのが想像出来るもんだ。
『問題ない』とだけ送ると返事がすぐに返ってきた。
『ありがと♡』
はぁぁ…笑顔で返事しているところが目に浮かぶ。
「どうかされたのですか?」
スマホを見ながらため息ついていたのが気になったのか立川先生が声を掛けてきた。
「いえ、妹から放課後に勉強会するから数学準備室の場所を貸してくれと連絡が来ただけですよ」
「勉強熱心なのですね。成績が良いのも頷けます」
端から見たら勉強会を開き先生の元で勉強をする。とても素晴らしいものである。
いや、実際しっかり勉強をするのだろうから問題ないのか。ことりは真面目と言えば真面目な性格だ。与えられた勉強を教えるという仕事はきちんとこなすだろう。
予鈴も近いこともあり、そんな考えをしながら最初の授業の準備に取りかかるのであった。
「昨日は申し訳ありませんでした」
放課後、数学準備室に今日の勉強会に参加するメンバーが揃った頃、一花から頭を下げられた。
「謝罪は昨日聞いたから、改まってなんて良かったのに」
「先生は寝ちゃってたらいはちゃんと離れた場所にいたから面と向かって謝れてなかったし」
「意外と律儀だねぇ」
「意外ってなにさぁー」
僕の言葉に先程まで真面目な顔だった一花にも笑顔が戻ってきた。
「ほらほら。ここには勉強をしに来たんでしょ。早く始めな」
「はぁ~い」
返事をしながら皆が座っているソファーに向かっていった。まあ皆と言っても姉妹が全員揃っているわけではない。ここには二乃と五月の姿がないようだ。
「そうだ。勉強始める前に四葉と連絡先交換しようと思ってたんだ。風太郎君も三玖と四葉二人としたらどうかな?」
「連絡先交換!大賛成です!」
一花がソファーに座ったのを確認したことりはそう口にした。
「その前にこれ終わらせちゃいますね」
「ん?」
そういえば四葉の前には勉強道具とは違うものが置いてあるな。
「……一応聞くが何やってんだ?」
当然のように上杉が四葉に聞く。その四葉は何かせっせとしているようだ。
「千羽鶴です!友達の友達が入院したらしくて!」
「勉強しろー!!」
はぁぁ……友達の友達って…
上杉じゃなくてもツッコミたくなるわ。
「半分よこせ。これ終わったら勉強するんだぞ」
「やってあげるんだ…」
上杉は四葉の前に積んである折り紙に手を伸ばしながら手伝うと言っている。それにことりがツッコミを入れる。
「連絡先交換についてだが、そもそも俺はお前たちの連絡先なんて…」
ブー…ブー…
「?」
「まあまあ、そう言わずにさ。きっと今後の家庭教師をやっていく上で役に立つ……」
「そうだな。みんなの連絡先知りたいなー」
「だろうし……って、えぇぇーー!?」
上杉の連絡先交換は不要の考えに対してことりがなんとか宥めようとしていたが、何があったのか急に考えを上杉は変えた。
「なんだことり?」
「いやいや、いきなり考えを変えるって何があったの?」
「な、何もないぞ。うん、今後の家庭教師としての活動にはきっと役に立つだろうしな」
うんうん、と腕を汲んで頷いている上杉。本当に何があったのだろうか。
「協力してあげる」
そんな上杉に三玖が自分のスマホを差し出した。
「わーい、やったぜー」
喜びの声を口に出しながら連絡先を登録するために携帯を操作する上杉。嬉しいのであればもう少し感情を込めて言えば良いものを。
「そういえば三玖。足はもう大丈夫なの?」
「も、もう痛くない」
「そう?なら良かったよ」
足の怪我が気になって三玖に聞いてみたんだが何故か目を逸らされた。
何かしたっけ?
「これでよし。二乃と五月は今度でいいだろ」
「その二人ならさっき見ましたよ。今のうちに聞きに行きましょう!」
そう言って四葉が席を立ち部屋から出るため入口に向かう。
「なんでお前も行くんだよ!ってか四葉、お前の連絡先は…」
「早くしないと帰っちゃいますよ!」
「お前勉強する気ないだろ!」
四葉が率先して部屋から出ていくのを上杉が追いかけていった。
「何だ?」
「あはは…私もまだ四葉から連絡先聞けてないや」
そんな二人の行動に僕とことりはポカンとなってしまった。
「ごめんねぇ、四葉が騒がしくって」
「ううん」
「まあ、そのうち戻ってくるでしょ」
「そうだねその時にでいいよ」
二人のそんな会話を聞きながら机に向き直り自身の作業に取りかかった。
「ねぇねぇ先生」
「うーん…?」
一花に声を掛けられるも作業を止めることなく耳だけ傾けている。
「先生って生徒との連絡先を交換するのって抵抗ある?」
「は?いきなりだね」
予想していなかった事を聞かれたので手を止め一花達がいる方に振り返った。
「ほら、この機会に先生も私たちと連絡先の交換はどうかなって」
「はぁ…」
「あれ、もしかしてダメだった?」
僕の反応があまり良くなかった事を気にしてか心配そうな顔で一花は聞いてきた。
「駄目ってことはないけど、逆に教師に連絡先教えるのに抵抗ないの?」
「うーん、先生だったらいいかなって。ほら、ことりのお兄さんだし」
「まぁそこまで言うなら…」
そこで自分のスマホを取り出して一花に差し出す。
「ありがと先生。ほら、三玖も」
「う、うん…」
一花との連絡先の交換を終えると三玖とも連絡先の交換をする。
まさか生徒と連絡先の交換をすることになるとは思わなかったな。
「よかったね」
「うん」
二人はソファーに戻りながら何か話してるようだがよく聞こえない。
「あ、先生の連絡先は他の姉妹に教えていいのかな?」
「姉妹間なら構わないよ。無理して登録しなくて良いからね」
「はぁーい」
「……」
「何?」
「べっつにぃ」
何か言いたそうな顔のことりだったので声を掛けるも不貞腐れたような感じで何か言われるような事はなかった。
その日の晩。家でゆっくりテレビをことりと見ていたらスマホに着信が入った。
『遅くに失礼します。一花に教えてもらいましたので連絡しました。私の連絡先も登録いただければと思います。 五月』
「こんな時間に誰から?」
「五月だよ。一花から教えてもらったから連絡したって」
「ふぅ~ん」
ブー…ブー…
その後も着信が入る。
『別にいらないと思ったけど、姉妹で私だけ交換してないのも嫌だったから送っとくわ。 二乃』
「二乃からも今連絡が来たよ。これで五人全員と交換かな」
四葉とは遅かったが戻ってきた時にことり共々交換をしておいたのだ。今来た二人の連絡先を登録しながらことりに話すも反応は良くないようだ。
「どうした?」
「べっつにぃ。良かったね、五人の可愛い女の子と連絡先交換ができて」
テレビの方を見ながらこちらに目線も向けずにことりは口にする。
なるほどそれを放課後から気にしてたのか。
「別にお互いに登録したからって連絡が来ることはほぼないでしょ。気にしすぎだよ」
ことりの頭をポンポンと撫でながら伝える。
「三玖のあんな顔を見せられたら心配にもなるよ」
「ん?三玖がなんだって?」
「なんでもない!」
ブー…ブー…
そんな時、今度はことりのスマホに連絡が来たようだ。
「あれ?風太郎君だ。なんだろう……って、うわぁぁ…」
上杉からの連絡の内容を見たことりは呆れたような顔をしている。
「何が書かれてたの?」
「それが…『五つ子にメールで宿題を出しといた。お前も見といてくれ』って」
そう言ってメールの内容を見せてきた。そこにはびっしりと問題が入力されていたのだ。
「あの子もよくやるね」
さすがの教師の僕も上杉のメールには引いてしまうほどだった。
今回のお話では風太郎と中野姉妹だけでなく、吉浦兄妹との連絡先の交換を行っています。和彦との交換は結構無理がありましたが…
それでは次回の投稿も読んでいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。