少女と花嫁   作:吉月和玖

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130.魅力

「ぶぅーーー……」

「ほら、結愛ちゃん。朝食食べないと遅刻しちゃうよ」

 

朝食の席。現在、隣に座っている結愛は絶賛不機嫌中である。頬を膨らませながらジト目で僕を見ているのだ。

 

「悪いとは思ってるよ。だから、いい加減機嫌直しなよ」

「だってぇ……今日も和彦さんと一緒に寝ようと思ってたんですよ…!」

「もう、私たちだったらこれからもチャンスはあるんだから、今日は譲ってあげるって思えば良いでしょ?」

「そうなんだけどぉ……」

 

今日の三玖と四葉とのお泊まりデートを聞いてからこの状態である。いや、まさか他の姉妹からの許可が下りるとは思わないでしょ。

本当に何を考えてるんだろう五月は……

ことりに悟らせられて、結愛はやっと朝食に手をつけた。まだ文句はあるようだが…

 

「それにしても、まだ信じられないよ。四葉さんが和彦さんから四ポイントも取ったなんて。和彦さん、手加減してないですよね?」

「する訳ないだろ。こんな事が起こるって分かってたんだから絶対にポイントは許さないって思ってたんだから。それがいきなり僕と同じ技を使ってきたんだ、ビックリもするだろ」

「たしかにね…四葉ってもろ初心者なんだし、それは考えられないよねぇ」

 

僕が手加減をして四葉のお願いを聞いたのではないかと結愛が疑ってきたので、それは無いと即否定した。それに対してもことりは賛同してくれている。

 

「ふふっ…面白そうだから私も入部するね、空手部」

「は!?お前勉強会はどうするんだよ」

「それは元々風太郎君のお仕事だった訳だしね。土日はちゃんと練習以外の時間でも家庭教師はするから問題ないよ」

 

僕の問いに問題ないとことりは答えた。

実はことりも空手の経験者でもある。僕の影響を受けて始めた空手だったが、意外に続いて中学では全中個人の部で三連覇を成した程の実力者だ。

高校で続けなかったのは、『お兄ちゃんがしないなら私もしなくて良いや』、との事だった。

 

「あ、じゃあ私もマネージャーとして入部しますね。憂ちゃんや二乃さん、三玖さんもいるんですよね?今日はバイトがないのでさっそく今日から行きますね」

「結愛まで……まあ、結愛なら色々知識があるだろうし助かるけど…ことりは良いのか?このままだと放課後は上杉と一花の関係が進むかもしれないよ?」

「うん、大丈夫だよ。学校にいる時は風太郎君、私の恋人として接してくれてるし、それくらいしてあげないとフェアじゃないでしょ?それに、五月もいるしね」

 

僕の問いにことりは笑いながら答えた。

まあ、確かに学校内ではことりと上杉は付き合ってる事になってるから一花の入る余地がないしな。

 

「ことりがそれで良いなら問題ないさ」

「ありがと♪私に木下さん。それに四葉が力を付けてくれたら団体での全国優勝だって夢じゃないよ♪」

「大きく出たなぁ…お前はブランクがあるだろ?」

「大丈夫だって」

 

全国優勝か……それがあれば四葉の推薦にも有利になるな。何せ、陸上部での助っ人としての実績もある訳だしな。

 

「と…そろそろ行かないと。一花を待たせる訳にはいかないし」

「今度は一花か…お兄ちゃんも大変だぁ」

「自業自得です…!」

 

学校に向かう準備をしていると、ことりは憐れみ、結愛は素っ気なく答えてきた。

 

「ふーん…じゃあ、お兄ちゃんへのいってらっしゃいのキスは私だけするね…♡」

「え……?そんなのズルい!和彦さん……」

 

ことりのそんな言葉に懇願するかのように結愛は涙目で見てきた。

 

「はいはい」

「んッ…ちゅっ…♡えへへ……いってらっしゃい、和彦さん♡」

「んッ…ちゅっ…♡お兄ちゃん気をつけてね。いってらっしゃい」

「ああ。いってきます」

 

結愛とことりに軽くキスをして家を出た。

マンション前まで出ると一花が空を見ながら待っていた。

 

「おはよ、一花。悪いね、待たせちゃったかな?」

「おはよー先生。ううん、私も今来たところだから……てこれじゃあ恋人同士の待ち合わせみたいだね…」

 

待っていた一花に挨拶をすると、まるで恋人同士の待ち合わせみたいだと笑ってきた。

とりあえずそこまで怒ってはないか…

 

「じゃあ、歩きながらで良いかな?」

「うん」

 

そこから一花と二人並んで学校に向かった。

一花の距離感はいつもと変わらない。警戒とかはしていないようである。

 

「悪いね。こんなことになっちゃって…」

「まったくだよ!私、昨日四人から話を聞いた時、心臓が飛び出るんじゃないかってくらい驚いたんだからね!」

 

ビシッと人差し指でさしてきながら少し怒った顔で一花はそんな風に言ってきた。

 

「まあ、でも……迷惑かけてるのはどちらかというとうちの妹たちだろうけどね。ごめんね先生。妹たちが暴走しちゃってさ…」

 

だが、その後は反省するように一花は話してきたのだ。

 

「いや、あの子達は悪くないさ。止めようと思えば止めれたんだ。それなのに欲望に勝てなかった…結構頑張ってたつもりだったんだけどねぇ。情けない話さ…」

「そっか……」

 

ため息混じりに話す僕に一花からは特に怒りの感情は感じなかった。

 

「でも、先生はちゃんと一線は越えなかった。それだけでも偉いって私は思うよ」

「……どうだろうね。ただの言い訳にしか聞こえないかもだよ?」

「ううん。多分大事なところだと私は思ってるよ」

 

そんな一花の言葉を聞いた僕は一花の方に顔を向けた。すると、一花は微笑みながらこちらを向いていた。

 

「先生はさ……付き合うとかそういうのなしにしたら、二乃たちの事を大切に想ってくれてると思うよ。大切に想ってなかったら、きっと今頃あの子たちから笑顔は無くなってたと思うんだ」

「そう……かなぁ…」

「そうだよ!今朝なんて、あれだけ悔しがってた二乃が三玖と四葉に色々とアドバイスしてたんだから」

「え…そうなんだ」

 

一花の言葉に驚きを感じていた。

 

「なぁ一花…」

「うーん?どうしたの?」

「普通はさ、こういう事起きてたら仲違いとか色々起きるんだと思うんだよね。独占欲的な…」

「そうだねぇ…」

 

僕の問いに一花はしみじみといった感じで答えてきた。

 

「きっとあれだよ。先生には何かそういう魅力みたいなのがあるんじゃないかな」

「魅力ねぇ…」

 

果たしてそんなものが僕にあるのだろうか…

赤信号で止まった時、僕は真剣な顔で一花に話しかけた。

 

「一花」

「ん?どしたのさ、そんな真剣に」

「これは相手の意向だから名前は伏せるけど、実は僕はすでに付き合ってる…て言うか、プロポーズしてるんだよね。で、相手からは承諾も貰ってる」

「え……?」

 

僕の言葉に一花は目を見開いて固まってしまった。

そこで青になったので僕はまた歩きだした。

 

「ちょっ…ちょっ…ちょっと待って!」

「横断歩道の途中だよ。危ないから歩きながら話すから」

 

驚きのあまりに一花は僕の腕を捕まえて止まるように促すも、僕は歩きながら説明すると伝えたので一花はそれに従った。

 

「えっと…先生って誰かとその…結婚するの?」

「ああ。今月末には双方の親に報告して、承諾貰えれば籍を入れるつもりだよ」

「いやいや!じゃあ、なんで今日は三玖と四葉との外泊するのさ!おかしいよ!」

 

さすがの一花も焦りながら追及してきた。

 

「もしかして、秘密にしてって事はないよね?」

「それは無い!真っ先に報告はしてるよ」

 

怪しいと思っているのか、一花からは警戒心が出ていたので、一花からの問いには即否定した。

 

「じゃあなんで!?え、相手って三玖か四葉で、どっちかが今の関係を許してるってこと?」

「…………ごめん。相手は言えない。けど、一花が言ってることはだいたい合ってるよ。僕はこの結婚の事を他のみんなに伝えることを提案したんだけど、それは待ってほしいって言われて。しかも、もし求められたらキスやそれ以上の事も受け入れてほしいって言われたんだよ」

「えーーー!?」

 

僕の説明に驚きの声を一花はあげた。

まあ、普通はそうだよな。

 

「なんで!?結婚するんだよ!?それなのに、他の人とキスやその……エ…エッチなこと…とかも許すっておかしいよ!」

「だよなぁ……だから頭を悩ませてるんだよ。一応ことりは真相を知ってるみたいだけど、問題ないみたいに言ってるし…」

「ことりが!?ことりは、先生の結婚相手を知ってるの?」

「ああ。ことりにだけは話そうって僕から提案してね。で、そこで何か計画があるとかでそれをことりに説明すると、何故かことりはやる気になってるんだよねぇ」

「訳わかんないよぉ…」

「僕もだよ…」

 

二人でため息混じりに言葉が出た。

本当に五月の思考が分からない。でも、もう月末だから、両家の親への報告を済ませたらバレる訳だから、後少しの辛抱ってとこだけど…

 

「ま…!相手が誰かは知らないけど、内緒にしてないなら少しは安心したよ。今日は三玖と四葉の事お願いね。あ!絶対本番は駄目なんだからね!」

「分かってるよ」

 

真剣な顔で本番禁止と言ってくる一花に微笑みながら伝えると、納得したように一花は笑顔で頷くのだった。

 

・・・・・

 

「おはようございます、吉浦先生」

「おはようございます、立川先生」

 

職員室の自席に行くとすでに出勤していた立川先生と挨拶を交わした。

 

「あ、そういえば吉浦先生は何か知ってますか?私の両親が今井家に招待されたとか。今度の日曜日なんですけど…」

「え?立川先生のご両親が憂の家に?いえ、僕は何も聞いてませんね」

「そうなんですねぇ…後、五月さんから今度の土曜日と日曜日は予定を空けていてほしいとも頼まれてまして…」

「五月が?」

「はい。昨日頼まれました」

 

確か、お互いの両親に挨拶をするのが今度の日曜日って五月は言ってたよな…何か関係があるのか?

 

ヴー…ヴー…

 

そんな風に考えていたらスマホに着信が入った。

え?芹菜さん?

中身を見る前に芹菜さんの方を向くとニコッと笑顔を返された。

何だろう…

 

『今日、どこかで二人っきりになれませんか?この間のようなキスしたいです♡』

 

メッセージを見た後にばっと芹菜さんの方を向くと、人差し指を唇に当てながら笑みを浮かべていた。

一花……本当に僕にそんな魅力的なところはあるのだろうか…

心の中でそう呟きながら芹菜さんに返信をした後、五月に報告のメッセージをするのだった。

 

・・・・・

 

「んッ…ちゅっ……ちゅるッ……ちゅっ……はぁ……和彦さぁん……♡」

 

時間を作って芹菜さんとキスをしたいると、トロンとした目で芹菜さんは舌を出してきた。

僕はその舌に自分の舌を絡ませるようにキスをする。

 

「れろれろッ……ちゅるッ……れろッ……ちゅっ……れろれろッ……ちゅっ…はぁ……♡」

 

満足したのか、芹菜さんは僕の首に腕を巻いたまま顔を離してニコッと笑顔を作った。

 

「学校でだなんて。芹菜さんも度胸ありますね?」

「だって……和彦さんったら、中々時間作ってくれないじゃないですか……」

 

芹菜さんの顔に手を添えながら聞くと、芹菜さんは少し不機嫌そうな顔で文句を言ってきた。

 

「それに…♡んッ…ちゅっ……ちゅるッ……れろッ……ちゅっ……はぁ……れろれろッ……ちゅるッ……れろッ……ちゅっ…♡こんな気持ち良い事を教えてくれたんです…もっとしたくなりますよ♡」

 

芹菜さんはまたキスをしてくると妖艶な笑みを浮かべてそんな事を言ってきた。

 

「もう男性は怖くないんですか?」

「いいえ。こんな事できるのは貴方だけですよ…♡他の男性はまだちょっと……」

 

ニッコリとキスを出来るのは僕だけだと伝えた芹菜さんだが、他の男性にはまだ苦手意識があると少し沈んだ顔で話してきた。

 

「そうでしたか…」

 

そう伝えた僕は芹菜さんの両肩を掴んで離すように押した。

 

「和彦さん?」

 

そんな僕の行動に戸惑いの表情で僕を見てきた。

 

「…………僕は貴女が思っている程誠実な人間ではありません。女性の心を(もてあそ)ぶような酷い男ですよ。だから、これ以上僕に近づかない方が良いです」

 

僕の言葉を聞いた芹菜さんは目を見開いて固まってしまった。

 

「え……?ど、どうされたんですか急に?私、何か失礼な事をしてしまったでしょうか?学校でこんな事をするのがいけなかったのであれば今度からはお願いしません!だから、そんな事言わないでください!」

 

芹菜さんは涙を流しながら僕の両腕を掴んで懇願してきた。そんな芹菜さんの頭を撫でながら僕は笑顔を向けた。

 

「あ……和彦さん…?」

「芹菜さんは何も悪いことしてませんよ。貴女のような綺麗な女性にこんなにも求められてもらうなんて、とても嬉しく思っています」

「ならっ…!んんッ……ちゅっ……ちゅるッ……ちゅっ……はぁ……♡」

 

納得いかないといった顔で迫ってくる芹菜さんの口をキスで塞いだ。

 

「でも、駄目なんです……このままでは僕が貴女を悲しませてしまう」

「え……?」

 

僕は芹菜さんに二乃達との行為について伝えた。

嫌われても構わない。だけど、こんな事をするような男に近づいちゃ駄目だ。

そんな気持ちで話したのだ。

 

「そ……そうですか…二乃さんに三玖さんに四葉さん。そして結愛さんとも……」

 

僕の今までの行為を伝えるとショックなのだろう、芹菜さんは僕の両腕を掴んだまま下を向いてしまった。

 

「五月が二乃と三玖と四葉にこう言ったそうです。『先生はあなたたちの気持ちを利用して、自分の快楽を得ているのではないか』、と」

「!」

 

僕の言葉に芹菜さんはバッと上を向いてきた。

 

「あながち間違ってないかもですね。彼女達の気持ちに応えた訳ではなく、ただ僕が彼女達とシたかっただけかもしれませんから…」

 

僕の話をじっと見つめながら聞いていた芹菜さんは両手で僕の頬を触ってきた。

 

「芹菜さん?」

「和彦さんはここぞって言う時に嘘が下手ですね」

「え?」

 

芹菜さんが優しい笑みを向けながらそんな事を言ってきたので不思議に思ってしまった。

 

「今の和彦さんはとても悲しい顔をしています。そんな人が私達の想いを利用する訳ないじゃないですか。んッ…♡ちゅっ……ちゅるッ……ちゅるッ……ちゅっ……はぁ……」

「芹菜さん……」

 

キスを終えた芹菜さんはなお優しい笑みを向けてきている。

 

「今の和彦さんのお話を聞いても私の気持ちは変わりません。私は貴方を愛しています。だから、自分の事をそんな風に言わないでください」

「でも…!」

 

芹菜さんの言葉に反論しようとすると、芹菜さんは右手の人差し指で僕の唇に触れてそれを抑えた。

 

「うーん……こう言っては何なのですが…和彦さんの行為について別に怒っていませんよ。あ、もちろん嫉妬はしてますが。それに……何て言えば良いんでしょう…もし私が和彦さんの彼女として選ばれたとしても、私は二乃さん達が和彦さんを求めてきたら許しちゃうかもしれないんですよね」

「え?」

 

それって五月と同じ言葉じゃないか…

芹菜さんが頬をかきながら話す言葉が、以前五月が言った言葉と同じだった為に驚いてしまった。

 

「な…なんでですか?」

「うーん……何て言いますか…勿論、和彦さんを独占したい気持ちもありますよ。でも…和彦さんなら皆の事を平等に愛してくれるんじゃないかなって……すみません、上手く言えないです」

 

僕の問いに笑いながら答えた芹菜さんはそのまま抱きしめてきた。

 

「でも、羨ましいですねぇ…私も和彦さんと気持ち良くなりたいです……あの…一つだけ相談があるんですけど…」

 

芹菜さんは僕を抱きしめたまま、上目遣いでお願いをしてきた。

 

「え!?」

 

そのお願いを聞いた僕はただただ驚くしかなかった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、一花と芹菜に和彦が自分に置かれている状況を説明するお話を書かせていただきました。
一花に関してはただただ驚くばかりでしたが、芹菜は驚きはしたものの一花程ではない、といった反応でした。
和彦に強く関わっているかそうでないかで心境も変わっているのかもしれません。

さて、次回は今回のお話の最後にあった芹菜のお願いの内容と、ことりの部活参加のお話を書かせていただこうかと思っております。

次回の投稿は3月15日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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