少女と花嫁   作:吉月和玖

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139.今井薫

『………』

 

その日の十一時より少し前。

僕達は今井家本邸の広間にいた。

僕とその左に五月が座っており、その後ろに僕の右斜め後ろから、ことり、飛鳥、結愛、四葉、三玖、二乃、一花、芹菜さんと並んで座っている。

全員という訳ではないが、緊張した赴きでじっと静かに座っていた。

その原因とも言える人物が今僕達の目の前に座っているからだ。

今井薫(いまいかおる)。現今井家当主である。

薫さんは座布団の上で胡座をかき、肘置きの上に右肘を立てて拳の上に顔を乗せてじっとこっちを見ている。

歳はたしか三十九だったか…その若さで当主を任されるだけの威厳を感じられる。

髪は黒髪ベリーショートでドライな束感で爽快感あふれており、ワックスを使って男らしいハードなヘアスタイルである。優しい顔立ちで目からも優しさを感じられるが、目力が強く少しでも気を抜ければ持っていかれてしまう程だ。それに何か武道をしているのか、着ている着物の上からも体つきが良いのが分かる。

そんな薫さんは笑みを浮かべてじっとこちらを見ていた。

 

「お初にお目にかかります。吉浦和彦にございます。本日はこのような場を設けていただき、誠にありがとうございます」

 

足は崩して良いと言われていたので、胡座の状態で両手で拳を作り床につけ、頭を下げながら挨拶をした。

それに五月を含めて僕の後ろの皆も頭を下げたようだ。

 

「ほおぉぉ…流石はあの和彦殿だ。堂が入っている。頭を上げられよ」

「はい!」

 

薫さんの言葉で頭を上げ真っ直ぐに薫さんの目を見た。

 

「ふっ……俺の眼力も効かんとわな。参った参った…はっはっはっ!」

「あなた。少しやり過ぎですよ。和彦殿は良いかもしれませんが。他の女性達が(みな)怖がっているではないですか…」

 

笑いながら話す薫さんを諌めているのが、薫さんの左後ろに控えている夫人の(あおい)さん。

憂が美人だから母親もさぞかし美人だろうと思ったのだが、予想以上で正に大和撫子と言っても良い程の美人であった。

黒髪で長い髪は分からないが、豪華な櫛で髪を纏めており顔立ちに優美さが出ている。憂と同じく着物姿ではあるが、やはりと言うべきか憂よりも姿勢が良く周りに花が咲いているように感じてしまう。

ちなみに薫さんの右後ろに憂が控え、更に後ろに綾那が控えている。

達郎さんは入口に姿勢良く立って控えている。

 

「いやあぁぁ…すまんすまん。つい出来心でな!(みな)もそう緊張せず楽にすると良い。もっとも……和彦殿以外に三人程、俺に物怖じずにいる者もいるようだがな」

 

ニヤリと笑いながらその三人を薫さんは目で追っていった。

 

「ふっ…流石は吉浦()()の娘さんだ」

「凝縮です」

 

褒められたことりは優等生ぶりを発揮して綺麗にお辞儀をした。

 

「それと…立花飛鳥さんだったかな?最年少での柔術師範代を取っただけはある」

「はああぁぁっ!?」

 

薫さんの言葉に二乃が思わず叫びながら飛鳥を見てしまったが、全員の視線が注目下されて思わず縮こまってしまった。

 

「す…すみません……」

「はっはっはっ!構わん構わん。驚くのは無理もないだろう。それに、この間の全国模試では異例の満点一位でもある文武両道を形どった人物だしな」

「「「「!?」」」」

「恐れ入ります」

 

笑いながらさりげに薫さんは、この間の飛鳥の成績を伝えたので、知らない一花と二乃と三玖と四葉からは驚きの顔が見れた。

 

「ん?なんだ話していなかったのか?」

「え…ええ……まあ……それよりも重要な話で盛り上がりましたので…」

 

驚きの顔をしているのがいることに、薫さんは模試の結果を話していなかったのかと飛鳥をに質問をした。

すると、飛鳥はそれどころではなかったと返した。

 

「ふっ…それもそうだな…」

 

飛鳥の返答に薫さんは笑みを浮かべながら答えた。

 

「それに……失礼とは思いますが、薫様の威圧よりももっと凄いものを近くで何度も感じておりますので」

 

飛鳥は続けて、自分が平気だったのはもっと凄いものを肌で感じていたと、僕の方を見ながら微笑みながら話した。

 

「おまっ…!」

「ほおぉぉ……」

 

そんな飛鳥に話しかけるも既に遅し。薫さんは不適な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「それはそれは……俺も感じてみたいものだな」

「しかし…っ」

「やれ」

「!」

 

それはまずいのではないかと提言しようとするも、薫さんの一言がそれを許すことはなかった。

葵さんは呆れてため息をつき、憂は笑っている。

はぁぁ…仕方ないか……

 

「勿論、今のお前の本気で、だ」

「分かりました。ふぅぅ……!!」

 

薫さんの指示の元、僕は目を瞑り一呼吸おいてから目を開き、薫さん達の方に闘気を当てた。

勿論、五月や後ろのことり達にはいなかいようにしている。

 

ズンッ…!!

 

『!!』

 

闘気を浴びた薫さんと葵さんと憂は目を見開き固まっている。だが──

 

シュッ…!

 

次の瞬間には達郎さんの攻撃が来ていたので、五月を守るように立ち上がり、それを流した。

 

「……っ!?」

 

それに驚いて態勢を崩している達郎さんの顔の横には僕の上段蹴りが止まっていた。

 

「そこまでだっ」

 

その状態のままでいると薫さんから声がかかったので、僕は足を下ろして振り返り五月の頭を撫でた。

 

「大丈夫だった?」

「は…はいっ…!」

「ふっ…なら良かった」

「~~~…っ!」

 

五月の答えにニッコリと笑顔を返すと、五月の顔はみるみるうちに赤くなっていった。

よく見ると、ことりが結愛と三玖を。飛鳥が二乃と一花を。四葉が芹菜さんを守るように立っていた。それを微笑んで見た後に元の定位置に座った。それにことりと飛鳥と四葉も続いた。

 

「失礼いたしました」

 

そんな僕に対して達郎さんはいつものように腕を胸の前で曲げてお辞儀をして謝罪してきた。

 

「いえいえ。流石は達郎さんですね。良い反応でしたよ」

 

そんな達郎さんに笑顔で返し、憂を守るようにして構えている綾那に笑顔を向けた。

 

「はうっ…!」

 

そんな綾那は顔を赤くして固まってしまった。

そんな綾那の姿を微笑んで見た達郎さんは、先程と同じ位置まで戻り直立で立った。

 

「くっくっくっ……あっはっはっ!これは凄いな!思わず達郎が攻撃に回るほどのものとは!しかも、それを退ける!見事なり!」

 

先ほどまで固まっていた薫さんであったが、満足そうに笑っていた。

 

「全く……笑い事ではございませんよ……(わたくし)は肝が冷えましたよ……」

「ふふふ…♡流石は和彦様ですわ♡」

 

葵さんと憂は正反対の反応をして、乱れた着物を整えながら座り直している。

 

「良いではないか!やはり良いな!婿養子てして来てくれなかったことが残念だ」

「申し訳ありません。憂さんの事は好きではありますが、生涯を誓い合った相手がいますので」

 

ニヤリと笑いながら残念な感想を伝えてくる薫さんに、先程のように両拳を床について頭を下げた。

 

「ふっ……構わんさ。その相手殿が面白い提案をしてきたのだからな。それで御の字だ」

「きょ…恐縮です…っ!」

 

薫さん本来の優しい笑みを五月に向けられたので五月は萎縮しながらも答えていた。

 

「それにしても、本当に宜しいのですか?これだけの女性に慕われている人物を独り占めに出来るのですよ?」

 

そこに葵さんが五月に改めて確認した。

 

「はい!これが最も和彦さんの幸せに繋がると思っておりますから。それに……」

 

そこで五月が僕の左手の上に自分の右手を添えてきた。

 

「私がこの方の妻であることに変わりありませんので」

 

そして僕に笑顔を向けながら葵さんの言葉に答えた。

そんな姿を葵さんは勿論、薫さんも柔らかな表情で見てきていた。

 

「……芯の強いお方のようですね。(わたくし)も見習いたいものです」

 

五月の答えに葵さんは優しい笑みを浮かべ目を瞑りながら答えた。そこに──

 

「失礼いたしたす。立川様ご夫妻がご到着されたようでございます」

「!お父さん達が…!」

 

達郎さんがいつものお辞儀をしながら報告したので、それに芹菜さんが反応した。

 

「そうか。ここにお連れしろ」

「はっ!」

 

薫さんはこちらを見たまま達郎さんに指示を出した。

それに達郎さんが答え、部屋から出ていった。

 

「さて……いよいよ始まる訳だが……お前達は心の準備は出来ているか?」

『はい!』

 

先程までの陽気な雰囲気が抜け真剣な表情となった薫さんに問われ、僕達は同時に答えた。

それに今井家一同満足気な笑みを浮かべていた。

 

・・・・・

 

「どうぞこちらでごさいます」

「「あ……ありがとう…ございます」」

 

達郎さんの案内の元、この広間に来られたご夫婦はかなり緊張した赴きであった。

まあ、それもそうだろう。生涯で関り合いのあることはないはずの家に招かれたのだから。

芹菜さんの両親は学生時代からの付き合いでそのままご結婚されているそうだ。夫婦仲も良いとのことで二人とも今年で五十歳になるそうだ。

そんな歳をどちらも感じさせないように二人とも普通の五十歳の人より若く見える印象である。

お父さんの方はショートヘアーでまわりは刈り上げ過ぎずナチュラルに、トップはボリュームが出るようにパーマをかけていて若干白髪が混じっていて、品がある大人スタイルだ。眼鏡をかけ、普通のサラリーマンのような印象であるではあるが、顔立ちがしっかりしているので、見る人によってはイケメンに部類されるかもしれない。

一方のお母さんの方は、小顔に見えるようなミディアムヘアスタイルで黒髪ロングの芹菜さんとは違いベージュカラーである。ただ、やはりどことなく芹菜さんと同じく清楚な感じはする。

後は芹菜さんと違って着やせするタイプじゃないのか大きな胸は強調されいる。

 

「おおぉっ…!すみませんな急なお呼び出しをしてしまって」

「い、いえッ!わ、我々のようなッ…者を呼んでいただきッ…きょっ…恐縮ですッ…!」

 

薫さんが目の前に来て握手を求めてきたせいか、芹菜さんのお父さんは更に緊張している。

 

「あっはっはっ!そう緊張なさるな。今日は昼食も用意している。ゆるりと過ごされよ」

「「は、はいッ!」」

 

薫さんの言葉にご夫婦共に直立で返事をして達郎さんに案内された場所に座って一息ついたようだ。

その席は芹菜さんから近いので、芹菜さんは薫さん達の方に頭を下げてからご両親に近づいた。

 

「お父さん。お母さん」

「せ、芹菜!?」

「何であなたがここに!?」

 

いきなりの娘の登場でどうやらご両親は共に驚いているようである。

 

「ごめんなさい。今日ここに二人が呼ばれたのは私のせいかも...」

「なっ......!?お前。今井さんのお嬢さんに何かしたのか!?

 

芹菜さんの言葉にご両親は驚きお父さんは小さな声で芹菜さんに問い詰めた。お母さんに至っては、両手で口を覆って固まり動かないでいる。

 

「えっと...そういう訳じゃないんだけど...とにかく後でお願い事があるから、それまでは静かに座ってて」

 

そう言った芹菜さんはまた元の場所に座りなおした。

ご両親の方はあまり納得はいっていないようではあるが、ここは今井家本邸。チラッと上座の方を見た後は縮こまるように座っている。

ま、普通の人間であればああなるわな。

 

「続きまして、吉浦ご夫妻と立花様がお見えでございます」

「おう」

 

達郎さんの言葉に返事をした薫さんはまた立ち上がり入口付近まで出迎えの為移動した。それに葵さんも続いた。

 

「和彦のお父様とお母様ってことよね?」

「どんな人なんだろ...」

「楽しみぃ♪」

 

後ろから、二乃と三玖と四葉のそんな声が聞こえてきた。

まあ、興味を持つのは仕方ないか。とは言え......

 

ことり。飛鳥。念のためいつでも動けるようにしといて

「わかってるって」

「はぁぁ...これさえなければ良い人なのだけれど......」

 

小さな声でことりと飛鳥に準備をお願いすると二人から了承の答えが返ってきた。

そんな中、飛鳥のため息混じりのぼやきに周りの結愛以外のメンバーは不思議そうな顔をしていた。

すると、一組の男女とそれに伴うように一人の男性が入ってきた。

一組の男女はもちろん僕の両親で、父さんである吉浦健介(よしうらけんすけ)は、今年で五十二歳とは思えないほどがっしりとした体格で、髪型は白髪が多くまわりは刈り上げ過ぎずナチュラルに、トップはボリュームが出るようにパーマをかけている。眼力が強く初めて会った人は縮こまるのではないかと思うほどだ。姿勢も良く背筋を伸ばして歩いている。どこか自信の現れようが醸し出されている。

 

「おお、吉浦先生。ご無沙汰しております。こんな遠くまで遥々来ていただき恐縮です」

「なあぁに、今井さんの呼びかけであれば何と言う事もありませんよ。今井さんもお元気そうでなによりですな」

 

父さんと薫さんは和気あいあいと握手をして挨拶をしている。

そしてもう一人の母さんなのだが──

 

「......あら♡」

 

父さんの傍らで静かに佇んでいたが、ふとこちらに目線を向けて僕と目が合うと急に不敵な笑みを零した。

ヤバッ…!

 

「和彦じゃなああぁぁいっ♡」

「何!?和彦だと!?(しげる)!!」

「すまん...すでにいなくなっている…」

「なっ!?」

 

そんな言葉を発するや否やこちらに走ってきていた。

それを止めたかったであろう父さんは立花のおじさんに指示を出すもすでに遅しであった。

 

「飛鳥!」

「分かってる!」

 

そんな母さんを止めるべく、ことりと飛鳥は動くのだが...

 

スルッ......スルッ......

 

「「嘘っ!?」」

 

そんなことりと飛鳥の捕まえる動作を素早くすり抜けて僕のところまで来た。

そして首に両腕を巻きつけるようにして抱きしめてきたのだ。

 

「もうっ…♡いるならいるって言ってくれないと♡んッ…ちゅっ…ちゅっ…ちゅるッ…ちゅっ…♡」

「んむっ…!?」

『──っ!?』

「だああぁぁっ…!離れて!人前だろ!」

 

そして、何の躊躇もなく僕の唇を奪ってきたのだ。

そんな母さんの行動に周りからは驚きの視線が注がれている。

そんな状況下でもなお僕にキスをしようとしてきた。

どこにそんな力があるんだ!?

必死に抵抗しているが、また唇を奪われてしまった。

 

「んッ…♡ちゅっ…ちゅるッ…♡良いじゃない♡私達の関係を見せつけてあげましょ♡ちゅるッ…ちゅっ…れろッ…♡」

 

こんの舌を入れようとしてやがる!!

そんな母さんをようやくことりと飛鳥の手によって、僕から引き剥がされた。

 

「あんッ…♡もうっ…!ことりちゃん、飛鳥ちゃん!邪魔しないでよ!」

 

そんな二人に抵抗するように文句を言っている。

そんな母さんと僕の間に入るように五月が移動してきた。

 

「あら……?」

「ちょっ…ちょっとことり!誰なのよ!この女は!」

 

そんな五月の行動を母さんが見て抵抗が弱まったと同時に、二乃は立ち上がってこの女は誰なのかとことりに問い詰めた。他の皆も立ち上がってことりに注目している。

 

「ああぁぁ……ごめんね、うちのお母さんが迷惑かけて……」

『お母さん!?』

 

ことりの言葉に周りのメンバーは驚きの声を上げた。

 

「え……ちょっと待ってください!確か、和彦さんのお母様は今年で四十六歳と伺ってるのですが……」

「嘘!?どう見ても二十代前半じゃん!」

 

混乱するように芹菜さんが確認するように話すと、それに一花が驚きの声を上げた。

 

「ふふっ♪良く言われるわ♪それにしても……」

 

母さんはことりと飛鳥の二人に捕まった状態で僕の周りの立ち上がっているメンバーを見回した。

 

「ふーん…ことりちゃん、飛鳥ちゃん。もう和彦には何もしないから、離してくれる?」

「ホントだよね?破ったら回し蹴りだからね!」

「私も投げ飛ばします!」

「う……うん。ホントだから……本気でそんな事言わないでくれるかな……」

 

ことりと飛鳥の本気の殺気に、流石の母さんも声が震えている。

そんな母さんの態度に大丈夫だと思ったのか、ことりと飛鳥は母さんを離した。

すると母さんは五月の顔の目の前に自身の顔を持っていった。

 

「……っ!」

「ふふっ♪貴女お名前は?」

 

突然の事で驚く五月に対して、母さんはニッコリと笑顔で話しかけた。

 

「い…五月です……中野五月と申します」

 

五月は最初こそは緊張した赴きだったが、後半はしっかりとした顔つきで答えた。

 

「ふーん…♪五月ちゃんかあぁぁ♡ふふふ…貴女とは仲良くなれそうね♪」

「え……?」

 

五月の答えに満足した母さんは立ち上がり自己紹介を始めた。

 

「ことりちゃんが言った通り、私は和彦とことりちゃんの母の文香(ふみか)よ。こらからも仲良くしましょ♪」

 

ご機嫌な声で挨拶した母さんは、ウィンクをして父さんの傍に戻っていった。

ちなみに母さんは身長がやや低めの見た目が若すぎる女性で、僕と二人で歩いていると僕の身長が高めの事もあり恋人か()()と間違われてしまう程だ。

そんな母さんは茶髪のセミロングで、毛先にレイヤーを入れて動きをプラスしたワンカールスタイルだ。

 

「なんか…昨日結愛ちゃんが言ってた、お父様が和彦にだけ厳しい理由がわかった気がするわぁ……」

「わたしも...」

 

母さんが傍に来た今なお、僕を睨んでいる父さんを見て二乃と三玖がそんな感想を口にしながら自分の場所に座り直した。他の皆もそうである。

 

「あはは…皆も知ってるお兄ちゃんの明鏡止水。あれって、実はお母さんのおかげで使えるようになったんだよね……」

「どうゆうこと?」

 

乾いた笑いを出しながらことりが説明すると、芹菜さんから質問が上がった。

 

「和彦さんの明鏡止水は、相手の行動を予測するもの。つまり、気配の察知能力の高さから来ています」

「ああぁぁ……まあ、何て言うか……お兄ちゃんの貞操危機があったから、気配の察知能力が高くなったんだよねぇ……」

『…………』

 

ことりの説明に全員が沈黙した。

 

「何て言うか……和彦……よく頑張ったわね…」

「そんな哀れんだように言わないで……」

「大丈夫だよ!私が常にお兄ちゃんの傍にいて守ってたから!」

「それはあなたの私情が混ざった行動でしょ」

「うっ…」

 

ことりのどや顔な言葉に飛鳥が冷静に返したので、ことりはぐうの音も出なかった。

その時、僕は数々の母さんの祖業を思い出してきた。

特にヤバかったのは中学二年くらいで、朝起きたら下着姿の母さんが僕のズボンとパンツを脱がしてうっとりしていた時だったなぁ……マジで蹴り飛ばしそうになったのを華麗に避けるんだもん。あんなのどうしようもないよ……

 

「飛鳥と結愛のお父さんにも迷惑かけるね…」

「い…いえ…」

「あはは…」

 

怒り心頭の父さんの横でため息をついているおじさんの姿を見てボソッと出た僕の言葉に、飛鳥と結愛から乾いた声で返された。

そんな飛鳥と結愛のお父さん立花茂(たちばなしげる)は、実は父さんと学生時代からの付き合いで、今も父さんの事を陰ながら支えている。フサフサな黒髪をワックスで整えており、黒淵眼鏡をかけていかにも仕事が出来るといった風貌を醸し出していて、インドア派のようにも見える。が、あれでも飛鳥同様武術に秀でており、実際に飛鳥の師匠でもあるのだ。

あ、ちなみに父さんも空手をやっていて大会を総なめしたとか。今でもトレーニングを欠かさず、それであのようにがたいが良いのだ。

 

「そういえば、飛鳥さんと結愛さんのお父様は何故和彦さんのご両親と一緒なのですか?」

 

そんなところに芹菜さんから最もな質問が出てきた。

 

「それは……」

 

飛鳥が言うか迷って僕を見てきたので、問題ないと頷いた。

 

「実は和彦さんのお父さんは県議会議員の方で、その秘書をしているので常に一緒にいるんですよ」

『えええぇぇぇっ!?』

 

飛鳥の言葉にことりと結愛以外のメンバーが驚きの声を上げた。

 

「それで憂さんのお父様が、和彦さんのお父様を先生と呼んでいたのですね」

「まあね。僕は今日初めて会ったけど、何度かお互いに会ってるみたいだよ」

 

五月の言葉に肯定するように僕は答えた。

 

「あはは…今日はビックリすることばっかりだね」

 

四葉は頬をかきながらそんな感想を漏らした。

父さんと母さんとおじさんも案内された席に座ったのだが、父さんはいまだに僕を睨んでいる。

相変わらずしつこいなぁ…

そんな父さんに気づいた母さんが、何やら父さんの耳元で呟くと、恐怖顔になった父さんがまっすぐと前を向き直した。

そして母さんからウィンクが飛ばされたのだった。

 

「今ので先生の家の上下関係が鑑みえた気がするよ…」

 

そこに一花が乾いた笑い声を出しながら口にするのだった。

そして──

 

「続きまして、中野様がいらっしゃいました」

「おう」

「「「「「───っ!」」」」」

 

達郎さんの言葉にまた薫さんが答えて席を立つと、五つ子からは緊張の色が感じられた。

達郎さんの案内のもと部屋にいつもの無表情の顔で入ってきた中野さんであったが、薫さんと対面するとうっすらと笑みを浮かべて握手に応じた。

 

「いやあぁぁ、忙しいところ申し訳ないですな」

「いえ。今井さんの招待ですからね。問題ありませんよ。おや?」

 

そこでこちらに目線を向けた中野さんが、自分の娘達がいることに気づいた。

 

「………何故私の娘達がここに?」

「それは後ほど分かりますよ。さあ、ご用意した席にどうぞ」

 

中野さんの疑問に、あくまでも(にこ)やかに答える薫さんに対して何も言えずそのまま指示に従って席に着いた。

これで全員が揃った!後は、僕達の気持ちを伝えるだけだ!

自分に鼓舞するようにそんな言葉を心の中で叫んだ。

 

「では、皆さん。改めて私の召集に集まっていただきありがとうございます。では、この召集の目的を話し始めましょうか」

 

そんな薫さんの言葉を合図に集会が切って開催されるのであった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話で親御さん達が大集合しました。
いやー、お陰で名前を考えたり見た目を文章に表したりで結構大変でした。
見た目については、書いていないところは皆様のご想像にお任せします(^_^;)

そしてまた濃いオリジナルキャラ達が登場です。
群を抜いて印象付けたのは、やはり和彦とことりの母である文香ではないでしょうか。
出会って早々に、ことりと飛鳥の止めをすり抜けて和彦にキスですからね。和彦への想いはことり以上ではないでしょうか...

さて、いよいよ次回からまずは和彦と五月の結婚を認めてもらう話から始まっていきます。

次回の投稿は4月25日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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