少女と花嫁   作:吉月和玖

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14.補習

もうすぐ中間試験が迫っているある週末。

今日はことりが中野家に行ってきたそうで、夕飯時に今日あった出来事を興奮するように話している。

 

「本当に可愛かったんだから。お兄ちゃんも見てもらいたかったなぁ」

 

どうやら五つ子達の小さな頃の写真を見せてもらったようだ。勉強はしたんだよね?

 

「今でもそっくりなんだけど。当時のみんなは髪型も服装も一緒で全然見分けられなかったよ。みんなはそれぞれ誰かが分かってたみたいだけどね」

「確かに髪型と服装を同じにされると見分けられる自信はないかな」

「スマホで写真を撮ってくればよかったね。そういえば見せてもらった写真は小学校の修学旅行の写真だったんだけど、みんなの修学旅行は京都だったんだって」

「へぇ~、京都かぁ」

 

京都、懐かしいなぁ。そういえば京都で会ったあの子もあの頃は小学生くらいの年齢だったっけ。ことりと年齢が近そうだったから話しやすかったんだよね。

 

「京都っていえば、あれだよね。お兄ちゃんが私を置いて行ったんだよねぇ」

「はぁぁ…まだ根に持ってたの?あの時はことりは修学旅行だったでしょ」

「ぶぅー、日程を変更してくれればよかったんだよ!」

 

無茶苦茶な…

 

「そういえばお兄ちゃん、京都でナンパしたんだったよね」

「ナンパじゃない。修学旅行中に迷子になってた女の子を皆のところに戻すために京都を一緒に回ったんだよ」

「でも、かき氷を食べたりお城を一緒に回ったりしたんだよね?」

「まぁ…」

「ほらー、デートじゃん!」

 

はぁぁ…この話になるといつもこうなるんだよねぇ。今のことりには何を言っても意味がない。こういう時は話を逸らすに限る。

 

「まったく…京都の話もいいけど、もうすぐ中間試験だよ?家庭教師の方は大丈夫だったの?」

「あー…それはどうなんだろう…」

 

僕が質問しているんだが…この返答は期待薄かな。

 

「まあいいや。明日あたり数学の小テストをするからそこであの子達の実力を確かめさせてもらうよ」

「そういえばそんな時期だったっけ」

 

他の先生がどうしているかは知らないが、僕は中間や期末といった試験前にちょっとした小テストを行うのだ。その小テストの結果次第では、生徒に放課後残って試験の対策プリントをやってもらっている。

 

「結構生徒間では好評だもんね」

「それいつも言ってるけど本当かな…」

「本当だって。おかげで本番助かってる人も多いんだから」

 

まあそれでも赤点を取る生徒もいるわけなんだが。

夕飯食べたら小テスト作成の仕上げに取りかかりますか。そんな風に考えながら夕飯の残りを食べていくのだった。

 


 

「うん。ちゃんと集まってるみたいだね」

 

二日後の放課後。昨日行った小テストの居残り補習を行うため、二年四組の教室に成績が芳しくなかった生徒に集まってもらった。ちなみにこの補習には希望者も参加している。ことりや上杉がその例で、二人はトップクラスの成績なのに毎回参加しているのだ。

とは言え、席順は参加必須者を前に集めて、希望者は後ろとしている。

 

「しかし、中野達五人は仲良いねぇ。全員で補習とは」

「嫌みか」

 

僕の言葉に頬杖をついてふてくされたように二乃が返してきた。

 

「中野達は初めてだから改めて説明するけど、とくに授業を行うわけではない。僕が用意したプリントをやってもらって全問正解した人から帰っていい、ということになっている。ちなみに参加希望者には専用の別プリントも用意してる」

 

二種類のプリントを掲げながら説明を続ける。

 

「分からないところがあれば質問は受け付けるので手を挙げてくれ。じゃあ各自取りに来て」

 

その言葉を皮切りに生徒達がプリントを取りに来る。そして、席に戻った者から取りかかり始めた。

 

参加必須メンバーには基本中の基本問題を渡しているから、いつもはすぐに解散になっている。しかし……

 

開始して三十分程経った頃には参加メンバーはほとんど帰ってしまった。ちなみにことりと上杉は一枚目のプリントは早々に終わらせて、希望があったので予備のプリントに取りかかっている。この分だとそっちもすぐに終わるかな。問題は…

 

「えっとぉ…」

「もー…」

「うーん…」

「う~~…」

「たしかこの問題は…」

 

中野姉妹が誰一人と終わらないのだ。何回か質問が挙がったので説明には行っているのだが、中々正解まで辿り着かないのだ。

 

「はい、兄さん」

 

そんな中野姉妹の様子を見ていたら自分のプリントを終わらせたことりが提出に来た。残っているのが、ことりと上杉に中野姉妹だけなので『先生』呼びではなく『兄さん』呼びになっている。

 

「割りと早かったね。じゃあ採点するよ」

「はぁーい。ねえ?三玖たちヤバそう?」

「……ああ……ちょっと予想以上かな……」

 

ことりの答案に丸を付けていきながらことりに答える。

 

「そっかぁ…まあ、家庭教師や勉強会でも芳しくないからなぁ。三玖は結構頑張ってるんだけどね」

「ふぅ~ん………と、はい全問正解」

「やった…」

 

全てが丸の答案用紙をことりに返してあげると、嬉しそうな声をあげた。

 

「仕方ない。ことり、悪いけどあの子達に教えてあげてくれないかな」

「うん、いいよ」

「ありがとね。もしかしたら上杉にもお願いするかもだから二乃と五月を中心に教えてあげてくれ」

「あー…なるほどね。分かったよ」

 

僕の言葉に察してくれたことりは五人のところに行き『みんなー』と声をかけている。

 

「ことりが教えるんですか?」

 

そこに上杉も終わったようで自分のプリントを持って来た。

 

「ご苦労様……あれじゃあいつ終わるか分かんないからね……上杉にもお願いしようと思ってるけどいいかな?」

「まあ、家庭教師の延長だと思えば…」

「ありがとね……と、はい上杉も問題なく全問正解だね」

 

採点を終えたプリントを上杉に返す。

 

「ありがとうございます。ところで、ことりって頭良いんすね。俺より早く終わらせてるし」

「あいつの場合は数学に特化してるだけだよ。数学はいつも満点。それでも他の教科も九割は取れてるけどね」

「そう…だったんですね。俺は自分の成績にしか興味なかったので」

「まあ、普通は他のクラスの人の成績なんて気にしないだろうしね」

「そう…ですよね…」

 

上杉は返事をしながら五つ子が座っている場所を見ている。

何か考えることがあるのだろうか。

 

「とりあえずあの五人の事お願いしてもいいかな?」

「は、はい!」

 

返事をした上杉は五つ子のところに向かった。

二人に任せておけばすぐに終わるだろう。

残ったプリントを纏めながらそんな風に考えていると不意に声をかけられた。

 

「吉浦先生」

「ん?…ああ、立川先生じゃないですか」

 

教室の入口でこちらに声をかけてきた立川先生のもとに歩み寄った。

 

「どうされました?」

「いえ、少し気になったので様子見を。もう終わりそうですか?」

「そうですね。後は中野姉妹の五人だけですが、上杉とことりで教えてあげるようにお願いしたのでもうじき終わると思いますよ」

 

そんな感じで立川先生と雑談を交わすのだった。

 

・・・・・

 

「あれ?あれって立川先生だよね?社会の」

 

風太郎に教えてもらいながらも、あと少しでプリントの問題が終わりそうな一花が入口で話している二人に気付いた。

 

「へぇ~、あの二人なんだかいい感じじゃない」

 

一花の言葉に二人を見た二乃がそんな感想を漏らす。

 

「ほーら二乃。もうすぐ終わるんだから集中して」

「ねえねえ。実際のところあの二人って付き合ってたりしないの?」

「「……っ!」」

 

ことりが注意するも二乃は聞かず逆にことりに質問をしだした。

 

「……兄さんは今は付き合ってる人はいないって言ってたよ」

 

興味ないように努めてことりは答えた。

 

「えぇ~。絶対付き合ってるってぇ。そういえばクラスの友達もそんな話をしてたのよねぇ。たしか二人は同い年の同期でもあるのよね」

「まあまあ。二乃もその辺で」

「なによ。一花あんただって気になるでしょ?」

「そりゃあ、気にはなるけど…」

 

二乃の言及に目線だけある方向に向け一花は答えた。

 

「それにほら。そろそろ勉強に戻らないとフータロー君が黙ってないと思うよ」

 

そんなことを口にしながら風太郎の方を一花は見たのだが、案の定四葉に教えながらこちらに睨んでいた。

 

「はぁぁ…分かったわよ。ノリが悪いやつね」

 

そう言いながら二乃は自分のプリントの問題に戻った。

そこで一花とことりはほっと一安心した。そこに…

 

ガタッ…

 

「三玖?」

 

急に三玖が立ち上がったので、一花は驚きで声をかけた。

 

「終わったから。採点してもらう」

「あ、私も終わったので一緒に行きますね」

 

三玖に続いて五月も席を立ち和彦のところに向かった。

 

「えーー!?二人とも終わっちゃったの!?う、上杉さん。ここの問題が分からないです!」

「そこはさっき教えた公式を使うんだよ!ったく、もう一回教えるから覚えとけよ?」

「はい!」

 

三玖と五月が終わったのに焦りだした四葉が風太郎に教えを乞う。風太郎は呆れながらもしっかりと教えてあげた。

 

「あの二人、私の話に興味なさそうにしてたからね。その分、早く終わっちゃったか」

 

そんな独り言を溢しながら二乃は問題を終わらせるためペンを走らせる。

 

「……」

「ん?おい、一花!」

「え…なに?」

「なにじゃねぇよ。お前もまだ終わってないだろ」

「あ…あぁ。ごめんごめん。すぐにやるよ」

 

ボーッと三玖と五月の後ろ姿を眺めていた一花は、風太郎に注意をされて自身の問題に取り掛かるのだった。

 

・・・・・

 

「先生…」

 

立川先生と話していると不意に声を掛けられた。

 

「ん?ああ、三玖。どうしたの?何か質問?」

え…三玖?

「ううん…終わったから採点お願い…」

 

プリントを差し出しながら伝えてくる三玖。どうやら大分話し込んでしまっていたようだ。

 

「ん?五月も終わったのかな?」

「は、はい。私も採点をお願いします」

 

そう言って五月もプリントを差し出してきた。

 

「了解。じゃあ立川先生。すみませんがこの辺で…」

「いえ、気になさらないでください。私もお邪魔しちゃったようです………中野さんたちとは随分仲良くなっているようですね」

「え?」

「ふふ、ちゃんと見分けられてるじゃないですか。私なんてまだまだですのに。私の言った通りでしたね」

「あ、ああ……」

「では、私はこれで。失礼しますね」

 

そう言って立川先生は去っていく。

最後はなんか寂しい顔をしていたような。気のせいだろうか。

 

「先生?」

 

そんな風に思いながら立川先生の後ろ姿を見ていたら三玖に声を掛けられた。

 

「あぁ悪い。じゃあ採点しようか」

 

受け取ったプリントを持って教室の教壇に向かう。そして椅子に腰掛け二人の採点を始める。

 

「……先生って立川先生と仲が良いって本当?」

「んー?まあ他の先生と比べたらねぇ……」

 

ふんふん。前半は出来てるね。はてさて後半は…?

特に気にする内容でもなかったので、三玖の言葉も流しながら採点を進める。

 

「なんか話半分で聞かれてる気がする…」

「採点してるんだからそうなるでしょ。それにその話はよく聞かれるしねぇ……て、二人とも最後の問題適当に解いてるでしょ。解答が滅茶苦茶じゃない」

「うっ…」

「う~…」

 

この反応、本人達にも自覚があるみたいだ。

 

「何?そんなに早く帰りたかったの?」

「そ…そういうわけでは…」

「そういうわけじゃない…」

 

二人とも目線を合わせようとせず困ったように言っている。冗談で言ったつもりだが本当に早く帰りたかったのだろうか。

 

「はぁ…ほら最後以外は全部正解してたから、後一問終わらせてきな」

 

プリントをそれぞれに渡しながら伝える。

 

「なら、その問題の解説して…この席空いてるしペン持ってくる」

「へ?」

 

教壇の前の席にプリントを置いた三玖はすぐに自分のペンを取りに行った。

 

「そのまま、ことりや上杉に教えてもらえればいいのに…」

「教師という職務を全うしてください。私もペンを取ってきます」

「え~~……」

 

この補習を開いた段階で十分職務を全うしていると思うんだが。まあいいか。

結局その後は二人に問題の解説をしてあげ、すぐに答えを導きだしていた。

そしてーーー

 

「終わったぁ~」

「もう無理ぃ~」

「はぅ~~」

「お、終わったぜ…」

 

最後の四葉のプリントの採点が終わったところで解散となったのだが、一花と二乃と四葉、後なぜか上杉が机に突っ伏している。上杉にとっては重労働だったようだ。ご苦労様。

 

「じゃあお疲れさん!今日やったことをきちんと復習するように」

 

残ったプリントをトントンと教壇で纏めながら伝える。その言葉を皮切りに皆帰り支度を整えて帰路につこうとしている。

 

「兄さん、今日は遅くなりそう?」

「あー…他にやることあるし少し遅くなるかも。なんだったら先に夕飯食べてな」

「分かった」

 

ことりが一人こちらに近づいて聞いてきたので答えてあげる。もうすぐ始まる中間試験の問題作成をしなければならないのだ。

とはいえ、今日は補習したし早めに帰りたいものだ。

教室から出ていく七人を見送った後、数学準備室に向かいながらそう考えるのだった。

 

 

 




今回は中間試験前の小テスト&補習を書かせていただきました。
教師が主人公ならではの話が書けたのではないかなと思っています。

これから中間試験が始まっていきますが、おそらくオリジナルを交えながら書いていくことになると思います。

では、次回も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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