五月の言葉にその場に緊張が走った。
「えっと...中野五月さんだったわよね。このメンバーの中私達にも何かお願いが?」
「はい。極めて重要なことであると考えております」
芹菜さんのお母さんがそこで五月に質問をすると、五月も真剣な表情で答えた為とりあえず納得したようではあった。
「五月君。君自身の結婚以上に重要な事とは?」
「はい。その前に皆さんに話さなければならないことがあります」
中野さんが五月に質問をすると、五月はなおも真剣な表情を崩す事なく話を続けた。
「この度、私の夫となることとなりました和彦さんですが、数多くの女性の方から好意を寄せられ、その上で和彦さんは私の事を選んでいただきました」
「ふ~ん♪つまり、今和彦の後ろにいる子達がその女性達ってことね?」
「「「「「───っ!!」」」」」
「はい。そして、今井様の娘さんの憂さんとその付き人綾那さんもです」
五月の説明に笑みを浮かべながら話した母さんの言葉に、父さんはもちろんおじさんに中野さん、そして芹菜さんの両親も驚き自分の娘を見ていた。
「芹菜。本当なのか?」
「うん......振られちゃったけどね...」
「そう......あの芹菜が...」
恐らく芹菜さんの男性恐怖症の事を知っているからか、芹菜さんのお父さんは驚きの表情で芹菜さんに確認をした。すると、失笑しながら芹菜さんは答えた。
振られたとはいえ男性に好意を持てるようになっていたことに、芹菜さんのお母さんはすこし嬉しそうではあった。
「そうか......飛鳥、結愛...お前たちも気持ちを伝えていたんだね」
「うん...見事に玉砕だったけどね」
「......」
おじさんの言葉に飛鳥は笑いながら答えたが、結愛は下を向いて頷くだけだった。
「和彦!お前は今井さんの娘さんにも告白されてたのか!?」
「ん?ああ、六年前にね」
「はあああぁぁぁっ...!?」
父さんが驚きながら立ち上がり聞いてきたが、僕は軽く答えた。
そんな僕の答えにも訳が分からずといった形で絶叫していた。
「ふふふ...
「ぐっ...」
笑いながら説明する憂であったが、最後の言葉は少し棘があるように思えてしまった。
「はっはっはっ!まあ、いきなり見ず知らずの女の子にプロポーズされては和彦殿も冗談にしか聞こえんわな!」
そんな僕に薫さんが笑いながらフォローをしてくれた。
「ことりちゃんもなのね」
「うん。お兄ちゃんには一人の女性として見てくれるまではいったんだけど駄目だったよ...あはは...」
「十分でしょ。私なんて母親としか見られないのだから」
「そりゃそうだろ...」
母さんが哀しみを含んだ表情でことりに語りかけると、ことりからは残念そうな笑みで返ってきた。
そんなことりの表情に満足したのか、母さんは自分は僕から一人の女性と見てくれないと頬を膨らませていじけている。そこは敢えてツッコミを入れておいた。
「あはは...でも、私の恋はまだ終わってないから。お兄ちゃん以外にも好きな人ができたんだ♪今はその人にもうアプローチ中だよ♪」
そんな僕と母さんのやり取りを見ていたことりは次の瞬間には満面の笑みで語り、そして一花の方を見た。
ことりに見られた一花は不適な笑みで返した。
「あら良かったじゃない♪」
そんなことりに母さんは笑顔を返していたが、もう一人が黙っていない。
「和彦おおぉぉっ!!」
「はぁぁ......何?」
「何じゃないだろ!お前にはことりに変な男が近づかないようにと言っておいたはずだぞ!」
「はいはい。ことりから近づいたんだし。それは違うだろ」
「同じだ!馬鹿者!!」
「はぁぁ......それに変な男じゃないよ。僕もことりを任せられると思えるような男さ」
「誰だそれは!今から抹殺にいってやる!」
阿保か......
「あなた」
「はっ...!?」
そこにドスの効いた声で母さんが話しかけたので、頭に血がのぼった父さんもようやく止まった。
「お座りなさい」
「はい......」
はぁぁ......この家族はコントをしに来たのか?
今井一家は全員で爆笑している。恥ずかしい限りである。
「一花君。二乃君。三玖君。四葉君」
そこに中野さんからいつもの調子で自分の娘達に声をかけた。
「あ!大丈夫だよ。私は先生の事をお兄ちゃんとして慕ってはいるけど、恋愛感情は持っていないから。私には別に好きな人がいるしね」
「そうか...上杉君かい?」
「うん!」
中野さんの質問に一花は僕ではなく別に好きな人がいると伝えると、中野さんの中では予想されていたようで、上杉の名前を伝えた。すると、一花は笑みを浮かべて目を逸らさずに頷きながら答えた。
「はぁぁ......では他の三人は?」
「私は和彦が好きよ」
「私も...!」
「私もです!でも、ごめんなさい。私は先生と同じくらい上杉さんの事も好きなんです」
「はぁぁ......全く、上杉君にも困ったものだが、吉浦先生...いや和彦君にも困ったものだね」
「はい......ごもっともです...」
中野さんの言葉には何も言い返す事が出来ず、中野さんに向かって頭を下げた。
「それで、五月ちゃん?和彦への想い人が大勢いる事を教えてくれたのは良いけど、その上で私達に何をお願いしたいの?」
一通り娘と親との会話が終わると母さんから五月に質問が投げかけられた。
「はい......皆様の娘さんを和彦さんと私の住む家に一緒に住む許可をいただけないでしょうか。そして、あわよくば娘さん達に和彦さんとの子を
『───っ!?』
五月が頭を下げながら伝えた言葉に流石の母さんも驚き、今井家以外の全員の親が驚きの表情で固まった。
「何を言っているのだ五月君!」
そこにいつもの冷静さを失くした中野さんが立ち上がり五月に声をかけた。
「君は自分の言っている事を理解しているのか!まさか......和彦君にお願いされたのではないだろうね?」
そして、この計画は僕のものではないかと僕に睨みを向けてきた。当然と言えば当然だ。
「いいえ。和彦さんはむしろ反対をされました。そこを敢えて私から強くお願いをしたのです!」
そんな中野さんに五月は目を逸らさず強く言い返したので、中野さんも嘘ではないと分かったようで静かにその場に座った。
「ふっ...この事を娘から相談された時には俺も驚いたものだ。正気の沙汰ではないからな。だが......和彦殿ではなく五月殿がそう望んでいる。なら、俺としては和彦殿と娘との間に子どもを授けてほしいと考えている。それでこの場を設けたのだ。無論、住む家もこちらで用意している」
「
中野さんが座ると同時に薫さんが静かに語り始め、自身はこれに同意していると伝えた。それに続くように達郎さんも直立姿勢のまま五月の計画に賛同した。
そこに芹菜さんが動き、両親の前で正座のまま頭を下げた。
「こんな親不孝な娘でごめんなさい!でも、これだけは許してほしいの!私には和彦さん以外の男性とはなんて考えられない!お願いします!」
「「芹菜......」」
芹菜さんの両親が声をかけるも芹菜さんは頭を上げずにいた。
「はぁぁ......五月さん?君はどうしてこのような事を?」
そこで芹菜さんのお父さんが五月に質問をした。
「矛盾しているかもしれませんが、私も夫婦とは本来一対一で成り立つものであると考えております。でも......」
そこで、振り返り並んで座っていることり達に目を向けて話しを続けた。
「彼女たちの和彦さんに対する気持ちは私と変わりません。前に憂さんに言われたのです。報われなかった愛は本物ではないのか、と。それで、もし環境などが整っていれば、彼女たちの想いも結んであげるべきなのではないか、と思ったのです。それに、和彦さんであれば、多少は私に寄るかもしれませんが、みんなを平等に愛してくれると信じていますから」
そこで五月は笑みを作った。
「あらあら。五月ってばお兄ちゃんの一番であることは譲れないんだ」
「それはもちろんです!何と言っても和彦さんは私の旦那様なのですから♪」
ことりのからかいにドヤ顔で五月が答えたので、ことりたちは呆れ顔でため息をついていた。
「そうか......芹菜、頭を上げなさい」
五月の言葉を聞いた芹菜さんのお父さんは芹菜に頭を上げるように伝えた。
すると芹菜さんは頭を上げたのだが、その目には涙が溜まっていた。
「芹菜。これから先、他にも和彦さんのような愛する事ができる男性が現れるかもしれない。そうすれば、籍もおけ夫婦円満に過ごしていける。それでも、茨の道を進むのかい?」
「うん!私には茨の道なんて思ってないよ。きっと幸せな生活が待っているから」
芹菜さんはお父さんの言葉を聞いて笑顔で答えた。
「そうか......和彦さん」
「は、はい!」
そこで芹菜さんのお父さんに呼ばれたので、急いで向き合うように体を動かした。
「芹菜の事、お願いできますかな?」
「はい!五月同様に芹菜さんの笑顔を守っていきます!」
「分かりました。母さん良いかな?」
「ええ...芹菜、しっかりね」
「うん!ありがとう!」
芹菜さんはお母さんから声をかけられると、そのまま両親を抱きしめて泣いていた。
「飛鳥、結愛」
そんな中おじさんが飛鳥と結愛に声をかけた。
「「はい」」
「私と母さんは特に反対はしないさ。むしろ、二人のうちのどちらかが和彦君の嫁にとも考えていたから、先程まで残念に思っていたところだ」
おじさんは苦笑いを浮かべながら語っていた。
「裏方というのは辛い事が多くある。それでも和彦君と共に歩んでいく覚悟はあるかい?」
「うん。しっかりと和彦さんと五月の事を支えてあげるわ」
「私も!お姉ちゃんやみんなと楽しい家を作っていくよ」
「そうか。なら良いんだ」
飛鳥と結愛の覚悟した顔に満足したおじさんは、これ以上はないという感じで元の位置に戻った。
「パパ......」
そんな中いまだに沈黙を続けている中野さんに二乃が声をかけるも微動だにしない。
そんな中野さんの態度に二乃達が諦めかけた時、中野さんから声をかけられた。
「和彦君。一つ聞きたい」
「はい、何でしょう」
中野さんはこちらを見ていないが、僕はしっかりと中野さんの方を向いて答えた。
「君は五月君の事を幸せにすると誓ったね?」
「はい!」
「では、二乃君達の事も五月君と同じように愛せると誓えるかね?」
そこで中野さんの視線がこちらを向いた。そんな中野さんの言葉に少し間を置いて僕は答えた。
「............申し訳ありません。それはできません。私が愛しているのは五月ですから」
『───っ!』
そんな僕の言葉に全員が驚きの表情で僕を見ていた。もちろん五月もである。
「では。先程の五月君の信じる言葉を踏みにじると?」
そして、中野さんから不快感が籠った視線が向けられながら質問をされた。
「そう...ですね。僕がこの世で一番愛しているのは五月に変わりません。それはこれからもずっとです。貴方が五月達のお母さんでもある零奈さんを今でも愛しているように」
「...っ!」
僕の言葉に中野さんは目を見開いたが、そのまま僕は語り続けた。
「それでも。そんな僕であっても、愛し、子を
そこで、両拳を床につけ中野さんに向かって頭を下げた。
「パパ...!ううん!お父さん、お願い!私たちも和彦と歩んでいきたいの!」
「本当の夫婦になれない...!けど、それでもカズヒコさんと共にいたい...!」
そこで二乃と三玖が立ち上がって中野さんに懇願した。
「ふぅぅ......分かった。五月君が認めるのであれば問題ない。幸せになりなさい」
「「うん!」」
中野さんが折れて二乃と三玖に幸せになるように伝えると、二乃と三玖は笑顔で答えた。
「中野さん。ここで一つお願いがあります」
「何かね?」
もう一度頭を下げながら僕は中野さんにお願いをした。
「上杉の家庭教師の復帰を認めていただけないでしょうか?然れば、一花、二乃、三玖、四葉にはマンションへ帰っていただくよう僕から伝えます」
「何!?」
「「先生!?」」「和彦!?」「カズヒコさん!?」
僕のお願いを受け、中野さんは勿論、一花と二乃と三玖と四葉も驚きの声を上げた。
「君たちは一緒に暮らすのだろう?ならば、上杉君の事はどうでも良いではないかい?」
「いえ。これは、私個人の考えなのですが......五月が卒業するまでの間だけは、五月との二人暮らしをお願いできないでしょうか」
『───っ!』
僕の考えを伝えると全員が驚き、目を見開いて固まった。
「和彦さん......」
「その......折角夫婦になるのに...二人っきりの時間が持てないのは寂しいだろ...?」
驚きの表情でこちらを見ている五月に恥ずかしそうに僕は自分の考えを伝えた。
「ふふっ...そうですね♡」
それに五月は笑顔で答えた。
「ふふふ...和彦さんらしい可愛いお願いですね。私はそれで良いと思いますよ。と言うよりも、今からみんなで暮らすのに私だけのけ者にされるのは嫌ですしね」
そこに飛鳥が笑いながら僕の考えに同意してくれた。
「なるほど...上杉君の事は問題ないよ。彼には直接僕から伝えるつもりでいたからね。彼は今回の全国模試で自らの力を発揮した。十分な結果だ」
「ありがとうございます!」
中野さんからの上杉の家庭教師復帰の許可を貰えたので、僕は改めてことりたちに向かって伝えた。
「そういう訳だから、この我儘だけは聞いてくれないか?」
「むうぅぅ...仕方ないわね...」
二乃の了承の言葉に続いて他の皆も頷いてくれた。
「して、部屋はどうする?別邸に二人で住むのか?」
そこで薫さんから質問が来た。
「いえ。今五月達が住んでいる部屋に五月と二人で住もうかと。良いよね、父さん?」
そこで父さんに許可を求めた。
「そう来るとは思っとったよ。別に構わん。好きにしろ」
「ありがとう」
意外にもあっさりと認めてくれたのでお礼の言葉を伝えた。
「え?なんで先生のお父さんにお願いしてるの?」
そこで一花が疑問を投げかけてきた。
「ああ。あの部屋の家主は父さんだから。だから、格安で貸してやれたんだよ」
「「「「「「ええぇぇっ!?」」」」」」
僕の言葉に五つ子とことりが驚きの声をあげた。
「て、なんでことりも驚いてるのよ」
「だ...だって知らなかったんだもん!」
「あはは...どうせことりは高校卒業しても実家には帰らないんだろ?だから、父さんが少しでも近くにいたいってことであの部屋を買ったのさ。父さんには黙ってるように言われてたんだけどね」
「親バカ...」
僕の言葉にボソッと三玖が呟いた。
「あ!お父さん、お母さん」
「お、なんだ?」
「ん?」
そこにことりが父さんと母さんに声をかけると、父さんは嬉しそうに返事をして、母さんはいつもと変わらず返事をした。
「私の好きな人って一花や四葉と同じ上杉風太郎君なんだけどね......」
「なるほど。そいつを抹殺してくれば良いんだな」
立ち上がろうとした父さんの頭に母さんの拳骨が落ちた為、父さんはその場に沈んだ。
吉浦一家と立花一家以外のメンバーは驚き、動かなくなった父さんを心配そうに見ていた。
ちなみに、おじさんと飛鳥と結愛は呆れてため息をついている。
「えーと...吉浦夫人?吉浦先生は大丈夫なのだろうか...?」
「え?このくらい日常茶飯事ですから、どうという事ありませんよ。ふふふ...」
心配そうに薫さんが母さんに声をかけるも、笑いながら答えるものだから
そんな事を気にしていないことりと母さんは普通に話を進めていた。
「それで、どうしたの?」
「うん。自分で言うのも嫌なんだけど、もし風太郎君にも振られたら、私もお兄ちゃんと一緒に住むから」
「ああ。そんな事。別に構わないわよ。そうだ♪ねえ、薫様?」
ことりの提案に母さんは軽く承諾すると、何かを思いついたのか薫さんに笑顔で声をかけた。
「な...何かな?」
薫さんは母さんの笑顔に少し顔が引きずっている。
「薫様がご用意されている家の近くに、私達親も住める家を建てていただけませんか?」
「はああぁぁ!?」
そんな母さんの提案に僕は驚きの言葉が出てしまった。
「あら良いじゃない♪そうすれば、皆さんも娘達の事を近くで見守れますし♪」
あんたがただ僕の近くにいたいだけだろ...
「ふむ...それは構わんが...他の家の者はどうする?ああ、金の事は気にせんで良いぞ」
太っ腹すぎるでしょ、流石に!
「僕は構いません。出費もしますよ」
薫さんの言葉にすぐに中野さんが反応した。
やっぱり娘の事そうとう好きだよね...
「ええぇぇと...全てをという訳にも...多少なら払えますので...」
「ん?別に金の事は構わんと言っている。そこまで気にするのであれば、立川家の今の家を今井家で買い取ろう。無論、原価でだ。それでどうだ?」
「いえ!ありがとうございます!娘の近くに住めるだけでも助かりますので!」
薫さんの言葉に芹菜さんのお父さんとお母さんは頭を下げた。
これからも苦労しそうだ。
「我が家も問題ありません。健介がこちらでまた議員になった場合には私しか秘書を務められませんから」
「おい!何か嫌味に聞こえるぞ」
「気のせいだ。私がお前といたいと遠回しに言ったんだよ」
「そうかそうか!」
おじさんの言葉に先ほどまで母さんの拳骨で沈んでいた父さんが起き上がり、頭を右手で押さえながら嫌味に聞こえると文句を言った。
それにおじさんは微笑みながら、父さんとただ一緒にいたいだけだと答えると、父さんはご機嫌な顔で笑った。
父さんって単純だよねぇ...ま、おじさんが父さんと一緒にいたいって言うのも本当だろうしね。
「よし!今後の方針は大体決まったな。細々な事は今後話し合っていくとしよう。達郎飯にするぞ」
「はっ!」
こうして五月の計画はうまくいき、僕達は今井家の用意してくれた昼食を食べることになるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回のお話で五月の計画が実を結ぶ事となりました。
今後も和彦は大変さと幸せさ両方をかね揃えた生活を送っていくかもしれませんね。
そして、和彦自らお願いしたように今後のお話では和彦と五月の夫婦生活を書ければなと思っております。
さて、次回のお話ですが、今井家での昼食会の一コマを書かせていただこうかと思っております。
次回の投稿は5月5日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。