その後は今井家の用意された豪華な昼食会となった。
皆ご満悦な様子で食事を続けている。
「ん~ん♪どれも美味しいです♪」
僕の横で食べている五月ももちろんいつも通り美味しそうに食べている。僕はこの顔も好きだ。
「そんなに美味しいなら僕のもあげるよ。ほら、あーんして…」
そして、微笑みながら僕のおかずを箸で摘まむと五月の口元に持っていった。
「え……えっと…あ…あーん…あむっ…」
少し迷った五月ではあったが、すぐに口を開けて僕の箸からおかずを口に入れた。
「美味しい?」
「は…はい……」
美味しいか聞くと、先程の満天の笑顔ではなく、どこか幸せを噛みしめている。そんな笑顔だった。
「あーあ…見せつけっちゃってまあぁ……」
「本当です。しかも私たちの目の前でだなんて」
そんな僕達に二乃と芹菜さんがチャチャを入れてきた。
二乃は若干不機嫌そうな顔で、芹菜さんは頬を膨らませている。
他のメンバーも一花は笑っているものの、だいたいが同じようにジト目であった。
「良いだろ別に。こういう事くらい」
「そりゃあ、お兄ちゃんとお義姉ちゃんは夫婦だから良いかもだけど。ねえ?」
「そうねぇ…私達をほったらかしにするのはどうかしらね♪」
飛鳥の言葉に一花以外がうんうんと頷いている。
ため息をつきながら五月を見ると笑いながら答えられた。
「仕方ないですね。頑張ってください、和彦さん♪」
「ああぁぁ~…もう、一口ずつだよ?」
僕の言葉に皆が笑顔になった時、憂が立ち上がりながら薫さんに質問をした。
「お父様。
「ん?おう!じゃんじゃんアピールしてこい!」
「ふふっ…ありがとうございます。綾那行きますよ」
「は、はい!」
は?
薫さんの許可が下りた憂と綾那は使用人の人にテーブルを移動させながらこちらに来て、芹菜さんの隣に並んで座った。
「ふふふ…仲間外れは許されませんよ」
「はいはい。じゃあ、綾那から順番ね」
「は、はい!あーん…」
そうして、一人ずつ口におかずを入れていった。
僕は餌ずけする親鳥か!
「ふふっ…芹菜のあんな顔初めて見たわ」
「そうだな」
芹菜さんの両親は嬉しそうに話している。
まあ、芹菜さんも幸せそうな顔をしてるからな…
「はぁぁ……」
一方の中野さんからはため息が聞こえてきた。
呆れ顔をしているのが目に浮かぶよ。一花は一花で面白そうだってニヤニヤしながら便乗してるし…
「はっはっはっ!愉快な光景だ!」
「ふふふ…和彦様も大変ですね」
今井夫妻からは笑いながら話している声が聞こえる。どうも達郎さんも笑っているようだ。
マジで恥ずかしいんだが……
「全く…早くも尻に敷かれてるではないか…なあ?て……あれ、おい文香はどうした?」
「はぁぁ……あの人がこれに便乗しないはずないだろ……」
「あーん…♡うーん、お兄ちゃんありがとう♡」
最後のことりに食べさせた後、何やら不穏な言葉が父さん達から聞こえたんだが…
「和彦、あーん…♡」
「何やってんの母さん?」
いつの間にか自分の料理が乗ってるテーブルごと移動していた母さんが、ことりの隣で口を開けて構えていた。
「いつの間に……相変わらず行動が早いですね、おば──」
「何かな?飛鳥ちゃん?」
母さんの行動力に呆れながら、おば様という言葉を口にしようとした瞬間、母さんは笑顔で飛鳥を見ている。
まあ、これは笑顔という名の殺気なんだけどね。ことりのあれは母さん譲りでもある。
「い、いえ!文香さんは和彦さんがとても好きなんだなぁ…と」
「ふふっ…♪もちろんよ♡てことで、あーん…♡」
流石の飛鳥もこうなった母さんにはたじたじである。
「いや、しないから」
「何でよ!皆に平等なんでしょ!?」
「いや、それは彼女達であって、母さんは含まれてないから」
断る僕に文句を言う母さんではあるが当然の言葉で僕は返した。
「ぶうぅぅ…ねえ、五月ちゃん?」
「えぇっ…!?な…なんでしょう……」
僕の言葉に頬を膨らませた母さんは、笑顔で五月に声をかけた。
「私は駄目?」
「え…え~とおぉ……」
目をうるうるさせて五月をじっと見ている母さんであったが、五月は困りことりや飛鳥に目線を移した。
そんなことりと飛鳥は力無く首を振った。
「そ…そのくらいでしたら…良いのではないでしょうか…親子仲良くが良いでしょうから……」
「あらぁ♪やっぱり五月ちゃんってば良い子ね♪私の目に狂いはなかったわ。てこで、あーん…♡」
「はぁぁ……」
僕は諦めて母さんの口におかずを持っていった。
「あむっ…♡じゅるッ…ふふっ…美味しいわ♡」
この母親は僕の箸に唾液を塗りつけてきやがった。
ご満悦な母さんの顔と自分の箸を交互に見ながらそう考えていた。
「……あれは、ヤバイわね…」
「うん…私たちで守らないと…!」
「皆で力を合わせましょ!」
そんな母さんの行動を見て、二乃と三玖と芹菜さんが固く心に誓うような声で話していた。
これで、皆の絆が深まったから良い……のか?
そんな事もありながらも、昼食会は和やかに進行していった。
そんな昼食会も終わりを迎えようとした時、僕は箸を置いて父さんに話しかけた。
「ねえ、父さん」
「ん?何だ?」
「溜まってる鬱憤晴らしたくない?」
笑みを浮かべながら僕が話しかけると面白そうだといった顔で父さんは僕を見た。
「ほおぉぉ~…俺とやろうってか?」
「ああ。今の僕の実力を量るには良い人選だと思ってね」
「ふん!良いだろう!お前の鼻っ柱をへし折ってやるわ!今井さん、道場や道具をお借りしても?」
僕の挑発に乗った父さんは薫さんに上機嫌な声で声をかけた。
「うむ!達郎、すぐに準備を!」
「はっ!」
「あ、ちょっと待ってもらいますか?」
父さんのお願いに二つ返事で受けて達郎さんに指示を出そうとした薫さんに僕は待ったをかけた。
「母さん」
「んー?なーに?」
「四葉の相手をしてやってくれないか?」
『───っ!!』
「ふ~ん♪」
僕の母さんへの提案に全員が驚きの表情でいた。
「ちょっと!お義母様も経験者なわけ!?」
「うん。しかも相当強いよ。お兄ちゃんの師匠でもあるから。私なんてポイント取った事ないんだもん」
二乃の驚きにことりが緊張した声で答えた。
「私が今までにポイントを取った事がないのは、お兄ちゃんとお母さん。そして……」
ことりが話しながら視線を四葉の方に向けた。
「四葉の三人だけ…」
「……っ!」
四葉を見ることりの顔は挑発的な笑みだったので、四葉は目を見開き固まっている。
「へえぇ~…ことりちゃんからポイント取られたことないんだ。凄いね♪」
「ほお。あの
「うっ…」
「ぷっ…」
ことりの言葉に母さんと薫さんは関心した声で話した。
しかし、薫さんの『狂乱の乙女』というワードにことりは顔をしかめ、飛鳥は笑いを堪えていた。
「?狂乱の乙女…?」
「何それ?」
薫さんの言う狂乱の乙女というワードに三玖と一花が反応した。
「ふふふ…ことりさんの二つ名ですよ。試合前は凛とした可憐な乙女ですが、いざ試合が始まると狂乱するように暴れますからね。それも相手が強ければ強い程、機嫌良く殺気を放ちながら闘う。以前、綾那と試合をした時のことりさんを観た方は分かると思いますよ」
「な…なるほど…」
狂乱の乙女の意味を知らない人に向けて、憂がことりの二つ名の由来を説明した。
その説明を受け、試合を観ていた五月が納得したように呟いた。
「あれ、私認めてないんだからね!誰よ、あんな事言い出したの!」
「ぷっ…あはは…本当よね。考えた人センス良いわ♪」
「良くないよ!そのお陰で、試合会場行くと皆怖がって話もしてくれないんだから!中学の友達にも笑われたんだよ!」
実際に狂乱の乙女というワードをことりは認めていないのだ。むしろ言われる事を嫌っている。
だが、飛鳥のように笑ってからかう友人もいるのだ。
「カ…カズヒコさんは…そういうのないの…?」
そこで三玖から僕の二つ名が無いのか聞かれた。
「ああぁぁ…あったような…無かったような…?」
僕も恥ずかしさのあまり言葉を濁した。
「師匠の二つ名は
そこへ綾那が自信たっぷりな表情で三玖の質問に答えた。
「「「「??」」」」
「麒麟児…」
言葉の意味が分からない五つ子は三玖以外が頭にはてなマークがついているのではないかという顔をしていた。
そんな中三玖だけは麒麟児という言葉に反応した。
まあ、歴女ならそうだよね。
「へえぇ~…和彦さんらしい二つ名ですね」
そんな中、芹菜さんは言葉の意味が分かっている為か僕に合っている二つ名だと言ってきた。
「芹菜さんは分かるんですか?」
そこに四葉が芹菜さんに質問をした。
「うーん…言葉の意味だったら。まずは明朗。性格が明るく朗らかなことだったり、嘘や誤魔化しがなく、明るいことなんかがあるの。以前綾那さんと闘っていた時の和彦さんは笑顔でしたから。多分、試合の時も明るい表情でされてるんじゃないかしら。後、明朗なという言葉は和彦さんの使う明鏡止水と類義語にもなってるの」
「流石は先生ですね。正にその通りです。和彦様は相手が強ければ強い程楽しいのか笑顔になるのです」
芹菜さんの予想に憂が正解だと伝え、更に補足も入れた。
「そして、麒麟児は将来大成すると期待がもてる、すぐれた若者という意味もあるのよ。和彦さんは中学から負けなしですからね」
そこに飛鳥が麒麟児の言葉の意味とその理由も説明した。
「多分、三玖は麒麟児にはピンとくるんじゃない?」
「うん…!山陰の麒麟児…
僕の言葉に三玖は興奮するように話した。
「誰よそれ…」
当然のように二乃が誰かと三玖にツッコミを入れた。
「まあ、教科書にも載らない武将だからね。仕方ないよ。戦国史好きには外せない武将なんだけどね」
「しかしそんな武将の名を知っているとは。中野さんの娘さんは博識ですな!」
「…恐縮です」
そんな二乃の言葉に僕は知らなくても仕方ないと伝えた。
そんな中、薫さんが三玖の知識が高い事を中野さんに評価すると、少しだけ照れながら中野さんは頭を下げた。
「あのぉ~…少しよろしいでしょうか?」
そんなところに芹菜さんのお母さんがおずおずと手を挙げた。
「お?どうされた?」
それに薫さんは優しい声で声をかけた。
「い、いえ。実は最初から気にはなっていたのですが…和彦さんって、あの吉浦和彦選手本人なのでしょうか?」
「おう。何だ立川夫人は和彦殿の事を知っているのか?」
「はい♪実は大ファンでして!」
え、そうなの?
薫さんの肯定する言葉に芹菜さんのお母さんは興奮するように答えた。
「ん?そんなに有名な方なのか?」
「あなた知らないの!?吉浦選手は空手界では有名で、中学生の時から試合では負けなしなのよ?」
「そ…そうなのか…」
芹菜さんのお父さんは知らなかったようで、そんな芹菜さんのお父さんの言葉に芹菜さんのお母さんは興奮するように語った。
そんな芹菜さんのお母さんの興奮度に芹菜さんのお父さんは若干引いている。
「ま、まあまあ…えぇと、お義母さんで良いでしょうか?」
「あの!私の事は
「は、はい。えっと…紬さん。空手は野球やサッカーなどと違ってテレビ中継などほとんどありませんから、旦那さんが知らないのも無理ありませんよ」
芹菜さんのお母さん改め紬さんに対して、芹菜さんのお父さんが知らなかった事をフォローしておいた。
すると紬さんは顔を赤くして喜びの表情になっていった。
「ど、どうしましょう……あの吉浦選手に名前を呼ばれるなんて…しかも、ファンクラブの皆さんが言ってるような優しい方……」
「お、お母さん?」
紬さんの豹変振りに流石の芹菜さんも声をかけた。
「芹菜!なんで早く教えてくれなかったの!?職場に吉浦選手がいるなんて!」
「ええぇぇ~!?それは……だって私男の人とか昔から興味なかったから。和彦さんが空手してたなんて最近知ったのよ」
「そうよねぇ~…あの!後でサイン。後、握手してくれませんか?」
声をかけた芹菜さんに興奮するように紬さんが僕の事を何故今まで教えてくれなかったのかと聞いた。
それには芹菜さんも驚き、自分が昔は男の人の事に興味がなかったからと説明した。
そんな芹菜さんの説明に納得した紬さんは僕にサインと握手を求めてきた。
「へ?ま、まあ、それくらいなら。と言うかサインなんて持ってないので名前を書くことくらいしか出来ませんが…」
「それでも構いません!ありがとうございます!後で皆に自慢しないと♪」
僕の返事に歓喜の声で返事をした紬さんはご機嫌な様子で座っている。
「ふふっ…♪これは面白いかも…」
そんな紬さんの態度を見た母さんは笑みを浮かべながら何かを考えているようだ。
また、ろくでもないこと考えてないだろうなぁ…
「それで?どうなのさ、母さん?」
「ん?ああ、四葉ちゃんの指導をすれば良いのよね。良いわよ。和彦の頼みだもん♪私頑張っちゃう♪」
何やら上機嫌になって母さんは僕のお願いに承諾した。
「よし!達郎。それでは四人分用意しろ」
「はっ!」
薫さんの指示を受けた達郎さんはすぐに行動に移った。
「では、昼食も終わったら
薫さんの言葉に、昼食後は全員で本邸にある道場に移動する事となるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は和彦達の今後が決まった後の昼食会の一コマを書かせていただきました。
しかし、和彦が女性陣全員に食べさせていく光景は、何と言いますか羨ましいような大変なような気持ちですね。
そこに参入する文香。これから一波瀾ありそうです(^o^;)
二つ名については、ことりはすぐに浮かんだのですが、和彦は中々浮かばず色々と調べてこれにさせていただきました。
そして、芹菜のお母さん改め紬が和彦のファンであった事も判明しています。お父さんの名前は絶賛考え中です。
さて、次回は和彦の提案でもある、和彦の両親との模擬戦を書かせていただきます。
次回の投稿は5月10日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。