~今井家・道場~
道場に移動した和彦達は観戦する者と試合をする者で別れた。
観戦する者用に椅子が用意されており、観戦者はそれに腰かけている。
一方の試合組は胴着に着替えて、道場に戻ってきた。
「やはり凄い迫力ですわね。和彦殿は勿論ですが、吉浦夫妻も堂に入っておりますわ」
「だな。四葉殿は少々緊張しているようだが…」
胴着に着替えた四人の姿を見て、葵と薫がそれぞれ口にした。
「はあぁぁ~…♡和彦さんの胴着姿凛々しいわねえぇ~…」
「でしょ?私も最初見た時は見惚れちゃったんだから」
和彦の胴着姿を初めて見た芹菜が感激した声をあげると、二乃もまたそれに同意した。
「あ、あの!薫様!写真や動画は撮っても良いのでしょうか?」
「ん?個人で観るのであれば構わんよ。SNSに流すのは許さんがな」
「勿論です!」
そこに紬が撮影の許可を薫に求めると、個人として楽しむならと少し圧をかけて許可をした。
それには紬も勿論だ、と薫の圧にも気にせずスマホを構えた。
「あれは本物のファンね」
「あはは…まあ、しっかりとした方みたいだから問題ないんじゃないかな」
そんな紬の様子を見ていた飛鳥とことりは驚きの表情になっていた。
「それにしても先生のお父さんって大きいね。先生も背が高いけど、二人が並ぶと全然違うよ」
「健介は和彦君に負けて大会に出なくなったものの、トレーニングはしっかりしてたからね。あれでもマメな男なんだよ」
一花が健介のガタイの凄さに驚いていると、茂が眼鏡のブリッジを右中指でくいっと上げながら説明した。
「和彦殿も凄いが吉浦先生も現役時代は凄かったのだぞ。まあ、実際に試合を観てみれば分かるがな」
茂の説明に薫が続けて健介を絶賛した。
「なんか、さっきの広間でのやり取りでのイメージしかないから、試合の感じがあのままじゃないかって想像しちゃうのよねぇ...」
「あはは!そこは仕方ないよ。でも、お父さんの空手に関する想いだけは私は認めてるんだ」
先程の健介の行動や発言が脳裏に焼き付いてしまった二乃としては、そのまま試合の行動へと移行してしまうようで、申し訳ないように呟いた。
それには、ことりも仕方ないと言いつつも健介の空手にかける想いだけは認めていると伝えた。
そんな中、どうやら和彦と健介の試合が先に行われるようで、四葉と文香の二人が観戦組の方に歩いてきた。
本当の試合のように、四隅に旗をもったものが椅子に座っており、主審は達郎が務めるようである。
「あれ...?二人ともヘルメットしないの...?」
そこに三玖が、和彦と健介の二人がヘルメットをせずに中央に向き合って立っているので疑問を投げかけた。
「高校生の大会では被りますが、試合によっては防具なしが主流なのですよ」
三玖の疑問に憂が二人の試合が始まるのを見守りながら答えた。
「え!?それじゃあ、怪我するじゃん!」
「それだけの試合に出る方達であれば大きな怪我をすることはないわ。ただ、中には気を失う人もいるけどね。そうなると負けになっちゃうんだけどね」
一花の驚くような声に飛鳥が説明をした。
「和彦さん......」
そんな中、五月が両手をギュッと握り祈るように和彦を見ていた。
そんな五月の姿を満足そうに見ていた文香が四葉に語りかけた。
「そういえば四葉ちゃんはさっき和彦に何か言われてたわね」
「は、はい!えっと......自分だけじゃなくて、お義父さんの方の動きも観ておくようにと...」
「ふ~ん...」
(あの子何か考えてるのかしら...)
緊張気味に四葉が文香の質問に答えると、また四葉は真剣な表情で二人を見ていた。
そんな姿を見て文香は、和彦が何かを考えてこの試合を組んだのではないかと考えていた。
そこで達郎のコールで試合が開始された。
「はじめっ!」
ズンッ...!
『───っ!!』
試合が始まった瞬間両者の闘気がぶつかり、その余波が観戦組まで飛んできた。
「何だこれは!?」
「くっ......」
闘気の余波に当てられた芹菜の父とマルオは驚き悪寒を感じていた。
「しっかり気を持っておけよ!でないと、持っていかれるぞ!」
そこに全員に対して薫の大きな声が響いた。かく言う薫自身もこの闘気のぶつかり合いに内心動揺をしていた。
すぐに動きがあるかと思われた二人であったが、二人とも相手の出方を見ているのか、間合いを取りながら少しずつ動く程度であった。
「へええぇぇ~...本当にさっきの態度とは思えない程落ち着いてるのね、和彦のお義父様」
「これは......」
そこに綾那が何やら気づき声が漏れた。
「?綾那。どうしましたか?」
「いえ──」
綾那が説明をしようとしたところに動きがあった。
「!?カズヒコさんから動いた...!」
「早い!」
和彦の動きに三玖と芹菜が口を開いた。
芹菜が口にするように、和彦の攻撃は早く、一般の人には見えない程だ。だが、その攻撃も健介には防がれ、逆に健介の突きが和彦を襲う。
それを和彦は明鏡止水でいつもの如くいなした。だが──
「ぐっ......!」
次の瞬間には和彦の脇腹辺りに健介の左蹴りが入っていた。
「技あり!」
それを見た達郎が宣言をする。
「......っ!?なんで!?いつもだったら、そのまま相手が体勢を崩すのに!」
先程の流れを観て二乃が驚きの表情で口にした。
「......普通の人であればそうでしょうね。でも、あの人に和彦の明鏡止水は効かないわよ」
二乃の疑問に文香が冷静に答えた。
「?どういうこと...?」
そんな文香の答えに三玖が疑問を投げかけた。
「う...うーん。説明が難しいんだよねぇ...」
そんな三玖の疑問にことりが困ったように答えた。すると、四葉が二人の方を見たまま口を開いた。
「多分、先生のお義父さんは心を無の状態にしているんだと思います」
「!!」
「へええぇぇ~...♪」
そんな四葉の言葉に薫は驚き、文香は笑みを浮かべて楽しそうな顔をしていた。
「そうなのですか、綾那?」
「い、いえ。私も確信までには至らなかったのですが、どこか様子がおかしいということぐらいしか...」
憂の質問に答えた綾那は自信無さ気に答えて四葉を見ていた。
その四葉は笑いながら、ワクワクした表情で二人を見ていた。
(この人はどこまで......)
そんな四葉の姿に綾那はただ驚くしかなかった。
「つまりどういう事なのですか?」
そこによく理解が出来ていない芹菜が問いかけた。
「和彦さんの使う明鏡止水は相手の行動を予測して使う技でもあるの。つまり、和彦さんのお父さんが心を無にしてしまうと、和彦さんも行動が読めないのよ」
「え!?でも、先生は昔お父さんに勝ってたんだよね?」
和彦の明鏡止水が健介に効かない理由を飛鳥が説明したのだが、一花が更に質問を返した。
「私も小さかったからよく覚えてないんだよねぇ」
「そこは、私も飛鳥も一緒だよ。何でお兄ちゃんはお父さんに勝てたんだろ?」
一花の質問に、結愛とことりが覚えていないと答えた。
「はじめっ!」
丁度そこで次の試合の合図が出されたので、和彦と健介は構えて様子を伺っている。
「はぁぁ......全く。あれ程明鏡止水に頼るなと言っておいたのに......」
そんな和彦の様子を観ていた文香がため息混じりに呟いた。
「え......それってどういう──」
ため息混じりの文香の言葉にどういう事なのか三玖が聞こうとしたところでまた和彦から動いた。今度は先程とは断然違う速さの動きである。
「ほお...あれが雷霆か......」
「お見事ですわね。ですが......」
和彦の雷霆を見た薫と葵は見事と称賛するも、その和彦の攻撃は見事に健介によって避けられた。
健介はそのまま突きで和彦の腹に入った。
「ぐはっ......!」
「有効!」
健介の突きに和彦が膝をついてしまった為に五月が立って駆け寄ろうとしたのを文香が止めた。
「五月ちゃん駄目よ!」
「で、ですがっ...!」
「今は試合中。そのまま五月ちゃんが駆け寄ったら和彦の負けよ」
「...っ!!」
あくまでも冷静に返す文香の言葉に、五月は和彦に駆け寄る事を踏み止まり、また自分の席に着いた。
「ふふふ...やっぱり五月ちゃんは良い子ね。大丈夫よ。貴女の夫となった和彦はそこまでやわじゃないわ」
五月の行動に笑みを浮かべながら文香は和彦に目を移した。
膝をついた和彦はすぐに立ち上がりまた開始位置に戻った。
(やっぱ中途半端な技じゃ駄目か...どこかで驕ってたのかもな...)
通じないと分かっていても、今までこれで勝ち上がってきた事でどこか心の隅でいけるのではないかと思っていた和彦だったが、歯が立たずただただ技に頼りきっていた自分に悔やんでいた。
「ふっ…どうした?お前はここまでの男だったか?」
そんな和彦に笑みを浮かべながら健介は語りかけた。
「まさか……」
「ふっ…そうでなくてはな」
健介の問いに和彦は笑いながら答えたので、健介は更に上機嫌となった。
そんな和彦の笑みに安堵した憂が文香に問いかけた。
「文香様。先程の明鏡止水に頼るなというのはどういう意味なのでしょうか?あれ程の技が通じない相手など早々いないかと」
「ふぅぅ...現にいるじゃない。今和彦の目の前に」
「!」
憂の問いかけに文香はため息混じりに答えたので、意表をつかれた表情で憂は返せなかった。
「明鏡止水。確かに凄い技ではあるが......あれ頼りではとてもじゃないが今の全日本選手権など戦えんな」
「そうですわね。和彦殿色々と研究されておりますから。追われる立場の人間の宿命ではありますがね」
憂の変わりに薫と葵が今の和彦の実力では全日本選手権では戦えないと答えた。
そんな二人の言葉に和彦を慕っている女性達からは言葉が失われた。
「はじめっ!」
そんな中三本目の試合が開始され、両者が先程と同様に睨み合いが続いていた。
「お父様。健介様のあれも何かの技の一つなのでしょうか?」
「ん?技って程でもないが......吉浦先生がまだ現役で試合に出ていた時にはこう呼ばれていた。
「貴女も知っているでしょう?
「また武田信玄の兵法...」
憂の質問に薫が健介の使っている技の名前を伝えると、葵が続けて技の名前の由来を憂に説明した。
そんな葵の言葉に三玖が呟いた。
「カズヒコさんの雷霆。動くこと雷霆の如し。ことりの烈火。
「そして、和彦さんのお義父様が静林。
三玖の言葉に芹菜が続けた。
「つまり一家総出で
和彦と健介の攻防が続かれるのを観ながら、薫はため息混じりに語った。
「一家総出......てことは、おば...じゃなかった。文香さんも何か技を持ってるの?」
薫の一家総出という言葉に気になった結愛が、文香におばさんという言葉を使おうとしたところで、文香からニッコリと笑顔を向けられたので、呼び方を変えて聞いた。
「んーー?それは秘密♪だって今から四葉ちゃんとの試合が控えてるんだもの。早々と教えられないわ」
「有効!」
そんなお茶目な顔で結愛の質問に文香が答えると、達郎の判定の声が上がった。どうやら健介の突きがまた決まったようだ。
「えっと...試合ってどうなれば勝負がつくんだっけ?この間のことりの試合は途中で終わっちゃったから」
そこに一花が改めて空手の勝敗の決まり方を質問した。
「基本的に八ポイント先取、もしくは二分という時間内にポイントがリードしていた方が勝ちと定められています。ほとんどの場合が時間制限での勝敗ですね。私たち部員が師匠と試合している時は実力差があるので八ポイントを簡単に取られてしまいますが......この間行われた、ことりさんと四葉さんの模擬線では、四葉さんが一ポイント取り、そのまま時間切れとなりましたが、そういう試合が多くあります。後は、反則行為が多いと失格となりますが、これはほとんどありません。また、相手の攻撃を受け十秒経っても立てない場合も負けとなります」
一花の質問に綾那が詳しく説明した。
「現在健介様の四ポイントリードのまま、残りは一分も切りましたね」
「え!?それって先生ヤバイじゃん!」
憂が現状を伝えると、一花が驚きの声で返した。
「そうです。こんな和彦様の試合は初めて観ますね...」
一花の言葉に真剣な表情で和彦を見ながら伝える憂に、他の和彦を慕う女性達は心配そうに和彦を見た。
「大丈夫だよ!」
そんな中、唯一和彦が勝つ事を信じ切っている者が声を出した。四葉である。
「先生の顔すごいワクワクしている顔だもん。きっとここから巻き返すよ!」
『───っ!』
そんな四葉の言葉に一同は驚き、和彦を慕っている女性達からは笑みが零れそのまま和彦を見続けた。
(この子......ふふっ...どうやら和彦はダイヤの原石を見つけたようね♪)
四葉の言葉に文香は準備運動を始めた。
その姿を見た薫と葵は驚きの表情に変わった。
「これはこれは...」
「あらあら......龍の目を覚ましてしまったようですわね」
そして二人もまた和彦と健介の試合に目を戻した。
一方の和彦は自分が崖っぷちである事は理解していた。それでもなお、逆転の目を探っていた。
(多分ここから父さんは守りに入る。そうなると、今までの僕のやり方では負けてしまう。くっ...何か...何か...)
そこで和彦は昔の自分の事を思い出していた。
『母さん!空手って楽しいね!』
そんな言葉を伝えながら笑顔で空手をしている自分の姿を。
(ふふっ......そっか......)
下を向いていた和彦はそこで頭を上げ、目の前の健介と向き合った。
(笑っている......しかも...これは...)
そんな和彦に健介は違和感を感じていた。
「はじめっ!」
丁度そこで達郎のコールが響いた。次の瞬間──
「ぬっ......!」
今までとは違い和彦の猛攻が開始された。それを何とか健介は捌くも和彦の手の多さに押され始めた。
(こいつっ......!)
「!あれって、ことりの....」
「烈火だ!」
そんな和彦の動きに飛鳥と結愛が反応した。
「ああぁぁ、入っちゃったか...健介さんも頑張ったんだけどなぁ...」
「え?」
文香の残念そうな声に憂が不振に思うも、次の瞬間には思いもよらない光景が目の前に広げられた。
「はっやっ......何も見えないわよ!」
「凄い...」
「これは......ことりさんの烈火に師匠の雷霆を混ぜている?」
「おいおい。嘘だろ...」
常人には目にも止まらない早さでの和彦の攻撃に二乃と三玖の口から言葉が零れた。
そこに、信じられないといった言葉で綾那が語ると、薫も驚きの表情となった。
「くっ...!」
「......一本!」
そこに和彦の右上段蹴りが健介の頭にヒットした。あまりの早さに、達郎も見逃しそうになった程だ。
頭に攻撃を受けた健介は何とか踏み止まったが、ぐらんぐらんとしていた。
(こいつうぅぅ......あの状況下で当てる寸前に力を抜きやがったっ...!)
そう。和彦は健介の頭に蹴りが入る寸前に力を抜いた為に、健介は今尚立っていられるのだ。
(ふん…あくまでもポイントで勝つってか。面白い!)
健介は笑みを浮かべながら定位置についた。
向かいの和彦には先程までの楽しそうな笑顔ではないが、口角は僅かに上がっている。
『やったー!!』
観戦組の方では和彦を慕っている女性達が歓声の声をあげていた。
「お父さんは今の和彦さんの動き見えた?」
「ふぅ……いや、途中で限界だな。健介もよく耐えたよ」
そんな中、緊張気味に飛鳥が父親の茂に確認するとため息混じりに答え、健介もよくやっていると伝えた。
「あ、あの!」
「ん?どうしたの?四葉ちゃん」
軽い準備運動をしながら観戦をしていた文香に興奮気味に四葉が話しかけた。
「先生の回りに靄みたいなのが見えるのですが!」
「へえぇぇ~…あれが見えるんだ。多分見えてるのは、私と四葉ちゃんだけよ。ことりちゃんに聞いたけど無我の境地に以前四葉ちゃんは入ったのよね?」
四葉の言葉に関心しながら文香は話し始めた。
「は、はい!私は記憶がないんですけど...」
「始めは誰だってそんなものよ。今の和彦はね、その無我の境地の先。
「こ…こううん…?りゅうすい?」
「あはは…四葉ちゃんは四字熟語はちょっと苦手かな。行雲流水って言うのはね、流れゆく雲や水のように、物事に執着することなく自然の流れに身を任せることを指すの。流れに逆らわず身を任せる生き方を意味するのが一般的ね。昔の和彦の空手はそんな感じだったのよ。自然の流れに身を任せ、己の努力で身に付けた型を相手にぶつける。そんな闘い方をしてて健介さんも圧倒してたんだけど、明鏡止水を使うようになってからはなくなったかなぁ…相手の動きに合わせるようになっちゃったから。ま、あれはあれで凄い事なんだけどね!」
「それって、とても凄い事なんじゃ!?」
「ええ。あの状態に入ったら誰も止められないわね」
(ま、今の全日本選手権には
四葉は文香の説明に更に興奮した状態でまた試合観戦に戻った。
そんな四葉を見ながらも、今の和彦でも倒せない人物がいることを機嫌よく思いを寄せていた。
「はじめっ!」
そして次の試合の合図が開始されたのだが。
「ほう。吉浦先生は
先程までの健介の構えが変わった事に、薫は関心したように呟いた。
「お父様。不動の構えとは?」
「動かざること山の如し。孫子の一説の一つから取った吉浦先生の防御の技の一つですよ。動かずどんな攻撃も耐え抜き、防御に徹底するのです」
憂の問いに葵が代わりに答えた。
「し、しかし!それでは審判から忠告を受けるのでは?」
葵の説明に綾那が聞き返した。
「確かにある一定時間何もしないと忠告を受ける。だが、今の状況であれば和彦殿は攻撃をしなければならずそれに耐えているとみなしある程度は見逃す審判も中にはいる。使い時が大事と言う訳だ。それに、あれはカウンターも狙いやすいしな。全く動かないという訳でもないのだ」
「な…なるほど…」
薫の説明に綾那は理解しまた試合観戦に戻った。
(さ~て…どうくる和彦。はっ……!)
「「「───っ!!」」」
健介は和彦の次の攻撃を楽しみながら待っている。だが、和彦のある所が先程までと違い驚いてしまった。
和彦はいつも通り構えているだけ。だが、健介以外にも観戦している中で、四葉と綾那と茂は和彦の様子にいち早く気付き、驚きの表で固まっていた。
「彼は正に麒麟児と呼ばれるだけはあるようだね…」
そこで驚きの声で茂が言葉を漏らした。
「ん?どうしたの、お父さん?」
そんな茂に飛鳥が疑問を投げかけた。
「彼は今、静林を使っている」
『えぇぇっ!!』
飛鳥の問いに茂は右中指で眼鏡のブリッジを上げながら答えたのだが、それには観客全員が驚いていた。
「ぜ…全然わかんないよぉ」
「私にもよ。いつもの和彦さんにしか見えないわ」
結愛の違いが分からないという言葉に、飛鳥も同意するように答えた。
「………憂。お前は雷霆の弱点を知ってるな?」
「は!?あんなのに弱点とかあるの!?」
茂の言葉に顎を手で撫でながら薫が憂に問いかけると、それに二乃がいつもの調子で反応したものだから
「あ……ご…ごめんなさい…」
そんな周りの様子に二乃は身を縮めるようにして謝罪の言葉をかけた。
「はぁぁ…申し訳ない今井さん。うちの娘が……」
「はっはっはっ!構わんよ。この仲間内であればいつもの調子で問題ない」
そんな二乃の行動に、マルオは頭を抱えながら薫に謝罪した。
そんなマルオに笑いながら問題ないと薫は答えた。
そんな中、憂は顎に握られた拳を当てながら考え答えた。
「………早さ故の単発性でしょうか…」
「そうだ。確かにあの雷霆という技は早い。が、その早さ故に連続使用が出来ん」
「え…でも、この間四葉と試合してた時は連続で使ってたよ…?」
憂の答えに薫は肯定した。しかし、その薫の説明に三玖はこの間は連続使用していたと聞き返した。
「あれは、和彦様と四葉さんが雷霆と明鏡止水を交互に行っていたからです。つまり
「なるほどぉ…」
三玖の疑問に憂が答えると一花が納得したように言葉を溢した。
「そしてこれが致命的ではあるが、あまりの早い攻撃に次の動作まで時間がかかってしまう。まあ、本人にしてみればほんの少しなんだろうがな」
「つまりカウンターを受けやすいという事です。先程の試合のように」
更に薫から致命的な欠点が追加され、それに憂が補うように説明した。
「高校生相手ならば問題ない。だが、全日本選手権では話が違う。特に今年は豊作な人材が多く出場するからな。和彦殿の下の世代がとんでもない事になっている」
「もしかして、それでお兄ちゃんはお父さんにこの試合を」
薫の今年の全日本選手権の顔ぶれが過去よりも凄い事を説明すると、ことりが今回の試合を組んだ理由がそれなのかと感ずいた。
「恐らくは。
ことりの言葉に憂がそうであろうと答えた。
「だが……和彦殿は見事に答えを出したようだな。ふっ…あんな化物にまでなってしまうとは」
「そうですね。吉浦先生の静林……あれが使えるとなると雷霆を止める術はありませんからね」
今現在の和彦の状態を見て、薫は笑いながら和彦の成長期を喜んでいた。そこに葵が捕捉するように続いた。
「あの…その静林が使えると雷霆を止められないとは?」
そこに芹菜から質問が上がった。
「雷霆は確かに早い攻撃だ。だが、初動に若干の動きが見られ、どこを狙っているのかが読まれるんだ。まあ、そこも健介などといった達人のレベルでないと分からない範囲ではあるけどね」
芹菜の質問に茂が眼鏡のブリッジを右中指で押さえながら答えた。
「それお母さんも言ってたけど、私にはさっぱりだよ……」
「ふふふ…ことりちゃんも精進あるのみね」
茂の説明にことりは自分には見切れないとぼやくと、文香が笑いながら答えた。
「しかし、静林が使える事で自分の動きを相手に予測が出来ないようにする。そんな状態で雷霆が使われれば──」
「一本!」
葵の説明の途中で和彦の上段蹴りが健介の頭を襲った。
「こうなるって訳だ」
『わあぁぁぁーー!!』
薫の説明など何のその。和彦を慕う女性達は立ち上がりながら歓声を上げた。
そして──
ブーーー!
試合の終わりを迎えるブザーが鳴り響くのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は和彦と父、健介の模擬試合を書かせていただきました。
文章では動きの速さが伝えにくいですね...僕の文章を書く能力が低すぎるせいでもあるのですが...
今回の話で出てきた和彦の技である行雲流水は、何か格好いい四字熟語ないかな、と色々と検索して探し出した技の一つですが、某テニスの漫画も参考にさせていただきました。
これもタグに入れた方が良いのか分かりませんが、必要であれば、後日入れさせていただきます。
次回は、四葉と和彦の母である文香の試合を書かせていただきます。
次回の投稿は5月15日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。