少女と花嫁   作:吉月和玖

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第十三章 新生活
145.特別顧問


「おらっ!どうした!お前はそこまでの男なのか!?」

「くっ...!まだまだぁー!」

 

今井家での五月との婚約会談とうちの両親に頼んだ試合形式を行った次の日。

この日も部活の指導に行けないと思っていたのだが、急遽うちの両親とおじさんを連れて練習に参加する事になった。

今は選抜された男子を父さんが、女子を母さんが指導している。

父さんは今は忠義の相手をしており、忠義を鼓舞するように声をかけると忠義はそれに応えて、また父さんに勝負をお願いしていた。

脇には既に限界の男子達が座り込んで息を整えており、その男子達に三玖が飲み物やタオルを配っている。

まあ、これもあって三玖に良いところを見せようと忠義は躍起になっている訳なんだが...

 

康恵(やすえ)ちゃん!今の動き良かったわよぉ♪綾那ちゃん!油断しないの!貴女なら今の防げたはずよ!」

「「はい!」」

 

一方の女子は、試合形式を母さんが見ながら指導している。

ちなみに康恵とは榊原の事で、母さんは全員を下の名前で呼んでいる。

その母さんの傍らには憂が立っており、こちらも休んでいる女子に飲み物やタオルを渡している。

ちなみに、ことりは今まで母さんの相手をしていた訳だが、何もさせてもらえず隅でガックリと反省をしている。

 

「空手や柔術という武術は体幹がものを言う。実戦であったり型のお披露目であったりでもだ。しっかりと励みたまえ」

『はい!』

 

そして、残りのメンバーにはおじさんに体幹のトレーニングを任せている。

そんなおじさんには型の選手権への候補者の選定もお願いしている。

空手は実戦だけではなく型の美しさを競う部門もあるので、そちらでも良い成績が残せればと考えていたが、どうも僕はそっち方面はちょっと苦手だから、どうしようかと考えていたところだったのでおじさんの存在は大いに助かっている。

そんなおじさんのサポートとして二乃が近くに控えている。

そして、四葉には別メニューを僕と母さんから指示を出している為に、結愛にはそちらのサポートについてもらっている。

 

・・・・・

 

~四葉side~

 

「ハッ...ハッ...ハッ......ゴールです!」

「お疲れ様四葉さん。はい、スポーツドリンク」

「わあ!ありがとうございます!」

 

和彦から別メニューとして課せられた四葉は、グラウンドを十周していた。

 

「タイムも問題なかったよ。ちゃんと和彦さんの指示通り」

「ししし。走りには自信ありますので!」

「でも......」

 

タイムが問題ないという結愛の言葉に、渡されたスポーツドリンクを飲み干しながら笑顔で四葉は答えた。

そんな四葉を見ていた結愛は不意に四葉の足首に巻かれている物を見た。

 

「そんな物を巻いて走ってでちゃんと指示通りに走るなんて、やっぱり四葉さんって凄いよね」

 

四葉の足首に巻かれている物はアンクルウェイト。重りをつけて負荷をかけているのだ。今四葉の足首に巻かれているアンクルウェイトの重さは一つ一キロ。つまり、両足でニキロである。

 

「あはは...まあ、最初は問題なかったんですが、やはり途中から結構効いてきましたね......でも!これで少しは先生に近づけたかと!」

 

結愛の驚きに四葉は乾いた笑い声で返すも、空を見上げて目標でもある自分の師匠の和彦に近づけていると、四葉は何か得たものがあるようで嬉しそうに笑っていた。

そんな四葉を結愛も嬉しそうに見ていた。

 

「そっか。じゃ、道場に戻ろっか。和彦さんに報告しないと」

「はい!」

 

結愛に道場に戻るように促された四葉は元気に返事をして、道場へと足を進めるのだった。

 

・・・・・

 

それにしても、父さんに母さんにおじさんと指導する人がいると僕のする事がないんだよなぁ...

一応、父さんの前に忠義達の相手をしたけど物足りなさを感じるし...うーん......

 

「どうかされましたか?」

 

色々と考えていたところに、隣で練習風景を見ていた紬さんから声をかけられた。

紬さんは母さんにお願いされ、今後の練習風景や試合などの撮影を任されたそうである。

今はあちこちにカメラを設置終えたので僕の近くで皆の練習風景を見ていたのだ。

 

「いえ、ちょっと。それより、母さんの我が儘に付き合っていただいてありがとうございます。大変助かりますが、ご予定とかは大丈夫なんですか?」

「はい。問題ありませんよ。何と言っても和彦さんの練習風景を見るだけでなく、お給料も出ますから♪」

 

僕の言葉に笑顔で紬さんが笑顔で答えた。

気のせいかもしれないが、昨日より距離が近いように感じる...

 

ガラッ...

 

そんなところに入口が開かれた音がしたので、振り返ると意外な人物が入ってきた。

 

「え!?葵様!?」

「御機嫌よう、和彦()()

 

さん?あれ、殿って昨日まで呼ばれてたような?ま、いっか。

笑顔を向けながら挨拶をする葵様に違和感を感じたが、今は気にしないようにしておいた。

よく見ると、入口には二人の黒服の男が立っているので、多分護衛の人達だろう。

葵様はそのまま歩いて僕の傍まで来ると賑やかな笑みで僕を見上げてきた。

結愛くらいに低い部類に入るのでそうなるのはしかたないけど、なんか葵様も近いような...

 

「それより、どうなされたんですか。このような場所に」

「ふふふ...和彦さんの練習風景を見学しようかと思いまして。後、ご報告する事もありましたから♪」

 

僕の質問に何だか上機嫌な声で葵様から返ってきた。後、やっぱり近いんだが...

 

「えっと...報告とは...?」

 

少し緊張気味に僕は答えた。

 

「ふふふ...そんなに緊張なさなくても良いのですよ。ああ、後(わたくし)に様は不要です。呼び捨てでも構いませんが...周りの方達が驚きますので、せめてさん付けでお願いいたします」

「し、しかし!薫様の奥様でもあるので、それは......」

 

葵様の提案に流石に承諾出来かねると伝えるも、葵様はなおもご機嫌な顔で話してきた。

 

「別に構いませんわ。何せ貴方は憂の子の父親になるのですから。言わば家族と言っても過言ではありませんし。夫も気にしないと思いますよ」

「............わ、分かりました...では......葵さんと...」

「はい♪」

 

僕の承諾に更にご機嫌な顔になった葵さん。

何かあったのだろうか?

 

「それで葵さん?報告とは」

「ああ、そうでした。実は文香さんから頼まれたのですが...」

「え?母さんから?」

 

僕が葵さんから報告内容を聞こうとすると意外な人物の名前が出てきた。

 

「ええ。吉浦先生と文香さんが帰られますと、和彦さんのお相手をする人がいなくなる事を心配しておりました。いくら高校生の相手をしても、和彦さんの実力は上がらないままだと」

 

やっぱりそこまで母さんも考えてたか。

 

「ふふっ...そのお顔。和彦さんも同じように感じてらっしゃったようですね♪」

 

僕の表情に出ていたのか、葵さんは扇子を広げて口元を隠しながら笑みを溢していた。

 

「そんな和彦さんの為。今井家の伝手を使って、色々な方への練習試合のオファーを今しているところです」

「え!?本当ですか!?」

「ええ♪返事もかなり良いですよ。県内は勿論。県外にも伸ばしております」

 

僕驚きに嬉しそうに葵さんは答えた。

これは嬉しいってものじゃないぞ。非常に助かる!

 

「和彦さんに喜んでもらえて光栄ですわ♡」

 

僕の喜びの気持ちが表情に出ていたからか、葵さんがとても嬉しそうな表情をしていた。

しかし......年上だからだろうか。何とも言えない妖艶さが醸し出されている。

 

「予定が決まりましたらご連絡差し上げますので、連絡先を聞いておいても?」

 

すると葵さんが自分のスマホを小さな鞄から取り出した。

 

「え!?僕に教えて良いんですか?」

「構いませんわ。先程もお伝えした通り(わたくし)達は家族も同然。和彦さんさえ良ければ、ですけどね」

「勿論構いませんよ」

 

葵さんから許可が貰えたのでその場で連絡先の交換をした。

 

「ふふっ...♡あ、練習試合に行かれる際には(わたくし)と紬さんをお供にしても宜しいかしら?」

「え?お二人を?」

 

葵さんからの提案に僕は、葵さんと紬さんの二人を見た。

紬さんは何やら恥ずかしそうにしているが...

 

「ご自身の試合動画を観られたいかと。それで紬さんにはカメラマンとして同行してもらおうと思っております。紬さんは構いませんか。ああ、勿論お給料も出しますよ」

「は、はい!私としては願ったり叶ったりです!」

 

葵さんの言葉に紬さんは両手を顔の前で祈るように握って目をキラキラしながら答えた。

 

(わたくし)はただの好奇心です。家にいても特にする事もありませんので」

「えっと......お二人がそう言うのであれば構いませんが...」

 

何か昨日と雰囲気がおかしいような...

 

「ちなみにですが、五月さんはお連れしますか?奥様でもありますし」

 

昨日との雰囲気の違う二人に疑問を持っているところに葵さんから質問された。

 

「いえ。妻とはいえ五月は受験生ですからね。受験の邪魔はしたくないのでことりや上杉に勉強を見てもらうようにお願いしようと考えてますよ」

「そうですか...」

 

僕の考えを聞いた葵さんは扇子を広げて口元を隠しながら目線を逸らして何かを考えていた。

 

「あら、お母様」

 

そこに母さんの近くにいた憂が、葵さんの存在に気付いたからか、こちらに近づいてきた。憂の後ろにはことりと綾那と母さんもいる。

よく見ると女子の方は休憩に入っているようだ。

男子の方は忠義が張り切って父さんに挑んでいる。

 

「こんな場所にどうされたのですか?」

「昨日の皆様の試合に感銘を受けましたので。それで、時間が空いたので足を運んだまでですよ」

 

憂の質問に葵さんは賑やかに答えた。

 

「はぁぁ~...結局今日もお母さんに何も出来なかったよ...」

 

そんなところに落ち込んだことりがとぼどぼと歩いてきて、僕の左腕に頭を押さえながら下を向いて落ち込んでいた。

 

「相性の問題もあるからね。でも、今のままだと四葉ちゃんに勝てないわよ。なんたって四葉ちゃんは和彦を模範にしてるからね」

「むうぅぅ~...」

 

母さんの言葉に更に落ち込んでいるのか、頭をずいずいとことりは僕の左腕に押しつけてきた。

そんなことりの頭にポンポンと右手で軽く叩いた。

 

「とはいえ、今更戦法を変える訳にもいかないしね。ことりの良いところを伸ばせるように僕も一緒に考えるから頑張っていこう」

 

軽く叩くのを撫でる方向に変えてあげた。

 

「えへへ~...にゃ~~ん...♡」

 

何故猫の鳴き声?

頭を撫でてあげることりからご機嫌な声が返ってきた。

 

「にゃ~~ん...♪」

 

そして何故かもう一匹目、僕の前で猫の鳴き声を発している者が現れた。

それは勿論母さん。顔の前にグーで握った手を持ってくるように肘を曲げて、猫のポーズでうるうるした瞳で上目遣いをしている。

他の男が見たら惹き付けられる程の可愛さはあるのは分かる。分かるのだが...

 

「............撫でないよ?」

「何でよ!!ことりちゃんばかりズルいじゃない!!私も頑張ってるのよ!!」

 

あくまでも母さんなので僕には通じない。

断りの返事をすると、一辺して駄々をこねる子どものように抱きついて文句を言ってきた。

 

「だああぁぁー!だからって、抱きつかない!生徒達の前なんだぞ!」

「いーやーだ!私もナデナデされたい~!」

 

離れるように引き剥がそうとするも益々声をあげて抱きしめる力を強くする母さん。もう注目の的である。

 

「あぁぁ~っ!もう分かったよ...」

 

結局観念して母さんの頭を撫でてあげた。

 

「えへへ~...♡にゃ~ご...♡顎も撫でて♡」

 

本当に猫か!

僕が撫でやすいように母さんは顎を上げてきたので、猫を撫でるように撫でてあげた。

 

「ふふふ...♡ゴロゴロ...♡」

 

僕の行動にご機嫌な母さんである。

しかもいつの間にか僕の左手を自分の頭に持ってきて、ご機嫌なことりの姿もあった。だが──

──っ!殺気...!!

バッと辺りを見回すと、頬を膨らませた二乃と三玖と綾那の姿があった。そして憂に至ってはニッコリと笑っていない笑顔を向けて、スマホを構えていた。

 

カシャッ...!

 

「えっと...憂?何故今写真を撮ったのかな?」

「ふふふ...勿論今の和彦さんの様子を皆さんに共有するためですわ。ええ、五月さんにも」

 

ああ......帰ったら何言われるんだろ...

 

う...羨ましい...

羨ましいですわ...

 

そこに何故かじっと見る紬さんと葵さんの姿があったのだが──

 

「和彦おぉぉっ!!」

 

それを気にさせないように父さんの怒号が道場内に響いた。

 

「お前のその性根たたっ切ってやるからこっち来い!」

 

はぁぁ~...やっぱそうなるか...

ことりと母さんの頭を軽く最後に撫でた僕は、やる気満々の父さんの待つ中央に向かうのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話から新章スタートです。
とは言え、いきなり新婚生活が始まった訳でも無いのですが...

健介に文香、そして茂の三人による特別顧問を受けている旭高校空手部の一同はより一層の実力をこれからも付けていくでしょう。

さて、次回はそんな空手部の練習時間の他のメンバーの様子を書かせていただこうかと思います。

次回の投稿は5月25日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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