翌日の五月六日。
「じゃーーん!」
「うわぁ~~、凄ぉい!五月さんの戸籍が吉浦五月になってる!」
朝早くから役所に来ていた僕と五月は、今日めでたく婚姻届を提出して見事に夫婦となることが出来た。
五月は早速戸籍謄本を役所で貰ってそれを役所の外で待っていた皆に見せると、結愛が感激するように言葉を発した。
勿論他の皆も注目しており、いつの間にか戸籍謄本は五月の手から奪われ、皆で回して見ていた。
「凄いわね。こうやって見ると本当に二人が夫婦なんだって思えてきちゃうわ」
「うん...!吉浦五月。ちょっと羨ましい...」
「だね。でも、私達には和彦さんとの子どもが産めるし、ここは五月さんを立てておかなきゃね」
五月の名字が吉浦に変わっている事がこうやって目に見えているので、改めて僕と五月が夫婦になったのだと二乃は感じ、それに三玖も同調しながらも羨ましそうな声が出ていた。
それに芹菜が、そこは仕方がないから自分達が僕との子どもを産める事だけでも喜ばないと、と皆に伝えるとそれに皆が頷いた。
「う~ん...それにしても吉浦五月ねぇ~...ねえ憂さん。これ改竄とか出来るの?」
「お望みとあれば可能ですよ」
「止めんか」
そして、戸籍謄本を両手で持って上を向いていた飛鳥が不意に改竄出来るのか憂に聞くと、可能であると返事があったので、すかさずツッコミを入れておいた。
「あはは...それにしても感慨深いですね。これで私たちも先生と家族ってことですよね?」
「そうだね。先生の方が年上なのに私たちがお姉さんってことだもんね」
「そうなると私が一番下になっちゃうけどね」
僕のツッコミを聞いた四葉は乾いた笑い声を上げながら、自分達と僕が戸籍上では家族になった事を感慨深いと話すと、一花からは自分達が年下でもあるのにお姉さんになる事を笑いながら話した。
それに対してことりが、そうなってくると自分が一番下だとこちらも笑っていた。
確かに僕が年上であることに間違いはない。だけど、戸籍上では、姉妹で一番下の五月と僕は結婚をしたのだから、一花達他の姉妹は
とは言え、僕達の間柄にそういったものは不要に思えてしまう。
「では、もう一つの用事もありますので、皆さん車にお乗りください」
そんな風に盛り上がっているところに綾那から車で移動をすると案内があった。
そのもう一つの用事というのは──
「うわぁ~~♪どれも綺麗♪」
「ホントよね。うっとりしちゃうわぁ~♪」
結愛と二乃がショーケースに並べてある指輪やネックレスといったアクセサリーを見てテンションが上がっている。二人以外の女性陣も同じような反応である。
ここはジュエリーショップ。今井家の御用達だとかで、少しの時間だけ貸し切りにしてくれたのだ。
まあ、やることは凄いがこんな大人数で急に来られても店側も迷惑だろうからこうやって予約してくるのも助かるのかもしれない。
「今井様。本日もご来店いただきありがとうございます」
皆が色々とアクセサリーを見ているところに、この店の支配人だろうか、少し歳が高めの男性が憂の近くまで来ると頭を下げて歓迎した。
「本日もお時間取らせていただきありがとうございます。本日は
「は、はい!」
まだまだ年若い娘とは言え、あの今井家のご令嬢が様呼びしてまで紹介をした五月に支配人は驚きの表情をしていた。
そんな支配人に負けない位の緊張した赴きで、五月は憂の前に出た。
「この方とあちらの男性の方が本日入籍いたしましたので、こちらで結婚指輪をと思っておりますの」
「そ、それはそれはおめでたい日にございます。ささ、どうぞ。気になるものがありましたら仰って頂きましたら、ショーケースから出させていただきます」
憂の言葉に支配人は、普通の女子高生であるとも知らず、へこへこと五月に案内を始めた。
まあ、今井家ご令嬢が様呼びしてるんだ。下手な真似は出来ないか。
「うーん...指輪と言ってもこれだけの種類があるのですね。和彦さんはどの様な物がいいですか?」
「ん?うーん...言い方がずるいかもだけど五月の好きなもので良いよ。時間もあるしゆっくり選びな」
「はい♡ふふふ...どれにしましょう♪」
僕の好みを聞いてきた五月ではあったが、僕は五月の好きなもので良いからゆっくり選ぶように促した。
すると五月は目をキラキラさせて、あれでもないこれでもないと色々と見ていった。
「ふふふ...今の五月様は可愛いですわね」
「同じ事考えてたよ。今回は本当に助かったよ。ありがとね憂」
扇子を開いて口元を隠しながら五月の姿に微笑む憂に、僕は頭を撫でながらお礼を伝えた。
「うふふっ...♡この位どうということでもありませんわ。ただ...先日のようにまた愛して頂けますと嬉しく思います♡」
頭を撫でられた憂はご機嫌な声で返してくると、扇子で隠すようにして僕にだけ聞こえるように伝えてくると、妖艶な笑みで舌を自身の唇を舐めてきた。
ああ...やっぱ火が付いちゃったか...
僕は心の中でため息をつきながら憂の頭をポンポンと軽く撫でるように叩いてそれに応えた。すると憂からは先程以上の喜びを感じ取る事が出来た。
しかし流石は今井家御用達。どれも値段が半端ないな...は!?一千万!?誰が買うんだよそんなの。軽い気持ちで指に嵌めたまま出歩けないぞ。てか、普通に僕では買えんな。
五月が指輪選びをしている横で、僕も色々と見ていたのだが、値段の高さに驚いていた。
五月にはどれでも良いって言ったけど、なるべく安いのにしてもらいたいというのが本音ではある。
「うん。ではこちらをお願いします」
五月が選んだのはシンプルなプラチナリングではあるが、三つの輝く小さなダイヤモンドがアクセントになったデザインである。
値段もまあ妥当であり、普通の人でも買える代物だ。
「あら、結構シンプルなの選んだのね」
「でも、五月っぽいかな」
五月の選んだ指輪を見た二乃と四葉がそれぞれ感想を口にした。
「あまり凝った作りですと学校に嵌めて行けませんので...」
「そうよね。あまり派手だと教師目線としてはちょっとね」
五月のこれを選んだ理由の一つとして学校に嵌めて行くのに派手すぎない方が良いと伝えると、それに芹菜は同意した。
そんな会話を支配人も含めてショップ店員は驚きの表情でいた。
ま、そりゃそうだ。
「か、畏まりました。オプション料金として別になりますが、リング内に名前を彫りますか?」
そして、少し緊張気味に支配人が指輪に名前を彫るか確認してきたので、五月はチラッとこちらを見てきた。なので、僕は頷く事で問題ない事を伝えた。
「はい♡お願いします!」
すると五月は満面の笑みでお願いをした。
「畏まりました。では、こちらにローマ字でお名前を──」
「少し宜しいですか?」
そんな五月の笑顔に、緊張が和らいだのか支配人も笑みを溢して、彫る名前を紙に書くように進めようとすると、憂が間に入ってきた。
「はい?いかがいたしましたか?」
「そちらのお二人の分は至急でお願いしたいのですが、同じデザインの指輪を後七つ御用意頂けます?勿論名前も彫って頂けますとありがたいですわ。ああ、その七つの指輪分の請求は今井家へしていただいて結構ですので。それにその二つとは違い急ぎではありませんし」
「は......?」
あまりにも唐突な憂のお願いに支配人は勿論、ショップ店員全員が固まってしまった。
そんな中、僕は頭を抱えてため息をつき、五月は複雑そうな笑みを浮かべていた。
「あら、出来ませんの?」
「い、いえいえ。可能ではございますが......えっと...同じデザインを七つもでございますか?」
「ええ。結婚指輪としてではなく、ただのお洒落として身に着けるだけですから問題ありませんわ」
憂の言葉に当然の様に支配人は質問するも、憂は開いた扇子で口元を隠しながら笑みを浮かべて返した。だが、その憂の目は誰が見ても分かるもの。『理由は聞くな』だ。
それを理解した支配人は唾を飲み込むと頷くしかなかった。
憂の貫禄も徐々に上がってきてるな...
その後名前を指輪に彫るのにも時間がかかるので近くのモールなどを皆で歩き回りながら時間を潰した。
そして──
「うわあぁぁ~~♡」
加工が終わった連絡があったので、出来上がった指輪を二つ受け取った僕達は停めていた車の近くまで来ていた。
出来上がった指輪が収まっている箱を手に五月はキラキラした目で幸せそうな声を出している。
そんな五月を囲むように皆も笑顔でいた。
「五月おいで」
「え?は、はい!」
そんな五月を手招きし、近づいてきた五月から指輪の箱を受け取ると、中身の指輪を右手に取って箱を上着のポケットに入れた。
「五月、左手を」
「はい...♡」
僕の言葉の意味を理解した五月は僕に左手の甲を上にして差し出してきた。その五月の左手を僕は左手で添える様に持ち、右手に持っていた指輪をそのまま五月の左薬指に嵌めた。
「~~~...っ!」
指輪を嵌められた五月は声にならない程の嬉しそうな顔で自分の左手を見ていた。
そんな五月の左手を僕は右手で上から重ねて、両手で五月の左手を包み込むようにした。
「これから先も五月の夫であり愛していく事を誓うよ」
「はいっ...!私もっ...私も和彦さんの妻として愛していく事をっ...誓いますっ...!」
僕の言葉に五月は涙を流しながらも笑顔で答えてくれた。
周りからもお祝いムードで拍手やヒューヒューなどと言った言葉も投げかけられている。
「ま、そうは言っても。私たち愛人もたくさんいる訳なんだけどね♡」
「うっ...」
「そうよねぇ。しかも不倫までしちゃうのよねぇ♪」
「ぐっ...」
そんなお祝いムードもすぐ終わり、二乃の自分達愛人がたくさんいる事や、飛鳥の皆の母親達との関係もあるというからかいの言葉で僕は言葉を詰まらせてしまった。
「まあまあ。和彦さんをからかうのもそれくらいに。下手したら私達との関係も帳消しにされちゃうかもだしね」
「ふふふ...五月の独占...は無しだからね♡」
「むうぅぅ~~...」
二乃と飛鳥のからかいを芹菜が抑えてくれた。流石は女性陣の中で一番の歳上でもある。
そんな芹菜の言葉を気にしないように笑みを浮かべて、自分達の事もかまうように話すと、五月は面白くなさそうな顔をしているのだった。
場所は変わりここは墓地。
今は僕と五月の二人で五つ子の母親でもある零奈さんに婚姻の報告に来ていた。
五月が墓前にしゃがんで線香を置き墓地に向かって話しかけた。
「お母さん私も
五月が話す通り、今日五月六日が五月の本当の誕生日だそうだ。
四人は五月五日で産まれたが、五月だけは日を跨いでしまった為に五つ子だが誕生日は別となっているのだ。
その事を他の四人は気にしてか、そんな事はどうでも良い、五月五日が五人の誕生日だと五月に伝えて、五月も誕生日会を五月五日にしてきたのだ。
ただ、心の中では気にしていたようなので、二人の結婚記念日を五月六日にしようという運びになった訳である。
その後、五月は目を瞑り手を合わせた。それに続き僕も五月の右側にしゃがみ手を合わせ目を瞑った。
先に僕が目を開いたのだが、暫くすると五月は目を開いて微笑みながらお墓に向かって語り始めた。
「ごめんねお母さん。私学生の間に結婚しちゃった。でも後悔はしてないし、お母さんや夫である和彦さんのような立派な教師を目指す事も諦めてないからね」
お墓に向かって語った五月は笑顔を僕に向けて手を繋いできたので、僕はそれをしっかりと恋人繋ぎに直して繋ぐ左手の力を入れた。その左手薬指には、先程五月の手によって嵌められた指輪のダイヤが輝いている。
「零奈さん。貴女と同じように教師と生徒という関係から五月と夫婦となりました。ただ、貴女と違い学生時代に婚姻を結んでしまった。それどころか五月以外の女性を愛してしまった。貴女から見たら最低な男かもしれません。でも世界で一番愛しているのは五月に変わりませんし、この心が一生変わらない事をここで誓います。五月の気持ちを尊重しますが、時には喧嘩もするかもしれない。だけどこの手を絶対に離しません」
「和彦さん......」
紡いだ言葉と共に僕の握る左手に力が入ったのを感じて、五月は笑みを浮かべてこちらを見てきたので、それに笑みで返した。
「そして、貴女とマルオさんが愛している他の姉妹四人の笑顔も守っていきます。どうかそんな僕達の事を見守っていてください」
「......お母さん。私たち姉妹は高校を卒業したらそれぞれの道に進んで行くと思う。一花は女優業。四葉は多分和彦さんを追いかけて空手の道かな。そして私は教師。二乃と三玖はまだ分からないけどきっと将来について考えてると思う。でもきっと和彦さんが私たち姉妹をちゃんと見守ってくれるから大丈夫だよ。だからお母さんも安心して見守っててね」
最後に五月が微笑みながら話すとふわっと風が吹き、僕達を撫でるように流れていった。
それは零奈さんからの返事なのかは分からない。けど、ここでの誓いは必ず果たしてみせる。そう強く改めて決心をして、五月と手をそのまま繋いだまま墓地を後にするのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は、婚姻届の提出、結婚指輪購入、そして零奈への結婚報告という流れで書かせていただきました。
しかし、何分自分が未婚の者なので、婚姻届提出後に何か貰えるのか等が分からずで、戸籍謄本で結婚が出来ているという事の証明書という形にさせていただきました。
果たして、婚姻届提出したその日に新しい戸籍謄本が発行可能かは知りませんが(^o^;)
和彦の周りには色々な女性がいることに変わりはありませんが、この二人なら共に幸せな人生を歩んでいける。そう思いたいものです。
さて次回は、ゴールデンウィーク最終日でもありますし、あの人物が駄々をこねるお話など、ゴールデンウィーク後のお話に入らせていただこうかと思っております。
次回の投稿は6月20日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。