少女と花嫁   作:吉月和玖

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156.合宿所?

「今井様御一行様。ようこそおいでくださいました」

 

バスに揺られること数時間。ようやく今回の宿泊先に着いたのだが、その宿が見ても分かる程の老舗旅館であったので、ほぼ全員がバスから降りて固まっていた。

そんな姿にも気にしないように、宿の従業員が勢揃いで頭を下げて葵さんを出迎えていたので、女将であろう女性に葵さんは声をかけた。

 

「今回はよろしくお願いいたしますね。学生が多いので、少々騒がしくなるかもしれませんが、多少目を摘むって貰えると助かります」

「いえいえ。そのような事ございませんので、何かありましたら何なりとお申し付けくださいませ。さ、皆様のお荷物を運んでください」

『畏まりました』

 

葵さんと女将さんのやり取りが終えると、女将さんは従業員に指示を出し、部員達の荷物を持って部屋へと案内していった。

 

「失礼いたします」

「は、はい!」

 

そこに女将さんから声がかけられたので緊張して返事をしてしまった。

 

「ふふふ...そこまで緊張なされなくても大丈夫ですよ。あの、今井様から聞き及んでおりますが、あの吉浦和彦様にございますよね?」

「え、ええ。そうですけど...僕をご存知で?」

「まあ!やはりそうですのね!我が宿の職員はほとんどが吉浦選手のファンでして。差し支えなければ、サインをいただけませんか?」

「それくらいでしたら大丈夫ですよ。こんなに良い宿に泊めていただけるんです。皆さん一人一人の分を書かせていただきますよ」

「本当ですか!?色紙などは後でお部屋にお持ちしますので、何卒よろしくお願いいたします。また、この度はご結婚おめでとうございます。では、吉浦様ご夫婦は(わたくし)がご案内させていただきますね」

「「ありがとうございます」」

 

どうやら僕の現役時代のファンがこの宿には多い様で、女将さんはサインが欲しかった様である。

なので、ファンの方であれば一人一人サインをする事を伝えると大変喜ばれてしまった。

その後、葵さんから聞いたのか、僕の結婚の事まで知っていた様で、そのお祝いを言われた後、女将さん自らの案内で部屋へと案内される事になったので、それに僕と五月は返事をしてついて行った。

 

女将さんに案内された部屋は立派なもので、とても二人で泊まるには十分過ぎる程の広さがあった。

 

「うわあぁ~...見て見て和彦さん!窓が広くて景色も綺麗だよ♪」

 

五月は早速窓からの景色に見惚れて上機嫌でいた。

 

「こちらのお部屋はこの宿一番の部屋にございます。内風呂も露天になっておりますので、お二人でごゆっくりと寛げるかと。何かありましたら、何なりとお申し付けくださいませ。では、失礼いたします」

 

僕が部屋の中をキョロキョロと見て回っている間に、慣れた手つきでお茶の準備をしながら、部屋の案内を女将さんがしていた。

てか、一番の部屋かよ!!葵さんが使えば良いのに!?

そんな驚きをしている僕になど気づかず、女将さんは三つ指を置き頭を下げるとそのまま部屋を出ていってしまった。

 

「しかし、凄い部屋だな...内風呂ってこれの事かな?」

「みたいだね。すごーい♪景色きれーい♪」

 

内風呂の案内があったので、そこかと思った扉を開くと檜の露天風呂が設置されていて、景色もバッチリの様であった。

 

「ふふふ...♡今日は私が疲れを労ってあげますからね♡」

「本当にそれだけかな?」

「えへへ...♡他にもシてあげる♡んッ...ちゅっ...ちゅっ...ちゅっ...♡」

「ふふふ...それは楽しみだな。じゃあ、今日の試合では良いところ見せないとだね」

「うん♡期待してる...ちゅっ...ちゅっ...ちゅっ...ちゅるッ...ちゅっ...♡」

 

その後は五月と愛を確かめ合う様に何度も軽いキスをしては抱きしめ合うのだった。

 


 

「じゃ、今から駿河学園に向かう訳だけど、皆準備は良いかな?」

『オーーー!!』

 

その後、各自準備が整ったのでまたバスで、今度は駿河学園に移動する事になった。

今はバスを走らせてる中、マイクを使って部員に意気込みを確認しているところではあるが、全員やる気に燃えている様で、返事も上々である。

 

「向こうに着いたらまずは僕の試合からだけど、まあ部員達の前だ無様な試合にならないように頑張るよ」

「先生!」

「ん?どした?」

 

部員達の練習試合前には僕の試合があり、そこで無様な姿を見せないようにする、と笑いながら話すと酒井が手を挙げてきたのでそのまま促した。

 

「それって、俺達との稽古よりも本気での先生の実力が見れるって事ですよね!?」

「そうだね。言い方が悪いかもだけど、普段の僕は君達一人一人の実力に合わせて力加減をしている。けど、今日は違う。妻も観てる訳だし無様な試合は出来ない。今の僕の本気を見せてあげれると思ってるよ」

「嘘!?ヤバいんですけど!」

「だよな!くうぅぅ~…自分達の試合が出来るだけでも嬉しいのに、先生の試合まで見れるなんて最高だぜ!」

 

酒井の質問は僕の本気が見れるのかという質問であった。なので、普段では見せない様な実力が見れると思うと答えると、榊原が興奮した声をあげ、それに馬場が続いて興奮の声をあげた。

 

「今日の試合は君達のも勿論だけど、僕のも撮影してもらう予定だから、後で観返すと良いよ。紬さん、よろしくお願いしますね」

「はい!任せてください」

「紬さん以外にも何人か配置はさせる予定ですので、そこもご心配なさらず」

 

試合動画の用意も出来るので観返すと良いと伝えて、紬さんにお願いすると、少し緊張気味に返事があった。そんな紬さんを見て、他にも撮影する者がいると葵さんが紬さんに安心させる様に伝えると、紬さんは少しホッとした顔になったようだ。

バスの後ろに何台もの黒い車が並んでついて来てるから多分その人達が、葵さんの護衛兼撮影係ってところだろう。

 

「忠義。四葉。綾那。ことり」

「オッス!」「はい!」「「はい」」

 

そこで、弟子でもある四人に声をかけた。

 

「四人は僕の動きは勿論だけど、相手の動きもちゃんと観ておくように。きっと今の自分に活かせる所もあるはずだからね」

「わっかりやした!」

「はい!」

「承知いたしました」

「分かりました」

 

四人には僕だけでなく、相手選手の動きもしっかり観るように伝えた。

 

「二乃と三玖と木下と立花は当日の試合でもサポートしてもらうから、今日はその練習と思って動いてほしい」

「「「「はい!」」」」

 

そして、マネージャーである二乃と三玖と憂と結愛には、選手のサポートの練習も兼ねて動いてほしいとお願いすると、しっかりと返事が返ってきた。

 

「今日の僕達はあくまでも挑戦者だ。と言っても、君達の実力なら同等かそれ以上の結果を残せると思ってる。気負わずしっかりと楽しんでいこう!」

『はい!』

 

最後に一言声をかけた所で部員全員からしっかりと返事が返ってきた。

うん。問題ないだろう。さて、相手さんがどんな反応をするのか今から楽しみだ。

そんな思いを持っているとちょうどバスが駿河学園に着いた様だった。

 

・・・・・

 

「すげえぇぇ~」

「ひろーい」

 

駐車場にバスを停め、案内された武道場はかなりの広さがあり、内藤と井伊が感嘆の声をあげた。他の部員も同じ様な感想を持っているのだろう。憂と綾那と葵さん以外は、驚きの表情でいた。

畳もしっかりと整備してある。流石は伝統校ってところか。

部員達の驚きの表情の横、僕は畳に手を当てて状態を確認すると、よく整備されている事が分かった。

するとそこに、二人の男性を先頭にぞろぞろと大人数の人達が、僕達とは反対側の入口から入ってきた。

 

「え?え?何であんなにたくさんいるの?」

「こちらの空手部の部員数は二百人程ですからね。あれが全て部員なのでしょう」

「二百!?うちの十倍以上じゃないのよ!」

 

入ってきた人数に驚きの声をあげた一花に答えるように、憂が駿河学園の部員数の説明をすると、二乃が驚きの声をあげた。

 

「ま、仕方ないよ。うちって無名校みたいなものだしね。けど、来年以降はそうも言ってられない程の結果を今年残すつもりだよ」

「ことりさんに同感です。それに、部員が多いから強いという訳でもありませんので」

 

そんな二乃の驚きに対して、ことりが仕方ないと説明しながらも、今年の自分達は結果を残す事で、来年以降の空手部の部員増加に繋がる事を説明すると、綾那は目を瞑りいつもの直立姿勢で自分達が下ではない事を堂々と説明した。

 

「さすが綾那...」

「心配しなくても大丈夫ですよ!みんな!先生の言う通りいつも通りいきましょー!」

 

綾那の態度に緊張気味に三玖が話しかけると、四葉が一歩前に出て振り返ると部員全員に向かって鼓舞をした。

 

「しゃーー!やってやろうぜ!」

『おーーー!』

 

四葉に続いて忠義が声をあげると、他の部員も気合いを入れて声を出している。

 

「ふふふ...流石は四葉さんですね。良い鼓舞かと」

「だね。ま、向こうには何も感じて無いみたいだけど。このままうちの事を甘く見てくれれば万々歳なんだけどね」

 

憂が近くに寄って四葉を褒めると、僕も同意見だと伝え、相手がそのままこっちを弱い相手と思ってくれれば助かると付け加えた。

すると、そこに二人の男性がこちらに歩いてきたので、葵さんが僕に目配せをして二人でその二人に向かって歩き始めた。

 

「こんにちは今川様。本日はお時間いただき光栄ですわ」

「いやいや。今井さんの頼みとあってはそうそう断れませんからな。それに今回は面白いものも観れそうですしな」

 

今川義明(いまがわよしあき)。この駿府学園の空手部の顧問であり、空手経験者で実力もあったとか。ただ、父さんより少しだけ年上だが、父さんと違ってまんまるに太った体型にスキンヘッドに手にはいくつもの指輪を付けている。いかにも成金を見た目で表現した人間だ。

こんな見た目でも指導はしっかりしてるんだよなぁ...ま、それもOB達によるコーチ陣のお陰でもあるんだけどね。自分では上手くいかなかった時に怒るくらいだし。こういう人って苦手だったりするんだよねぇ...今も葵さんを厭らしい目で見てるしさ。はぁぁ...後で御機嫌取りの為に色々してあげないとな。

 

「失礼します。初めまして、今川正親(いまがわまさちか)と言います。この度は吉浦選手と試合が出来る事光栄に思います」

 

そこに義明と一緒に来ていた男が名乗って僕に握手を求めてきた。

今川正親。長い黒髪を後頭部で纏めた美青年。整った顔立ちをしており、礼儀正しいと聞く。

隣の義明の長男で、今年で二十歳になるとか。

 

「初めまして。吉浦和彦です。貴方の実力も聞いてますよ。高校時代は負けなしで、駿河学園の全国連覇を牽引。そして、全日本選手権で二年連続ベスト四とか。凄いですね」

「いえ。吉浦選手の無敗記録にはほど遠いです。今日は胸を借りるつもりで挑ませていただきますので、是非ともよろしくお願いいたします」

「はい。こちらこそ」

 

その後、今日の段取りを軽く決めてそれぞれの場所に移動した。

 

「全く。あの男とは話したくもないのですが、これも和彦さんの為。我慢致しますわ」

 

やはりと言うべきか、葵さんは相当機嫌が悪くなっているようで、開いた扇子で口元を隠し不機嫌そうな顔をしていた。

 

「すみません、僕の為に。その......後で時間空けてくれる()

 

なので、仕方なく葵さんの左耳元で後で時間を空けてくれないか葵さんに、敬語と呼称を使わずに耳打ちした。

すると、ばっと顔を赤くしてこちらを見た葵さんから妖艶な笑みが浮かばれた。

 

「はい♡貴方様の為であれば、この葵。いつでもお時間空けさせて頂きますわ♡」

 

そう答えた葵さんはご機嫌な表情に変わり、皆の元に歩き始めた。

何かこのやり方で良いのか分かんなくなってきたんだけど...

トボトボと葵さんの後ろをついて行きながらそう考えてしまった。

 

「じゃあ、それぞれ男女で更衣室が用意されてるみたいだから、全員着替えてからまたここに集合ってことで」

『はい!』

 

皆の所に戻ってきた僕はとりあえず全部員に胴着に着替えてくるように伝えた。

 

「残りのマネージャーメンバーは、タオルと飲み物。後は怪我があった時の為にアイシングやテーピング、湿布とかの準備をよろしく」

「わかったわ」「うん...!」「承知致しました」「はーい♪」

「で、紬さんはいつも通り撮影の準備を。五月と一花と芹菜と小百合も手伝ってあげてくれ」

「「「わかりました」」」「りよーかい」

 

そして、試合に出場しないメンバーにも指示を出して、自分の着替えの為に更衣室に向かおうとした。

葵さんには何も指示してないけど、何かさせる訳にはいかないしな。

 

「和彦さん。こちらに来て頂けますか?胴着の御用意も出来ておりますので♡」

 

すると、その葵さんから声をかけられ、何故か出口の方に誘導された。

あー...さっきのを早速使う訳ですか...

状況を察した僕は葵さんについて出口の方に向かった。

その途中、五月に一本のメッセージを送っておくのだった。

 

・・・・・

 

「ちゅっ...ちゅっ...ちゅっ...♡はぁぁ...相変わらずの逞しいお体♡」

 

葵さんに用意された車に乗り込むと、葵さんから胴着を渡されたので、早速上着から脱いだ。すると、上半身裸になった途端、葵さんから僕の体にキスをしてきたのだ。そして、両手を使ってさわさわと上半身を撫でてきた。

 

「あ...あの。流石に時間が無いので...」

「分かっておりますわ♡さ、腕を通してくださいませ♡」

 

これ以上の進展は無い様なので、葵さんにされるがまま胴着を着替えていった。流石に下半身を触りそうになったのは何とか阻止すると、可愛く頬を膨らませて睨まれてしまった。

最後に帯をしっかりと締めて準備万端だ。

 

「貴方様...♡ちゅっ...ちゅっ...ちゅるッ...♡ちゅっ...れろッ...ちゅるッ...ちゅっ...♡あのタコ頭をギャフンと言わせてなさりませ♡」

「ははは!タコ頭ですか。勿論ですよ。僕もああいうの嫌いなので」

「んッ...ちゅっ...ちゅるッ...れろッ...れろッ...れろッ...ちゅるッ...ちゅっ...♡はぁぁ...♡幸せです♡頑張ってくださいね♡」

 

葵さんの口からタコ頭という言葉が出てきたので思わず笑ってしまい、そのままキスをして葵さんを抱きしめてあげた。

 

「ああ。葵の名を踏みにじる事はしないさ」

「もうッ...♡ちゅっ...♡そんな事言われたら離れたくなくなるじゃないですか♡」

 

葵さんのエールを受けて頭を撫でてあげると、最後に軽くキスをしてきた葵さんをもう一度抱きしめて、車から降りた。

さて、いっちょやっちゃいますか!

そう気合いを入れた僕は、自分の試合の為に道場に戻るのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、宿泊先である今井家が用意した宿に全員が圧倒される話から、駿府学園に着いてからの話を軽く書かせていただきました。

露天風呂の内風呂付きの部屋に案内された和彦と五月の夫婦は、お互いに反対の反応をしていましたね。
五月達五つ子だったらもしかしたらこういう宿とかに慣れてるかもしれません。
その内風呂で和彦と五月が話していた内容については、いつになるか分かりませんが、(裏)で書かせていただければなと思っております。

また、伝統校でもある駿府学園に着いた部員達は、今度は道場の広さや相手の部員の人数などに圧倒されていました。
そこは、流石のことりと綾那。至って冷静にいましたね。
四葉と忠義の鼓舞もありで、部員達も気合いが入ったようです。

その後の相手の顧問の態度に葵が不機嫌になり、和彦はご機嫌取りにと大変そうでした(^∀^;)

さて、次回からはいよいよ試合が開始されます。

次回の投稿は7月20日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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