少女と花嫁   作:吉月和玖

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158.久しぶりの試合

~道場内~

 

「はじめ!」

「しゃーーーー!」

 

主審の試合開始の合図と共に正親の気合いのこもった声によって、和彦と正親の試合が開始された。

 

「始まった!」

「以前の師匠であれば、雷霆で先制を狙い、そのまま明鏡止水で防御に回るという戦法だったが...」

「恐らくそこは研究されているでしょうね。まあ、研究したところで和彦様の雷霆を止めれるかは知りませんが」

 

試合開始と同時に二乃の始まった、という言葉に続くように忠義と憂が今回の試合展開がどうなるかを予想した。

 

「──っ!先生から動いたぞ!てか、はやっ...!」

 

忠之の言葉通り試合は和彦の雷霆から動きがあった。その動きは部員は勿論、ことりや綾那、忠義でさえ追えていない。

唯一四葉が和彦の初動からどこを狙っての攻撃か読んでいた。

 

(これが雷霆!確かに速い...が、やはり情報通り初動から狙いが分かる。これなら...!)

 

正親も四葉同様、和彦の初動から雷霆の速さにはついていけてないが、どこを狙っているか分かり、それを防ぎに動いていた。

 

「何だよあれ!」

「はやッ!」

 

一方の駿河学園の気を失わなかった生徒達からも和彦のあまりの早さに驚愕の声が上がっていた。

 

「この間見せてもらった師匠の雷霆より更にスピードがアップしてやがる!でもなんで、相手は既に防御態勢に入ってんだよ!」

「恐らく、相当和彦様の事を研究なされている様ですわね。しかし──」

 

忠義もまた以前に見た雷霆よりスピードが早くなっている事に驚きの声を上げていたが、それよりも何より、その和彦の攻撃の軌道で防御の構えをしていることに驚きを示していた。

そんな忠義に憂が閉じた扇子を顎に当てながら、正親が和彦の事を研究していることを讃えた。しかし、それでは足りないと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 

(よし!ふせい....っ!がっ...!)

 

正親は確かに和彦の右回し蹴りの雷霆を左腕で防げた。が、正親はそのままよろめいてしまったのだ。

 

「流石正親さん!あれを止めるなんて!」

「でも、正親さん態勢崩されてるよ」

 

そんな正親の動きに、駿府学園の生徒達からは、攻撃を防げた事への尊敬と、正親の態勢が崩れている事に疑問の声が上がっていた。

 

(なんだっ...!?この威力っ...!)

 

そうなのだ。正親は和彦の雷霆の動きだけに気を持っていかれていて、和彦の回し蹴りの威力までは想定しておらず、その威力に防ぎ切れず態勢を崩されてしまったのだ。

 

(だが!この後に多少のインターバルがあるとデータにある!その内に態勢を戻せば!)

 

「ぐはっ...!!」

 

それでも正親は冷静に分析したデータを元に、雷霆の後のインターバルの間に態勢を整えて反撃に出ようと考えていた。

だが、そんな正親の考えなどものともせず、和彦の左回し蹴りが正親のみぞおちに決まり、そのあまりの威力に声が漏れ、右みぞおちを両手で押さえながらその場に跪いた。

 

「わ、技あり!」

『おーーーー!!』

 

あまりに速い展開に主審も何とかついていけてる状態の為、少しどもりながらも『技あり』の号令を出した。

それに、旭高校側からは歓声が上がった。

そんな状態の中でも、和彦は冷静に跪いている正親を見下ろした後、定位置に戻った。

 

「すげえぇーー!先生の動き全然見えなかったぜ!」

「だよな!?なんだよ今の!!」

「雷霆の後の動き。あれって、自分の雷霆が防がれることを見込んでの攻撃に見えた」

 

和彦の攻撃に、信彦と忠之は興奮の声を上げていた。

そんな中、直華は冷静に眼鏡のブリッジを右人差し指で上げながら和彦の動きについて解析をしていた。

 

「井伊先輩の仰る通りかと。しかし、あの動きはまさしく──」

「私の烈火だね」

『!!』

 

直華の分析に綾那が冷静に返すと、それに加えるように話そうとしたところ、その綾那の言葉に被せるようにことりが微笑みながら話した。

そんなことりの言葉に、以前の和彦と健介の試合を観ていない部員達は一斉に驚きの表情となってしまった。

 

「て、ことは...あれですか.......師匠は自分の技である雷霆にことり先輩の烈火を合わせて技を繰り出したと?」

「そうです。以前、和彦様とそのお義父様が我が家で試合を行いました。その時にも和彦様は雷霆と烈火の合わせ技を使ったのです。まあ、お義父様は初見から何手か防いではおりましたが、あの御方はそこまでの実力のある御仁では無かったようですね」

 

恐る恐る確認する忠義の言葉に、憂は肯定するように話すと、正親の実力に見切りをつけため息をついてしまった。

 

「ちょっ...!芹菜!何よあれ!?和彦さんめっちゃ格好良いじゃない♡」

「でしょう?もう堪んないんだから♡」

 

真剣な顔で定位置に立って帯などを絞め直したり、胴着を着こなしたりしている和彦の姿に、小百合と芹菜はもう興奮状態である。

 

「うふふ...♡やはり和彦さんは素敵ですわぁ...♡ペロッ...♡」

「お母様!」

「あら失礼...!」

 

そこに葵も和彦の動きに欲情する様に舌ずりをしていたので、それを憂が指摘すると葵は扇子を広げて口元を隠した。

だが、その隠れた口元ではやはり舌ずりをしていた。

カメラを回している紬は、自分の声が入らない様に注意をしながらも、うっとりとした目に口を開いたままじっとカメラを構えていた。ある意味凄い特技である。

 

「で?三玖は見えた?」

「無理...!最後のカズヒコさんの左足での攻撃は辛うじて見えたけど...」

「そうよねぇ...私も同じ様なものよ...ま、素敵なのには変わらないけどね♡」

「そこは同意...♡」

 

二乃と三玖の方では和彦の動きをお互いに見えたか確認するも、二人とも見えずの状態ではあったが、和彦の空手の姿に惚れている事に変わりはない事には二人は賛同していた。

そこにじっと和彦を見ている四葉に忠義は一つの質問をした。

 

「あ、あの!四葉先輩には、師匠の周りに出てる靄みたいなのって見えたりします?」

「おーー!本多さんは見えるんですね!凄いです!あれが見える人はほとんどいないって、以前先生のお義母さんが言ってましたよ!ちなみに私は見えてます!」

「マジっすか!やっぱ、あれは錯覚じゃなかったんすね!」

 

忠義の質問に四葉は興奮する様に、あの靄が見えてるのが凄いことだと話した。すると、忠義は嬉しそうに表情が明るくなった。

 

「靄?何のお話?」

 

するとそこに靄の見えていない結愛が不思議そうに四葉と忠義の二人に声をかけた。

 

「今、先生は闘気を視認出来るくらいに上げてるんです!」

「「嘘っ...!?」」

 

四葉の言葉に結愛は勿論ことりも驚き、和彦をじっと見つめていた。

 

「んーーー?何も見えないよ?」

「私もです。靄なんてどこにも...」

 

しかし、ことりと結愛は目を細めて見ても見えなかったので、本当なのか、と疑問の声を上げた。

 

「先日の先生と先生のお義父さんの試合の時にも出てました。それを先生のお義母さんに聞くと、あれは見える人と見えない人がいるって言って、見えている私を褒めてくれたんです!」

「むうぅぅ...ここでも実力の差が...」

 

興奮する様に話す四葉と違い、ことりはここでも四葉との実力の差をつけられていると悔しそうに口から漏れていた。

 

「そしてお義母さんはこうも言っていました。あの靄が出ている時の先生は、無我の境地の先でもある、『行雲流水の極み』に入っている、と」

「「「行雲流水の極み?」」」

 

四葉の言葉に、ことりと結愛と忠義は疑問の声を上げた。

 

「行雲流水.......なるほど、空をゆく雲と川を流れる水のように、執着することなく物に応じ、事に従って行動すること。という意味の四字熟語から取られたのですね」

 

そこに憂が話に交ざり、一人納得した様に頷いた。

 

「つまり、どういう事なのでしょうか?」

 

それに綾那が優に確認するように問いかけた。

 

「お義母さんは言ってました。昔の先生の戦い方は、空の雲や川の流れる水の様に執着する事なく、ただ身を任せるように自身の磨いた型を使って、相手を圧倒していたと。ただ、明鏡止水や雷霆が使えるようになるとそちらに頼るようになって、今回の様に行雲流水の極みに入らない様になったとも言っていました」

「そっか!それで昔のお兄ちゃんはお父さんを圧倒してたんだ!」

 

四葉の説明で昔の和彦が健介を圧倒していた理由に思いついた様である。

 

「ふふふ...つまり、今まで見てきた技をその技に執着せず、自身の型に当てはめて利用するという事ですね」

「雷霆は確かに速いですが、直進的で単発性もあり、そこまでパワーも無いというデメリットがあります」

「そこに、私の烈火。つまり、連続性な攻撃ににパワーを加えたってことか!」

「俺の認めた師匠ながらやること半端ないぜ」

「凄い!やっぱり凄いよ先生!」

 

今の和彦の状態を憂が説明。それに対して、綾那が雷霆のデメリットを伝えるも、自分の技である烈火でそれを補っている。つまり自分の思い通りに技を組み合わせているとことりが面白そうに話した。

それらを聞いていた忠義もまた嬉しそうに、そして四葉もまた感嘆な声を上げて和彦を見ていた。

 

「がはっ...げほっ...げほっ...!」

「今井選手?続けられますかな?」

「げほっ...!え、ええ...問題ありません...」

 

咳き込みながら中々立ち上がらない正親に対して、主審の男が続けられそうか確認をした。

すると正親は、咳き込みながらも問題ないと答え、よろよろと定位置についた。

 

「僕が言うのも何ですが、あまりご無理しない方が良いかと」

「ご心配ありがとうございます。しかし、私も武の端くれ者。このようなところで立ち止まっている訳にはいかないのですよ」

「へえぇぇ~...」

 

定位置についた正親を見て、和彦は試合続行を止めた方が良いと伝えるも、正親は笑いながらもこんなところでは立ち止まれないと答えてきたので、和彦は口角を上げ、また更に闘気を上げた。

 

(くっ...!今のは本気でもなかったと言う事か.......これが数年ブランクのある男?ふっ、正に麒麟児と呼べる!)

 

そんな和彦に臆することなく正親は一呼吸置いた。

そして──

 

「はじめ!」

「はあぁぁーーーっ!」

「!」

 

次の試合の開始の合図と共に正親から動きがあったので、和彦はそのまま構えて迎えた。

正親の動きは高校生からしたら速く、左足による回し蹴りであった。だが、和彦はそれを明鏡止水で流そうと右腕を動かした。が──

 

スカッ...

 

「!」

 

正親の攻撃は和彦の構えた右腕手前で外れた。

それには流石の和彦も予想だにしていなかったので、驚きで目を見開いた。

 

(目算を誤った?これ程の実力者で?──っ!違う!)

 

「何だ?全然相手の攻撃、師匠に届いてねぇじゃねえかよ」

「うーむ。師匠の実力に目算を誤った、とかでしょうか...」

「だね。ただ、()()()()届いてないんだよね.......はっ!そうか!」

『?』

 

和彦同様、旭高校側のメンバーは正親の攻撃がギリギリの位置で届いていない事に不思議がっていた。

それを代表するように忠義が言葉を発すると、綾那からは和彦の実力を侮っていた事から目算を誤ったのではないかと意見が出た。

その意見にことりも同意するも、ギリギリの位置で届いていない事に違和感を感じていたのだが、何かを思いついた様で声を上げた。

そんなことりの言葉に全員が疑問の顔になっているところに、正親は蹴った右足を軸にして、左足での回し蹴りで和彦を襲った。

 

「はっ...!まさか!先程のは囮!?」

「なるほど。やはり相当和彦様を研究なさっており、伊達に全国ベスト四を二年連続で出してはおりませんね」

 

正親の攻撃を見た綾那と憂は、驚きつつも正親の実力を認めた。

その一方で試合前に和彦に言われた言葉を二人は思い出していた。

 


 

試合前。

 

「え?師匠の試合は、師匠ではなく相手選手を見ろですか?」

「そ。よっ、ほっ」

 

僕は準備運動をしながら綾那には、僕の試合の時は相手選手の動きを見ろと伝えたのだが、あまり本人には納得出来ていない様である。

 

「ふぅ~...綾那が僕を尊敬して、僕の技を使おうとしてるのは知ってるし嬉しく思ってるよ」

 

僕の言葉に綾那から嬉しそうな反応があった。

 

「だけど、これは綾那には酷い言い方になるかもだけど。今の綾那では僕の技を使う事は出来ない。むしろ、この前のことりとの試合の様な危ない状況に陥る事だってあるんだ」

「そ...それは....」

 

僕の言葉に返せない綾那は両手を力強く握り拳を作って両腕がぶるぶると震えていた。そんな光景を憂は黙って見ていた。

 

「綾那。君の目標は何だい?僕になる事?それとも日本一を目指す事?」

「!私は和彦様の様に誰にも負けない強者になることです!」

「なら、君は君の強みを伸ばしていかないと。誰かの真似事じゃない。綾那にしか無い物を作っていこう。大丈夫。その為に僕がいるんだから」

 

綾那の目を見て綾那自身の目標を確認した。

すると、綾那からは力強くもっと強くなる事だと宣言した。

そんな綾那に満足した僕は綾那に優しく声をかけた。

 

「はい!では、師匠の言う通り相手選手を見て学ばせていただきます!」

「ああ。あ、すぐ終わらせちゃったらごめんね」

「ふふふ...そうならない事を祈りましょうかね」

 

綾那の決心の言葉に満足した僕は試合に向かって行きながら冗談を交えた。

そんな僕に、憂が微笑みながら相手選手が粘るのを願うと言ってくるのだった。

 


 

~道場~

 

戻って現在。

 

(なるほど!あの様な手がありましたか!あれであれば、四葉さんの明鏡止水に対抗出来ますね。それに、相手選手の型の美しさや技の出し方も見本となります。師匠は凄いのですが、型破り過ぎですので.......はっ!もしかしたらそれを見込んで、あの様な事を!?)

 

正親の動きに感心をして、自分でもあの動きであれば出来そうだと綾那は思った。

そして、和彦の考えの意図に気づいた綾那は嬉しそうにメモを取り出した。

 

(ふむ...これは綾那の成長に期待が出てきましたね。後は、綾那もまた無我の境地に入ればあるいは...)

 

メモを取っている綾那に満足した憂は、今後の綾那の成長に期待した。

 

「よし!流石正親先輩!」

「これは決まったぁ!!」

 

一方の駿河学園側では、正親の攻撃に興奮して技が決まったと確信の声が上がっていた。だが──

 

スカッ...!

 

(なっ....!吉浦選手がいない!?)

 

『───っ!?』

 

誰もが決まったと思った正親の左足での回し蹴りは空を切った。更には目の前にいたはずの和彦がいない事にこの場にいる全員が驚きの表情で固まってしまった。

その和彦はというと、正親から遠く離れ、場外ギリギリの場所に立ち構えていた。

 

「あれってお母さんの!」

「ふふふ...疾風ですね。やはりお使いになられましたか」

 

そんな和彦の行動に、ことりが声を上げ葵は満足そうに感嘆の言葉を上げていた。

そして次の瞬間──

 

フッ.......!

 

『───っ!?』

 

誰もが和彦の姿を見失った。

そして──

 

ドカッ...!

 

(がっ...!何が!?)

 

和彦が姿を現したと思った時には、正親の左頭部に右上段蹴りが決まっていた。

 

「何々!?」

「わかんない...!四葉?」

「ごめん。私にも見えなかったよ...」

 

ガクッ...!ドサッ...!

 

何が起きたか分からなかった二乃は興奮するように声に出すも、三玖にもさっぱりで四葉ならと思い確認するも、四葉にも状況が分からず、乾いた笑いしか出なかった。

そこに、和彦の蹴りを受けた正親は膝から床に落ち、そのままうつ伏せに倒れてしまった。

それを確認した和彦はそのまま定位置に戻って、主審の合図を待っていた。

 

「よ、吉浦選手の一本!また、これ以上の試合続行不可と判断し、勝者は吉浦選手とします!」

「ありがとうございました」

 

主審の男も何が起きたかが分からずだが、見事な上段蹴りが決まったのは確認でき、倒れた正親も起き上がらない事から和彦の勝利宣言をした。

和彦はただ落ち着いた表情と声にて礼をした。

すると、場内からは凄い声援が送られるのだった。

 

試合開始から三十秒後の事であった──

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、サブタイトル通り、和彦の久しぶりの現役選手との試合を書かせていただきました。
和彦が凄すぎて、正親の実力が低く見えてしまいますが、綾那や憂が認めた様に本当は素晴らしい選手なんです(>ㅿ<;;)

その正親がベスト四で止まってしまう原因でもある、二人の選手。まだまだ謎に包まれたままですが、正親曰く。和彦と同じくらいの実力があるようですね。

では、次回からはいよいよ部員達の団体戦が始まります。

次回の投稿は7月31日を予定しております。
すみません、ちょっとだけ間を空けさせていただきます・-・꧞
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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