倒れたままの正親さんを駿府学園のコーチ陣が、タンカーで運んでいくのを見た僕は、そのコーチ陣に一礼をした。すると、一人のコーチの人からも礼が返ってきたので、くるりと振り返り部員達のいる場所に戻っていった。
「お疲れ。どう?参考になった?」
『なる訳ないじゃないですか!!』
笑顔で自分の試合が参考になったか確認するも総ツッコミを受けてしまった。
うむ。やり過ぎたか。
「いやいや、何すか!?あの最後のは!?」
「それもありますが、雷霆は単発での技のはず。しかし、先生は雷霆の後に連続して技を出されました。今井さんが仰った通り、本当に先生の雷霆にことり先輩の烈火を組み合わせたのでしょうか」
酒井が始めに
そこに、井伊からは雷霆の特性について理解しているようで、憂からの説明も付け加えて確認してきた。
「まあね。でも真似しちゃ駄目だよ。あれ、結構体に負担がかかるからさ」
『真似なんて出来ませんよ!』
「おっと...」
井伊の言葉に肯定しながらも、体への負担が大きいから真似しないように伝えると、部員達からは息がピッタリに真似出来ないと返ってきたので、少したじろいでしまった。
「五月。悪いんだけど、椅子用意してくれない?」
「あ、はい!」
「後、今井と立花はアイシングとテーピングの用意をお願いできるかな?」
「?承知しました」「はーい」
そしてそろそろ限界に来ていた僕は五月に椅子を、憂と結愛にはアイシングとテーピングの用意をお願いした。
憂は不思議そうではあったが、結愛は素直に準備に取りかかった。
「!ちょっ...!あっ...先生!足ガクガクじゃない!」
そこに二乃が僕の状況に気づいた様で、いつものようにあんたと言おうとしたが、皆の前でもあるので、先生と言い換えて僕の足がガタガタだと気づいて声に出した。
「吉浦先生!」「和彦さん!」
二乃の言葉に、芹菜が僕の右腕を小百合が左腕をそれぞれが両手で掴み、僕を支えるようにして五月の用意してくれた椅子に導いてくれた。
「ありがとうございます、二人とも」
「「いえ、問題ありませんよ」」
座った僕は笑みを溢しながら、芹菜と小百合の二人にお礼を伝えると、二人からも笑顔を返された。
「だ...大丈夫なの...?」
「ああ。まあ、ちょっと無理させちゃったかもだけどね」
三玖の心配する声を筆頭に、他の皆も心配するように僕を囲んできた。
「失礼いたしますね」
憂のそんな言葉と同時に、憂と結愛が僕の胴着のズボン部分をまくり上げた。
「うーん...見た目には腫れとか無さそうかな」
「ですわね。先生?どちらを冷やされますか?」
「えっと...足の甲や裏。それにふくらはぎ辺りかな」
「畏まりました」「はい!」
結愛がじっと僕の足を隅々まで見た後に、見た感じでは異常は見当たらないと口にすると、憂も同じ見解を口にした。
その言葉に周りからはホッとする安堵の表情が取られた。特に五月が安心してる様だ。
ここまで心配させたのはまずかったかな...
そう一人反省していると、葵さんが話し始めた。
「その足への負担....最後の技に関係が?」
「ええ...まあ...ぶっつけ本番で使ったので...まだまだ精進あるのみですね」
「まだまだって...あの技使わなくても、十分強いじゃないですか...」
今の僕の状態は最後に出した技が原因だと悟った葵さんに僕は同意をして、まだまだ精進が必要だと伝えた。
そんな僕の言葉に、酒井は呆れる様に言葉が漏れると、他の部員も同意するように頷いていた。
「あはは!まあ、君達の上達を間近で見てると自分もって思えてくるしね。それに........追われる立場っていうのも案外キツいもんなんだよ」
自分の弟子でもある、忠義にことり、綾那に四葉。そして、部員全員の顔を見ながら伝えた。
すると、全員の顔が引き締まった。
「それで!最後の技は!?」
そこに井伊が興奮気味に聞いてきた。
「あ...ああ.......あれは、雷霆に母さんの疾風を合わせた技だよ。疾風は速さはあるけど攻撃が出来ない。雷霆は速さと攻撃があっても今回の相手である正親さんの様に読み取られる。だから、より速く攻撃が出来ないかと思って思いつきで試してみたんだよね」
「思いつきって!本当にぶっつけ本番じゃない!!」
「流石は先生!素晴らしいです!」
僕の軽い説明に二乃が驚きの言葉をかけ、井伊から感嘆な声が返ってきた。
「まあね。あれこれっていけるんじゃね?ってね」
「ふふふ...♡流石は和彦さんですわ♡」
「お母様...」
「あら...♪」
二乃の言葉にいつも通りに話したのだが、それが葵さんには心に刺さった様で、妖艶で嬉しそうな声が出た為、ため息混じりに憂が注意すると、葵さんは扇子を開いて口元から鼻まで隠しているが目はニッコリしている。
「あまり無理はなさらないでくださいね?」
「ああ。五月の悲しい顔は見たくないからね」
「和彦さん...♡」
跪き僕の右膝に両手を置いて心配そうに見てくる五月の左顎辺りに右手で擦りながら笑顔を向けると、五月からは幸せそうな表情が返ってきた。
「先生....人前...」
「おっと」
そんな僕らの世界に、不機嫌そうな三玖の声が入ってきたのでここまでかと五月から手を離した。五月は残念そうではあったが。
「ふむ...さしずめ先程の技の名前は
「疾風迅雷...かっけぇぇっすよ、先生!」
そこに葵さんが、先程の最後の技の名前をつけると、酒井は興奮するように叫んだ。他の部員も同じように興奮している模様だ。
「楽しそうに話してるところ悪いけど。次は君達の出番だ。準備は出来てるかな?」
そんな部員達に最初は真剣な表情で話したが、最後にはニヤリと笑みを僕は向けた。
すると部員達も笑みを浮かべて答えた。
『はい!勿論です!』
「よし!最初は女子団体からだ。オーダーはこの間言った通りでいく」
『はい!』
女子五人からの元気の良い返事が来たところで、相手側の学校の顧問代理の人が主審のところに向かっていた。恐らくオーダー表の提出だろう。
「うんじゃ、行きますか!今井、立花。アイシングからテーピングまでありがとね」
「この程度問題ございません」
「でも、無理しないでくださいね」
「大丈夫だって。もう試合をする訳じゃないんだから」
二人の治療のお陰で歩ける程度には回復したので、僕も立ち上がって、オーダー表を持って主審のところに向かった。その際に、憂と結愛に笑顔を向けると二人からは嬉しそうな笑みが帰ってきた。
「お怪我は大丈夫なのですかな?」
「ええ。お気遣いいただき、ありがとうございます。怪我という程でもありませんので問題ありません。まさか、このような所でお会い出来るとは光栄です、
主審の所まで来ると、ツーブロックの髪型で若い男性が僕の体の心配をしてきた。
この方は
そして、いざ僕が全日本選手権に出場する事になった年に、引退して、駿河学園でのコーチリーダーをされてるようだ。
聞くところによると、先程試合をした正親さんの指導をする為に今井先生からコーチを頼まれて試合に出る事は叶わなかったそうだ。
僕が戦いたい人物の一人でもある。
僕が握手を求めるように手を差し出すと、太原さんはそれにニコリと笑顔を向けて応じてくれた。
ズンッ....!
「───っ!」
「ふふふ。貴方の試合を観ていたら昔の血が騒いでしょうがなくなってきましてな。今井先生に頼んで、今度の日本選手権に出場しようかと考えています」
握手をした瞬間、太原さんの闘気がその場だけに留める形で上がった。
流石は太原さん。物凄い闘気だ。
「それは願ったりですね。試合で対戦出来る事を心より願います」
太原さんの闘気に、僕の左側の頭から冷や汗が流れるのを感じたが、臆することなく平常心を保って太原さんと話を交わした。
「では、両校のオーダー表の交換を」
そこで主審から指示があったので、お互いにオーダー表の交換を行った。
「!これはこれは....ふふふ...やはり貴方は面白い」
僕のオーダー表を見た太原さんは、驚きつつも笑みは絶えなかった。
「お互いに良い試合になる事を願います」
「ええ。しかし、次鋒に狂乱の乙女を入れてくるとは...我が校の次鋒選手には同情しかありませんな。しかし、何故彼女を大将ではなくこんな中途半端な次鋒に?それに木下綾那が中堅ですか。ふふふ...試合、楽しませてもらいますよ」
本当に楽しそうな声が返ってくると、太原さんはそのままベンチに向かって歩いて行った。それを見送った僕も部員達の待つベンチに戻って来ていた。
「先生!向こうのオーダーは!?」
「ほい」
戻ってくると真っ先に井伊がオーダーを気にしてきたので、そのままオーダー表を井伊に渡した。
「す、凄い!本当に先生の仰った通りの並びですね」
「昔からこういうの読むの得意でしたからね」
井伊が言った通り、僕が予想していた順番であった。先鋒から、
僕が予め読んでいた通りのオーダーだった為、井伊はただ驚き、ことりは呆れ気味に丁寧口調で答えた。
「やはり全員が三年生ですか...」
「ああ。特に、先鋒の阿部と大将の葛山は去年の団体にも出ている。ま、榊原はそこまで緊張しないで大丈夫。いつも通りにいこう」
「は、はい!」
緊張気味に話す榊原であったので、緊張せずいつも通りにいこうと伝えるも、まだ緊張は抜けていない様だ。
まあ、相手は全国常連校だからね。それに、その為の今回のオーダーでもあるんだけどね。
「よーし!張り切っていきましょー!」
「おー、四葉やる気満々だね」
「ふふっ、四葉先輩にとっては初めての野外試合ですからね」
そう考えながら四葉とことりと綾那の三人を見た。すると、その三人には緊張感も無くいつも通りでいたので、井伊と榊原にもその空気が伝染していった。
「それで?太原殿はどうでしたか?」
そこに葵さんが太原さんの事を聞いてきた。
もしかしたら、葵さんはここまで考えてたのかもな。
「ええ。思ってた以上の人物かと。恐らく今でも自身のトレーニングは欠かせていないと思いますよ。先程の試合で血が騒いで、今度の全日本選手権への出場を考え始めたとか」
「あらあら。それは、和彦さんのライバルが増えるという事ですね」
僕の言葉に、笑みを浮かべながら心配そうな言葉を葵さんは僕にかけてきた。
本当に葵さんの術中に嵌ってしまっているな。
「師匠。その、太原という人は?」
そんな風に考えていると、忠義から太原さんが誰か聞かれた。
「そっか。忠義達世代だと知らない人が多いだろうね。太原雪斗さん。さっきオーダー表をお互いに受け取ってた人でね。僕の三つ歳上なんだ。だから、僕は中学、高校と試合をする事が無かったんだけど、僕の全日本選手権に出るまでの三連覇を成した人だよ」
『───っ!!』
僕の言葉周りからはどよめきがあった。
「で、僕の出場する全日本選手権からは出場も無かったから本当に試合をした事が無いんだ」
「どうせ、あのブタが自分の息子可愛さに、選手権よりも自分の息子の鍛錬に集中させるように指示をしたのでしょう」
僕が未だに太原さんと試合をした事が無い事を皆に伝えると、葵さんは毒を吐くように今川先生の悪口を口にした。
相当嫌ってるなぁ...
「太原さんの戦い方は井伊に似てるかもね。常に全選手の行動パターンを把握し、更に技のキレも凄い。正親さんに、僕の明鏡止水と雷霆のデメリットや対策を伝えたのも多分太原さんじゃないかと僕は思ってるよ」
「それ程和彦さんがお褒めになるなんて。凄いお方なのですね」
太原さんの事を褒めると芹菜から太原さんは凄い人なのだと聞こえてきた。
「ま、それよりも今は君達部員の試合が先決だ。今回は特別ルールとして、先に三勝した時点で終了はせず、大将戦まで行う。井伊、榊原。前の三人が勝っても試合は行われる。準備は万端にしておくんだよ」
「「はい!」」
今回の練習試合の団体戦は、通常であれば三勝した時点で勝ちのため終了するのだが、今回は三勝していようが大将まで試合が行われる。
その事を伝えると井伊と榊原から頼もしい返事が返ってきた。
「直華ちゃんちょっとちょっと...」
「?」
そこに小百合が井伊を呼び出して、スマホを見せながら何か話している。
「こ、これはっ...!」
「勝ったら私からお願いしてみるから頑張ってね」
「はい!俄然やる気が出て来ました!」
何かは知らないが、何故か井伊のやる気が上がった。
いったい何を見せたんだ?
「と、そうだ。四葉」
「はい!」
そこに四葉に伝える事があったのを思い出して四葉に話しかけた。
「今回の試合では、明鏡止水や雷霆、疾風は使わず試合を行う様に」
「えぇぇ!!」
「あまりこちらの情報を相手側に見せたくないし、あまり頼り過ぎるのもいけない。大丈夫だって。四葉なら、技を使うまでも無いさ」
「うーー....わっかりましたぁぁ!!頑張ります!あ、はい師匠。私のリボン持っててくださいね」
技を使わない事を四葉に伝えるも、四葉はあまり納得がいっていない様であった。そんな四葉の左肩に僕は右手を置いて四葉なら大丈夫だと伝えると、元気な声で返事があった。
すると、いつものうさぎリボンを僕に預けてからニコリと微笑んできた。
「それでは先鋒戦を始めます。先鋒中央へ」
「よし!いってきます!」
ヘルメットまで被った四葉はやる気満々に中央に向かって歩きだした。
「四葉、しっかり!」
「四葉。ヘマするんじゃないわよ!」
「四葉、頑張って...!」
「四葉。貴女ならやりきれると信じてますよ」
他の五つ子からの言葉に、四葉は右腕を上げて拳を握りしめていた。
さあ、いよいよ旭高校空手部のお披露目だ。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回は和彦の試合後のちょっとしたお話を書かせていただきました。
和彦が最後に使った技、疾風迅雷。これはかなり足に負担が出るようですので、一日に何回も使えるようになるには、今後の和彦の鍛錬次第になりそうです。
そして、新たに登場した太原雪斗。歴史好きの人しか分からないとは思いますが、今川家の影の立役者と言っても良い軍師太原雪斎から名前を取らせていただきました。
今後の和彦のライバルになりそうです。
そして、いよいよ先鋒が呼ばれ四葉が中央に向かっていきました。四葉の野外戦初試合です。
次回の投稿は8月5日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。